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一章
吸収の法とアインパンチ!
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一馬たち第三兵団は新しい指揮官の下、ファウストと呼ばれる大迷宮へ派兵されることとなった。
そこに謎の"構造体"が発見され、その調査をする必要が生じたからである。
そしてファウストは、前第三兵団監察官ゲオルグが戦死した場所でもあった。
(ゲオルグさんはここで最期を……)
兵団の最後尾に着く一馬は、大空洞を見上げながら、そう思う。
身近な人の死は一時、一馬へ暗い影を落としていた。立ち上がる気力を奪った。
しかし最後はゲオルグが教えてくれた心得が、一馬を再び立ち上がらせた。
【常に自分の命を最優先】
自分勝手に、という意味ではない。無謀をせず、常に冷静に、生き残るための最適解を求める。
それこそ、戦いの中で生き抜くための教え。敬愛していた大人からの、最高のメッセージ。
「木造君、大丈夫かい?」
気づくと、兵団の中心にいた牛黒瑠璃は、わざわざ隊列を離れて一馬の隣に並んでいた。
彼女は非戦闘職である鍛治士のため基本的には洞窟へは潜らないが、今回は"謎の構造体"を鑑定すべく、同行していたのである。
「ありがとうございます。大丈夫ですよ」
「ゲオルグさんのことはその……」
瑠璃が気を使ってくれているのが分かった。
大丈夫。まだ仲間はいる。
「もう大丈夫です。それにいつまでもメソメソしてたら、ゲオルグさんが教えてくれた【常に自分の命を最優先に】を守れませんから」
正直な気持ちを語ると、瑠璃は微笑む。
生前、ゲオルグが言った通り、瑠璃はもっと小綺麗にすれば、見違えるほどの美人になると思った。
「君は強いな」
「そうですか?」
「尊敬するよ。素晴らしい」
「ありがとうございます。先輩にそう言ってもらえて光栄です」
「君とはもっと早く話をしていれば良かったと思ってならないよ。それこそ現世にいた頃だったら、毎日が楽しかっただろうにな」
「まぁ、ここにはゲームもロボもありませんからね。でも、ここだって楽しいですよ」
「んっ?」
「先輩がいますから」
「――ッ!?」
瑠璃は白い頬は赤く染めて、素早く黒いフードをかぶった。
そしてそそくさと、洞窟の壁へ駆けてゆく。
「こ、ここの壁はなんだ! 石ではなく、まるで金属のようだ! おお、こ、これは!! 木造くん! 見てくれ! これはもしや金じゃないか!?」
(恥ずかしがってる先輩って結構可愛いな)
などと思いながら、一馬は瑠璃と適度な距離を保ちつつ、何気ない会話を交えながら行軍を続けた。
周りは奇異な視線で瑠璃と連れ添っている一馬を見ている。
時折煌斗も気に掛けるが、綺麗に気を使って、瑠璃へ近寄ろうとしない。
「しかし木造君こそ良いのかい? 私なんかの傍に居て」
「別にいいですよ。俺だってその……」
一馬も周囲の期待を裏切ってからはあまり快く思われてはいない自覚がある。
一馬も瑠璃も、現世での異世界(ここ)でものけ者なのは変わらない。
「私たちは仲間だな」
「そうですね。お互いにロボ好きですし」
「そうだな。それに君と仲間になれて……」
「?」
「う、嬉しい。凄く……!」
誰かが傍に居ることに喜びを感じる一馬。
そんな一行の耳が地鳴りを感知する。向こう側の闇の中で、巨大な何かが蠢いている。
「WOMUUU!!」
巨大で不気味な芋虫のような魔物、ワームだった。
「みんな戦闘準備! 木造君、アインを前へ!」
「わかった!」
相変わらずアインで敵を引き付け、煌斗達が一気に駆逐するいつもの戦法。
(だけど、先輩に改造してもらったアインは一味違うぞ!)
瑠璃に改造してもらったアインの腕の威力を見せる時。そのため先端は粗削りの岩へ交換してある。
一馬はアインを操作すべく、立ち止まる。意識の全てをアインの操作へ注ぎ込む。
(前進!)
「ヴォッ!」
一馬から発せられる、目に見えない魔力の糸が、アインの巨大な足を蹴り出させた。
ずんぐりむっくりな巨人は、ゆらゆら、かくかくしながらもワームとの距離を詰めてゆく。
ワームは牽制に口から酸を含んだ液体を吐き出す。
しかし構成素材のほとんどが木材であるアインに酸は効かない。
(腕の岩の重さも金属シャフトのお陰で問題なし! これなら……関節を曲げて、そして一気に――!)
「ヴォッ!」
アインは唸りを上げながら、関節を曲げ勢いを付けて、鋭く拳を突き出した。
「WOMUUUU!?」
巨大な拳がワームを殴打し、連なる牙をへし折って、思い切り突き飛ばす。
背後はシンと静まり返っているが、いつもの雰囲気とはだいぶ違う。
「良いぞ木造君! そのまま畳みかけるんだ!」
瑠璃の嬉々とした声援を受けて、一馬は久方ぶりに全身を駆け巡る強い熱を感じた。
一馬は起き上がったばかりのワームへ、アインを進ませる。
そして次々と重く鋭いストレートパンチを叩き込む。
ワームは悲鳴を上げるもそれだけ。アインのサンドバック状態である。
一馬はアインの右こぶしを後方へ移動し、思い切り関節を曲げさせた。
「これで止めだ、アインパンチッ!」
「ヴォォォ―ッ!!」
右の拳は強力なアッパーカットを発し、ワームを天井へ叩きつける。
項垂れるワームを見て、一馬の胸へ不思議な予感が沸き起こる。
一馬は、その言葉をアインへ向かって叫んだ。
「吸え、アイン!」
「ヴォッ!」
アインの唸りが洞窟に響き渡った。
巨大人形を中心に風が巻き起こり、ワームの死骸を包み込む。
風は肉を光の粒へ変え、木偶人形のアインへ溶け込んでゆくのだった。
【スキル獲得】 *ワームアシッド
「やっぱり、俺でもできるんだ!」
そして視界に浮かんだ文字を見て、一馬は確信を得た。
撃退した魔物を魔力の輝きである“魔光”へ分解して吸収し、能力を獲得する力――“吸収の法”
獲得する能力はそれぞれ違うものの、基本的に“戦闘職の転生戦士”たちが標準的に持ち合わせている能力だった。
ずっと一馬は、マリオネットマスターが戦闘職ではないと思い込み、この能力が無いと考えていた。
これまで気づかなかったのはアイン単体で敵を撃破したことが無かったたためだった。
もしくはこの事実を察して、同級生たちが邪魔をしていたのかもしれない。
「やったな木造君! カッコよかったぞ!」
真っ先に駆け寄ってきた瑠璃は嬉々とした表情をしていた。
きっとさっきの“カッコいい”はアインに対してだろうが、それでも胸が高鳴った。
「ありがとうございます! 先輩がアインを改造してくれたおかげです!」
「ちっ……木造っ! 前を見ろ!」
煌斗の声を聴き前をみると、新たなワームにアインは巻きつかれていた。
煌斗たちは、アインに巻き付くワームへ群がり、人数の力でこれをを倒す。
「調子に乗るな! アインはみんなの壁だってことを忘れるな!」
「わ、悪い……」
「畜生、木造がワーム倒さなきゃ、俺がスキル獲得できたのになぁ」
ワームのスキルを狙っていただろう、弓使いが大声で嫌味を口にする。
スキルの獲得は魔光の吸収量によって、スキルの獲得が発生する。
敵の体躯が大きければ大きいほど魔光の発生は多くなる。
しかしながら、いくら敵の体躯が大きくとも、多人数で撃破してしまえば一人当たりの獲得する魔光は均等に分配されて、減ってしまう。
代わりに巨大な敵を、一人で倒せば、魔光は独り占めでき、スキルの獲得も早まる。
巨大なアインならば、大きな敵とも一対一で立ち向かえ、単独で撃破することができる。
強力な力を秘める聖騎士の煌斗と、魔法使いの綺麗を覗けば、一馬とアインは巨大な敵に単独で唯一対抗できる存在だと初めて証明できた瞬間だった。
(アインは木偶の棒じゃない! もうお荷物扱いはさせない!)
そう息巻く一馬の肩を、瑠璃がそっと叩いた。
「頑張ろう木造君! アインをもっと強くしてやろう!」
「勿論ですよ、先輩! アイン、前進だ!」
「ヴォッ!!」
異世界(ここ)にやって来て半年――初めて心躍った瞬間だった。
そして洞窟の闇の向こうから、今度はアインよりも遥かに小さいが、ある程度の強さを誇る“オーク”が集団でやってくる。
試し打ちにはちょうどいい相手かもしれない。
「アイン! ワームアシッドだ!」
「ヴォッ!」
【木製人形:アイン】現状(更新)
★頭部――鉄製アーメット
★胸部及び胴部――丸太
★腕部――伸縮式丸太腕部×2
*攻撃スキル:ワームアシッド NEW!
★脚部――クズ鉄棒・大きな石
★武装――なし
そこに謎の"構造体"が発見され、その調査をする必要が生じたからである。
そしてファウストは、前第三兵団監察官ゲオルグが戦死した場所でもあった。
(ゲオルグさんはここで最期を……)
兵団の最後尾に着く一馬は、大空洞を見上げながら、そう思う。
身近な人の死は一時、一馬へ暗い影を落としていた。立ち上がる気力を奪った。
しかし最後はゲオルグが教えてくれた心得が、一馬を再び立ち上がらせた。
【常に自分の命を最優先】
自分勝手に、という意味ではない。無謀をせず、常に冷静に、生き残るための最適解を求める。
それこそ、戦いの中で生き抜くための教え。敬愛していた大人からの、最高のメッセージ。
「木造君、大丈夫かい?」
気づくと、兵団の中心にいた牛黒瑠璃は、わざわざ隊列を離れて一馬の隣に並んでいた。
彼女は非戦闘職である鍛治士のため基本的には洞窟へは潜らないが、今回は"謎の構造体"を鑑定すべく、同行していたのである。
「ありがとうございます。大丈夫ですよ」
「ゲオルグさんのことはその……」
瑠璃が気を使ってくれているのが分かった。
大丈夫。まだ仲間はいる。
「もう大丈夫です。それにいつまでもメソメソしてたら、ゲオルグさんが教えてくれた【常に自分の命を最優先に】を守れませんから」
正直な気持ちを語ると、瑠璃は微笑む。
生前、ゲオルグが言った通り、瑠璃はもっと小綺麗にすれば、見違えるほどの美人になると思った。
「君は強いな」
「そうですか?」
「尊敬するよ。素晴らしい」
「ありがとうございます。先輩にそう言ってもらえて光栄です」
「君とはもっと早く話をしていれば良かったと思ってならないよ。それこそ現世にいた頃だったら、毎日が楽しかっただろうにな」
「まぁ、ここにはゲームもロボもありませんからね。でも、ここだって楽しいですよ」
「んっ?」
「先輩がいますから」
「――ッ!?」
瑠璃は白い頬は赤く染めて、素早く黒いフードをかぶった。
そしてそそくさと、洞窟の壁へ駆けてゆく。
「こ、ここの壁はなんだ! 石ではなく、まるで金属のようだ! おお、こ、これは!! 木造くん! 見てくれ! これはもしや金じゃないか!?」
(恥ずかしがってる先輩って結構可愛いな)
などと思いながら、一馬は瑠璃と適度な距離を保ちつつ、何気ない会話を交えながら行軍を続けた。
周りは奇異な視線で瑠璃と連れ添っている一馬を見ている。
時折煌斗も気に掛けるが、綺麗に気を使って、瑠璃へ近寄ろうとしない。
「しかし木造君こそ良いのかい? 私なんかの傍に居て」
「別にいいですよ。俺だってその……」
一馬も周囲の期待を裏切ってからはあまり快く思われてはいない自覚がある。
一馬も瑠璃も、現世での異世界(ここ)でものけ者なのは変わらない。
「私たちは仲間だな」
「そうですね。お互いにロボ好きですし」
「そうだな。それに君と仲間になれて……」
「?」
「う、嬉しい。凄く……!」
誰かが傍に居ることに喜びを感じる一馬。
そんな一行の耳が地鳴りを感知する。向こう側の闇の中で、巨大な何かが蠢いている。
「WOMUUU!!」
巨大で不気味な芋虫のような魔物、ワームだった。
「みんな戦闘準備! 木造君、アインを前へ!」
「わかった!」
相変わらずアインで敵を引き付け、煌斗達が一気に駆逐するいつもの戦法。
(だけど、先輩に改造してもらったアインは一味違うぞ!)
瑠璃に改造してもらったアインの腕の威力を見せる時。そのため先端は粗削りの岩へ交換してある。
一馬はアインを操作すべく、立ち止まる。意識の全てをアインの操作へ注ぎ込む。
(前進!)
「ヴォッ!」
一馬から発せられる、目に見えない魔力の糸が、アインの巨大な足を蹴り出させた。
ずんぐりむっくりな巨人は、ゆらゆら、かくかくしながらもワームとの距離を詰めてゆく。
ワームは牽制に口から酸を含んだ液体を吐き出す。
しかし構成素材のほとんどが木材であるアインに酸は効かない。
(腕の岩の重さも金属シャフトのお陰で問題なし! これなら……関節を曲げて、そして一気に――!)
「ヴォッ!」
アインは唸りを上げながら、関節を曲げ勢いを付けて、鋭く拳を突き出した。
「WOMUUUU!?」
巨大な拳がワームを殴打し、連なる牙をへし折って、思い切り突き飛ばす。
背後はシンと静まり返っているが、いつもの雰囲気とはだいぶ違う。
「良いぞ木造君! そのまま畳みかけるんだ!」
瑠璃の嬉々とした声援を受けて、一馬は久方ぶりに全身を駆け巡る強い熱を感じた。
一馬は起き上がったばかりのワームへ、アインを進ませる。
そして次々と重く鋭いストレートパンチを叩き込む。
ワームは悲鳴を上げるもそれだけ。アインのサンドバック状態である。
一馬はアインの右こぶしを後方へ移動し、思い切り関節を曲げさせた。
「これで止めだ、アインパンチッ!」
「ヴォォォ―ッ!!」
右の拳は強力なアッパーカットを発し、ワームを天井へ叩きつける。
項垂れるワームを見て、一馬の胸へ不思議な予感が沸き起こる。
一馬は、その言葉をアインへ向かって叫んだ。
「吸え、アイン!」
「ヴォッ!」
アインの唸りが洞窟に響き渡った。
巨大人形を中心に風が巻き起こり、ワームの死骸を包み込む。
風は肉を光の粒へ変え、木偶人形のアインへ溶け込んでゆくのだった。
【スキル獲得】 *ワームアシッド
「やっぱり、俺でもできるんだ!」
そして視界に浮かんだ文字を見て、一馬は確信を得た。
撃退した魔物を魔力の輝きである“魔光”へ分解して吸収し、能力を獲得する力――“吸収の法”
獲得する能力はそれぞれ違うものの、基本的に“戦闘職の転生戦士”たちが標準的に持ち合わせている能力だった。
ずっと一馬は、マリオネットマスターが戦闘職ではないと思い込み、この能力が無いと考えていた。
これまで気づかなかったのはアイン単体で敵を撃破したことが無かったたためだった。
もしくはこの事実を察して、同級生たちが邪魔をしていたのかもしれない。
「やったな木造君! カッコよかったぞ!」
真っ先に駆け寄ってきた瑠璃は嬉々とした表情をしていた。
きっとさっきの“カッコいい”はアインに対してだろうが、それでも胸が高鳴った。
「ありがとうございます! 先輩がアインを改造してくれたおかげです!」
「ちっ……木造っ! 前を見ろ!」
煌斗の声を聴き前をみると、新たなワームにアインは巻きつかれていた。
煌斗たちは、アインに巻き付くワームへ群がり、人数の力でこれをを倒す。
「調子に乗るな! アインはみんなの壁だってことを忘れるな!」
「わ、悪い……」
「畜生、木造がワーム倒さなきゃ、俺がスキル獲得できたのになぁ」
ワームのスキルを狙っていただろう、弓使いが大声で嫌味を口にする。
スキルの獲得は魔光の吸収量によって、スキルの獲得が発生する。
敵の体躯が大きければ大きいほど魔光の発生は多くなる。
しかしながら、いくら敵の体躯が大きくとも、多人数で撃破してしまえば一人当たりの獲得する魔光は均等に分配されて、減ってしまう。
代わりに巨大な敵を、一人で倒せば、魔光は独り占めでき、スキルの獲得も早まる。
巨大なアインならば、大きな敵とも一対一で立ち向かえ、単独で撃破することができる。
強力な力を秘める聖騎士の煌斗と、魔法使いの綺麗を覗けば、一馬とアインは巨大な敵に単独で唯一対抗できる存在だと初めて証明できた瞬間だった。
(アインは木偶の棒じゃない! もうお荷物扱いはさせない!)
そう息巻く一馬の肩を、瑠璃がそっと叩いた。
「頑張ろう木造君! アインをもっと強くしてやろう!」
「勿論ですよ、先輩! アイン、前進だ!」
「ヴォッ!!」
異世界(ここ)にやって来て半年――初めて心躍った瞬間だった。
そして洞窟の闇の向こうから、今度はアインよりも遥かに小さいが、ある程度の強さを誇る“オーク”が集団でやってくる。
試し打ちにはちょうどいい相手かもしれない。
「アイン! ワームアシッドだ!」
「ヴォッ!」
【木製人形:アイン】現状(更新)
★頭部――鉄製アーメット
★胸部及び胴部――丸太
★腕部――伸縮式丸太腕部×2
*攻撃スキル:ワームアシッド NEW!
★脚部――クズ鉄棒・大きな石
★武装――なし
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