ストレンジ・ブラックス

こはく

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第六話 入隊の難関

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ちゅんちゅん……と、窓の外から雀が鳴く声が聞こえた。
窓から差し込む朝日がトウヤの顔に直接当たっており、ジリジリと黒髪を焼いているようだった。
その眩しさに、トウヤはうっすらと目を開けた。
「ん……朝……」
トウヤが伸びをして周囲を見渡すと、
「あ……」
銀髪頭が枕元にあった。ソキが、床に座り込み、顔をベッドに乗せて熟睡していた。
トウヤは身体中を見て、かすり傷ひとつですら残っていないことに気がついた。
(治癒したまま寝ちゃったのかな)
ソキは、すぅ……すぅ……と規則正しく寝息を立てている。
「こう見たら最強の隊長になんて見えないよなぁ」
一人で呟いたトウヤは、ソキを起こさないように気をつけて立ち上がった。その時、ピンポーン……とインターホンの鳴る音がして、トウヤは玄関へ向かった。
ソキは毎朝トウヤにフライパンのひどく大きい音で起こされて、何があっても寝ていられるスキルを身につける寸前であったので、起きなかった。
トウヤはドアスコープからその人物を確認し、扉を開けた。
「おはようございます、マークさんっ」
「おはよーう。ごめんね、疲れているのに」
「い……いえいえ、マークさんの方が疲れてる顔してますよ……」
マークは恐らく寝ずに事務作業などを行ったのだろう。
「大丈夫だよ、このくらい。ソキとトウヤくんに、次の試験について詳しいことを言いに来たんだ」
「あ……ごめんなさい、今ソキさん寝てて……」
時間あるなら上がってください、と言ってトウヤがリビングへとマークを案内した。
「ソキはよく寝てる?」
マークは、トウヤが入れた紅茶を飲みながら聞いた。
「え、あぁ、はい。よく寝ますよねぇ。僕がこの家に来てすぐの頃は、僕が起きている時にソキさんが寝たことはなかったのに。家事も全部ソキさんで」
トウヤが可笑しそうに笑って言った。
「今となっては、毎朝僕がソキさんを起こしてますよ、家事もほとんど僕で。夜寝るのは僕より遅いけど、よく寝てるな……と思います」
「そうなんだ」
マークはそれを聞いて少し嬉しそうだった。
「どうしたんですか?」
不思議そうに聞いたトウヤに、マークは笑顔で答えた。
「いや、ソキはね。周りに敵しかいないとこで育ったからさあ。人前ではもちろんだけど、一人の時も敵襲に備えるために最低限しか寝ないように、癖が付いてたんだよ」
ぱちぱち、とトウヤが瞬きをした。
「ある人の影響でそれは一時期マシになってたんだけど、その人がいなくなってからは、仕事ばっかりして、ほんと、あの時は酷い顔だったけどね」
ガタガタっ、とトウヤの部屋から音がした。
「今はそんな時のこと考えられないね。トウヤくんのおかげなんじゃない?ソキがしっかり寝て、健康的に今を生きていられるのは」
(僕の……)
「ふわぁぁぁ……おはよートウヤぁ朝飯ぃ」
寝ぼけたソキがリビングへ歩いてきて、それからマークを見て驚いた顔をした。
「えっなんでいんの」
「気配で気づけよ。仕事サボりすぎてなまってんじゃないの」
マークは嫌味ったらしくそう言った。
「今日の朝ごはんはチーズトーストですよー、ほら、マークさんも」
トウヤは笑顔で食卓にメニューを並べた。
「あ、俺もいいの?ありがとう」
「お、俺が昨日食べたいって言ったやつー」
「ええ、ほんとですかー!?ほんとは聞く前に寝ちゃって、聞いてなかったんですけど」
すごい、とトウヤは嬉しそうに笑った。
(ほんと、変わったなぁ。ソキも七年前は死んだような顔をしてたのに……。いつからトウヤくんがソキと住んでるのかは知らないけど、もう立派な家族なんだな)
マークは手を合わせてからトーストを頬張った。
「あ。そういえば、気になってたけど……偵察?って悪魔に対して言ってたの、どういう意味なんですか?」
トウヤもパンを食べながらソキとマークに聞いた。
「ああ。第四等級以上には、何者かによって……この正体については特殲隊員になってから詳しく説明されるけど。何者かによって、任務が与えられることがあるんだ。それが偵察の悪魔と呼ばれるやつでね。
その悪魔は俺たちにとって敵にあたる組織に、その目で見た情報を渡すって任務が与えられる。だから、他の同じ等級の悪魔よりも強いんだ。
トウヤくんが戦ったのは運悪く、第四の偵察だった。第五等級悪魔に近い強さを持ってたはずだ」
(へぇ……知らなかった)
「俺が倒した五体はみんな偵察じゃなかったから、正直残念だったよ。でも、偵察だって聞いて来てみれば、偵察がいない。そんで一般人の少年がなんちゃら……とか聞いてさすがにちょっとだけびっくりしたなあ。それがトウヤだったんだもん」
くすくすと笑うソキに、トウヤもつられて笑った。
「……にしても試験、今年はだいぶ強そうだね、メンツが。トウヤのインパクトがよほど強くないと、キリ……だったよね。あの子とかに雰囲気消されちゃうよ」
冗談めかして言ったソキの言葉をトウヤは青白い顔で受け止めた。
「あっ、それより試験のことだった、忘れてた……」
トーストを皿へ置いて、2人に向き合った。
「今回の試験日が正式決定したんだ。20日後だよ。そこでは今まで通り、受験者同士が戦い、特殲隊員からスカウトを受けたら晴れて特殲入隊が決まる」
おぉー、とトウヤが声を出す。
「でもね、難関は試験だけじゃないんだ」
ソキは黙ってスマホを見ながらチーズトーストを頬張っている。
「特殲入隊が決まると、次に班決めがある。班は基本、5人班なんだ。班長、近距離攻撃、中距離攻撃、遠距離攻撃、治癒。5人でそれらを担当するのが基本形ね。でも、近距離攻撃を受け持ちたい……というより、能力的に近距離攻撃しか有り得ない人っていうのは案外多い。トウヤくんも今、そうだね?」
トウヤが頷いた。
「つまり近距離攻撃タイプの能力の人は班決めで余りやすいんだ」
「……余っちゃったら……?」
ゴクリと唾を飲んで言ったトウヤに、マークが苦笑いで言った。
「残念だけど、空きが出るまで……つまり、どこかの班の近距離攻撃を担う人が殉職または退職等するまで、訓練のみになるね」
「でも……どうやって班は決めるんですか?」
少し不安そうな顔になったトウヤに、マークが言う。
「相性……だね。それを見るために、試験でスカウトされたその日に十要のうち一人から指導が入るんだ。彼らは戦いのスペシャリストだからね、誰と誰が組んだらプラスになるか、そういうのを見極めてもらう。そこで誰とも相性がよくないようであれば……って話だよ」
(十要から指導が……!)
「そしてもちろん、強い人は強い班に入り、活躍しやすい。つまり、きみがこの20日間で、昨夜発現した能力を一定使いこなせるようにならないと……活躍は厳しい。班に入ることもね」
その脅しのような言葉に、トウヤがぞくっとしてソキを見た。
「まぁまぁ……トウヤは剣筋はいいから、問題は能力なんだよね。誰かトウヤの能力受け止められそうな人いないのかなー?」
ニヤリと笑っているソキに、マークが顔をしかめた。
「ソキがやれば……」
「いや今日俺オフだよ?」
「…………俺今日仕事が、」
「会議ないからいいじゃん」
「ソキ基準の話だろそれ……」
マークがため息をついた。
「しょうがない……トウヤくんの能力を磨いてあげるよ」
「げっ俺もかよ」

「いつもソキが広げた空間で訓練してたんだな」
マークはラフな服に着替え、ストレッチをしながら言った。
「あの……ほんとにいいんですか?仕事」
「良くはないけど……基本的に副隊長は隊長に逆らえないからなあ」
「やっぱりマークもサボりたかったんじゃんーいつも俺の言うこと聞かないくせにい」
ソキがくすくすと笑って言った。
「そんなことよりトウヤくん。結局、きみの能力は何なのか分かっていないんだよね?」
「はいっ」
「じゃあとりあえず、刀だけ出せる?」
「……黒龍、白龍」
トウヤの手元に、漆黒の刀と純白の刀が現れた。
(あれ……この刀どこかで……)
マークが黒い刀を見てそう思ったが、似たような悪魔掃滅武器は多いため、何も言わなかった。
「……うわ」
しかし、すぐに顔をしかめる。
「何だ……?この悪魔。悪魔かも怪しいほど……何が憑いてる…?」
ソキが苦笑いした。
「俺でも魔気の底が見えない。マークが考えたところで結局今は誰にも分からないものなんだよ……さて」
トウヤは二人の会話を不思議そうに聞いていた。
「トウヤは、昨晩……能力を身に、刀に纏ったよね?力が漲るような感覚はあったでしょ?」
「あ……あった!」
思い出したようにトウヤが言う。
「それを出してごらん」
「や……その前に、この部屋を覆うソキの魔気の上に俺の魔気も重ねておくよ。万が一昨晩のようにあの魔気が放たれれば……また騒ぎになる」
「魔気って、能力を使う元になるもののことですよね?どうしてそんなに念入りにこの部屋をコーティングするんですか?」
呑気にそう言ったトウヤに、マークが困ったように言う。
「あのね……昨晩君は恐らくその刀を呼ぶ時に、同時に魔気も放出した。それがあまりにも膨大で恐ろしくて……国中の実力者から問い合わせが来たよ。何だ今の気配は!とか言って。周囲の住民は避難済みだったから被害の報告は無いけど……もうそれは懲り懲りなんでね」
(魔気を……放出した?それで力が漲ってたのか)
トウヤは納得したように思ってから、はっとしたように言う。
「あっ……ぼ、僕のせいですいません」
「いや、いいんだけど。だから念入りに覆った。心配せずにやってくれ。俺が萎縮しないとは限らないけど……」
マークは自信がないようだった。
「あはは、俺も俺も。じゃあトウヤ、昨日やったみたいに……魔気を放出するって考えると難しいかもしれないから、自然と、体に能力を纏う……みたいなイメージでやってみて」
(体に能力を纏う……?)
ぬんっ、とトウヤが気合いを入れてみるが、上手くいかない。
「うーん……見てて。俺は常に魔気を操って能力を纏ってる。護身になるからね。今から俺は操る魔気の大きさを変えていくよ。大きくなったと思ったら手を挙げて」
集中してトウヤがソキを見る。
しーん、と沈黙の時間が過ぎ……
「ソキ、やりすぎ……」
マークが辛そうに顔をしかめたところでそれが終わった。
「あ、ごめん。……あちゃー」
愉快そうにソキが笑う。
「なーんにも感じなかった」
「え……何にも変わってなかったです……」
気まずそうに言ったトウヤに、マークが驚いた顔をした。
「魔気ですごい威圧してたんだよ、マークが焦るくらいのやつ」
(たしかにマークさん辛そうだった)
トウヤが青い顔をした。
「僕はなんにも分かんなかったです……」
「あはははっ、まあたしかに……ずっとそんなもん隠し持って生きてきたんだ、魔気に鈍くもなるよ」
ソキが刀を指さして言った。
「しかしまあ……こりゃどうしたもんだろうな」
「魔気の流れを意識して能力を発動させるのと、意識しないで発動させるのとじゃ格が全然違うんだよ。見てて。ソキ、受けて」
「げっ」
ソキはマークに無理やり立たされた。
「まず魔気の流れを意識せずに」
マークはゆっくりとソキに近づき……大きく振りかぶって、ソキへと拳をかざした。
「うわっ」
バン!!
大きな破裂音のようなものが響いたが、ソキは一歩も動かずにそれを両手で受け止めていた。
「ひぇぇ、こわすぎっ」
ソキがマークに言う。
「次は魔気の流れを意識して」
また、ソキへと振りかざされたマークの拳が、残像を残してソキの手に当たった。
バコン!!!
先程よりも何倍も大きい、大型トラック同士が衝突したかのような爆音がして、ソキが壁際まで飛ばされた。
「……壁にぶち当てたと思ったけどさすがだね」
「ちょっと本気だったでしょ今の!!ひどい!」
「ソキこそ本気で止めてたから、お互いじゃない?」
ソキとマークが睨み合っている。
(魔気の流れ……魔気……昔読んだ本には、見えないけど……空気のように存在するものだって書いてた)
そんな二人を気にせず、トウヤが考える。
(でも空気と違って細かい粒子とか……そんなんがあるわけじゃないって。それを僕は感じ取れてないらしい……当たり前じゃん)
トウヤが頬をふくらませた。
(目の前にないものを感知なんてよくわからんこと、今の僕には出来そうにない……けどやらなきゃ最強にはなれないんでしょー?なら……)
トウヤはゆっくりと目を閉じた。
(実際に魔気がどんな流れで動いてるのかなんて分からない……でも目を閉じて、勝手に想像すれば……。まず魔気を黒いもやと考えて、それを……血流だ、血と一緒に流れるイメージで……)
トウヤがぱちっ、と目を開けた。
(全身と……いや、全身だけじゃなくて、刀にも魔気を流して能力を込める!)
ゾオオオオオ……とトウヤと双剣の周りを確かに何かが覆っていた。
ぞくぞくぞくっ……と寒気がして、ソキとマークがトウヤの方を見る。
「おぉ……できてんじゃん」
ソキが驚いたように呟いた。
(力……漲る)
「えへへ……!!ソキさん、このまま僕と剣術の……」
トウヤが話し始めると、すぐにその気配が消えてしまった。
がーん!とショックを受けたトウヤに、ソキが笑いながら言った。
「あはははは……っ、いいよ、初めてにしちゃ持った方だ!それにやっぱり魔気の質と量は俺以上だ!」
満足げなソキに、マークが付け足した。
「うん、左に同じ。ちゃんと魔気を流せていていい感じだったよ。でもそれを無意識下でもできるようにならないと……つまり、いい?」
ぴんっ、とマークが人差し指を立てた。
「無意識下で意識してやれ……ってことだ」
トウヤが床に崩れ落ちた。
「理論の崩壊……」
「たしかにね。でもこれをやってる人とやってない人では天と地の差がある。今回の受験者は今んとこ5人」
マークの調査結果報告が始まった。
「まず、特殲入りがまず間違いないと言われる二人。……彼らは双子でね。顔はそっくりなんだけど……まあ対照的だから間違えることはないだろう。兄の、近距離攻撃が得意な、キース・カグチャ。能力四柱のうちのひとつ、炎の能力を持ち、武器はグローブ……実際に見た俺が言えることはただひとつ……とにかく強かった」
ごくり、とトウヤが唾を飲んだ。
(近距離攻撃……僕と同じだ)
「もう一人……キースくんの弟は、リース・カグチャ。能力四柱のひとつ、風の能力を持ち、武器はライフル……遠距離攻撃に非常に長けてる。実際に彼の姿を見たことはないが、彼の戦いは見たことがある。……俺でも、射撃の瞬間しか彼の気配には気づけなかった。でも、射撃の瞬間気づいた時点で、たいていの人はやられてたね」
(マークでも気配に気づけない……相当やるなぁ)
ソキが感心したように話を聞いていた。
「そして、今回の受験者で唯一、武器を持たないのが……おさむの能力の、アスカラー・メールド。小柄ながら体術もできるヒーラーとして注目されてる。治の能力は、まあ治癒のことで……これも能力四柱のひとつだ」
「武器は……なくてもいいんですか?」
「ああ。戦い向きの能力じゃないから、悪魔相手に行うことはまあないからね。とは言え入隊すれば特殲では初のことになる。武器を通さないで魔気を扱うのは非常に難しいんだよ」
ぽかん、とした顔のトウヤは思っていた。
(僕なんか武器持ってても全然扱えないのに……)
「そして、キリ・アマガセ。知ってるだろうけど、中距離が得意で、能力は氷……武器はピストルだね。なんというか……他の三人もだけど、キリくんがこの中で一番クレイジーだね。キリくんと比べれば圧倒的に弱い人と戦っても、キリくんはいつでも怪我をする。それくらい隙だらけなんだけど……何より攻撃力がすごい。どちらかと言えば近距離よりの中距離のスタイルだから、体術もいいし。どんな怪我でも立ち上がるから、恐らく彼には人を引き込み巻き込む力があるね」
(それで五人目が……)
「最後にトウヤくん。……近距離専門だね。武器は刀だから。でも能力は謎で……いや、全てが謎で未熟」
トウヤが俯いていた顔を上げた。マークがその目を見て言う。
「トウヤくん以外は、十要……どころか、隊長や副隊長なんかになるかもしれないと言われてる。それにね。四人全員が、常に魔気を体に流せてるよ、当たり前のようにね……怖い?」
「いや」
ニヤリとトウヤが笑う。
「それぐらいじゃないと……超える気起きないので」
ソキがトウヤに、笑顔で言った。
「そう。世間にとっては君はまさにマーク外。まあ……特殲にとっても、だけどね。そんな中現れたダークホース!
……かっこいいでしょ?」
「っはい!」
トウヤが目を輝かせた。
「よし!そうと決まれば」
(?何も決まってないけど)
「トウヤが最低限の技術を習得したら、受験者四人も呼んで俺とマーク、予定が合えば十要数人に見てもらおうか。そうすればトウヤ贔屓にならないでしょ?マーク」
出し抜いた、とでも言いたげににやりと笑ってマークを見たソキだが、マークは呆れるしかなかった。
「え……!!!っっ僕、早く習得しますっっ!!」

それから七日の時が経った。その頃にはトウヤは常に魔気を体に満遍なく流すことができるようになっていた。
「ソキさーん!!」
トウヤが機嫌良さげにソキに声をかける。
「んー?」
リビングで朝日を浴びながら、ソキは本を読んでいた。
「お」
ソキはトウヤの魔気の流れにすぐに気づき、笑みを浮かべる。
「できてる」
それから立ち上がり言った。
「ちょっとおいで」

いつもの、ソキが空間を拡張して作っている部屋にソキはトウヤを連れて入った。
「……うん、常に同じ魔気の量、質。頑張ったね」
ソキが親指を立てた。
嬉しそうにトウヤが笑う。
「……でもやっぱり俺がどれだけ魔気を放出しても気づかないね」
(えぇ!!またやってたの!!全然わからない……)
トウヤが困った顔をした。
「どうやったらそれができるように……」
「うーん、できないでいいんじゃない?」
即答したソキに、トウヤが驚いた顔をした。
「確かに身につけるべきスキルかもしれないけど……俺は今、俺が扱える最大の魔気を放出させてる。マークでも意識を保てないかもしれないくらいのね」
(マークさんでも意識を保てない……!?)
「トウヤは、平然と意識を保ってるどころか、俺の魔気に気づいてすらいない。……だからね、べつに感知する必要はないよ。特殲で単独の任務はないから、誰かが索敵はしてくれるし」
慰めとかじゃなくてね。とソキが笑う。
「今は無理にチャレンジしなくていい。それより、特殲に入る前に最低限トウヤに身につけてほしいことは、トウヤができるようになった常に魔気を流し続けることと、あと二つあってね」
試験までの期間は2週間弱。トウヤはそれまでに習得して、さらに、試験までに十要やソキ、マークなどに指導してほしいと思っている。
「一つ目は、魔気の制御と解放だ」
「制御と解放……」
座りな、とソキが促し、床にソキが胡座をかき、トウヤは足を畳んで座った。
「うん。トウヤにとっては、これからの活躍のカギになるものだよ」
トウヤがゴクリと唾を飲んだ。
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