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第7話

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 ホットケーキミックスで作ったニンジン蒸しパンと、一口サイズにしたハムチーズのロールサンドイッチを紅葉に借りた弁当箱に詰め、柊とハルは近くの公園にやって来た。
 穴場なのか、爽やかな風の中、公園は貸し切りだ。

 木陰にレジャーシートを敷いて荷物を置くと、ハルは滑り台へと駆け出した。


「パパー、はやくー!」
「前向いて走れよ!転ぶぞ!」


 ハルは二度目の公園。
 前回はお昼寝の時間ギリギリに来てしまい少ししか遊べず、眠さも相まって機嫌が最悪で帰りたくないとグズるハルを無理やり抱きかかえて帰った柊。


 ──あの時は活きのいいカツオ状態だったよな、ハル……。しかも途中で寝落ちて、メチャクチャ重かった……。


 抱っこの時に子供のしがみつく力はバカにならないんだと痛感した彼は、その時の腕のダルさを思い出し軽く苦笑する。
 公園に来たことがなかったらしいハルは、初めての滑り台やブランコ、シーソーに大興奮だった。
 中でも滑り台が気に入ったようで、今も迷わず滑り台へ一直線。

 この後、ハルは延々と滑り台を上って滑ってを繰り返した。
 それはもう、側で見ているだけの柊がうんざりするほどに……。


「ハル、そろそろお弁当食べよう。」
「やー、もうちょっと!」
「もうちょっとって何回?」
「えー、わかんない。」
「わかんないじゃないの。何回滑ったらご飯食べる?一回?二回?」
「うーんとねぇ、………じゃあ、四回!」
「ん、わかった。四回な。はい、じゃ、一回目。」
「パパも、一緒に滑ろ!」
「はいはい。」


 柊の手を引っ張るハルの手はふくふくで、どこまでも絆されていく彼がいた。
 柊が自分で決めた約束をちゃんと守ったハルを褒めると、照れくさそうに「えへへ」と笑って、お弁当もたくさん食べてくれた。


 ──こんなに可愛いハルと離れなきゃいけなかったのか……?菜々に、何かがあったんだろうな……。


「なぁ、ハル?」
「なぁに?」
「その……ママのこと、覚えてるか?」


 まだ小さいハルにこのことを尋ねるのを、柊はずっと躊躇っていた。
 幼い心に傷をつけるかもしれない。そう考えるとひどく独りよがりな質問に思えたからだ。
 だが、今のままではダメだと、焦燥に近い想いが日に日に湧き上がってくるのを止められない。


 『パパが思い出せば戻れるよ、きっと』


 そのハルの言葉と切られた指輪は、菜々を探せと伝えている気がしてならなかった。

 柊から聞いた「ママ」という言葉にこてっと首をかしげたハルは、さも当たり前だと言うように話しだした。


「ママにはこれから会うんだよ。もう少ししたらね、ハルを連れて行ってくれるの。」
「連れて行ってくれる……?誰が?」
「うーんとねぇ、わかんないけどね、ハルを起こした人?」
「起こした?」
「うん、起こした人!」


 柊はハルにさくら荘に来る前にどうしていたのかと、間隔をあけて何度か質問してみていたが、毎回返ってくる答えは同じ。


 『ハル、寝てたんだよ!』


 それの意味を、次第に柊はそのまま受け止め始め、そこからありえない今を考え始めていた……。


 ──ハルは、から来たのかもな……。







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