7 / 11
第7話
しおりを挟むホットケーキミックスで作ったニンジン蒸しパンと、一口サイズにしたハムチーズのロールサンドイッチを紅葉に借りた弁当箱に詰め、柊とハルは近くの公園にやって来た。
穴場なのか、爽やかな風の中、公園は貸し切りだ。
木陰にレジャーシートを敷いて荷物を置くと、ハルは滑り台へと駆け出した。
「パパー、はやくー!」
「前向いて走れよ!転ぶぞ!」
ハルは二度目の公園。
前回はお昼寝の時間ギリギリに来てしまい少ししか遊べず、眠さも相まって機嫌が最悪で帰りたくないとグズるハルを無理やり抱きかかえて帰った柊。
──あの時は活きのいいカツオ状態だったよな、ハル……。しかも途中で寝落ちて、メチャクチャ重かった……。
抱っこの時に子供のしがみつく力はバカにならないんだと痛感した彼は、その時の腕のダルさを思い出し軽く苦笑する。
公園に来たことがなかったらしいハルは、初めての滑り台やブランコ、シーソーに大興奮だった。
中でも滑り台が気に入ったようで、今も迷わず滑り台へ一直線。
この後、ハルは延々と滑り台を上って滑ってを繰り返した。
それはもう、側で見ているだけの柊がうんざりするほどに……。
「ハル、そろそろお弁当食べよう。」
「やー、もうちょっと!」
「もうちょっとって何回?」
「えー、わかんない。」
「わかんないじゃないの。何回滑ったらご飯食べる?一回?二回?」
「うーんとねぇ、………じゃあ、四回!」
「ん、わかった。四回な。はい、じゃ、一回目。」
「パパも、一緒に滑ろ!」
「はいはい。」
柊の手を引っ張るハルの手はふくふくで、どこまでも絆されていく彼がいた。
柊が自分で決めた約束をちゃんと守ったハルを褒めると、照れくさそうに「えへへ」と笑って、お弁当もたくさん食べてくれた。
──こんなに可愛いハルと離れなきゃいけなかったのか……?菜々に、何かがあったんだろうな……。
「なぁ、ハル?」
「なぁに?」
「その……ママのこと、覚えてるか?」
まだ小さいハルにこのことを尋ねるのを、柊はずっと躊躇っていた。
幼い心に傷をつけるかもしれない。そう考えるとひどく独りよがりな質問に思えたからだ。
だが、今のままではダメだと、焦燥に近い想いが日に日に湧き上がってくるのを止められない。
『パパが思い出せば戻れるよ、きっと』
そのハルの言葉と切られた指輪は、菜々を探せと伝えている気がしてならなかった。
柊から聞いた「ママ」という言葉にこてっと首をかしげたハルは、さも当たり前だと言うように話しだした。
「ママにはこれから会うんだよ。もう少ししたらね、ハルを連れて行ってくれるの。」
「連れて行ってくれる……?誰が?」
「うーんとねぇ、わかんないけどね、ハルを起こした人?」
「起こした?」
「うん、起こした人!」
柊はハルにさくら荘に来る前にどうしていたのかと、間隔をあけて何度か質問してみていたが、毎回返ってくる答えは同じ。
『ハル、寝てたんだよ!』
それの意味を、次第に柊はそのまま受け止め始め、そこからありえない今を考え始めていた……。
──ハルは、どこか違う場所から来たのかもな……。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
【R15】メイド・イン・ヘブン
あおみなみ
ライト文芸
「私はここしか知らないけれど、多分ここは天国だと思う」
ミステリアスな美青年「ナル」と、恋人の「ベル」。
年の差カップルには、大きな秘密があった。
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。
すこやか食堂のゆかいな人々
山いい奈
ライト文芸
貧血体質で悩まされている、常盤みのり。
母親が栄養学の本を読みながらごはんを作ってくれているのを見て、みのりも興味を持った。
心を癒し、食べるもので健康になれる様な食堂を開きたい。それがみのりの目標になっていた。
短大で栄養学を学び、専門学校でお料理を学び、体調を見ながら日本料理店でのアルバイトに励み、お料理教室で技を鍛えて来た。
そしてみのりは、両親や幼なじみ、お料理教室の先生、テナントビルのオーナーの力を借りて、すこやか食堂をオープンする。
一癖も二癖もある周りの人々やお客さまに囲まれて、みのりは奮闘する。
やがて、それはみのりの家族の問題に繋がっていく。
じんわりと、だがほっこりと心暖まる物語。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
心の落とし物
緋色刹那
ライト文芸
・完結済み(2024/10/12)。また書きたくなったら、番外編として投稿するかも
・第4回、第5回ライト文芸大賞にて奨励賞をいただきました!!✌︎('ω'✌︎ )✌︎('ω'✌︎ )
〈本作の楽しみ方〉
本作は読む喫茶店です。順に読んでもいいし、興味を持ったタイトルや季節から読んでもオッケーです。
知らない人、知らない設定が出てきて不安になるかもしれませんが、喫茶店の常連さんのようなものなので、雰囲気を楽しんでください(一応説明↓)。
〈あらすじ〉
〈心の落とし物〉はありませんか?
どこかに失くした物、ずっと探している人、過去の後悔、忘れていた夢。
あなたは忘れているつもりでも、心があなたの代わりに探し続けているかもしれません……。
喫茶店LAMP(ランプ)の店長、添野由良(そえのゆら)は、人の未練が具現化した幻〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉と、それを探す生き霊〈探し人(さがしびと)〉に気づきやすい体質。
ある夏の日、由良は店の前を何度も通る男性に目を止め、声をかける。男性は数年前に移転した古本屋を探していて……。
懐かしくも切ない、過去の未練に魅せられる。
〈主人公と作中用語〉
・添野由良(そえのゆら)
洋燈町にある喫茶店LAMP(ランプ)の店長。〈心の落とし物〉や〈探し人〉に気づきやすい体質。
・〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉
人の未練が具現化した幻。あるいは、未練そのもの。
・〈探し人(さがしびと)〉
〈心の落とし物〉を探す生き霊で、落とし主。当人に代わって、〈心の落とし物〉を探している。
・〈未練溜まり(みれんだまり)〉
忘れられた〈心の落とし物〉が行き着く場所。
・〈分け御霊(わけみたま)〉
生者の後悔や未練が物に宿り、具現化した者。込められた念が強ければ強いほど、人のように自由意志を持つ。いわゆる付喪神に近い。
さくやこの
松丹子
ライト文芸
結婚に夢も希望も抱いていない江原あきらが出会ったのは、年下の青年、大澤咲也。
花見で意気投合した二人は、だんだんと互いを理解し、寄り添っていく。
訳あって仕事に生きるバリキャリ志向のOLと、同性愛者の青年のお話。
性、結婚、親子と夫婦、自立と依存、生と死ーー
語り口はライトですが内容はやや重めです。
*関連作品
『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)
『物狂ほしや色と情』(ヨーコ視点)
読まなくても問題はありませんが、時系列的に本作品が後のため、前著のネタバレを含みます。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる