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第3話
しおりを挟む「ハルくんのパパ?」
純真無垢というのはこういう瞳のことか。
ハルがあまりにもキラキラし過ぎて、柊はクラクラしてきた。
「えっと……ハル、くん?」
「うん。」
「どうやってここまで来たの?一緒に来た人は?」
小さな男の子が一人。どう考えても迷子だ。
柊はしゃがみ込み、ハルと目線を合わせると優しく問いかける。
「わかんない。」
「わかんないの?お母さんかお父さんは?」
その質問に、ハルはきょとんと目を瞬かせた。
「パパはここにいるよ?ハルくんのパパでしょ?」
「えっ?えっとな、ハルくん。」
なんでこの子は自分のことを父親だと思い込んでいるのだろう?
小さな子供の相手などほとんどしたことのない柊は、どう説明すればいいのかわからず視線を彷徨わせる。
そんな柊などお構いなしに、ハルはポンポンと話しだした。
「よくわかんないけどね、パパに会いに行きなさいって言われて来た。」
「……そ、れは…誰に言われたのかな?」
「うーんと、わかんない。」
「わっかんないかぁ……。」
──どーすんだよ、埒があかないぞ……。
困り果てて、助けを求めるつもりで紅葉を見上げてみても、明らかにこの状況を楽しんでニコニコと笑っているだけだ。
視線を戻せば、目の前にあるのは無邪気な笑顔。
「ハルのね、大事なね、お仕事なの。だから来たの。」
「お仕事?」
「うん。パパの側にいなさいって!」
嬉しそうに言うハルに、何故か柊の心が痛む。
──状況は全くわからんが、とりあえず警察に連れてくか。保護してもらわなきゃマズイよな……。
この子は父親に会うのを楽しみにしている。
ハルは父親の顔を知らないようだし、何か事情があるのだろう。
そう考えた柊は、そっとハルの手を取り口を開いた。
「あのな、ハルくん。おじちゃんは、ハルくんのパパじゃないんだ。だからな、本当のパパを見つけてもらうように、これからおじちゃんと……。」
ちっちゃなモチモチの手を見つめながらそこまで言って彼が顔を上げると、ハルの目には涙が浮かんでいる。
──あーっ、これはマズいっ。
「だ、大丈夫だよ、ハルくん。パパが見つかるまで俺がちゃんと一緒にいるから。なっ?」
「…………。」
「ハルくん?」
必死に泣くのを堪えぷるぷると震えるハルは、口をへの字に曲げながらモゾモゾとズボンのポケットを探り出した。
そして、黙ってその様子を見ていた柊の前に握った可愛らしい手を差し出し鼻をすすりあげる。
そっと開かれたその手の中を見て、柊は息を呑み全身を硬直させた。
「な、んで……君がそれを持って……?」
ハルが握っていたもの。
それは柊が失くしていた、彼の結婚指輪だった……。
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