【完結】藤華の君 あかねの香

水樹風

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19 伽の間 *

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 僕はもう、顔どころか体中が火照って、この恥ずかしさをどうしていいのかわからなかった。


「朱寧、先に陽華殿へ行って待っていて。」


 そんな僕の耳に、孝龍様の艶めく低い声が注がれ、体の芯から痺れさせる。


「わかるね?」
「……はい。」


 ──意味は、嫌というほどにわかっています……。


 ここで動揺したら、史龍様はともかく、孝龍様の後に付いて庭へ出て来た氷翠殿に悟られてしまう。
 僕は恥ずかしさを押し殺して史龍様に挨拶を済ませ、また葵の案内で暗い地下道へと入っていったのだった。


「葵殿、蓉妃様は陽華殿に向かわれます。」
「かしこまりました。」


 雀玲も葵も、当然最初からそのつもりだったと言わんばかりの口ぶりで。
 僕はいつになったら、孝龍様に振りまわされなくなるのだろうと、暗闇で一人情けなくため息を溢していた。




 ◇◇◇





 陽華殿の伽の間は、奥が湯殿になっている。
 ここは妃嬪が支度をするための湯殿。主上が使われる場所は別にあった。
 僕は湯浴みを済ませ孝龍様を待つ間に、雀玲と葵に史龍様を襲った秀を探す方法を相談してみた。


「顔はわからないのですね?」
「うん。暗闇の中、背後から襲われて見ていないって。口を押さえられて抵抗したときに、月明かりでかろうじてそのほくろが見えたみたい。」
「手首ならば、薬師が脈診をするときに見るのでは?」
「そうか……!」


 僕はハッと雀玲を見上げる。
 蜻蛉ならば、ほくろのことを尋ねても深追いはしないだろう。
 孝龍様は何もおっしゃらなかったけれど、恐らく僕が動くことを見越していらっしゃるはずだ。


「葵。蜻蛉を、人知れず連れてこれる?」
「お任せを。」


 葵の返事に視線で頷いたその時、扉の向こうで穂積の声がした。


「主上のお越しでございます。」


 僕は腰掛けていた寝台から立ち上がり、跪いて礼をする。


「待たせたな、朱寧。」


 伽の間に入っていらした主上と入れ替わるように、するすると内侍の二人が下がり、扉がそっと閉められた。
 幾度となく孝龍様に抱かれていても、やっぱりこの時は恥ずかしくてお顔を見られなくなってしまう。
 いつもなら、そんな僕を甘やかすように抱き上げて下さるのに、今日は僕の横を通り過ぎお一人で寝台に座ってしまわれたんだ。


「主上?」


 ──もしかして、僕、何か粗相を?


 不安がよぎり振り返れば、孝龍様は悠然と、でも確かな劣情をその黒瞳に滲ませ僕を見つめている。


「朱寧、そなた発情気味だろう?」
「えっ……お気付き、だったのですか?」


 普通にしていたつもりなのに……。
 孝龍様に冷宮で口づけされてから、火照りはどんどんと増していて、番を求める蜜がトロトロと溢れ出しては止まらずにいた。


「私は番なのだ。当たり前だろう?」


 一度見つめれば、もう逸らすことなど出来ないその双眸。
 僕の秀は視線一つで、僕を支配してしまう。


 ──香りが……孝龍様の香りが、どんどん深くなる……。


 吸い寄せられるように孝龍様の前へ行くと、僕はぺたんとその場に座り込んでしまった。


「朱寧?私が欲しいのだろう?」


 ──ただ声を聞くだけで、クラクラする。……欲しい……僕の秀……番の全て……。


「いいよ。朱寧の好きにするといい。」


 ──ズルい人……。僕ばかり淫らにさせて……。


 僕は膝立ちになり、孝龍様の夜着の紐をシュッとほどいた。
 逞しく厚い胸。鍛え上げられ引き締まったお腹の割れ目にうっとりとしながら指を這わせると、僕は自分が望むそこを咥え込んだ。
 舌を這わせて吸い上げ、至らぬ場所を両手で包んで愛撫する。
 孝龍様が丁寧に教えて下さった、僕の番の悦ばせ方。
 僕が熱を移すほどに、そこは獰猛に屹立し、僕への欲望を滾らせて下さった。


「朱寧、腰が揺れているよ。私を咥えるのがそんなに悦いか?」
「ん、あっ、だって……おっきいから……んぅっ、上顎も喉も…擦れて……あ、ん……。」


 ──どうしよう……。これだけで、果ててしまいそう……。


「こっちを見て、朱寧。そう、私にだけ見せる顔……。いやらしい顔だ。」


 次第に孝龍様の顔も熱に浮かされ、息遣いが荒々しくなる。
 僕にはそれが堪らなく嬉しくて、はち切れそうな欲望を出来うる限り深く咥え込んだ。


「っ、あ、かねっ……!あぁっ!」


 やがて喉の奥に放たれた甘美なそれを飲み下すと、同時に僕の夜着も己の欲に濡れていたんだ……。


「朱寧、頑張ったね。いい子だ。」


 やっと抱き上げて下さった孝龍様に、僕は必死に縋り付く。


「もう奥が、奥が辛くて……。犯して下さい、早くっ!」


 欲を放ちなお反り立つ剛直が、おなかを奥の奥から疼かせ、もうどうにかなりそうだった。


「そなたが犯せと言ったのだからな、朱寧。」


 最愛に組み敷かれる寝台の上。
 夜着を剥ぎ取られ、大きく膝頭を割り開かれて、いきなり獰猛なまでのそれが隘路あいろをこじ開け進んでいく。


「あぁぁーーーッ!」


 痛みはない。だけど苦しくて、気持ちよくて、わけがわからなくなって……。


「ほら、わかる?朱寧。もう、ここまで入ったよ。」


 孝龍様が自身の熱を確かめるように手でお腹を押してきた。


「あん、ああっ、ダメぇ!はぁっ!」


 ──そんな、外からも触られたら……!


「どうして?」
「やっ、あ、おかしく、なるからぁ!」


 その台詞を待っていたように、孝龍様はその濃艶な笑みに嗜虐の色を乗せる。


「いいよ。私でおかしくなって。」
「あ、ぁ、あぅっ!」

 先端だけ残して引き抜かれる楔。次に来る快感を覚え込まされた僕は、あまりにも激しい熱に思わず身をよじる。
 腰を掴まれ逃げ場もなく押し込まれる快感。
 内側全てを刺激していく太い楔に、僕はただ喘ぎ続けた。


「あ、イくっ!あぁ──ッ!」


 呆気なく高みへ登らされ、白濁を吐き出し震える僕に、孝龍様は更に妖艶に荒々しい雄の自分を刻み付け始める。


「あっ、まっ……待って………ひゃぁん!」


 彼は屹立を受け入れたままの僕の脚を持ち上げてうつ伏せにさせ、番の印を舐め上げてから再び項を甘噛みしてきた。


「────ッ!」


 頭のてっぺんから爪先まで、一気に得も言われぬ熱が広がる。
 僕は声も出せずにまた果てて、その快感の余韻に溺れ続けた。
 そんな僕にグッと腰を押し付け、孝龍様は容赦なく律動を繰り返す胎内なかを捏ね突き上げる。


「朱寧は、これが、好きだろう?」


 全て知られている体。僕が素直に頷くと、手首を掴まれ体を起こされた。
 また項を吸う微かな痛み。孝龍様の大きな手が胸を這い、硬くなった小さなそこを指で挟む。


「朱寧が気持ちいいところは、全部可愛がらねばな。」
「そんな、一緒……あぁ、ん、ふぁっ!」


 体をピッタリと付けたまま、孝龍様と二人快楽に痺れ、僕はその名を呼び続けた。


「孝龍様っ、孝龍、さまぁ!」
「朱寧、そろそろ、イくよ。」


 寝台に手をつき、獣のように、僕は愛しい人の全てを受け入れる。
 堪らなく熱くて、幸せに満たされて……。
 今この時だけは、誰にも邪魔されたりしないから……。


「……孝龍…さま……もっと……。」
「ああ。もっと一緒に……。」



 苦しくなるほど満たして欲しい。
 この夜はただ番と、欲望のまま………。










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