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第四話「霊魂」
「霊魂」(12)
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魔王のいなくなった廃城……
雲間から階段のごとく差しつつある陽光を、草花にのった水滴が反射した。
幾重にもかかる虹の橋が、それを明るみに照らす。
魔王城のあの庭園に刻まれた巨大な魔法陣は、まだ消されていない。呪力をたっぷり含んだ床の血文字も、雨に負けずそのままだ。いやそれどころか、染め抜かれた呪文と複雑な五芒星の線は、ゆっくりとだが確実に発光を始めているではないか。
召喚の魔法陣……異世界への扉は、すでに必要な要素を満たして起動している。
このふたりを運ぶだけの最小限の規模で。
花でできた魔法陣の中心部で、メネスは腕の中のフィアへ微笑んだ。墓地の棺桶内から転移し、横抱きにされたフィアは制服・体とも元通りに修繕されている。いまにも飛び起きて、またあのまぶしい笑顔をこぼしそうだ。
だが現実はそう甘くはなく、フィアはけっして永遠の眠りから覚めない。
それを呼び出した召喚士が、苦難に満ちた一歩を踏み出さないかぎりは。
足もとから立ちのぼる呪力の光に隈取られながら、メネスは呼びかけた。
「フィア、フィア」
前に彼女が話してくれた情報によれば〝組織〟や〝警察〟と呼ばれる存在は、光の早さで不審人物の似顔絵を描いて、それらをもとにどこまでも執拗に追跡してくるという。かめら、とか言うからくりらしい。恐ろしいので、とりあえず正体を隠す変装が必要だ。
メネスの片手は、そっとじぶんの顔を覆った。
その手が離れたあとにあったのは、奇妙な魔王の仮面だ。
「さあ、見つけるよ、きみの命」
花畑に鮮明な光の柱が突き立った瞬間、異世界への門は開いた。
それは、魔王へとつづく光と闇の境界線。
フィアは帰ってくる……
【スウィートカース・シリーズ続編はこちら】
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/174069043
雲間から階段のごとく差しつつある陽光を、草花にのった水滴が反射した。
幾重にもかかる虹の橋が、それを明るみに照らす。
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召喚の魔法陣……異世界への扉は、すでに必要な要素を満たして起動している。
このふたりを運ぶだけの最小限の規模で。
花でできた魔法陣の中心部で、メネスは腕の中のフィアへ微笑んだ。墓地の棺桶内から転移し、横抱きにされたフィアは制服・体とも元通りに修繕されている。いまにも飛び起きて、またあのまぶしい笑顔をこぼしそうだ。
だが現実はそう甘くはなく、フィアはけっして永遠の眠りから覚めない。
それを呼び出した召喚士が、苦難に満ちた一歩を踏み出さないかぎりは。
足もとから立ちのぼる呪力の光に隈取られながら、メネスは呼びかけた。
「フィア、フィア」
前に彼女が話してくれた情報によれば〝組織〟や〝警察〟と呼ばれる存在は、光の早さで不審人物の似顔絵を描いて、それらをもとにどこまでも執拗に追跡してくるという。かめら、とか言うからくりらしい。恐ろしいので、とりあえず正体を隠す変装が必要だ。
メネスの片手は、そっとじぶんの顔を覆った。
その手が離れたあとにあったのは、奇妙な魔王の仮面だ。
「さあ、見つけるよ、きみの命」
花畑に鮮明な光の柱が突き立った瞬間、異世界への門は開いた。
それは、魔王へとつづく光と闇の境界線。
フィアは帰ってくる……
【スウィートカース・シリーズ続編はこちら】
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