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第一話「骨格」
「骨格」(1)
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クラネス歴一三九年……
光の都、セレファイス。
蝋燭の炎だけが孤独に揺れる地下室で、少年は恐怖に震えていた。
手でおさえた肩からは、まだ血が流れ続けている。ここまで逃げる間、食屍鬼の鋭い牙に食いちぎられたのだ。
少年……メネス・アタールを壁際まで追いつめて囲むのは、異形の影だった。長身痩躯の青白い食屍鬼。黒い翼の夜鬼。残忍なズーグ族の小人。醜い触手をうごめかせる巨大な蛙人。魔物どもは思い思いに涎をしたたらせ、小さな鉈を打ち鳴らし、低い唸り声をもらしている。
あきらかに、メネスは餌だった。
「なんなんだよ……」
喉を震わせたメネスの目尻に、涙がうかんだ。レンガ造りの壁にはりついたまま、自分の運命を呪って毒づく。
「ぼくになんの用があるって言うんだ!?」
叫びを合図にして、魔物どもはいっせいにメネスへ飛びかかった。
強い衝撃とともに、白く満たされるメネスの視界。
メネスは思った。
ああ、これがいわゆる即死。痛みがなくてよかった。たぶん、ぼくは頭からかじられたんだ。頭蓋骨がぺしゃんこになったか、首がちぎれたか……
やがて、光はおさまった。
「……あれ?」
片手を前に突き出した姿勢のまま、メネスは目をあけた。まだ生きている?
いやむしろ、見よ。メネスの両脇、壁に叩きつけられた魔物二匹を。
地下室を、奇妙な光が照らしていた。光は、床に白墨で描かれた五芒星の魔法陣から立ちのぼっている。
魔法陣の中心に、だれかが立っていた。
いつの間に、どこから現れたのだろう?
メネスの前にたたずむのは、異国のおかしな衣装に身を包んだ少女だった。
異世界の風になびく光沢のある髪、薔薇の茎のように整った肢体……背中越しにメネスを横目にする目鼻立ちも、高級な陶人形のごとく端正だ。見た限りでは、年の頃はメネスとそう大差はない。
こんな状況だが、うしろのメネスは思った。
美しい、と。
少女は左右に大きく両手を広げている。一見か弱いその拳が、すんでのところで魔物を殴り飛ばし、メネスの命を救ったのだ。
異常は、それだけに留まらない。少女の腕は開いた。文字どおり、両腕の甲にあたる部分の皮膚が展開し、メネスの知らない武器が鎌首をもたげたのだ。それは、彼女がもといた世界ではこう呼ばれている。
機関銃。
さらに同じく、開いた肩から展開して魔物どもを狙うのは、計十二門からなる超小型ミサイルの砲口だ。異世界の武器の展開は、少女の体のあちらこちらで続く、続く、続く。
メネスを守るように立ち塞がったまま、少女は呪われた言葉を発した。
「敵性反応および保護対象を確認しました。マタドールシステム・タイプF、基準演算機構を擬人形式から狩人形式へ変更します……戦闘開始」
セレファイスでは見たことも聞いたこともない武器の山で魔物どもを照準しながら、少女はメネスにたずねた。
「あなたが私の所有者ですか?」
「え……?」
それは、魔王へとつづく光と闇の境界線。
光の都、セレファイス。
蝋燭の炎だけが孤独に揺れる地下室で、少年は恐怖に震えていた。
手でおさえた肩からは、まだ血が流れ続けている。ここまで逃げる間、食屍鬼の鋭い牙に食いちぎられたのだ。
少年……メネス・アタールを壁際まで追いつめて囲むのは、異形の影だった。長身痩躯の青白い食屍鬼。黒い翼の夜鬼。残忍なズーグ族の小人。醜い触手をうごめかせる巨大な蛙人。魔物どもは思い思いに涎をしたたらせ、小さな鉈を打ち鳴らし、低い唸り声をもらしている。
あきらかに、メネスは餌だった。
「なんなんだよ……」
喉を震わせたメネスの目尻に、涙がうかんだ。レンガ造りの壁にはりついたまま、自分の運命を呪って毒づく。
「ぼくになんの用があるって言うんだ!?」
叫びを合図にして、魔物どもはいっせいにメネスへ飛びかかった。
強い衝撃とともに、白く満たされるメネスの視界。
メネスは思った。
ああ、これがいわゆる即死。痛みがなくてよかった。たぶん、ぼくは頭からかじられたんだ。頭蓋骨がぺしゃんこになったか、首がちぎれたか……
やがて、光はおさまった。
「……あれ?」
片手を前に突き出した姿勢のまま、メネスは目をあけた。まだ生きている?
いやむしろ、見よ。メネスの両脇、壁に叩きつけられた魔物二匹を。
地下室を、奇妙な光が照らしていた。光は、床に白墨で描かれた五芒星の魔法陣から立ちのぼっている。
魔法陣の中心に、だれかが立っていた。
いつの間に、どこから現れたのだろう?
メネスの前にたたずむのは、異国のおかしな衣装に身を包んだ少女だった。
異世界の風になびく光沢のある髪、薔薇の茎のように整った肢体……背中越しにメネスを横目にする目鼻立ちも、高級な陶人形のごとく端正だ。見た限りでは、年の頃はメネスとそう大差はない。
こんな状況だが、うしろのメネスは思った。
美しい、と。
少女は左右に大きく両手を広げている。一見か弱いその拳が、すんでのところで魔物を殴り飛ばし、メネスの命を救ったのだ。
異常は、それだけに留まらない。少女の腕は開いた。文字どおり、両腕の甲にあたる部分の皮膚が展開し、メネスの知らない武器が鎌首をもたげたのだ。それは、彼女がもといた世界ではこう呼ばれている。
機関銃。
さらに同じく、開いた肩から展開して魔物どもを狙うのは、計十二門からなる超小型ミサイルの砲口だ。異世界の武器の展開は、少女の体のあちらこちらで続く、続く、続く。
メネスを守るように立ち塞がったまま、少女は呪われた言葉を発した。
「敵性反応および保護対象を確認しました。マタドールシステム・タイプF、基準演算機構を擬人形式から狩人形式へ変更します……戦闘開始」
セレファイスでは見たことも聞いたこともない武器の山で魔物どもを照準しながら、少女はメネスにたずねた。
「あなたが私の所有者ですか?」
「え……?」
それは、魔王へとつづく光と闇の境界線。
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