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第四話「戸口」

「戸口」(12)

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 そこは、見渡すばかりの美しい花園……ハスターの〝冥河の戸口ゲート・オブ・ステュクス〟内部。

「姉さん! 姉さん! 回答を!」

 スグハは戦っていた。

 姉はすぐそこに立っている。しかし、呼べど叫べど、かぞえきれない〝蝶〟にまとわりつかれ、ナコトはぼうっと青空の雲を眺めるだけだ。

 このままでは姉はあぶない。きっとどこか、想像もできない恐ろしい場所へ連れ去られてしまう……直感的ななにかが、スグハにそう教えていた。

 だが、近づきかけたとたん、スグハの眼前に吹きあがったのは無数の蝶と花びらだ。大きな壁のごとく上昇した極彩色の壁に、スグハの姿は飲みこまれた。

「約束しただろ! 姉さん!」

 呼吸もままならぬ闇の中、スグハは叫んだ。

「いっしょに! 帰るって!」

 そのときだった。

 蝶たちが、逃げるように散り散りになったではないか。

 解き放たれたスグハの肩に、ぽんと手を置いたのは誰だったろう。

「この空間……俺だけを外に逃がしたナコトは正しかった。そうとうな準備がないと、自由に動くことはできねえ」

 しぶい声の源へ、スグハは振り向いた。

 いつの間にかうしろに立つのは、背の高い男だ。まとった細身のスーツは、どこか神父様を思わせる。

 男の浅黒い顔へ、スグハはたずねた。

「あんたは……?」

「とおりすがりの〝這い寄る混沌〟さ」

 端正な顔をキザな笑みに変え、男は続けた。

「邪魔な蝶々は追い払った。さ、とっとと叩き起こしてやりな、寝坊助のあいつを」

「……ありがとう、ホストの兄ちゃん」

 ナコトへ向けて、スグハは手をのばした。
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