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第四話「戸口」

「戸口」(3)

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 刑事や看護婦が問題の病室から立ち去り、しばらくしてからのことだった。

 ベッドの上で半身を起こすのは、パジャマ姿の少年だ。たてつづけの質問攻めに疲れたか、じっと窓外の景色をながめている。

 そのまま、だいぶ時間がたってから、少年は顔を戻して溜息をついた。

 少年がおどろいたのは、視界の端に、ふと人影が映ったためだ。

 物音ひとつたてず、いったいいつの間に……扉のほうへ振り向いた少年の顔は、とたんに輝いた。

「ナ、ナコト……姉さん? 姉さんなのか!?」

「気安く呼ぶな」

 冷たく切り捨てたナコトは、硬い表情をくずさない。くずさぬものの、その瞳の奥底には、たしかに揺れ動いたなにかがある。

 ナコトがたずさえる花束の中に、とんでもない凶器……ほんものの拳銃が隠されているなど、少年は夢にも思わないはずだ。

 その指はすでに、引き金にかかっている。

 ぼうぜんとする少年を、ナコトは鋭い視線で見据えた。

「質問する。両親のなまえを言ってみろ。あと、じぶんと、わたしの生年月日も」

「なぜそんなことを? 姉さん、だよね、多角的に見ても。しばらく見ないうちに、およそ雰囲気が変わった。なんというか、こう、とがった矢を思わせて……」

「はやく!」

「しょ、承知した」

 ひどく動揺しながらも、少年はナコトの問いに答えた。なおも、染夜優葉本人しか答えられない質問が、ナコトから数多く飛んだが、少年はこれも滞りなく正解してゆく。

「…………」

 ナコトはまだ、扉の前で微動だにしない。少年には決して聞こえない方法で、手もとの花束にたずねる。

〈どうだ、テフ?〉

〈こいつぁ驚いた。ハスターふくめて、呪力のニオイはこれっぽっちもねえ。化けたり操られたりの形跡もなし。正真正銘、ナコト、おまえの弟だよ……痛で!?〉

 放り捨てられた花束は、床に落ちた。

 ナコトは、ベッドの上の少年を抱きしめている。

 おもいきり、つよく。

 ナコトの肩を指でタップしながら、少年は蚊の鳴くような声をもらした。

「ばか姉……病人にふるう膂力ではないぞ、これは。苦しい」

「苦しめ、もっと苦しめ……よく戻ってきてくれた、スグハ」

 床に転がった花束から、やれやれと嘆息するのが聞こえた。
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