31 / 44
第四話「戸口」
「戸口」(1)
しおりを挟む
ひとけのない夜の山……
山の中腹、上から下に闇をつらぬいたのは、ひとすじの光だ。
強く収束されたその閃光は、しかしどこか悲しげな咆哮を残して夜空へ消えた。
その〝発射地点〟……
ああ、なにがあったのだろう。
森の中、樹の幹にもたれかかって項垂れるのは、制服姿の女子学生だ。その制服はところどころが焼け焦げ、煙をあげている。
なにかの衝撃に吹き飛ばされた?
そうはいっても、ここは道路も人通りもない山奥だ。ダンプカーが、それも燃えながら走っているとはとても考えづらい。
力を使い果たしたかのように、彼女は動かなかった。暗くてはっきりしないが、その足もと、呆れたつぶやきを漏らしたのは小さな影だ。
「たいした威力じゃねえか。いまの武器なら、当てさえすれば〝奴〟の鼻を明かすこともできる……当てさえすりゃ、な」
野鳥のとびたつ羽ばたきに混じって、彼女は反応した。かすれた声で答える。
「絶対に外さない。仕留めてみせる」
「そう簡単にいくか? じぶんへの反動をみてみろ。毎日毎日の特訓、ごくろうさまと言いたいとこだが、この大砲の出力はまだ五割ってとこだ。なんでかって? フルパワーでこんなもの撃ちゃ、おまえの体は耐えきれず燃えカスになるかもしれねえからだ」
うつむいた前髪の奥、彼女はかすかに鼻で笑ったようだった。
「はれて死人が火葬されるというわけか。ごく自然なことだ」
「おまえの復讐心はわかるが、いいか、よく肝に命じとけ。〝奴〟はきっと自分以外のだれかを盾にする。樋擦帆夏と同じように、大切なだれかに憑依しておまえの前に現れるかもしれねえ。そのとき動揺して、引き金をひく指を鈍らせるんじゃねえぞ……隙をみせたら、こんどこそ死ぬぜ、ナコト」
木々を揺らす風の音だけが、沈黙に流れていた。
すこしヒビのはいったメガネをくいと押し上げ、答えたのは彼女だ。
「撃てないほど大切なものなど、もうわたしには残されていない……そうだろう、テフ?」
「…………」
消耗しきって重い体を、彼女はむりやり樹の幹から起こした。踵を返すと、そのまま森の闇へ静かに消えてゆく。
その背後に広がる光景は、おお。
高出力のなにかに、長距離にわたって上半身を消し飛ばされた木々たちだった。
山の中腹、上から下に闇をつらぬいたのは、ひとすじの光だ。
強く収束されたその閃光は、しかしどこか悲しげな咆哮を残して夜空へ消えた。
その〝発射地点〟……
ああ、なにがあったのだろう。
森の中、樹の幹にもたれかかって項垂れるのは、制服姿の女子学生だ。その制服はところどころが焼け焦げ、煙をあげている。
なにかの衝撃に吹き飛ばされた?
そうはいっても、ここは道路も人通りもない山奥だ。ダンプカーが、それも燃えながら走っているとはとても考えづらい。
力を使い果たしたかのように、彼女は動かなかった。暗くてはっきりしないが、その足もと、呆れたつぶやきを漏らしたのは小さな影だ。
「たいした威力じゃねえか。いまの武器なら、当てさえすれば〝奴〟の鼻を明かすこともできる……当てさえすりゃ、な」
野鳥のとびたつ羽ばたきに混じって、彼女は反応した。かすれた声で答える。
「絶対に外さない。仕留めてみせる」
「そう簡単にいくか? じぶんへの反動をみてみろ。毎日毎日の特訓、ごくろうさまと言いたいとこだが、この大砲の出力はまだ五割ってとこだ。なんでかって? フルパワーでこんなもの撃ちゃ、おまえの体は耐えきれず燃えカスになるかもしれねえからだ」
うつむいた前髪の奥、彼女はかすかに鼻で笑ったようだった。
「はれて死人が火葬されるというわけか。ごく自然なことだ」
「おまえの復讐心はわかるが、いいか、よく肝に命じとけ。〝奴〟はきっと自分以外のだれかを盾にする。樋擦帆夏と同じように、大切なだれかに憑依しておまえの前に現れるかもしれねえ。そのとき動揺して、引き金をひく指を鈍らせるんじゃねえぞ……隙をみせたら、こんどこそ死ぬぜ、ナコト」
木々を揺らす風の音だけが、沈黙に流れていた。
すこしヒビのはいったメガネをくいと押し上げ、答えたのは彼女だ。
「撃てないほど大切なものなど、もうわたしには残されていない……そうだろう、テフ?」
「…………」
消耗しきって重い体を、彼女はむりやり樹の幹から起こした。踵を返すと、そのまま森の闇へ静かに消えてゆく。
その背後に広がる光景は、おお。
高出力のなにかに、長距離にわたって上半身を消し飛ばされた木々たちだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
逃げるが価値
maruko
恋愛
侯爵家の次女として生まれたが、両親の愛は全て姉に向いていた。
姉に来た最悪の縁談の生贄にされた私は前世を思い出し家出を決行。
逃げる事に価値を見い出した私は無事に逃げ切りたい!
自分の人生のために!
★長編に変更しました★
※作者の妄想の産物です
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
離縁された妻ですが、旦那様は本当の力を知らなかったようですね? 魔道具師として自立を目指します!
椿蛍
ファンタジー
【1章】
転生し、目覚めたら、旦那様から離縁されていた。
――そんなことってある?
私が転生したのは、落ちこぼれ魔道具師のサーラ。
彼女は結婚式当日、何者かの罠によって、氷の中に閉じ込められてしまった。
時を止めて眠ること十年。
彼女の魂は消滅し、肉体だけが残っていた。
「どうやって生活していくつもりかな?」
「ご心配なく。手に職を持ち、自立します」
「落ちこぼれの君が手に職? 無理だよ、無理! 現実を見つめたほうがいいよ?」
――後悔するのは、旦那様たちですよ?
【2章】
「もう一度、君を妃に迎えたい」
今まで私が魔道具師として働くのに反対で、散々嫌がらせをしてからの再プロポーズ。
再プロポーズ前にやるのは、信頼関係の再構築、まずは浮気の謝罪からでは……?
――まさか、うまくいくなんて、思ってませんよね?
【3章】
『サーラちゃん、婚約おめでとう!』
私がリアムの婚約者!?
リアムの妃の座を狙う四大公爵家の令嬢が現れ、突然の略奪宣言!
ライバル認定された私。
妃候補ふたたび――十年前と同じような状況になったけれど、犯人はもう一度現れるの?
リアムを貶めるための公爵の罠が、ヴィフレア王国の危機を招いて――
【その他】
※12月25日から3章スタート。初日2話、1日1話更新です。
※イラストは作成者様より、お借りして使用しております。
強制力が無茶するせいで乙女ゲームから退場できない。こうなったら好きに生きて国外追放エンドを狙おう!処刑エンドだけは、ホント勘弁して下さい
リコピン
ファンタジー
某乙女ゲームの悪役令嬢に転生したナディア。子どもの頃に思い出した前世知識を生かして悪役令嬢回避を狙うが、強制力が無茶するせいで上手くいかない。ナディアの専属執事であるジェイクは、そんなナディアの奇行に振り回されることになる。
※短編(10万字はいかない)予定です
始まりは、全てが闇に包まれて
桜咲朔耶
ファンタジー
多くの人が知っている神話、天岩戸の物語。
その裏には知られざる事件が…!?
神の加護を受けし少年×赤ん坊の頃神社の前で捨てられた少女
神話を巡る学園現代ファンタジー
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる