42 / 54
第四話「実行」
「実行」(3)
しおりを挟む
パーテの知らせどおり、ミコの部品は一日ごとに届いた。
裸のミコを組み上げるのに気まずさをおぼえたとき、ヒデトは決まってかたわらの絶対領域を見ることにしている。ミコは待っているのだ。そしてヒデトの作業はあくまで仮組みにしかすぎない。全身が組み上がったあと、ミコは設備の整った研究所で最終的な加工を受ける必要がある。
学校では、ミコは病欠ということになっていた。ヒデトはひとり淡白な気分で登下校し、夕方ごろに配達される荷物を受け取る日々を送っている。
「あとは頭だけ、か。そこにあの脳みそを突っ込めば、あいつは起きる」
放課後の夕焼け空をながめながら、異常者扱いされるような台詞をヒデトは独白した。
頭部をのぞいたミコの機体は、もはや完成寸前だ。できあがった体にはさっさと制服を着せてある。取扱説明書に下着の脱着方法まで載っているのは、さすがに馬鹿にしすぎだとヒデトはそこにいないパーテめがけて怒鳴った。しかしわからないものはわからないので、きちんと説明書を読んでしたがう。
その日はすこし、様子がちがった。
下校のとちゅう、手首の腕時計が急に着信音を放ったのだ。ひさびさのことにちょっと驚いたのはなんとか隠し、ヒデトは組織の呼び出しに応じた。
「はいよ、こちら〝黒の手〟」
〈私だ〉
「砂目のだんな」
〈いま話せるか?〉
「ちょっと忙しい。任務の途中でね。家で受け取るものがある」
〈りっぱに仕事しているようじゃないか。学生という擬装を。だがカバンの中身はカラのようだな。美須賀大付属では、教科書の放置は校則違反ではないのかね?〉
瞳だけを動かして、ヒデトはあたりを見回した。
用心深く探るまでもない。いた。そばの自販機の陰に、あの仏頂面の上司が。
自販機にもたれたまま、砂目は硬貨を投入口にいれた。いっせいに飲み物のメニューが輝く。
砂目はヒデトにたずねた。
「どれにする?」
裸のミコを組み上げるのに気まずさをおぼえたとき、ヒデトは決まってかたわらの絶対領域を見ることにしている。ミコは待っているのだ。そしてヒデトの作業はあくまで仮組みにしかすぎない。全身が組み上がったあと、ミコは設備の整った研究所で最終的な加工を受ける必要がある。
学校では、ミコは病欠ということになっていた。ヒデトはひとり淡白な気分で登下校し、夕方ごろに配達される荷物を受け取る日々を送っている。
「あとは頭だけ、か。そこにあの脳みそを突っ込めば、あいつは起きる」
放課後の夕焼け空をながめながら、異常者扱いされるような台詞をヒデトは独白した。
頭部をのぞいたミコの機体は、もはや完成寸前だ。できあがった体にはさっさと制服を着せてある。取扱説明書に下着の脱着方法まで載っているのは、さすがに馬鹿にしすぎだとヒデトはそこにいないパーテめがけて怒鳴った。しかしわからないものはわからないので、きちんと説明書を読んでしたがう。
その日はすこし、様子がちがった。
下校のとちゅう、手首の腕時計が急に着信音を放ったのだ。ひさびさのことにちょっと驚いたのはなんとか隠し、ヒデトは組織の呼び出しに応じた。
「はいよ、こちら〝黒の手〟」
〈私だ〉
「砂目のだんな」
〈いま話せるか?〉
「ちょっと忙しい。任務の途中でね。家で受け取るものがある」
〈りっぱに仕事しているようじゃないか。学生という擬装を。だがカバンの中身はカラのようだな。美須賀大付属では、教科書の放置は校則違反ではないのかね?〉
瞳だけを動かして、ヒデトはあたりを見回した。
用心深く探るまでもない。いた。そばの自販機の陰に、あの仏頂面の上司が。
自販機にもたれたまま、砂目は硬貨を投入口にいれた。いっせいに飲み物のメニューが輝く。
砂目はヒデトにたずねた。
「どれにする?」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
異世界エステ〜チートスキル『エステ』で美少女たちをマッサージしていたら、いつの間にか裏社会をも支配する異世界の帝王になっていた件〜
福寿草真
ファンタジー
【Sランク冒険者を、お姫様を、オイルマッサージでトロトロにして成り上がり!?】
何の取り柄もないごく普通のアラサー、安間想介はある日唐突に異世界転移をしてしまう。
魔物や魔法が存在するありふれたファンタジー世界で想介が神様からもらったチートスキルは最強の戦闘系スキル……ではなく、『エステ』スキルという前代未聞の力で!?
これはごく普通の男がエステ店を開き、オイルマッサージで沢山の異世界女性をトロトロにしながら、瞬く間に成り上がっていく物語。
スキル『エステ』は成長すると、マッサージを行うだけで体力回復、病気の治療、バフが発生するなど様々な効果が出てくるチートスキルです。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか
砂礫レキ
恋愛
十九歳のマリアンは、かなり年上だが美男子のフェリクスに一目惚れをした。
そして公爵である父に頼み伯爵の彼と去年結婚したのだ。
しかし彼は妻を愛することは無いと毎日宣言し、マリアンは泣きながら暮らしていた。
ある日転んだことが切っ掛けでマリアンは自分が二十五歳の日本人女性だった記憶を取り戻す。
そして三十歳になるフェリクスが今まで独身だったことも含め、彼を地雷男だと認識した。
「君を愛することはない」「いちいち言わなくて結構ですよ、それより離婚して頂けます?」
別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。しかしこれは反撃の始まりに過ぎなかった。
追放された最強令嬢は、新たな人生を自由に生きる
灯乃
ファンタジー
旧題:魔眼の守護者 ~用なし令嬢は踊らない~
幼い頃から、スウィングラー辺境伯家の後継者として厳しい教育を受けてきたアレクシア。だがある日、両親の離縁と再婚により、後継者の地位を腹違いの兄に奪われる。彼女は、たったひとりの従者とともに、追い出されるように家を出た。
「……っ、自由だーーーーーーっっ!!」
「そうですね、アレクシアさま。とりあえずあなたは、世間の一般常識を身につけるところからはじめましょうか」
最高の淑女教育と最強の兵士教育を施されたアレクシアと、そんな彼女の従者兼護衛として育てられたウィルフレッド。ふたりにとって、『学校』というのは思いもよらない刺激に満ちた場所のようで……?
転生料理人の異世界探求記(旧 転生料理人の異世界グルメ旅)
しゃむしぇる
ファンタジー
こちらの作品はカクヨム様にて先行公開中です。外部URLを連携しておきましたので、気になる方はそちらから……。
職場の上司に毎日暴力を振るわれていた主人公が、ある日危険なパワハラでお失くなりに!?
そして気付いたら異世界に!?転生した主人公は異世界のまだ見ぬ食材を求め世界中を旅します。
異世界を巡りながらそのついでに世界の危機も救う。
そんなお話です。
普段の料理に使えるような小技やもっと美味しくなる方法等も紹介できたらなと思ってます。
この作品は「小説家になろう」様及び「カクヨム」様、「pixiv」様でも掲載しています。
ご感想はこちらでは受け付けません。他サイトにてお願いいたします。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
強制力が無茶するせいで乙女ゲームから退場できない。こうなったら好きに生きて国外追放エンドを狙おう!処刑エンドだけは、ホント勘弁して下さい
リコピン
ファンタジー
某乙女ゲームの悪役令嬢に転生したナディア。子どもの頃に思い出した前世知識を生かして悪役令嬢回避を狙うが、強制力が無茶するせいで上手くいかない。ナディアの専属執事であるジェイクは、そんなナディアの奇行に振り回されることになる。
※短編(10万字はいかない)予定です
無能とされた双子の姉は、妹から逃げようと思う~追放はこれまでで一番素敵な贈り物
ゆうぎり
ファンタジー
私リディアーヌの不幸は双子の姉として生まれてしまった事だろう。
妹のマリアーヌは王太子の婚約者。
我が公爵家は妹を中心に回る。
何をするにも妹優先。
勿論淑女教育も勉強も魔術もだ。
そして、面倒事は全て私に回ってくる。
勉強も魔術も課題の提出は全て代わりに私が片付けた。
両親に訴えても、将来公爵家を継ぎ妹を支える立場だと聞き入れて貰えない。
気がつけば私は勉強に関してだけは、王太子妃教育も次期公爵家教育も修了していた。
そう勉強だけは……
魔術の実技に関しては無能扱い。
この魔術に頼っている国では私は何をしても無能扱いだった。
だから突然罪を着せられ国を追放された時には喜んで従った。
さあ、どこに行こうか。
※ゆるゆる設定です。
※2021.9.9 HOTランキング入りしました。ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる