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第一話「起動」
「起動」(7)
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「ミコひとりで行かせただと!? ばかやろう!」
工場地帯を早足に往来するのは、特殊装備に身を固めた無数の捜査官たちだ。
多くのパトカーや組織の車両等に、敷地の内外は埋め尽くされている。ひときわ目立つ大型の輸送車の内部、胸ぐらを掴み上げられるのはヒデトだった。
押しつけたヒデトで車を揺らした太腕は、マタドールシステム・タイプP……パーテのものだ。その天井をつく巨体のせいで、特注の大型スーツすらタイトに見えてしまう。
パーテ、そしてすこし離れた席に座る砂目の追求は徹底的だった。だが当のヒデトはというと、生気のない顔つきで視線をそらしている。
「だって、ただの人間だぜ、俺。あんたら戦闘用のアンドロイドと違って弱い。今回の任務も、ミコひとりで十分だったんだ。俺が邪魔さえしなければ」
「人も機械も関係ねえ! チームだろうがよ、おまえらは! いいか。人は道具に頼らないと戦えねえ。道具は人の手助けがないと動けねえ。それは石器時代から同じだ!」
野太いパーテの叱責に震えたのは、車内に所狭しとならぶ分析機器たちだ。むこうで他人ごとのように電子書類に目をとおす砂目へ、パーテはたずねた。
「なあ、だんな。ミコの反応はまだ掴めないのか?」
「おかしなことに、まったくだ。〝時計〟を外してオフライン状態で逃亡したり、自爆した形跡等もなし。そこの穀潰しが吐いたとおり、異世界に連れ去られたとかいう説を可能性に加えるべきかもな」
「くそ、なんて可哀想な妹。こんな間抜けが相棒でさえなけりゃ……」
胸ぐらを放され、ヒデトは脱力したように壁にもたれかかった。神経質げに目頭をもみながら、補足したのは砂目だ。
「施設内で生じた死傷者に関して、ゼガ社と警察は組織に説明を求めている。だが防犯カメラが記録した仮面の弓使いと黒野、両当事者のゆくえは依然不明。いまのところ、責任のほとんどは組織にあるな」
憔悴しきった面持ちで、ぽつりとこぼしたのはヒデトだった。
「かまいませんよ、やっちゃってもらって」
怒れる火山のごとく腕組みしたまま、パーテは首をかしげた。
「なに言ってやがる?」
「気なんて使わずはっきり言えよ。俺が取ればいいんだろ、ぜんぶの責任を。実際そうなんだからな。さいしょからミコといっしょに動いて、よけいな手出しさえしなければ……」
「取るって言ったってだな、ヒデト。わかってるとは思うが、変な証言でもすれば懲戒免職ていどですむ問題じゃねえぞ。それに、腹は立つが、おまえの言ってることを俺は信じる。組織の記録にない異世界の力に、ミコは飲み込まれた。そこで腐ってるより、助け出す算段をたてるのが先だろ。いまもミコは、おまえの助けを待ってる」
「なんでわかるんだ、そんなことが?」
「機械にもな、勘みたいなもんはあるんだ。組織の情報源に長いこと蓄積した経験と、現状の分析がそう囁いてる」
「助けるって言ったって……なんの手もない」
「だからよ! すぐ諦めんな! 凄腕の〝黒の手〟が手も足もでないなんて通用しねえ!」
ふらりと立ち上がると、ヒデトは輸送車の出口へ向かった。報告書からわずかに視線をあげ、問うたのは砂目だ。
「どこへ?」
「だれもいないところへ、さ」
輸送車のステップを降りながら、ヒデトは背中でつぶやいた。
「ここで自爆されたら、掃除が大変だろ?」
工場地帯を早足に往来するのは、特殊装備に身を固めた無数の捜査官たちだ。
多くのパトカーや組織の車両等に、敷地の内外は埋め尽くされている。ひときわ目立つ大型の輸送車の内部、胸ぐらを掴み上げられるのはヒデトだった。
押しつけたヒデトで車を揺らした太腕は、マタドールシステム・タイプP……パーテのものだ。その天井をつく巨体のせいで、特注の大型スーツすらタイトに見えてしまう。
パーテ、そしてすこし離れた席に座る砂目の追求は徹底的だった。だが当のヒデトはというと、生気のない顔つきで視線をそらしている。
「だって、ただの人間だぜ、俺。あんたら戦闘用のアンドロイドと違って弱い。今回の任務も、ミコひとりで十分だったんだ。俺が邪魔さえしなければ」
「人も機械も関係ねえ! チームだろうがよ、おまえらは! いいか。人は道具に頼らないと戦えねえ。道具は人の手助けがないと動けねえ。それは石器時代から同じだ!」
野太いパーテの叱責に震えたのは、車内に所狭しとならぶ分析機器たちだ。むこうで他人ごとのように電子書類に目をとおす砂目へ、パーテはたずねた。
「なあ、だんな。ミコの反応はまだ掴めないのか?」
「おかしなことに、まったくだ。〝時計〟を外してオフライン状態で逃亡したり、自爆した形跡等もなし。そこの穀潰しが吐いたとおり、異世界に連れ去られたとかいう説を可能性に加えるべきかもな」
「くそ、なんて可哀想な妹。こんな間抜けが相棒でさえなけりゃ……」
胸ぐらを放され、ヒデトは脱力したように壁にもたれかかった。神経質げに目頭をもみながら、補足したのは砂目だ。
「施設内で生じた死傷者に関して、ゼガ社と警察は組織に説明を求めている。だが防犯カメラが記録した仮面の弓使いと黒野、両当事者のゆくえは依然不明。いまのところ、責任のほとんどは組織にあるな」
憔悴しきった面持ちで、ぽつりとこぼしたのはヒデトだった。
「かまいませんよ、やっちゃってもらって」
怒れる火山のごとく腕組みしたまま、パーテは首をかしげた。
「なに言ってやがる?」
「気なんて使わずはっきり言えよ。俺が取ればいいんだろ、ぜんぶの責任を。実際そうなんだからな。さいしょからミコといっしょに動いて、よけいな手出しさえしなければ……」
「取るって言ったってだな、ヒデト。わかってるとは思うが、変な証言でもすれば懲戒免職ていどですむ問題じゃねえぞ。それに、腹は立つが、おまえの言ってることを俺は信じる。組織の記録にない異世界の力に、ミコは飲み込まれた。そこで腐ってるより、助け出す算段をたてるのが先だろ。いまもミコは、おまえの助けを待ってる」
「なんでわかるんだ、そんなことが?」
「機械にもな、勘みたいなもんはあるんだ。組織の情報源に長いこと蓄積した経験と、現状の分析がそう囁いてる」
「助けるって言ったって……なんの手もない」
「だからよ! すぐ諦めんな! 凄腕の〝黒の手〟が手も足もでないなんて通用しねえ!」
ふらりと立ち上がると、ヒデトは輸送車の出口へ向かった。報告書からわずかに視線をあげ、問うたのは砂目だ。
「どこへ?」
「だれもいないところへ、さ」
輸送車のステップを降りながら、ヒデトは背中でつぶやいた。
「ここで自爆されたら、掃除が大変だろ?」
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