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第四話「交錯」
「交錯」(2)
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ナコトはミコを撃った。
すばやく六連射された銃撃を、ミコの長刀は的確に弾き飛ばしている。めくるめく跳弾は、ふたりが計算した角度で続けざまにジュズたちの頭を貫いた。地面すれすれまで仰け反ったナコトの鼻先を、風を斬って通過したのはミコの白刃だ。同時に、長刀の峰めがけて発砲。着弾の衝撃が強引に後押しした銀光の軌跡は、通常の倍以上のスピードでジュズたちを薙ぎ払う。
狂気じみた連携だった。
だがその先の読めないトリッキーさと精密さで、ジュズの頭数は着実に減っている。ふたりの活躍に勢いづき、あちこちでジュズを打ち倒すのはセレファイスの兵士たちだ。
背中合わせになったミコへ、ナコトは早口に心境を打ち明けた。
「きりがないな?」
「はい。あの空に開いた入口の門を閉じないかぎりは……ナコト、回避を!」
あたりに突如降りかかった影から、ナコトは顔を守って身をかがめた。
みにくい翼を羽ばたいて跳躍したクトゥルフの怪物が、ふたりへ向かって巨大な足を振り下ろしたのだ。
だがルリエの踏み潰しは、ふたりへ届く寸前で止まっている。見れば、両手で長刀の柄と腹を支えたミコが、ルリエの大質量の足裏を食い止めているではないか。
ぎりぎりと足を押し込みながら、ルリエは憎らしげに吠えた。
「虫けらは、踏み潰されるのが仕事よ!」
「汚い足をどけろ! クトゥルフ!」
怒り心頭で叫ぶや、ナコトは拳銃二挺を直上の足裏へ向けた。撃つ撃つ撃つ撃つ。
だがその桁違いのサイズ感から、ルリエに痛痒を感じた気配はない。機体の全パワーをフル回転させて押し止めるミコの機体は、刻々と力の加わっていく足の下で嫌な軋みと漏電を発し始めている。
とめどなく銃火にまたたきながら、ナコトはうながした。
「こいつ、ただデカいだけじゃない! いったん退くぞ、ミコ!」
限界までのけぞって足場を砕きながら、ミコは蚊の泣くような声で応じた。
「い……いいえ。退避するのはあなたのほうです、ナコト」
「なに?」
「なんとか間に合いましたね、ヒデト、メネス……拠点防衛型/制圧型機動装甲:マタドールシステム・タイプZ〝熱砂の琴〟の到着を確認しました。これより私と連結します」
ミコの足もとを中心に広がったのは、巨大な召喚の魔法陣だった。
轟音とともに、こんどはルリエのほうが大きくつんのめって後退している。五芒星の輝きから現れた特殊複合金属の……巨大な〝拳〟に見える物体が、大怪獣に凄まじいアッパーカットを見舞ったのだ。
見よ。魔法陣の中から続けて、極大の頭部が、胴体が、そして脚部が爆発的な勢いで立ち上がったではないか。
急いでその場から飛び退りながら、ナコトは目を剥いた。
「なんだあれは!?」
面食らったナコトの横、メネスが両手に展開した魔法陣は、大規模な召喚による呪力の消耗で小刻みにかすれつつある。ようやく輝きを消した両手を疲れたように下ろすと、メネスは嘆息とともに答えた。
「地球と幻夢境、共同で召喚したのさ。組織とっておきの秘密兵器を……さあ、戦いにピリオドを打つのはきみだ、ミコ」
体高およそ五十メートルのルリエの眼前、地鳴りとともに立ちふさがったのは、こちらも全長五十メートルを超える機械の巨人だった。激しい放熱の蒸気を噴きながら、たえまなく金属音を轟かせ、機体の全身が順番に開閉して戦闘準備を整える。
決戦兵器〝熱砂の琴〟……
その胸部に位置する操縦席で数えきれない量の配線に接続し、ミコは超大型機と自機を同期させた。拡声器越しに、地上へ警告する。
「みなさん、危険ですので、私たちの足もとにご注意を……さあ、反撃の時間です」
地響きを連続させて、機械の巨人はクトゥルフの怪物に肉薄した。
呪力混合のロケットエンジンを肘部に燃やして腕ごと加速し、触腕に覆われたルリエの横面を殴りつける。ガラスの建物を圧し潰して転倒しながら、ルリエは女子高生らしい裏返った悲鳴をあげた。
「痛ったァい! やったわね、この!」
大地は裂け、土砂は噴火のごとく舞い上がった。
ルリエの放った大迫力のドロップキックが、ミコを蹴り飛ばしたのだ。ふたつみっつ後退するなり、ミコはルリエめがけて片腕を跳ね上げた。直後、かなりの距離があるにも関わらず、ルリエの腹腔にはミコの前腕が突き刺さっている。ミコの肘から発射され、火を噴いて飛来したのは巨大な鉄拳だ。ワイヤー誘導されたロケットパンチを肘部に巻き戻して再接続しながら、ミコは苦悶して身を折るルリエへ勧告した。
「ラウンド2も私の勝ちです。おとなしく降伏しなさい」
「うるさい!」
ほとばしった太い触腕たちは、ミコの脚を絡め取ってひといきに横転させた。馬乗りのポジションを取ろうとするルリエを、ミコの全身から展開されたミサイル砲、機関砲、レーザー砲が雨あられと掃射して押し返す。空そのものが落ちてきたようなルリエの拳を迎え撃ったのは、推進力で加速されたミコの右ストレートだ。
クロスカウンターの状態でおたがいの顔に拳をめり込ませ、両者は動きを止めた。
触腕に導かれて唐突に現れ、腕と腕でできた足場に降り立ったのは人間サイズのルリエだ。指先の照準を〝熱砂の琴〟の胸部にあわせながら、憮然とつぶやく。
「さすがのあたしも呪力の限界よ。ちょっとずるいけど、核となる操縦士だけ狙わせてもらうわ……〝石の都〟」
天敵であるミコはルリエの攻撃を耐え抜いたとしても、その他の精密機器は無事ではすまない。ピンポイントで生じた強重力場に、操縦室は尋常ならざる量の火花と電光に包まれている。めずらしく危機感をあらわにして、ミコは歯噛みした。
「これはいけません。こうなったら、彼女を巻き込んで〝熱砂の琴〟ごと自爆を……」
刹那、響き渡ったのはナコトの低い声だった。
「〝黄衣の剣壁〟!」
すばやく六連射された銃撃を、ミコの長刀は的確に弾き飛ばしている。めくるめく跳弾は、ふたりが計算した角度で続けざまにジュズたちの頭を貫いた。地面すれすれまで仰け反ったナコトの鼻先を、風を斬って通過したのはミコの白刃だ。同時に、長刀の峰めがけて発砲。着弾の衝撃が強引に後押しした銀光の軌跡は、通常の倍以上のスピードでジュズたちを薙ぎ払う。
狂気じみた連携だった。
だがその先の読めないトリッキーさと精密さで、ジュズの頭数は着実に減っている。ふたりの活躍に勢いづき、あちこちでジュズを打ち倒すのはセレファイスの兵士たちだ。
背中合わせになったミコへ、ナコトは早口に心境を打ち明けた。
「きりがないな?」
「はい。あの空に開いた入口の門を閉じないかぎりは……ナコト、回避を!」
あたりに突如降りかかった影から、ナコトは顔を守って身をかがめた。
みにくい翼を羽ばたいて跳躍したクトゥルフの怪物が、ふたりへ向かって巨大な足を振り下ろしたのだ。
だがルリエの踏み潰しは、ふたりへ届く寸前で止まっている。見れば、両手で長刀の柄と腹を支えたミコが、ルリエの大質量の足裏を食い止めているではないか。
ぎりぎりと足を押し込みながら、ルリエは憎らしげに吠えた。
「虫けらは、踏み潰されるのが仕事よ!」
「汚い足をどけろ! クトゥルフ!」
怒り心頭で叫ぶや、ナコトは拳銃二挺を直上の足裏へ向けた。撃つ撃つ撃つ撃つ。
だがその桁違いのサイズ感から、ルリエに痛痒を感じた気配はない。機体の全パワーをフル回転させて押し止めるミコの機体は、刻々と力の加わっていく足の下で嫌な軋みと漏電を発し始めている。
とめどなく銃火にまたたきながら、ナコトはうながした。
「こいつ、ただデカいだけじゃない! いったん退くぞ、ミコ!」
限界までのけぞって足場を砕きながら、ミコは蚊の泣くような声で応じた。
「い……いいえ。退避するのはあなたのほうです、ナコト」
「なに?」
「なんとか間に合いましたね、ヒデト、メネス……拠点防衛型/制圧型機動装甲:マタドールシステム・タイプZ〝熱砂の琴〟の到着を確認しました。これより私と連結します」
ミコの足もとを中心に広がったのは、巨大な召喚の魔法陣だった。
轟音とともに、こんどはルリエのほうが大きくつんのめって後退している。五芒星の輝きから現れた特殊複合金属の……巨大な〝拳〟に見える物体が、大怪獣に凄まじいアッパーカットを見舞ったのだ。
見よ。魔法陣の中から続けて、極大の頭部が、胴体が、そして脚部が爆発的な勢いで立ち上がったではないか。
急いでその場から飛び退りながら、ナコトは目を剥いた。
「なんだあれは!?」
面食らったナコトの横、メネスが両手に展開した魔法陣は、大規模な召喚による呪力の消耗で小刻みにかすれつつある。ようやく輝きを消した両手を疲れたように下ろすと、メネスは嘆息とともに答えた。
「地球と幻夢境、共同で召喚したのさ。組織とっておきの秘密兵器を……さあ、戦いにピリオドを打つのはきみだ、ミコ」
体高およそ五十メートルのルリエの眼前、地鳴りとともに立ちふさがったのは、こちらも全長五十メートルを超える機械の巨人だった。激しい放熱の蒸気を噴きながら、たえまなく金属音を轟かせ、機体の全身が順番に開閉して戦闘準備を整える。
決戦兵器〝熱砂の琴〟……
その胸部に位置する操縦席で数えきれない量の配線に接続し、ミコは超大型機と自機を同期させた。拡声器越しに、地上へ警告する。
「みなさん、危険ですので、私たちの足もとにご注意を……さあ、反撃の時間です」
地響きを連続させて、機械の巨人はクトゥルフの怪物に肉薄した。
呪力混合のロケットエンジンを肘部に燃やして腕ごと加速し、触腕に覆われたルリエの横面を殴りつける。ガラスの建物を圧し潰して転倒しながら、ルリエは女子高生らしい裏返った悲鳴をあげた。
「痛ったァい! やったわね、この!」
大地は裂け、土砂は噴火のごとく舞い上がった。
ルリエの放った大迫力のドロップキックが、ミコを蹴り飛ばしたのだ。ふたつみっつ後退するなり、ミコはルリエめがけて片腕を跳ね上げた。直後、かなりの距離があるにも関わらず、ルリエの腹腔にはミコの前腕が突き刺さっている。ミコの肘から発射され、火を噴いて飛来したのは巨大な鉄拳だ。ワイヤー誘導されたロケットパンチを肘部に巻き戻して再接続しながら、ミコは苦悶して身を折るルリエへ勧告した。
「ラウンド2も私の勝ちです。おとなしく降伏しなさい」
「うるさい!」
ほとばしった太い触腕たちは、ミコの脚を絡め取ってひといきに横転させた。馬乗りのポジションを取ろうとするルリエを、ミコの全身から展開されたミサイル砲、機関砲、レーザー砲が雨あられと掃射して押し返す。空そのものが落ちてきたようなルリエの拳を迎え撃ったのは、推進力で加速されたミコの右ストレートだ。
クロスカウンターの状態でおたがいの顔に拳をめり込ませ、両者は動きを止めた。
触腕に導かれて唐突に現れ、腕と腕でできた足場に降り立ったのは人間サイズのルリエだ。指先の照準を〝熱砂の琴〟の胸部にあわせながら、憮然とつぶやく。
「さすがのあたしも呪力の限界よ。ちょっとずるいけど、核となる操縦士だけ狙わせてもらうわ……〝石の都〟」
天敵であるミコはルリエの攻撃を耐え抜いたとしても、その他の精密機器は無事ではすまない。ピンポイントで生じた強重力場に、操縦室は尋常ならざる量の火花と電光に包まれている。めずらしく危機感をあらわにして、ミコは歯噛みした。
「これはいけません。こうなったら、彼女を巻き込んで〝熱砂の琴〟ごと自爆を……」
刹那、響き渡ったのはナコトの低い声だった。
「〝黄衣の剣壁〟!」
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