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夜の饗宴
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「宰相ガストンを捕らえよ! いや、元宰相のガストンをだ!」
「ち、違う! 今のは私の意志ではない! あの小娘だ! あの小娘の赤い目に操られて――!」
王の命令によりガストンは衛兵に取り押さえられた。
この国の司法において真実の瞳による裁決は絶対である。
それは宰相であるガストンにおいても例外はなかった。
(なぜだ……なぜ私がこんな目にあっている!?)
「抵抗するんじゃない! 大人しくしろ!」
「ぐぅ!? き、貴様ァ! ふざけるな! 私を誰だと――」
「口の聞き方に気をつけるんだな。貴様はもう宰相でも貴族でもない。陛下が命を下した以上、貴様は最早ただの罪人にすぎん」
衛兵に頭を地面に押さえつけられてうめくガストン。
これだけの人数に力づくで拘束されれば得意の魔法を放つこともできなかった。
ガストンは血が滲むほどに歯を食いしばりながら心の内でさけぶ。
(罠に嵌められ、絶望の表情を浮かべながら地を這いつくばる愚か者達の惨めな姿を見下ろすのは、常に私であったはずだ! それが一体なぜこのような――)
ガストンが視線を上げたその先――会場の二階。
バルコニーの付近に、アムネジアは立っていた。
月明かりを背に受けてアムネジアは高みから、ガストンを見下ろしている。
赤の目を細めて、口元にニタァと、邪悪な微笑を浮かべながら。
口の端からは、尖った犬歯が白く煌めいていた。
それは人間ならざる人外の証左であり。
それを見たガストンは、すべてを悟った。
自分は嵌められたのだということを。
いや、自分だけではない。
貴族も王も、この会場にいるすべての人間が。
この吸血鬼の小娘一人の手のひらで踊らされ。
高みから見下されているのだという事実を。
「こ、殺せ……今すぐにあの小娘を! アムネジアを殺せぇ! そうしなければこの国は、ベルスカード王国は――!」
さけぶガストンに背を向けて、アムネジアはバルコニーの先へと消えていった。
騒然とし、混乱を極める会場内の人間は、誰一人としてその場からアムネジアが消えたことに気が付かない。
かくして、血と裏切りに彩られた断罪劇は幕を下ろした。
++++++
満月の下、夜風に銀の髪をなびかせてアムネジアは一人バルコニーに立っていた。
背後の会場内からは絶え間なく人間達の怒号や喧騒が飛び交っている。
そんな中、アムネジアは満月を見上げてワインを傾けていた。
彼女の背後には闇に姿を溶け込ませるように、一人の衛兵が立っている。
衛兵はニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべながら言った。
「いやはや見事な舞台でしたねぇ、お嬢様。復讐などやめて役者にでも転向された方がよろしいのではぁ?」
ダリアンの小ばかにした口調にアムネジアは不快げに目を細める。
しかしフッと口元に微笑を浮かべると髪をかきあげながら言った。
「いつもならそのふざけた口を叩く首を叩き落すところですが。今日は機嫌が良いのでやめて差し上げます」
「おお、慈悲深き我が姫君よ、感謝いたします。クフフッ」
おどけながら礼をするダリアンから視線をそらし、アムネジアは満月に手をかざす。
その人差し指には、紫色の宝石が煌めく指輪がはめられていた。
「ミスリルの指輪……こんな稀少で高価な物を身に着けているなんて、さすがは筆頭公爵家といったところでしょうか」
アムネジアが指輪の宝石部を撫でる。
ガストンが身に着けていたミスリルの指輪は今現在ダリアンが所持していた。
ではアムネジアが持っている指輪は一体誰の物なのか。
それはエルメスが身に着けていた物であった。
「事前にエルメスからガストンも同じ指輪を身に着けていると聞き出せていてよかったですねえ? 最後の魔眼による自白がなければ、逮捕まで詰め切れなかったのではないですかぁ?」
ダリアンが面白がって言うと、アムネジアは事も無げに言葉を返す。
「ベルスカード王国は腑抜けになりましたが、それでも貴族学校の教科書に出てくる程に、吸血鬼とは恐ろしい物だと言い伝えられています」
眼を閉じて、アムネジアが空に向かって両手を広げた。
闇夜の中で、月の光を浴びる彼女の姿は、まるで一枚の絵画のように幻想的で美しい。
「エルメスを使って私が演出した舞台によって、それは改めてこの国の貴族達に周知されました。いかに今回の一件が不自然で作為的なものであったとしても、ネェロ家の者から吸血鬼が現れたことは事実。ベルスカード四世は必ずガストンを裁くでしょう。吸血鬼はそこに存在するだけで死罪である。また、吸血鬼を輩出した家も徹底的に断罪する。それがこの国の法ですから。それにしても――」
にたぁ、とアムネジアの口元が隠しきれない愉悦によって邪悪にゆがんだ。
「吸血鬼を根絶やしにするために作られた法によって自分達が排除されるなんて、これ以上にない最高の意趣返しですわね。そうは思いませんか? スターク」
アムネジアが声を掛けると、いつの間にかバルコニーの入口には執事姿のスタークが、腕を組み壁に背を預けて立っている。
同意を求めるアムネジアの言葉にスタークはお手上げのポーズで言った。
「ったく、悪趣味が過ぎるぜお嬢は。どうして人間に対してはそう遠回しなやり方にこだわるんだ? ツェペル家のヤツラにはあっさり俺に暗殺を任せたのによ」
アムネジアは元の柔和な笑みに戻ると、眼を糸にしてスタークに言う。
「ただ邪魔なだけの同族には別に恨みつらみも因縁もありません。そんな方々を苦しめてもかわいそうではないですか。だから一番素早く、苦痛を与えずに命を刈り取ることに長けた貴方に暗殺を命じたのですよ、スターク」
当たり前のように交わされるツェペル家の暗殺という言葉。
これは紛れもない事実であり、スタークの手によってすでにツェペル家の一族は皆殺しにされていた。
死体の傍にはネェロ家の家紋入りのナイフが置いてあり、その事実は後にガストンのアムネジア殺しを立証する証拠となる。
それを知っているアムネジアは、卒業記念パーティーの断罪が成功した時点で、ネェロ家の破滅をすでに確信していた。
「これでまた一つ、障害がなくなりました。一族の悲願、吸血鬼の国を作るまであとわずかです」
バルコニーにメイド服姿の少女が現れる。
アムネジアの専属であるゾンビメイドの彼女は、虚ろな表情でお盆に乗せたワイングラスをその場にいる全員に配った。
ワインにはなみなみと赤黒い液体が注がれている。
「さあ祝いましょう? 今日は私が卒業するめでたき日です。おあつらえ向きにも今宵は満月。血の盃を味わいながら、夜の饗宴と洒落込みましょうか」
アムネジアはワインを手に持ち空高く掲げると、ニィと犬歯を剥き出しにして声高らかに言った。
「我ら人外の者達に永遠の繁栄を!」
「ち、違う! 今のは私の意志ではない! あの小娘だ! あの小娘の赤い目に操られて――!」
王の命令によりガストンは衛兵に取り押さえられた。
この国の司法において真実の瞳による裁決は絶対である。
それは宰相であるガストンにおいても例外はなかった。
(なぜだ……なぜ私がこんな目にあっている!?)
「抵抗するんじゃない! 大人しくしろ!」
「ぐぅ!? き、貴様ァ! ふざけるな! 私を誰だと――」
「口の聞き方に気をつけるんだな。貴様はもう宰相でも貴族でもない。陛下が命を下した以上、貴様は最早ただの罪人にすぎん」
衛兵に頭を地面に押さえつけられてうめくガストン。
これだけの人数に力づくで拘束されれば得意の魔法を放つこともできなかった。
ガストンは血が滲むほどに歯を食いしばりながら心の内でさけぶ。
(罠に嵌められ、絶望の表情を浮かべながら地を這いつくばる愚か者達の惨めな姿を見下ろすのは、常に私であったはずだ! それが一体なぜこのような――)
ガストンが視線を上げたその先――会場の二階。
バルコニーの付近に、アムネジアは立っていた。
月明かりを背に受けてアムネジアは高みから、ガストンを見下ろしている。
赤の目を細めて、口元にニタァと、邪悪な微笑を浮かべながら。
口の端からは、尖った犬歯が白く煌めいていた。
それは人間ならざる人外の証左であり。
それを見たガストンは、すべてを悟った。
自分は嵌められたのだということを。
いや、自分だけではない。
貴族も王も、この会場にいるすべての人間が。
この吸血鬼の小娘一人の手のひらで踊らされ。
高みから見下されているのだという事実を。
「こ、殺せ……今すぐにあの小娘を! アムネジアを殺せぇ! そうしなければこの国は、ベルスカード王国は――!」
さけぶガストンに背を向けて、アムネジアはバルコニーの先へと消えていった。
騒然とし、混乱を極める会場内の人間は、誰一人としてその場からアムネジアが消えたことに気が付かない。
かくして、血と裏切りに彩られた断罪劇は幕を下ろした。
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満月の下、夜風に銀の髪をなびかせてアムネジアは一人バルコニーに立っていた。
背後の会場内からは絶え間なく人間達の怒号や喧騒が飛び交っている。
そんな中、アムネジアは満月を見上げてワインを傾けていた。
彼女の背後には闇に姿を溶け込ませるように、一人の衛兵が立っている。
衛兵はニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべながら言った。
「いやはや見事な舞台でしたねぇ、お嬢様。復讐などやめて役者にでも転向された方がよろしいのではぁ?」
ダリアンの小ばかにした口調にアムネジアは不快げに目を細める。
しかしフッと口元に微笑を浮かべると髪をかきあげながら言った。
「いつもならそのふざけた口を叩く首を叩き落すところですが。今日は機嫌が良いのでやめて差し上げます」
「おお、慈悲深き我が姫君よ、感謝いたします。クフフッ」
おどけながら礼をするダリアンから視線をそらし、アムネジアは満月に手をかざす。
その人差し指には、紫色の宝石が煌めく指輪がはめられていた。
「ミスリルの指輪……こんな稀少で高価な物を身に着けているなんて、さすがは筆頭公爵家といったところでしょうか」
アムネジアが指輪の宝石部を撫でる。
ガストンが身に着けていたミスリルの指輪は今現在ダリアンが所持していた。
ではアムネジアが持っている指輪は一体誰の物なのか。
それはエルメスが身に着けていた物であった。
「事前にエルメスからガストンも同じ指輪を身に着けていると聞き出せていてよかったですねえ? 最後の魔眼による自白がなければ、逮捕まで詰め切れなかったのではないですかぁ?」
ダリアンが面白がって言うと、アムネジアは事も無げに言葉を返す。
「ベルスカード王国は腑抜けになりましたが、それでも貴族学校の教科書に出てくる程に、吸血鬼とは恐ろしい物だと言い伝えられています」
眼を閉じて、アムネジアが空に向かって両手を広げた。
闇夜の中で、月の光を浴びる彼女の姿は、まるで一枚の絵画のように幻想的で美しい。
「エルメスを使って私が演出した舞台によって、それは改めてこの国の貴族達に周知されました。いかに今回の一件が不自然で作為的なものであったとしても、ネェロ家の者から吸血鬼が現れたことは事実。ベルスカード四世は必ずガストンを裁くでしょう。吸血鬼はそこに存在するだけで死罪である。また、吸血鬼を輩出した家も徹底的に断罪する。それがこの国の法ですから。それにしても――」
にたぁ、とアムネジアの口元が隠しきれない愉悦によって邪悪にゆがんだ。
「吸血鬼を根絶やしにするために作られた法によって自分達が排除されるなんて、これ以上にない最高の意趣返しですわね。そうは思いませんか? スターク」
アムネジアが声を掛けると、いつの間にかバルコニーの入口には執事姿のスタークが、腕を組み壁に背を預けて立っている。
同意を求めるアムネジアの言葉にスタークはお手上げのポーズで言った。
「ったく、悪趣味が過ぎるぜお嬢は。どうして人間に対してはそう遠回しなやり方にこだわるんだ? ツェペル家のヤツラにはあっさり俺に暗殺を任せたのによ」
アムネジアは元の柔和な笑みに戻ると、眼を糸にしてスタークに言う。
「ただ邪魔なだけの同族には別に恨みつらみも因縁もありません。そんな方々を苦しめてもかわいそうではないですか。だから一番素早く、苦痛を与えずに命を刈り取ることに長けた貴方に暗殺を命じたのですよ、スターク」
当たり前のように交わされるツェペル家の暗殺という言葉。
これは紛れもない事実であり、スタークの手によってすでにツェペル家の一族は皆殺しにされていた。
死体の傍にはネェロ家の家紋入りのナイフが置いてあり、その事実は後にガストンのアムネジア殺しを立証する証拠となる。
それを知っているアムネジアは、卒業記念パーティーの断罪が成功した時点で、ネェロ家の破滅をすでに確信していた。
「これでまた一つ、障害がなくなりました。一族の悲願、吸血鬼の国を作るまであとわずかです」
バルコニーにメイド服姿の少女が現れる。
アムネジアの専属であるゾンビメイドの彼女は、虚ろな表情でお盆に乗せたワイングラスをその場にいる全員に配った。
ワインにはなみなみと赤黒い液体が注がれている。
「さあ祝いましょう? 今日は私が卒業するめでたき日です。おあつらえ向きにも今宵は満月。血の盃を味わいながら、夜の饗宴と洒落込みましょうか」
アムネジアはワインを手に持ち空高く掲げると、ニィと犬歯を剥き出しにして声高らかに言った。
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久しぶりに読み返したらやっぱり面白すぎて😆
早く続きが読みたいです!!
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