いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ

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 含みのあるアムネジアの態度にガストンは顔をしかめる。
 しかしただの強がりだと思ったのか、フン、と鼻を鳴らすと王に向き直った。


「話にならん! 陛下もまさか、このような証拠もないただの子供の言いがかりを鵜呑みにはしますまいな?」


 ガストンの言葉に王は目を伏せて考える。
 確かにガストンにとって真実の瞳を持つアムネジアの存在は、邪魔者極まりないだろう。証拠が出ていないとはいえ、ネェロ家が謀略に長け、宮廷闘争の末に他の貴族を追い落として、宰相の座に収まったのは公然の事実だ。

 その証拠に当たる部分を暴かれかねないアムネジアを、亡き者にしようという考えも分からなくもない。
 だが、ガストンの言う通り、フィレンツィオとアムネジアが言ったことはすべて確固たる証拠がない、言いがかりにも等しい。

 証言に関しても自分に都合が悪いとなれば、ころころと意見を変える卒業生では信憑性も薄く、そもそも加害者であるエルメスがこの場にいない。
 そもそも、ガストン程の者が、こんな大衆の面前で罪を問われるような行いを、今日この会場で起こすだろうか。

 それこそアムネジアを殺したいのであれば、自分の娘に虐待させて自殺させるなどといった遠回しな手段を選ばず、静かに証拠を残さず闇から闇へと狡猾に行うだろう。
 今までもそうしてきたように。


「……」

「ふははっ!」


 黙り込む王を見て、ガストンはそれ見たことかとアムネジアを嘲笑う。


「それ見たことか。陛下もどうやら私と同じ意見らしいぞ? それで? 他に証拠とやらはあるのか? うん?」


 黙り込む王を見て、ガストンはそれ見たことかとアムネジアを嘲笑う。


「大方その空き部屋とやらにある死体もでっちあげなのだろう? この場で追求し言質を取れば後でごまかせるとでも思ったのだろうがそうはいくものか!」


 勝ち誇った顔でガストンはさけんだ。
 アムネジアを指差しながら、高らかに。


「よくも宰相であるこの私に! そして愛する娘であるエルメスに恥をかかせてくれたな! いくらお前達が第二王子とその婚約者であっても、この国の政治を司る宰相である私を貶めようとした罪は許し難い! この一件は我がネェロ家の威信にかけても洗いざらい追求し! お前達にふさわしい裁きを受けさせてくれる! 王や貴族諸侯がいるこの場を断罪の場所に選んだことを後悔させてくれる!」


 ガストンは驚いてはいるものの焦ってはいなかった。
 それは先程言った通り、アムネジアとフィレンツィオが言ったことのほとんどを嘘だと思っていたからだ。
 この茶番もおそらくは、虐待を指示していたエルメスを恨み、大勢の貴族や王が見ている前でその大本であるネェロ家に恥をかかせてやろうという、アムネジアの浅知恵だろう。

 ガストンに気にかかることがあるとすれば、エルメスが自分に見せたい物があると言っていたのに、当人が未だに姿を表さないことであった。
 そして同じタイミングで、フィレンツィオも王に見せたいものがあると言っていたことである。

 その結果としてこの断罪劇が起こった。
 これが無関係でないはずがない。
 そんな風にガストンが考えを巡らせていると、事態についていけず不安そうな顔をしている生徒達の中から二人の女生徒が飛び出してきた。


「はぁ、はぁ……ま、待ってください!」


 息を切らして出てきた二人はエルメスの取り巻きの中でも特に仲が良く、常に行動を共にしていた伯爵家の令嬢である。
 彼女達は返り血を浴びたと思わしき制服を着ていて、その表情は真っ青であり、あきらかに余裕がなかった。

 周囲のすべての人間の視線が集中する中、取り巻きの二人はその場にひざまづいて王に許しを乞うように頭を下げる。
 ガストンが怪訝な顔をすると、二人は顔を下に向けたまま大声でさけんだ。


「フィレンツィオ様とアムネジア様が言っていたことはすべて偽りのない事実です! 私達はエルメス様に脅されてアムネジア様を亡き者にしようとしました!」

「そこにはガストン様に雇われたと言っていた三人組の男も一緒にいました! 口止めに殺そうとしてきたのも本当です! 空き部屋付近の廊下は殺された同級生の死体で血の海になっています!」


 生徒達が一気にざわついた。
 取り巻き二人がエルメスに心酔しているのは周知の事実である。
 その二人がエルメスの立場を危うくする発言を認めたのだ。
 となればフィレンツィオ達が語った突拍子もないような話も、俄然信憑性を帯びてくる。


「ま、まさか本当にエルメス様が……?」

「いくらエルメス様とはいえ、この会場でそんなに人を殺したなんて……」


 会場の空気が変わり始めたことに、ガストンはチッと舌打ちをした。
 取り巻き令嬢二人の親は、ガストンとも交流があり、ネェロ家に忠誠を誓っている一族である。
 その娘達ともなれば、いかにネェロ家が、ガストンが恐ろしいかは身にしみて分かっているはずだった。

 ガストンは貴族達の中にいる取り巻き二人の両親をにらみつける。
 二人の両親は、顔面蒼白の様相で自分達の娘を見て固まっていた。
 その反応からガストンはこの自体が、娘達の独断であることを悟る。
 ならば恫喝してまた黙らせればよいと、ガストンは怒鳴りつけようとした。

 そこで今まで黙っていたアムネジアが口を開く。


「――ガストン様のおっしゃるとおりですわね」


 アムネジアがおもむろにポケットから懐中時計を取り出した。
 目を伏せたアムネジアは視線を落として時間を確認する。


「いくら証拠や証人を並べ立てようと、それがすでに過ぎ去ったものであれば真実は闇の中。どうとでも偽装できます。それならば――」


 アムネジアの背後から、一際大きなざわめきが上がった。
 ざわめきの中心にいた生徒達が怯えるように左右に道を開ける。
 そこから制服を血で汚した一人の女生徒が、フラフラと歩み出てきた。


「この大衆の面前で、言い逃れができないように真実を暴いてみせましょう」


 そう言って微笑むアムネジアの背後で。
 歩み出てきた女生徒――エルメスが床にうずくまった。


「さあ、断罪の時です。覚悟は良いですか?」
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