29 / 70
ギルド本部殴り込み
28.皆冷たすぎなんだが
しおりを挟む
-王都ミルスティ とある寝室-
「・・・あれ、何処で寝てんだろあたし・・・」
目を覚ました茜は、見た事の無い風景に首を傾げつつも、見渡していく。
「いや、知らない場所なんだけど。」
疑問を感じながらも、寝ていた寝台から起き上がると、紗幕を押しのけて絨毯の上に立つ。白を基調に設えられた家具や窓掛などが、射し込む光で眩いくらいだった。
「何でベッドに布が垂れて・・・」
高く伸びた寝台の四柱の上には屋根のようなものが設えられており、紗幕はそこから寝台を包むように垂れ下がっていた。その光景を目にした茜は、驚いて言葉に詰まる。
「まるで・・・お姫様じゃない。」
茜は呟くと、改めて室内を見渡す。綺麗に整頓され、埃も無い。クローゼットやテーブル等の家具も高価そうに見え、部屋自体に気品があるように感じた。
「いやいやいや、あたしん家の家計考えるとないわ・・・」
呆れ気味に目を細めると現実を思い出す。
「つまり、夢か。」
その考えに至って納得した茜は、窓の外を確認しようと歩き出すが、違和感を感じて立ち止まる。
「ブラしてないじゃん!」
違和感を感じた場所、つまり自分の胸を確認して驚きに声を上げた。
「いや、寝る時はしないよな。それより、あたしこんなに無いんだけど・・・」
下から持ち上げては離して、何度か確かめると、茜は窓に向かうのを止め室内にある姿鏡に行先を変更した。
「うわぁ・・・こんな願望は持ってないんだけどなぁ。」
茜は鏡に映る自分の姿を見て、本当は気付かないところで憧れていたんだろうかと呆れる。が、直ぐに口元を緩めてニヤついた。
「凄い、胸大きい。くびれもあるし、足も長くて綺麗。まるでモデルじゃない。」
自分の身体を確認するように、茜は視線だけを鏡に固定して体勢を色々変えていく。そこに映る姿は口にした様な、まさに容姿端麗だった。
「しかも肌綺麗・・・あたし、10代になった?」
鏡に顔を近付け、肌を確認すると、白い腕から指先までを撫でて感触を確かめていく。
「あたしにもこんな時代があったっけ。ま、こんな可愛い娘じゃなかったけど。」
茜は独り言うと苦笑した。
「そうだ!母さんは早く結婚しろって煩かったけど、この容姿なら選ぶ側になれんじゃん。ってか、男共に貢がせるのも可能じゃない?」
そう言って口の端を上げて嗤うが、直ぐに冷めた顔になった。
「ま、夢だけどねぇ。」
翌朝、俺とエリサは早速ギルド本部前に来ていた。昨日とは違い、その鉄扉は開け放たれている。当然、門番らしき男も立っているが。
「ところでエリサ、最近渡している狼化用の薬は問題ないか?」
此処まで来てなんだが、一応確認しておく。確認せずに検定だけ受けさせるって手もあるが、そこまで鬼畜にはなれない。
「ん、見ての通りだぞ。」
見て分からねぇから聞いてんだろうがアホ犬。
「そうじゃなくてだな、身体が重いとか、気分が優れないとか、体調がいつもより良くないとか、自分でここが何時もと違う、変だって思う部分が無いか聞いてんだ。」
改めて聞くと、エリサは考えるように視線を斜め上に向けた。
「うーん、これと言って変わったところはないよ。ただ・・・」
「何でも言え。」
少し間が空いたので、続きを促す。
「狼化した時に、今までより強くなった気がする。」
・・・
そこは気付けよ!
「当たり前だ。興奮剤に身体能力を増強する成分を混ぜているんだからな。前の薬よりも筋力や瞬発力が向上している筈なんだ。」
「あ、そゆ事か。」
「で、それだけか?」
「あと、人に戻った時は何時もより怠い。」
それは反動だからしょうがないな。そこまで万能な薬なんてあるわけもない。
「でも、食って寝れば元通りだからあまり気にならないぞ。」
なるほど。
そうなると、副作用や弊害といったものは概ね無いと考えていいな。
流石、俺。
「なら問題無さそうだな。実は渡すごとに成分は徐々に強めにしているんだ。今のところは何とも無いでいいな?」
「おう。」
エリサ用の薬は、前に思い付いた時から準備はしていた。今回の検定で必要になるだろうと思って。
俺らは別に冒険者でも何でもない。エリサにしたってそうだ。だから、王都で検定を受けた後、戦闘を重ねているわけでも、自己研鑽しているわけでもない。なら、前の結果以上を出そうと思ったらどうするか。
必然と薬の成分を変える方向になるわけだ。
「で、今日の検定で使う薬はこれだ。」
「ふーん。」
「って今食うなよ!」
渡した途端、口に入れようとしたエリサを慌てて止める。
「ごめん、いつもの癖で・・・」
危ねぇな、犬まっしぐらの餌じゃねぇんだぞ。
「検定の時はその薬で受けるんだ。」
「分かったぞ。」
どんな検定が来るかは不明だが、エリサに至っては前回それで結果が伸びている。今回も遠からずだろう。
一応、説明は終わったので、再び門番の方に目を向ける。
「よし、行くか。」
「おう。」
「待て。」
俺とエリサが意気込んで門を抜けようとした途端、門番が前に立ちはだかる。邪魔なんだが。
「此処はギルド本部だと分かって入ろうとしているのか?」
こいつはバカか。
門番まで居るのに、知らないで入ろうとする奴がいるか。
「当たり前だ。」
「そうか、ごめんな。最近は知らないで入る奴が居てね。声を掛けさせてもらったんだよ。」
あ、居るんだ・・・
「前は此処に立って確認するなんて事も無かったのに。」
男はそうぼやくと苦笑してこっちを見る。
いや、俺には関係無いからな。相手にはしてやらないからな。
「ちなみにどんな用件かな。立場上、一応聞いておかなきゃならないからねぇ、登録かな?それとも依頼を受けに?」
そりゃそうか。
そこを確認しなければ、居ないのと一緒だからな。だが登録とは失礼な。しかし、本部ってだけで普通にギルドの仕事もしているんだな。
「検定だよ。」
「あ、なるほど。だったら入って直ぐの受付に伝えれば大丈夫だから。」
こいつ、おそらく初回の検定だとでも思ってんだろうな。まぁ、どうでもいいが。
「分かった。」
門を抜けて少し歩くと、城の入り口に着く。いや、本当に城だよなぁ。
ただ扉は、普通サイズで木製の観音開きだ。その片方を開けて中に入る。
「天井がすんごい高いぞご主人。」
入るなり上を見上げたままエリサが言う。俺も釣られて見ると、確かに吹き抜けのようになっていた。通路は幾つか枝分かれしているが、その壁までは天井が見えない。
無いわけじゃなく、暗くて見えないだけなんだが、それでもかなり高いだろう。
「確かにすげぇな。」
「あたしが跳んでも届きそうないぞ。」
届こうとすんなよ。
とりあえず、受付を済まそう。
そう思って、正面に向き直ると、門番の言ったようにカウンターがあり、カウンターの奥には人が居た。
「行くぞ。」
「うん。」
カウンターに近付いて行くと・・・
俺は早歩きになり、カウンターに肩肘を付いて爽やかな笑顔を作る。
「お嬢さん、仕事が終わったら食事でもどうかな?」
「・・・」
カウンターに居た女性は、俺が声を掛けると戸惑った顔をする。その顔がまた可愛い。これはかなりの当たりだぞ。
「あの、ご用件は?」
引きながらも俺が来た目的を確認してくるが、そんなのは決まっているじゃないか。
「綺麗なお嬢さんを食事に誘う以外に何があると?」
「ご主人、違うぞ。」
うっせぇ!
クソ犬は黙ってろ。
「あの、此処はギルド本部ですよ?」
「分かっているさ。だが、二人の距離を縮めるのに場所は関係無いだろ?」
「ご主人、アホだろ。」
アホ犬にアホって言われたくねぇわっ!!
そう思ってエリサの方を振り向いた瞬間、目の前を何かが横切った気がした。一瞬霞んで見えただけなので、気のせいかもしれないが・・・
いや、通り過ぎたのはお姉さんの右手のようだ。
「う・・・」
気付いた時、前髪が何本か落ちていくのが目に入る。続いて、お姉さんは左手で落ちて来た短剣の刃先を指で摘まんで受け止めた。
「ご用件は?」
さっきまでのは演技だったかのように、満面の笑みで聞き返される。
「それで、斬った?」
「はい。前髪だけにしておきましたが、しつこいと次は何処を斬るかわかりませんよ?」
・・・
ギルドも、上に行くほど受付が凶悪だな。
俺はそう思い、見えない天井に遠い目を向けた。
「ケンテーとかいうのを受けに来たんだぞ。」
放心状態の俺を無視してエリサが話しを進めやがった。もう少し俺にお姉さんと話す時間を残しやがれ。
「それならそうと、早く言ってください。最初から冗談を言うのはよくありませんよ。」
事情を察したお姉さんは、優しく微笑んで言って来た。
「いや、本気だったんだが。それより、ギルドの受付はみんな、その、なんだ・・・強いのか?」
何となく聞きずらいが、気になって聞いてみる。
「ギルドは色んな方が来られます。少なからず我儘や横柄な態度の方もいらっしゃいます。受付はギルドの入り口、そんな方達を此処で制す事が出来なければギルドの沽券に関わります。故に、本部だけではなく、どのギルドでも相応の者が携わっております。」
・・・
言いたい事は分かった。
だったら初めから教えておいてくれ。
って事は、サーラのあの圧力も、何かしらの力だったって事だよな。只者じゃないとは思っていたが、やはりそうだったのか。
「検定は、どの検定になりますか?」
「あ、あぁ、ちょっと待ってくれ。」
言われてみれば、検定にも色々とあったな。そう思うと俺は、荷物からサーラに渡された書類を出す。
「あら、他のギルドの紹介でしたのね。ちょっと確認します。」
お姉さんは書類を受け取ると、確認を始めた。
はぁ・・・
残念だ。そう思いながらカウンターに両手を置いて脱力する。
・・・
なっ!?
何てこった・・・
この世界で初めてみるぞ!
カウンターに項垂れた事で、お姉さんの服装に今気が付いた。タイトスカートなんて、この世界にもあったとは。
しかも短め。
艶めかしい太腿がそこから生えているではないか!
出来ればその間に俺の顔を挟んでくれ!
!!
さらに上に目を向けると、シャツの膨らみも良い感じではないかぁ!
だが、迂闊に手を出すのは危険だな。うっかり手を落とされても困る、先ずは脳裏に焼き付けるところから始めるか。
そう思うと、俺はゆっくりとカウンターの奥へと頭を動かし、足の全容を確認しようとする。
「べっ・・・」
もう少しで全容が見えそうなところで、顔面の前に書類が叩き付けられた。
「何をしているのですか?」
「いや、長旅で疲れたからだれているだけだ、気にしないでくれ。」
くそぅ、もうちょっとだったのに。
「ごめんな、ご主人はたまに頭がアレになぐっ・・・」
「誰の何処がなんだって?クソ犬!」
「く、苦しいぞ・・・」
「凄いわ!私になってから初めてよ、超越検定を受けに来た人は。しかもこんな若い女の子だなんて。」
エリサの首を絞めていると、お姉さんが歓喜の声を上げた。
「そうなのか?」
もう興味も無いのでエリサを投げ捨てて、俺はお姉さんの方に向き直る。
「えぇ。もともと滅多に来るものじゃないのよ。大抵の人は50まで到達なんてしないから。」
他の奴の事はどうでもいい。
「何をしているの?」
両手を広げて待っている俺に、お姉さんは疑問を投げて来る。
「いや、そんなに珍しいなら記念に抱きしめてもいいぞ。」
「それはいいわ。」
・・・
即答かよ。しかも冷めた目をしやがって。
「知識の検定は今日可能だけど、実力を測るには分野に特化した判定者が必要だわ。」
うわぁ、それって1日じゃ終わらないじゃないか。
「ええと、リアちゃんでいい?」
「あぁ。俺はまだ、君の名前を聞いて無いぜ?」
「ユアナよ。それでね、そっちのエリサちゃんは戦闘だから困らないのだけど、薬となると人が居ないのよね。」
ユアナか。
是非ともお近付きになりたいところだな。
「聞いてる?」
「ん?あぁ、分野が分野だけに判定者が少ないんだろ?」
「え、えぇ。分かってくれたならいいわ。」
サーラに鍛えられたからな。
しかし困ったな、今日明日で終わらせて帰るつもりだったのに。これじゃ滞在費も馬鹿にならないじゃないか。
「でも、遅くても数日内には可能かな。ちなみにエリサちゃんは今日でも可能よ。」
「ホントか!?やるぞ!」
ますます面倒臭くなってきたな。やっぱり受けずに帰るか?
何しに此処まで来たんだよ・・・
「ところで、超越検定?は何処までのランクがあるんだ?」
「そうねぇ、確か今は119だったと思うわ。」
確かってなんだよ。しかも随分と中途半端な数字だな。
「はっきりしねぇな。」
「もとは80だったのよ。でも判定者が独自に、これが出来たらプラス1、あれが出来たらプラス1って足しているのよ。それで今は119まであるの。」
・・・
バカか。
判定者の気紛れ検定じゃねぇか。そんな自己満足に俺は左右されなきゃならないとか、アホらしい。
「そんな自己満足になんの意味があるんだ?」
「そう言われるとねぇ・・・」
お前はギルド側の人間だろうが、もう少し言い様があるだろ。
「でも、80まではちゃんとしているわよ。」
そうでなきゃ来た意味がねぇよ。
「ちなみに、70を超えると名誉登録者となり、家も与えられるわ。」
何!?
家が貰えるだと!
「よしエリサ、頑張って70を超えろ!」
「え、あたしは別に家なんか要らないぞ。今の部屋で満足だ。」
・・・
このクソ犬。
その家は誰が買ったと思ってんだよ。
「一人で豪邸に住めるんだぞ?」
「独りは、ヤだ。みんなと一緒がいい。」
あっそ。
なんて欲の無い奴だ。
「言っておくけど、家が与えられると言っても、このフェルブネス内に限っての話しよ。」
は?
使えねぇ・・・
「本部が融通利くのはこの都市だけなのよ。」
「そうか。それじゃ、一緒に住むか?」
「お断りよ。」
満面の笑みで断りやがった。
思うに、俺の回りにいる女は何故か反応が冷たいよな。
「そもそも、まだ検定も受けていないのに70を超える前提で話す方がおかしいわ。」
何もおかしくはない。
「人は目標がある方が頑張れるだろ?」
所謂モチベーションをどう上げるか、ってところなんだが。仕事にしろ私生活にしろ、充実させるにはそれが必要だ。
「それはそうだけど、リアちゃんは甘やかすなって。」
待て・・・
誰がそんな事を言いやがった。
「俺たち初対面だよな?誰が言うんだよ、そんな事。」
「書類にサーラからのメモが入っていたわ。」
あのクソ女!
何余計な事をしてくれてやがんだ!
帰ったら伝説の武器を振りまくってやる。
「それで、検定は今日受けていく?」
今日受けるも何も。
「もともとそのつもりで来たんだ。やれる事はやっていくさ。」
「分かったわ。エリサちゃんの戦闘に関しては、午後になれば大丈夫だと思うから。」
「おう。」
「それじゃ、手続きしてくるわね。」
「あぁ、頼んだ。」
ユアナは書類を纏めると、立ち上がって背後にある扉の向こうへと消えて言った。
良い。
実に良い。
こっちの世界でスーツ姿っぽい女性を初めて見たが、やはり良いな。
「なぁなぁご主人。」
エリサが笑顔・・・いや、笑みは浮かべているが悪い顔して話しかけて来る。どうせ、結果で俺を超えたら銀貨くれって話しじゃないのか?
「なんだ?金ならやらんぞ。」
「ぐ・・・」
当たりか、バカめ。
「じゃ、じゃぁ勝負しよ。」
「何のだ?」
「あたしの方がご主人より結果が良かったら金貨くれ。」
・・・
金貨になってやがる!!
こいつ、ついに金貨の方が高額だという事に気付きやがったか。
「俺が勝ったら?」
「何もない。」
ふざけんなクソ犬!
「それは勝負とは言わねぇ!お互いが何かを賭けてこその勝負だろうが!」
「うーん、じゃ、銀貨出す。」
・・・
死ね。
「割に合ってねぇ、却下だ。」
「むぅ・・・どれくらいならいいんだ?」
「銀貨10枚。」
「それは狡いぞ!!だったらご主人も銀貨10だ!」
・・・
バカだ。
価値の違いに気が付いたと思ったが、気のせいだったようだ。単に金色の硬貨が欲しくなっただけなんじゃねぇか?
「それなら受けて立とう。吠え面かかしてやる。」
「あたしこそ、ご主人を・・・ご主人を・・・」
しまらねぇ・・・
「転ばしてやる!」
いくらでも転んでやるが。
そんなやり取りをしていると、ユアナが戻って来る。
「準備できたから、案内するわ。」
俺とエリサは別々の部屋に案内された。先ずはすぐに可能な知識に関する検定からだ。きっとエリサの奴は何も出来ないだろうな。
ま、あいつの事はさておき、俺の方も内容を見るか。
~記述1
ナフ科のベラヒメという植物について。
ご存知の通りベラヒメという植物は猛毒を含んでいる。生息は各地に分布しており、比較的手に入りやすい植物ではあるが、葉の表面も有毒性であるため回収は困難である。
アズ・オールディア大陸でも何か所も生息するベラヒメだが、リヒアン地方に生息するベラヒメのみ毒性の成分に変化が見られた。ベラヒメの主な毒性は神経毒であるが、リヒアン地方のベラヒメは変わった効果を引き起こす。
先ず、その毒性が齎す効果を記せ。
続いて、その成分を利用した3つの薬に関する調合方法とその効果を記せ。(毒を含む効能でも可)~
・・・
知らねぇよ。リヒアン地方って何処だよ。それ以前に俺の知識の中にベラヒメの例外の様な知識は無ぇ。
これ考えた奴、絶対本人しか知らないだろ。あれだな、単なる自己満足だろ、これ。嫌がらせとしか思えねぇ。こんなもん、検定に使うんじゃねぇよ。
まさか・・・
全部こんな感じじゃねぇだろうな。
あぁ、疲れた。作った奴アホばっかりじゃねぇか。
「お疲れ様。」
「あぁ。」
カウンターのある部屋に戻り、椅子に座ってだらけていると、ユアナが声を掛けてきた。
「エリサちゃんの方は、午後もあるから。リアちゃんはどうする?」
「別にやる事もねぇし、待ってるよ。それより、俺の方は何時になりそうなんだ?」
「結果は、早くても明日にならないと分からないわ。」
結果が分かるのが明日。って事は、早くても検定は明後日になりそうだな。
「別の大陸から来ているからな、滞在費も馬鹿にならねぇよ。」
「此処、宿泊施設あるわよ?」
・・・
知らないの?みたいに言いやがったな。サーラの奴はそんな事、一言も言ってなかったぞ。
「聞いてねぇ。つまり、外に泊まらなくても良かったって事か?」
「えぇ。」
あの女・・・
「じゃ、今日から使わせてもらうかな。ユアナも此処で生活しているのか?」
「私は実家があるもの。」
そりゃそうか。
「俺もそっちに行こう。」
「・・・」
いや、短剣を構えるなよ、普通に怖いからな。
「まぁ、一日くらいならいいかな。お父さんに聞いてみるね。」
げ、独り暮らしじゃねぇのかよ。しかも親父とか、面倒くせぇ。だがしかし、今の俺はそんな柵なんて気にしなくてもいいじゃねぇか!
むしろ、同じベッドに潜り込む手を考えねば。
「それより、暇なんでしょ?」
「あぁ。」
「丁度良かったわ。」
「何も丁度良くねぇよ。何か依頼を押し付けようって魂胆だろ?」
「察しが良いのね。」
笑顔で俺をこき使おうとしてんじゃねぇよ。
「宿泊費は浮くし、依頼料も手に入るんだから良いと思わない?」
そりゃそうだろうが、今はあんまり頭を使いたくねぇな。
「簡単か?」
「えぇ。材料は揃っているんだけど、薬師が少なくてねぇ。街の薬師に頼もうにも、そっちはそっちで忙しいみたいだし。」
そういう事か。
「つまり此処で、調合だけしろって事か。」
「そうなるわ。」
それくらいだったらいいか。
別室で薬を調合してカウンターのある部屋に戻ると、丁度エリサも戻って来た。ただ、ふらふらになっているのを見ると、どんな検定だったんだよと疑問も出て来る。
「ご主人・・・お腹空いたぞ。」
そういや、俺も腹が減ったな。
「食堂もあるわよ。まぁ、食堂と言うよりは酒場って感じかしら。」
そりゃいいや。
「便利だな、本部は。」
「そりゃ、色んなところから集まって来るもの。日帰りが難しい人の為に、用意してあるのよ。」
なるほど。
「こっちに引っ越して来たら?」
「面倒くせぇ。」
その一言で片付けちまったが、それだけじゃない。面倒だっていうのも本音だが、向こうには店もあるし、ホージョ達の畑もある。それに、メイニとの商売も成り立ちそうなんだ。
ついでに、塀に囲まれた場所は、やっぱり好きにはなれねぇ。
「よしエリサ、飯食いに行こうぜ。」
「うん。」
「あ、ギルド証が必要だから持ってってね。」
「分かった。」
俺は片手を上げて返事をすると、エリサと食堂へ向かった。
「・・・あれ、何処で寝てんだろあたし・・・」
目を覚ました茜は、見た事の無い風景に首を傾げつつも、見渡していく。
「いや、知らない場所なんだけど。」
疑問を感じながらも、寝ていた寝台から起き上がると、紗幕を押しのけて絨毯の上に立つ。白を基調に設えられた家具や窓掛などが、射し込む光で眩いくらいだった。
「何でベッドに布が垂れて・・・」
高く伸びた寝台の四柱の上には屋根のようなものが設えられており、紗幕はそこから寝台を包むように垂れ下がっていた。その光景を目にした茜は、驚いて言葉に詰まる。
「まるで・・・お姫様じゃない。」
茜は呟くと、改めて室内を見渡す。綺麗に整頓され、埃も無い。クローゼットやテーブル等の家具も高価そうに見え、部屋自体に気品があるように感じた。
「いやいやいや、あたしん家の家計考えるとないわ・・・」
呆れ気味に目を細めると現実を思い出す。
「つまり、夢か。」
その考えに至って納得した茜は、窓の外を確認しようと歩き出すが、違和感を感じて立ち止まる。
「ブラしてないじゃん!」
違和感を感じた場所、つまり自分の胸を確認して驚きに声を上げた。
「いや、寝る時はしないよな。それより、あたしこんなに無いんだけど・・・」
下から持ち上げては離して、何度か確かめると、茜は窓に向かうのを止め室内にある姿鏡に行先を変更した。
「うわぁ・・・こんな願望は持ってないんだけどなぁ。」
茜は鏡に映る自分の姿を見て、本当は気付かないところで憧れていたんだろうかと呆れる。が、直ぐに口元を緩めてニヤついた。
「凄い、胸大きい。くびれもあるし、足も長くて綺麗。まるでモデルじゃない。」
自分の身体を確認するように、茜は視線だけを鏡に固定して体勢を色々変えていく。そこに映る姿は口にした様な、まさに容姿端麗だった。
「しかも肌綺麗・・・あたし、10代になった?」
鏡に顔を近付け、肌を確認すると、白い腕から指先までを撫でて感触を確かめていく。
「あたしにもこんな時代があったっけ。ま、こんな可愛い娘じゃなかったけど。」
茜は独り言うと苦笑した。
「そうだ!母さんは早く結婚しろって煩かったけど、この容姿なら選ぶ側になれんじゃん。ってか、男共に貢がせるのも可能じゃない?」
そう言って口の端を上げて嗤うが、直ぐに冷めた顔になった。
「ま、夢だけどねぇ。」
翌朝、俺とエリサは早速ギルド本部前に来ていた。昨日とは違い、その鉄扉は開け放たれている。当然、門番らしき男も立っているが。
「ところでエリサ、最近渡している狼化用の薬は問題ないか?」
此処まで来てなんだが、一応確認しておく。確認せずに検定だけ受けさせるって手もあるが、そこまで鬼畜にはなれない。
「ん、見ての通りだぞ。」
見て分からねぇから聞いてんだろうがアホ犬。
「そうじゃなくてだな、身体が重いとか、気分が優れないとか、体調がいつもより良くないとか、自分でここが何時もと違う、変だって思う部分が無いか聞いてんだ。」
改めて聞くと、エリサは考えるように視線を斜め上に向けた。
「うーん、これと言って変わったところはないよ。ただ・・・」
「何でも言え。」
少し間が空いたので、続きを促す。
「狼化した時に、今までより強くなった気がする。」
・・・
そこは気付けよ!
「当たり前だ。興奮剤に身体能力を増強する成分を混ぜているんだからな。前の薬よりも筋力や瞬発力が向上している筈なんだ。」
「あ、そゆ事か。」
「で、それだけか?」
「あと、人に戻った時は何時もより怠い。」
それは反動だからしょうがないな。そこまで万能な薬なんてあるわけもない。
「でも、食って寝れば元通りだからあまり気にならないぞ。」
なるほど。
そうなると、副作用や弊害といったものは概ね無いと考えていいな。
流石、俺。
「なら問題無さそうだな。実は渡すごとに成分は徐々に強めにしているんだ。今のところは何とも無いでいいな?」
「おう。」
エリサ用の薬は、前に思い付いた時から準備はしていた。今回の検定で必要になるだろうと思って。
俺らは別に冒険者でも何でもない。エリサにしたってそうだ。だから、王都で検定を受けた後、戦闘を重ねているわけでも、自己研鑽しているわけでもない。なら、前の結果以上を出そうと思ったらどうするか。
必然と薬の成分を変える方向になるわけだ。
「で、今日の検定で使う薬はこれだ。」
「ふーん。」
「って今食うなよ!」
渡した途端、口に入れようとしたエリサを慌てて止める。
「ごめん、いつもの癖で・・・」
危ねぇな、犬まっしぐらの餌じゃねぇんだぞ。
「検定の時はその薬で受けるんだ。」
「分かったぞ。」
どんな検定が来るかは不明だが、エリサに至っては前回それで結果が伸びている。今回も遠からずだろう。
一応、説明は終わったので、再び門番の方に目を向ける。
「よし、行くか。」
「おう。」
「待て。」
俺とエリサが意気込んで門を抜けようとした途端、門番が前に立ちはだかる。邪魔なんだが。
「此処はギルド本部だと分かって入ろうとしているのか?」
こいつはバカか。
門番まで居るのに、知らないで入ろうとする奴がいるか。
「当たり前だ。」
「そうか、ごめんな。最近は知らないで入る奴が居てね。声を掛けさせてもらったんだよ。」
あ、居るんだ・・・
「前は此処に立って確認するなんて事も無かったのに。」
男はそうぼやくと苦笑してこっちを見る。
いや、俺には関係無いからな。相手にはしてやらないからな。
「ちなみにどんな用件かな。立場上、一応聞いておかなきゃならないからねぇ、登録かな?それとも依頼を受けに?」
そりゃそうか。
そこを確認しなければ、居ないのと一緒だからな。だが登録とは失礼な。しかし、本部ってだけで普通にギルドの仕事もしているんだな。
「検定だよ。」
「あ、なるほど。だったら入って直ぐの受付に伝えれば大丈夫だから。」
こいつ、おそらく初回の検定だとでも思ってんだろうな。まぁ、どうでもいいが。
「分かった。」
門を抜けて少し歩くと、城の入り口に着く。いや、本当に城だよなぁ。
ただ扉は、普通サイズで木製の観音開きだ。その片方を開けて中に入る。
「天井がすんごい高いぞご主人。」
入るなり上を見上げたままエリサが言う。俺も釣られて見ると、確かに吹き抜けのようになっていた。通路は幾つか枝分かれしているが、その壁までは天井が見えない。
無いわけじゃなく、暗くて見えないだけなんだが、それでもかなり高いだろう。
「確かにすげぇな。」
「あたしが跳んでも届きそうないぞ。」
届こうとすんなよ。
とりあえず、受付を済まそう。
そう思って、正面に向き直ると、門番の言ったようにカウンターがあり、カウンターの奥には人が居た。
「行くぞ。」
「うん。」
カウンターに近付いて行くと・・・
俺は早歩きになり、カウンターに肩肘を付いて爽やかな笑顔を作る。
「お嬢さん、仕事が終わったら食事でもどうかな?」
「・・・」
カウンターに居た女性は、俺が声を掛けると戸惑った顔をする。その顔がまた可愛い。これはかなりの当たりだぞ。
「あの、ご用件は?」
引きながらも俺が来た目的を確認してくるが、そんなのは決まっているじゃないか。
「綺麗なお嬢さんを食事に誘う以外に何があると?」
「ご主人、違うぞ。」
うっせぇ!
クソ犬は黙ってろ。
「あの、此処はギルド本部ですよ?」
「分かっているさ。だが、二人の距離を縮めるのに場所は関係無いだろ?」
「ご主人、アホだろ。」
アホ犬にアホって言われたくねぇわっ!!
そう思ってエリサの方を振り向いた瞬間、目の前を何かが横切った気がした。一瞬霞んで見えただけなので、気のせいかもしれないが・・・
いや、通り過ぎたのはお姉さんの右手のようだ。
「う・・・」
気付いた時、前髪が何本か落ちていくのが目に入る。続いて、お姉さんは左手で落ちて来た短剣の刃先を指で摘まんで受け止めた。
「ご用件は?」
さっきまでのは演技だったかのように、満面の笑みで聞き返される。
「それで、斬った?」
「はい。前髪だけにしておきましたが、しつこいと次は何処を斬るかわかりませんよ?」
・・・
ギルドも、上に行くほど受付が凶悪だな。
俺はそう思い、見えない天井に遠い目を向けた。
「ケンテーとかいうのを受けに来たんだぞ。」
放心状態の俺を無視してエリサが話しを進めやがった。もう少し俺にお姉さんと話す時間を残しやがれ。
「それならそうと、早く言ってください。最初から冗談を言うのはよくありませんよ。」
事情を察したお姉さんは、優しく微笑んで言って来た。
「いや、本気だったんだが。それより、ギルドの受付はみんな、その、なんだ・・・強いのか?」
何となく聞きずらいが、気になって聞いてみる。
「ギルドは色んな方が来られます。少なからず我儘や横柄な態度の方もいらっしゃいます。受付はギルドの入り口、そんな方達を此処で制す事が出来なければギルドの沽券に関わります。故に、本部だけではなく、どのギルドでも相応の者が携わっております。」
・・・
言いたい事は分かった。
だったら初めから教えておいてくれ。
って事は、サーラのあの圧力も、何かしらの力だったって事だよな。只者じゃないとは思っていたが、やはりそうだったのか。
「検定は、どの検定になりますか?」
「あ、あぁ、ちょっと待ってくれ。」
言われてみれば、検定にも色々とあったな。そう思うと俺は、荷物からサーラに渡された書類を出す。
「あら、他のギルドの紹介でしたのね。ちょっと確認します。」
お姉さんは書類を受け取ると、確認を始めた。
はぁ・・・
残念だ。そう思いながらカウンターに両手を置いて脱力する。
・・・
なっ!?
何てこった・・・
この世界で初めてみるぞ!
カウンターに項垂れた事で、お姉さんの服装に今気が付いた。タイトスカートなんて、この世界にもあったとは。
しかも短め。
艶めかしい太腿がそこから生えているではないか!
出来ればその間に俺の顔を挟んでくれ!
!!
さらに上に目を向けると、シャツの膨らみも良い感じではないかぁ!
だが、迂闊に手を出すのは危険だな。うっかり手を落とされても困る、先ずは脳裏に焼き付けるところから始めるか。
そう思うと、俺はゆっくりとカウンターの奥へと頭を動かし、足の全容を確認しようとする。
「べっ・・・」
もう少しで全容が見えそうなところで、顔面の前に書類が叩き付けられた。
「何をしているのですか?」
「いや、長旅で疲れたからだれているだけだ、気にしないでくれ。」
くそぅ、もうちょっとだったのに。
「ごめんな、ご主人はたまに頭がアレになぐっ・・・」
「誰の何処がなんだって?クソ犬!」
「く、苦しいぞ・・・」
「凄いわ!私になってから初めてよ、超越検定を受けに来た人は。しかもこんな若い女の子だなんて。」
エリサの首を絞めていると、お姉さんが歓喜の声を上げた。
「そうなのか?」
もう興味も無いのでエリサを投げ捨てて、俺はお姉さんの方に向き直る。
「えぇ。もともと滅多に来るものじゃないのよ。大抵の人は50まで到達なんてしないから。」
他の奴の事はどうでもいい。
「何をしているの?」
両手を広げて待っている俺に、お姉さんは疑問を投げて来る。
「いや、そんなに珍しいなら記念に抱きしめてもいいぞ。」
「それはいいわ。」
・・・
即答かよ。しかも冷めた目をしやがって。
「知識の検定は今日可能だけど、実力を測るには分野に特化した判定者が必要だわ。」
うわぁ、それって1日じゃ終わらないじゃないか。
「ええと、リアちゃんでいい?」
「あぁ。俺はまだ、君の名前を聞いて無いぜ?」
「ユアナよ。それでね、そっちのエリサちゃんは戦闘だから困らないのだけど、薬となると人が居ないのよね。」
ユアナか。
是非ともお近付きになりたいところだな。
「聞いてる?」
「ん?あぁ、分野が分野だけに判定者が少ないんだろ?」
「え、えぇ。分かってくれたならいいわ。」
サーラに鍛えられたからな。
しかし困ったな、今日明日で終わらせて帰るつもりだったのに。これじゃ滞在費も馬鹿にならないじゃないか。
「でも、遅くても数日内には可能かな。ちなみにエリサちゃんは今日でも可能よ。」
「ホントか!?やるぞ!」
ますます面倒臭くなってきたな。やっぱり受けずに帰るか?
何しに此処まで来たんだよ・・・
「ところで、超越検定?は何処までのランクがあるんだ?」
「そうねぇ、確か今は119だったと思うわ。」
確かってなんだよ。しかも随分と中途半端な数字だな。
「はっきりしねぇな。」
「もとは80だったのよ。でも判定者が独自に、これが出来たらプラス1、あれが出来たらプラス1って足しているのよ。それで今は119まであるの。」
・・・
バカか。
判定者の気紛れ検定じゃねぇか。そんな自己満足に俺は左右されなきゃならないとか、アホらしい。
「そんな自己満足になんの意味があるんだ?」
「そう言われるとねぇ・・・」
お前はギルド側の人間だろうが、もう少し言い様があるだろ。
「でも、80まではちゃんとしているわよ。」
そうでなきゃ来た意味がねぇよ。
「ちなみに、70を超えると名誉登録者となり、家も与えられるわ。」
何!?
家が貰えるだと!
「よしエリサ、頑張って70を超えろ!」
「え、あたしは別に家なんか要らないぞ。今の部屋で満足だ。」
・・・
このクソ犬。
その家は誰が買ったと思ってんだよ。
「一人で豪邸に住めるんだぞ?」
「独りは、ヤだ。みんなと一緒がいい。」
あっそ。
なんて欲の無い奴だ。
「言っておくけど、家が与えられると言っても、このフェルブネス内に限っての話しよ。」
は?
使えねぇ・・・
「本部が融通利くのはこの都市だけなのよ。」
「そうか。それじゃ、一緒に住むか?」
「お断りよ。」
満面の笑みで断りやがった。
思うに、俺の回りにいる女は何故か反応が冷たいよな。
「そもそも、まだ検定も受けていないのに70を超える前提で話す方がおかしいわ。」
何もおかしくはない。
「人は目標がある方が頑張れるだろ?」
所謂モチベーションをどう上げるか、ってところなんだが。仕事にしろ私生活にしろ、充実させるにはそれが必要だ。
「それはそうだけど、リアちゃんは甘やかすなって。」
待て・・・
誰がそんな事を言いやがった。
「俺たち初対面だよな?誰が言うんだよ、そんな事。」
「書類にサーラからのメモが入っていたわ。」
あのクソ女!
何余計な事をしてくれてやがんだ!
帰ったら伝説の武器を振りまくってやる。
「それで、検定は今日受けていく?」
今日受けるも何も。
「もともとそのつもりで来たんだ。やれる事はやっていくさ。」
「分かったわ。エリサちゃんの戦闘に関しては、午後になれば大丈夫だと思うから。」
「おう。」
「それじゃ、手続きしてくるわね。」
「あぁ、頼んだ。」
ユアナは書類を纏めると、立ち上がって背後にある扉の向こうへと消えて言った。
良い。
実に良い。
こっちの世界でスーツ姿っぽい女性を初めて見たが、やはり良いな。
「なぁなぁご主人。」
エリサが笑顔・・・いや、笑みは浮かべているが悪い顔して話しかけて来る。どうせ、結果で俺を超えたら銀貨くれって話しじゃないのか?
「なんだ?金ならやらんぞ。」
「ぐ・・・」
当たりか、バカめ。
「じゃ、じゃぁ勝負しよ。」
「何のだ?」
「あたしの方がご主人より結果が良かったら金貨くれ。」
・・・
金貨になってやがる!!
こいつ、ついに金貨の方が高額だという事に気付きやがったか。
「俺が勝ったら?」
「何もない。」
ふざけんなクソ犬!
「それは勝負とは言わねぇ!お互いが何かを賭けてこその勝負だろうが!」
「うーん、じゃ、銀貨出す。」
・・・
死ね。
「割に合ってねぇ、却下だ。」
「むぅ・・・どれくらいならいいんだ?」
「銀貨10枚。」
「それは狡いぞ!!だったらご主人も銀貨10だ!」
・・・
バカだ。
価値の違いに気が付いたと思ったが、気のせいだったようだ。単に金色の硬貨が欲しくなっただけなんじゃねぇか?
「それなら受けて立とう。吠え面かかしてやる。」
「あたしこそ、ご主人を・・・ご主人を・・・」
しまらねぇ・・・
「転ばしてやる!」
いくらでも転んでやるが。
そんなやり取りをしていると、ユアナが戻って来る。
「準備できたから、案内するわ。」
俺とエリサは別々の部屋に案内された。先ずはすぐに可能な知識に関する検定からだ。きっとエリサの奴は何も出来ないだろうな。
ま、あいつの事はさておき、俺の方も内容を見るか。
~記述1
ナフ科のベラヒメという植物について。
ご存知の通りベラヒメという植物は猛毒を含んでいる。生息は各地に分布しており、比較的手に入りやすい植物ではあるが、葉の表面も有毒性であるため回収は困難である。
アズ・オールディア大陸でも何か所も生息するベラヒメだが、リヒアン地方に生息するベラヒメのみ毒性の成分に変化が見られた。ベラヒメの主な毒性は神経毒であるが、リヒアン地方のベラヒメは変わった効果を引き起こす。
先ず、その毒性が齎す効果を記せ。
続いて、その成分を利用した3つの薬に関する調合方法とその効果を記せ。(毒を含む効能でも可)~
・・・
知らねぇよ。リヒアン地方って何処だよ。それ以前に俺の知識の中にベラヒメの例外の様な知識は無ぇ。
これ考えた奴、絶対本人しか知らないだろ。あれだな、単なる自己満足だろ、これ。嫌がらせとしか思えねぇ。こんなもん、検定に使うんじゃねぇよ。
まさか・・・
全部こんな感じじゃねぇだろうな。
あぁ、疲れた。作った奴アホばっかりじゃねぇか。
「お疲れ様。」
「あぁ。」
カウンターのある部屋に戻り、椅子に座ってだらけていると、ユアナが声を掛けてきた。
「エリサちゃんの方は、午後もあるから。リアちゃんはどうする?」
「別にやる事もねぇし、待ってるよ。それより、俺の方は何時になりそうなんだ?」
「結果は、早くても明日にならないと分からないわ。」
結果が分かるのが明日。って事は、早くても検定は明後日になりそうだな。
「別の大陸から来ているからな、滞在費も馬鹿にならねぇよ。」
「此処、宿泊施設あるわよ?」
・・・
知らないの?みたいに言いやがったな。サーラの奴はそんな事、一言も言ってなかったぞ。
「聞いてねぇ。つまり、外に泊まらなくても良かったって事か?」
「えぇ。」
あの女・・・
「じゃ、今日から使わせてもらうかな。ユアナも此処で生活しているのか?」
「私は実家があるもの。」
そりゃそうか。
「俺もそっちに行こう。」
「・・・」
いや、短剣を構えるなよ、普通に怖いからな。
「まぁ、一日くらいならいいかな。お父さんに聞いてみるね。」
げ、独り暮らしじゃねぇのかよ。しかも親父とか、面倒くせぇ。だがしかし、今の俺はそんな柵なんて気にしなくてもいいじゃねぇか!
むしろ、同じベッドに潜り込む手を考えねば。
「それより、暇なんでしょ?」
「あぁ。」
「丁度良かったわ。」
「何も丁度良くねぇよ。何か依頼を押し付けようって魂胆だろ?」
「察しが良いのね。」
笑顔で俺をこき使おうとしてんじゃねぇよ。
「宿泊費は浮くし、依頼料も手に入るんだから良いと思わない?」
そりゃそうだろうが、今はあんまり頭を使いたくねぇな。
「簡単か?」
「えぇ。材料は揃っているんだけど、薬師が少なくてねぇ。街の薬師に頼もうにも、そっちはそっちで忙しいみたいだし。」
そういう事か。
「つまり此処で、調合だけしろって事か。」
「そうなるわ。」
それくらいだったらいいか。
別室で薬を調合してカウンターのある部屋に戻ると、丁度エリサも戻って来た。ただ、ふらふらになっているのを見ると、どんな検定だったんだよと疑問も出て来る。
「ご主人・・・お腹空いたぞ。」
そういや、俺も腹が減ったな。
「食堂もあるわよ。まぁ、食堂と言うよりは酒場って感じかしら。」
そりゃいいや。
「便利だな、本部は。」
「そりゃ、色んなところから集まって来るもの。日帰りが難しい人の為に、用意してあるのよ。」
なるほど。
「こっちに引っ越して来たら?」
「面倒くせぇ。」
その一言で片付けちまったが、それだけじゃない。面倒だっていうのも本音だが、向こうには店もあるし、ホージョ達の畑もある。それに、メイニとの商売も成り立ちそうなんだ。
ついでに、塀に囲まれた場所は、やっぱり好きにはなれねぇ。
「よしエリサ、飯食いに行こうぜ。」
「うん。」
「あ、ギルド証が必要だから持ってってね。」
「分かった。」
俺は片手を上げて返事をすると、エリサと食堂へ向かった。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
放置された公爵令嬢が幸せになるまで
こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる