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ギルド本部殴り込み

26.友達とか嫌なんだが

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「ちょっと、何でテーブルに穴が開いているのよ。」
・・・
包丁をぶっ刺したとは言えない。

夕方、帰って来たアニタがテーブルの上に食材を置いたところで、早速気付きやがった。ちょっと調子に乗っただけじゃねぇか。
俺はマーレの方を見ると、既に顔を逸らしてやがった、このヤロー。
逃がさん。
「さぁ、いつの間に開いたんだろうな。マーレは知っているか?」
はぁっ?
とばかりにマーレが振り向いて俺の方を見る。
「さぁ・・・私も知らない。」
惚けてみるが、アニタの追及は終わらなかった。無言で俺の方を見続けている。というか何で俺だけを見続けるんだ。
「あぁ・・・思い出したところによると、リアが包丁を突き立てていたわ。」
あ!!てめぇ!
そう思ってマーレを見たら、ニヤリと笑いやがった。
「何してくれてんの?」
アニタさん、ご立腹のようで・・・
「ちょっと、手が滑っただけだ。」
「で?」
・・・
いやぁ、普通に怖いんだが。
「すいません、以後気を付けます。」
「分かればいいわ。テーブルだから良いようなものの、自分の身体に刺さったら大変でしょ。」
そんな間の抜けた事はしないだろうが、言うだけ俺が不毛な思いをしそうなので止めておく。
「さ、ご飯にするから手伝って。」
「しょうがねぇなっ・・・」
椅子から立ち上がった瞬間、テーブルの脚に躓いて前のめりに倒れる。が、直ぐに何かに支えられた。

デジャヴ!!
だが今回は胸に手が行くというお約束の事故も無く、普通に抱き着いた形になってしまった。
「もう、言ってるそばから気を付けてよ。」
うっせぇ。
だが待てよ、俺の目の前に双丘があるじゃないか・・・これは、顔を埋めろって事だろう!迷っている時間など無い!
「・・・痛!」
埋めた瞬間、楽しむ間もなく頭をひっぱたかれる。誰がやったか言うまでもない。くそ!思ったより対処が早いじゃないか。そう思ってマーレの方を見ると、腕を組んで目を細めていた。
「躓いただけじゃねぇか。」
「へぇ。だけ、ねぇ?」
ってかマーレには関係ないだろうが。いや、もしかするとあれか?焼きもちか?
焼きもちなのか!?
俺はマーレの方を向いて笑みを浮かべる。
「つまり、や・・・」
「違うから!!」
凄い速度で否定しやがった。問題文が読み始められた途端にボタンを押すクイズ王なみだな。
「はいはい、喧嘩しないの。そんな事より、手伝って欲しいんだけど?」
『はい・・・』





「何故既に用意してある・・・」
俺がギルドを訪れ、カウンターの前まで来ると、既に紹介状やら検定結果、本部までの地図、必要そうなものが並べられていた。
「え?行くって言ったじゃない。」
こいつ・・・
いつか絶対伝説の武器を手にしてやる。
「行くとは言ってねぇだろうが!聞いただけだよな?」
「それって行くって事だよね。」
だめだ、俺には無理だ。
しかもご丁寧に、その資料の中にドラゴンの依頼まで混ぜてやがる。こいつは俺よりも上手だな、流石伝説の武器を所持しているだけのことはあるぜ。
「まぁ、貰っておくわ。近いうちに行って来るよ。」
「あたしの分は。」
「しっかり用意してあるぞ。」
資料を回収する俺に、エリサが聞いて来るので答えておく。
「よーし、今度こそご主人を超えてみせるぞ。」
あぁ、頑張ってくれ。是非高ランクになって、俺の為に稼いでくれ。

「それよりリアちゃんさ、この前の話そうとした事なんだけど。」
「ん?」
何か言おうとしていたな。告白じゃないなら、ろくな話しじゃないだろう。俺は学習したぞ、サーラはそういう奴だ。
「実はギルドって、裏があるんだ。」
「無修正か!!?」
なんてこった・・・
そんなものがギルドに存在していたとは、予想もしなかったぜ。まさか!?
サーラがそうなのか!?
何というリーサルウェポン、そいつは世界の半分がやられちまうじゃないか!
「ねぇ、最後までき・い・て。」
「あい・・・」
一瞬呼吸困難になるほどの威圧が圧し掛かってきたぜ。

「裏の依頼なんだよ。多分、大体のギルドが持っていると思うんだけどね。」
裏の依頼?
またきな臭い話しが出て来たな。
「想像がつくかもしれないけど、堂々と表に出せない依頼とかもあるの。もしかすると、リアちゃんはそっちの方が向いているんじゃないかと思ってね。」
俺が向いている?
薬師の俺が向いているとしたら、毒殺だったり、今俺が個人的に受けている毒薬の依頼のようなものが、ギルドにもあるって事か?
「危ない薬や、人間相手の依頼か?」
「そう。」
やはりそうか。在ると知ってしまうとそれほど違和感は無いな。もともとこういう商売なんだ、綺麗に見えるところだけで仕事をしていると思う方が間違いだよな。
だがなぁ、ギルドを経由すると手数料を取られるんだよな。とは言え、俺自身がそこまで伝手を持っているかと問われれば、現状殆ど無いと言っていい。そう考えると、手数料を取られてでもギルドの依頼を受け、まず俺の存在を周囲に認知させた方がいいのかも知れない。
「試しに、見てみる?マスターには許可を貰っているから、大丈夫だよ。」
見てみる?とか聞いておきながら、既に許可を貰ってるってどういう事だ。俺に出す気満々じゃねぇか。
「随分と手際がいいな・・・」
「まぁ、リアちゃんならやるかなって思って。」
内容次第だな。
確かに、俺の能力と目的に一致してはいる。ただ、俺は面倒くさがりなんで、面倒なのはやらないな。
「今日はいいや。戻って来てから見てみるよ。」
「うん、分かった。結果期待しているね。」

期待されてもねぇ・・・
「そうだ。行ってやるんだから、戻ったら貢献に対する報酬をくれよ。」
「イヤ。」
満面の笑みで即答してんじゃねぇ!行けと言ったのはお前だろうが!
「飯くらいいいだろ。」
「しょうがないなぁ。結果次第では、ギルドマスターに食事代くらい出させようか。」
出させるってなんだよ。
でも此処のギルドマスターの事だ、「いいよ~」とか言いそうだな。
若しくは、そう言わせるだけの何かをサーラが持っているか。まさか、伝説の武器を使って権力を握っているんじゃ?
いや、それよりもマスターまで出て来たら面倒だな。
「3人分な。」
「3人?」
「俺とエリサ、あとサーラな。」
「あたしもか?」
「何だ、嫌なのか?タダ飯だぞ。」
「なぬっ!食う!あたしが3人分!」
死ね。
「分かった分かった、交渉しておくから。」
食後のデザートは、アレだな。
「頼んだ。忘れるなよ。」
「うん。」
笑顔で頷いてはくれるが、どうもいまいち信用ならない。サーラは意外と腹が黒い気がするんだよな。

俺は依頼の薬を渡し、報酬を受け取って戻る事にした。これで今は受けている依頼は無いので、心おきなく旅立てるだろう。
忘れていたが、どこぞのお坊ちゃんの懸念も無くなった。あの状態で喧嘩を売って来る事もないだろう。




どうせ行くなら早い方が良いだろう。そう思うと、グラードの珈琲を飲んでおくかと思い店に寄る。まぁ、行かなくてもギルド帰りはつい入ってしまうんだが。
「明日か明後日には行こうと思う。こういうのは早い方がいいからな。」
「いいよ。ただしおやつを買う時間をくれ。」
遠足じゃねぇ。
「バカだなぁ。」
「ご主人にバカって言われたくないぞ!」
お前にこそ言われたくねぇわ!
「道中の買い食いが醍醐味なんだぞ。おやつなんかで満足するのか?」
そう言ってやると、エリサは考え込む。が、直ぐに笑顔を向けて来た。
「両方食えばどっちも楽しめるから問題ない!」
あっ、そう。
言った俺が馬鹿だったよ。俺はそんなに食えないから、現地調達だけでいいや。

「何処かに行くんですか?」
そこで珈琲を運んで来たレアネが声を掛けて来る。話し掛けんな。
「ちゃんと自分の金で買えよ。」
「ご主人が買ってくれるんじゃないのか?」
「自分で買った方が美味いだろ?」
「他人の金の方が美味いぞ。」
このクソ犬。
こういうところだけは賢しいよな。
「どっちにしろ、俺は買ってやらんからな。」
「わかったぞ。」
そこまで話すと、レアネが俺の顔の前に顔を割り込ませてきた。うぜぇ。しかもちょっと涙目だ。
「近ぇよ!」
「何で無視するんですかぁ・・・」
むしろ、何で相手にされたいんだよ。
「隣の大陸に行くだけだ。」
「まさか、お引越しですか!?私、まだお金を返せてませんよ。」
「いや、直ぐに戻って来る。」
一瞬、そうだ、だからもう返さなくてもいいから、元気でやれよ。くらい言おうかと思ったが、戻って来た時の方が面倒そうなので、渋々答えておいた。
「良かったです。寂しくなっちゃいますよね。」
まったくならんが。

「私、リアさん達しか友達居ないんですよ。居なくなったらイヤですからね。」
待て待て待て!
今、さらっと恐ろしい事を言いやがったな。
「ボロ切れは友達じゃないぞ。」
良く言った!!
エリサはレアネの方に、細めた目を向けて言った。そう言えばエリサは、レアネに対しては割と冷めた態度を取るよな。獣の感なのだろうか。
「そんな、酷いですよ!」
後はエリサに任せて、俺はこの時間を満喫しておこう。
「じゃ、今からでも友達でいいですよね。」
「イヤだぞ・・・」
笑顔で言うレアネに対し、エリサは露骨に嫌そうな顔をした。何がそんなに嫌なのか不明だが。
「リアさんからも言ってくださいよぉ。」
・・・
まるで俺が友達みたいじゃないか。
「いや、俺も違うから。」
「どうしてそんな事を言うんですか?」
どうしても何も。
「イヤだから。」
「うぅ・・・」
「そろそろ帰るか。」
「そだな。」
アホには付き合ってられん。
「そうですね、私の都合ばかり押し付けてもダメですよね。」
まったくもってその通りだ。
「まだ時間が足りませんよね。私ももっとお話しして、距離を縮めるよう努力しますね。」
・・・
人はそれを無駄な努力と言う。



それから家に戻ると、早速旅の支度を始めた。帰りながらエリサとも話したが、もう明日にでも出かけようという結論になった。
マーレに話し、仕事から戻って来たアニタにも話し、急だと言われたが、もともと話しはしてあったのだから、それほど急とは思わない。
荷造りをしていると何をそんなに持っていくんだと聞かれるが、薬の材料を現地調達出来るならしておきたいのと、簡単なものは調合できるように準備も必要だと答えておく。




「眠いぞ・・・」
同感。
隣の大陸に行くためには、港町クレーエルというところまで馬車で行かなければならない。丸1日掛かるらしいので、早朝から馬車乗り場で待つ必要があった。
「乗ったら眠ればいい、それまで我慢してろ。」
「うん。」
途中、ハルイという町で昼休憩があるそうだが、それまではのんびり寝るとしよう。生前ならスマホで時間も潰せただろうが、この世界じゃ特にやる事も無い。一応、本は持ってきているが、今の状況だと睡眠導入剤になる可能性が大だな。
「腹も減った・・・」
「馬車が来るまで待て。乗ったらのんびり食おうぜ。」
「分かった。食って寝るんだな。」
そうなんだが、生前はそんな事はしなかったな。食った直後に寝るのって、抵抗あるじゃん。尤も、飲んだ後は眠気に耐えられないのはよくあったが。
港町クレーエルでは一泊する必要があり、翌朝、これまた早くから船に乗らなければならない。2日間の船旅で、到着するのは港町ロエングリだ。そこでまた1泊して、ギルド本部のある城塞都市フェルブネスまでは、馬車で半日程度だそうだ。
そうなると、本部に顔を出すのは到着した翌日になるだろう。本当に5日かかるんだな。
「あたし、向こうの大陸は初めてだぞ。」
「そりゃ俺だって一緒だ。」
飛行機でもありゃ、数時間で行けそうな距離だよな。流石に往復で2週間もかかるなら、多分2度と行かないな。何が嫌って、殆どの時間が乗り物に乗っているだけってのが辛い。
「お、あの馬車か?」
エリサの見ている方に、俺も目を向けると馬車が1台、こちらに向かって来ていた。だが、どう見ても見た目が豪奢だから、違うんじゃねぇか?
「あんな立派な馬車じゃねぇだろ。」

その馬車は、予想通り俺たちの前を通り過ぎた。まぁ、道の途中にある乗り場なんだから、関係無い馬車が通り過ぎる事もあるだろう。御者の身形や外装からいって、多分貴族だな。
そんな事を思っていると、通り過ぎた馬車が突然止まる。少しの間をおいて、客室と言っていいのか分からないが、後ろの箱の扉が開いた。
そこから現れたのは、零れ落ちそうな果実だった・・・いや、メイニだった。
「奇遇ですわね。」
「わざわざ止めて挨拶とは、律儀だな。」
「此処に居るということは、クレーエルに行くのかしら?」
「あぁ。」
その乗り場に居るのだから、可能性は高いよな。大荷物を持って休憩してる事の方が稀だろう。
「丁度いいですわ、乗っていきます?」
は?
マジで!?
「メイニもクレーエルに行くのか?」
「えぇ、今後の商談を含め、用がありますの。だから奇遇と言ったのですわ。」
なるほど。
「それは有難い。」
つまり、その果実に飛び込んで来いという事だな。
俺は直ぐにメイニの方に向かって走り出す。
「ご主人、荷物!」
「頼んだ。あとエリサは走れ。」
「ふざけんな!!」
もう、少しは気を利かせろアホ犬。

それから俺とエリサは馬車に乗り込んだ。
たった一日だが、メイニと旅気分を味わえるなんて幸運だ。このまま一緒に温泉でも入って一泊とかなら最高なんだが。
「何故わたくしの隣に座りますの?」
「幸運にも女神の隣が空いていたもので。」
「リアさんは向こうに座って頂けます?話し難いですわ。」
仕方がない。横からではなく正面から見てくれという事だな。
「とりあえず、腹が減っているんだ。飯を食ってもいいか?」
渋々隣から正面に移動した俺は、まず空腹を満たそうと確認する。流石に個人所有の部屋の中でいきなりは失礼だからな。
「構いませんわ。」
「ご主人、椅子がふかふかだぞ!」
その横ではエリサが腰を浮かせたり座ったりして、椅子の感触を楽しんでいる。椅子のクッションも木製の骨格を感じさせないほどで、座り心地は悪く無い。
通常の馬車であれば、またケツが痛くなる事を覚悟していたんだが。
「それに、振動も少ない気がするな。」
「えぇ。わたくしは遠方へ出かける事も多いので、車輪からの衝撃を吸収する緩衝設計になっていますわ。」
おいおい、馬車でサスペンションとかすげぇじゃねぇか。他の馬車も同様なら、もう少し出かける気にもなるのにな。
いや、ならないな、面倒だ。

「実は、誘ったのは話しがありましたの。」
俺とエリサが朝飯のパンを食い始めると、メイニがそう切り出した。
「今夜の部屋割りだな。」
あ、メイニの目が呆れた。
「珈琲の事ですわ。」
「珈琲がどうかしたのか?」
残念ながら今夜の話しではなかったようだ。
「えぇ。実は店で扱おうと思いまして。もちろん、家でも嗜むつもりですわ。」
「本当か?それが可能なら俺も欲しいな。」
家で飲めたらと思いつつも、ちゃんと探してはいなかったが、転がって来る時は来るもんだな。
「豆の方は流通として扱えそうなのですが、挽く道具が高価なため、本当に嗜好品として一部の上流階級などでしか需要が見込めない部分が問題ですわね。」
「金属か?」
「その通りですわ。」
石臼のようなものが在れば良さそうだが、それだと細かくなりすぎるよな。
「嗜好品として置くだけですから、わたくし自身にはさほど影響はないので、扱ってみようと思いまして。」
「とりあえず1個は予約でいいか?」
「リアさんなら、そういうと思ってましたわ。」
そりゃぁな。ある程度高価でも、在ると無いとでは大違いだ。家で挽きたての珈琲が飲めるなら、誰に遠慮するでもなく良い時間が過ごせる。

「行く行くは、嗜好品区画として、店内の一画に煙草と珈琲を並べようと思っていますの。」
隣で羨ましくも爆睡しているエリサを蹴り起こそうか悩む。
俺も寝たい。
が、どちらかと言えばこの時間が勿体ないから寝たくはないな。
「あぁ、それはいいかもな。」
「もちろん、煙管は創らせますが、刻み煙草はリアさんから買い取りますわよ。」
「軌道に乗るといいんだが。」
そうは言ったが、所詮嗜好品、商売としては難しいだろう。軌道に乗ればいいというのは、俺の方の話しだ。畑の生産性を上げたところで、需要が無ければ余るだけだからな。
「ふふ。それならそれで。もともと採算は見てませんから。」
だよな。

そんな話しをしている間に、馬車はハルイに着いたらしい。外の景色には古風な街並みが見えていた。道中、家はたまに見えたりしたが、ほとんど草原やら林やらが多く、牧場のようなものも見えた。
改めて思うが、本当に違う場所に来たんだなと。
日常の生活には慣れたが、日々を過ごす中でそんな事に意識は向かなかった。だからなのだろう、俺の居る場所は日本じゃないどころじゃなく、地球でもないんだろうなと、ふとそんな事を思った。
「着きましたわ。お昼休憩を取った後、直ぐに発ちますわよ。」
「分かった。」
「良いお店がありますの、ご一緒にどうかしら?」
「勿論、楽しみだ。」
メイニの事だから、良い昼食にありつけそうだと思い、返事をしながらエリサを蹴り起こす。いやぁ、ずっとやりたかったぜ。隣で爆睡しやがってこのクソ犬。
「むにゃ・・・魚か?」
魚ってなんだよ・・・

ハルイの町は、セルアーレと比べて遜色はなかった。もっと地方の村的なイメージだったのだが。
「王都と港町を繋ぐ中継地点ですから、それなりに栄えていますのよ。」
「なるほどな。」
町を見渡す俺に、メイニが説明してくれた。そうなると、王都じゃ見かけないものとかもありそうだな。
「お店はこちらですわ。」
先頭を歩き案内してくれるメイニに着いて、見渡しながら後ろを着いて行く。
「ご主人、魚が串にさされて焼かれているぞ!」
なんかそんな匂いがするなと思ったら、家の軒先で串刺しにした魚を焼いている店があった。
「近くの川で採れる魚を焼いていますの。この町の名物のひとつでもありますわ。」
こういうのは、こっちの世界でも変わらないな。
・・・
「悪いなメイニ。畏まった店より、俺はあっちの方に興味があるんだ。行くと言っておきながら申し訳ないが。」
金を持っている奴はそれに見合った食事をするんだろうが、俺は屋台飯の方が性に合っている。メイニを否定しているわけではなく、本人に合った食事が一番いい。そう思っただけだ。
「って事でエリサ、あの魚から食いにいくぞ。」
「ホントか!?行く!」
満面の笑みでエリサが頷いた。
「でしたら、わたくしもリアさんに着いて行っていいかしら?」
そんなに俺の事が!?
「いいのか?」
「えぇ。たまには。」

まず初めに焼き魚から食べてみたが、塩加減もよく旨かった。日本で言う、鮎の塩焼きみたいなもんだな。これでビールでもあれば最高なんだが、流石に無かった。
次にこの辺で育てている鳥肉を、これまた串に刺して炙り焼きしたものだ。薄焼きにしたパンのようなものに、野菜と一緒に豪快に包んだもの。鳥肉の焦げた部分が香ばしく、これも旨かった。王都で焼いた鳥肉を挟んだパンはたまに食べるが、こっちの方が断然いい。
最後に、特産の魚をすり身にした汁を飲んで、昼食は終わりとなった。

メイニも満足し、エリサに至っては2個ずつ食べてやがった。あの細身の何処に入っていくのか謎だが、生態が違うから気にしない事にする。

食べ終わった俺たちは再び馬車に乗り、クレーエルに向けて出発した。ハルイまでの道中寝ていなかった事と、腹が膨れた所為だろう、クレーエルに着くまでの記憶がまったく無かった。



「では、ここまでですわね。」
「あぁ、ありがとな。お陰で快適な道中だったよ。」
宿屋に着くと、部屋を確保してメイニとは別れる事になった。もともと、ここから先は別の目的があるから仕方が無い。
同じ部屋でって言ったのに断られたが。メイニの泊まる部屋は、流石に高いので同等の部屋は無理だった。俺とエリサは一番安い部屋にする。これからまだ先があるから、あまり散財するわけにもいかない。
「ご主人、そっちは違うぞ。」
黙れクソ犬。
メイニに着いて行くというベタな行動に突っ込んで来るエリサ。そのまま放っておいてくれればいいのに。
メイニも足を止め、振り向いて俺の方を見ると微笑んでくれた。
つまり、誘っている!?
「戻ったら、また会えますでしょう?」
「あ、あぁ。そうだな。」
メイニは俺を軽く抱きしめてそう言った。軽いハグみたいなものだが、突然の事に驚いて目の前に果実に在るにも関わらず、テンションは上がらずに俺は硬直してそれだけ言った。
突然、予想もしなかった出来事に、俺の脳がついて行かなかったんだ。それに多分、俺の乗りに対して軽くあしらっただけなのだろう。

去っていくメイニを呆っと見ながら、そんな事を思ったが嫌な気分ではなかった。

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