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もしもシリーズ(オマケ)
M03.感涙に揺蕩う泡沫の思い、旅路
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どうでもいい、もしもシリーズ第3弾がやってまいりました。
本編とはまったくの無関係なので、読まなくても問題ありません。
単なる私のお遊びです。
本編が終わったら書こうと思っていた内容です。
「・・・」
「・・・」
「・・・!!」
「何処だよ此処は!!?」
俺は昨夜、普通にベッドで寝たはずなんだ。だが、朝起きたらまったく別の場所にいる。目が覚めてから現状を認識するまでかなりの時間を要してしまった。
これは思うに、夢だろ。
そのうち、目が覚めたら、変な夢だったなと思って忘れていくだけだ。人間であるからには、誰もが、何度も、体験する事だろう。
というか、よくマンガとかでありそうな状況だな。不要になったから道中に捨てられた雑魚のような扱いだ。
あれか、これは俺がゲームのし過ぎだって事なんだろうか。まさかこんな夢を見るなんて思いもしなかったよ。
だって、舗装もされていない道路の上で目が覚めるって、そういう事だろ?
周りに見える景色には家すらない。道路から外れた場所はただの草むらだ。その先に林のようなものが見えるだけなんて、ファンタジーのマンガで出てきそうな景色だろ。
しかも、そんな場所に捨てられたように寝ている俺は、家に居た時の寝巻のままだ。これが夢じゃなかったとしたら何なんだ?
いや、夢に決まっている。
だいたい夢なんて、身体の自由が利かないんだ。だったら、早いところ意識が飛んで部屋に戻るのを待つしかない。
という事で、寝よう。
・・・
・・・
・・・
眠れん!!
しょうがない、空でも眺めているか。
澄んだように青い空には、所々に浮かぶ真っ白な雲がゆっくりと流れている。何も考えずに眺めていたら、何れベッドの上で目が覚めるだろう。
予想通り、何時の間にか意識が飛んでいたようだ。
が、もう少し微睡んでいたい気分だ。どうせ、今日は休みだしな。
そんな事を思っていると、微かに声が聞こえる。
「何で馬車を使わなかったんですかぁ。」
「何を言っていますの?馬車は行動に融通が利きませんわ。」
「街まではいいじゃないですかぁ。」
「徒歩が旅の醍醐味ですわ。」
馬車?あぁ、ファンタジーならありがちな設定だな。
「お嬢様、人が死んでますよ。」
「本当ですわ。」
寝てるだけだっての。
「レイピアの剣先で突いてみましょうか?」
「そうですわね。」
何で抜剣してんだよ・・・アホか!普通、確認するなら鞘の先で突くもんだろうが。頭のおかしい危ない奴らだな、多分。
「蛆虫とか出てきませんかね?」
「腐敗臭が漂ってないませんわ、問題ないでしょう。」
さらっと怖い事を言ってんな、こいつら。アホなんじゃないか?
「で、あの死体は最終的には埋めた方がいいですよね。」
「触りたくありませんわ。」
「えぇ・・・でもここに置いていたら通行人の邪魔ですよ。馬車が通ったら、ぐしゃっていく可能性もありますし。」
「それは、嫌ですわね。でしたら、その辺の草むらに捨ておきましょう。」
「ですね。」
恐ろしく物騒な話しをしているな。
しかし、どっかで聞いた事のあるような声なんだよなぁ。俺の気のせいか?
「あれ、この顔・・・似てませんか?」
だいぶ近付いて来たな。もう俺の直ぐ傍じゃねぇか。
「アキト!!?」
「え?お嬢様、ついに妄想で現実が見えなくなったんでぐっ・・・」
何故俺の名前を?
と思って目を開けると、見慣れた奴らが居た。
これはあれか、俺の脳が創り出したご都合世界か。何処かで気にしていたって事なんだろうか?それとも、脳が適当に存在する情報から見せているだけなんだろうか。
「うぉ・・・」
まぁいいやって思って、身体を起こすとアリシアがタックルをかましてきた。
「また会えて嬉しいですわ。」
タックルではなく、抱き着いてきたようだ。アリシアの顔を見ると、本当に嬉しそうで、目には涙がうっすらと浮かんで、頬を伝った。
これは、俺の願望なのか?
「どうしてアキトがこんなところで死んでいるんですか?」
「死んでねぇよ!ってか、こっちが聞きたいくらいだ。」
「でも、エメラの言う通りどうしてアキトが此処に居るんですの?」
「俺にも分からん。それより、もしかして此処はアリシアの世界なのか?」
「えぇ。無事に還って来れましたの。」
そうか、それは良かった。
って良くねぇ!!
アリシアが無事に戻れた事は良かったが、この状況は無いだろ。何で俺がアリシアの世界に来てんだよ!
「もしかして、わたくしに会いに来ましたの?」
「お嬢様、やけに積極的ですね。」
「五月蠅いですわ。」
お前もだよ。しかも話しを聞いてないだろ、来た理由は俺が知りたいわ!
「夜に寝て起きたら此処に居たんだよ。」
「でも道路で寝るのは良くないですよ?せめて道端で寝てください。」
それ、どう違うんだ?
「だから家のベッドで寝てたんだよ。」
「でも現状、此処に居るのですから、現実を受け止めた方がいいですわ。」
うーん・・・絶対夢だよな、これ。
そう思っていると、アリシアは意地の悪そう笑みを浮かべる。
「立場が逆になりましたわね。」
「あ、あぁ・・・」
「まずはその土塗れの姿をなんとかしないといけないですわ。」
好きでなってるわけじゃないんだがな。
「この先の教会にでも捨てていきましょうか?」
捨てるってなんだよ。ってか、右も左も分からない俺を放置していくつもりか、あのアホメイド。
「いえ、一旦家に戻りましょう。」
「えぇ、さっき出て来たばかりで格好悪いですよ、そんなの。」
何の事か分からんが・・・
「だったらエメラ一人で行ってもいいですわよ。」
「それ酷くないですかぁ、私はお嬢様のお守をルーデリオ様に仰せつかっているんですよ。」
「だから、アキトを放置しては行けないでしょう?」
「仕方が無いですね。」
俺の所為か?
俺が悪いのか?
「まずは馬車で・・・」
「歩くのが醍醐味と言ったのはお嬢様ですからね。」
それなりの距離を歩かされた俺は、先ず風呂にぶっこまれた。アリシアの親父さんには挨拶だけだったが、杖を突いて歩いているのは、どこか悪いんだろうか?
「背中流しますよー。」
「うわぁっ、え?ちょ、何で入って・・・」
まるで豪勢な部屋のような風呂場で、バスタブに浸かっていると突然エメラが入って来た。何で堂々と入って来るかな・・・
「やだなぁ、仕事ですよ。」
「俺の世界じゃそんな風習は無い!独りにしてくれ。」
「ちぇっ・・・」
ちぇって何だよ、何か企んでたんじゃないだろうな。
「エメラ、何処にいますの!?」
「やばっ。」
エメラはそう言うと慌てて去って行った。何か企んでいた方に一票だな。
「なぁ、もう少し楽な服は無いのか?」
「お父様の服に文句がありますの?そもそもそれがスタンダードですわ。」
これが普通なのか。きついし着るのも面倒臭ぇ。
「そもそも我儘が言える立場ですの?」
「いや、すまん・・・」
確かにアリシアの言う通りなんだが。これなら寝巻の方が遥かに楽だ。が、この屋敷の中をそんな恰好でうろうろする方が面倒そうだな。
「夕食までもう少し時間がありますわ。アキト用に部屋を準備させたので、まずは案内致しますわ。」
お、おぅ。
俺に部屋か。てっきり馬小屋にでも放り込まれるんじゃないかと思ってたよ。というのはマンガの弊害かもしれないな。
案内された部屋は、家の俺の部屋とは比べようもない。まぁ世界が違うからと言われればそれまでだが。
大きなベッドに一通りの家具も揃っていて、家のリビングより広いんじゃないかと思う程だった。
「客間ですが、他にも空きはあるので好きに使って頂いて構いませんわ。」
「ありがとな。」
アリシアの方を向いて言うと、優しく微笑んでくれた。そんな顔をあんまり見た事が無い気がして、気恥しさから顔を逸らした。
「知らない場所に独り放り出されると不安になって当然ですわ。わたくしは、アキトのお陰で救われましたもの。今度はわたくしが、アキトのために動いてあげますわ。」
そう言われると有難いが、俺はアリシアに対してそんな大層な事はしていない。最初の頃は適当にあしらっていたわけだし。
「悪いな。」
「気にしなくていいですわ。それより、屋敷内を案内致しますわ。」
「あぁ、助かる。」
それから屋敷内を見て回ったが、俺にとって必要なのはトイレくらいだった。最後に案内された部屋は、大きなテーブルが置いてあり、複数の椅子とその前にカトラリーが並んでいた。
「そろそろ、夕食の時間ですわ。」
うわ・・・俺はこんな形式の食事をした事が無いんだが。出来れば箸がいいな。
それから程なく、アリシアの親父さんが現れ、三人での食事になった。エメラが居ない事に対し、一瞬疑問を感じたが、そもそも従者と言っていたからこの場には居ないものなのか?と、勝手に納得した。
「アキトと言ったな。」
「はい。」
うわぁ、緊張するわ・・・
「アリシアから話しは聞いている。」
どんな話だよ。まったくいい予感はしない。そう思ってアリシアの方を見ると、顔を逸らしやがった。このやろう・・・
「あの、すいません。」
とりあえす先に謝っておけ。
「何故謝る?」
しまったぁ。そっちに来たか。
「いえ、何か迷惑になるような事をしてしまったんじゃないかと・・・」
何をしたかまったく不明だが、とりあえずそう言ったんだが、親父さんはきょとんした後に笑い出した。
「ははは、そんなに畏まらなくてもいい。」
と言われても無理だっての。
「知らない世界に放り出されたアリシアを助け、こちらに戻って来れるよう獅子奮迅の活躍だったと聞いている。」
勝手に盛ってんじゃねぇ!
そう思ってまたアリシアの方を見るが、こちらを見ようともしない。
「体調を崩した時も心配して見舞いに来たり、優しい言葉を掛けてもらったりしたとも聞いている。それに、アリシアが此処に戻れるまで力を尽くすと寄り添ってくれたそうじゃないか。」
盛り過ぎだろうが!!
「そんなアキトに、アリシアも惹かれ、お互いに手を取り合って乗り越えたとエメラも言っていたぞ。」
あの女ぁ・・・
「それはエメラの妄言ですわ。」
その通りだ。もっと言ってやれ。
「本人は気付かずとも、周りにはそう見えていたという事だろう。」
聞く気ねぇよこのオヤジ・・・
「アリシア本人も、随分と心の支えになったようだ。私は父親でありながら何も出来なかった、ありがとう。」
「いえ、そんな大層な事はしてませんよ。」
本当にな。女性に手を上げる事はしないが、何とかあのアホメイドをしばく方法はないかな。
「ところで、帰る当ては無いのだろう?」
「はい、今のところは。」
「ふむ・・・私共も巻き込まれた側だからな、何か力になれる事があればいいのだが。」
と言って親父さんは神妙な面持ちで言った。そこまで心配してくれるのは有難いが、俺は今でも夢だと思っているので、そこまで問題視していない。
「アキトさえ良ければ、暫くここに滞留してはどうかな?」
「あの、行く当てもありませんので、助かります。」
本当にな。
こんな世界で放り出されても逆に困る。
「アリシアに対する態度からすると、貴族としても責務を果たせると私は思っているんだが。」
「お父様!!」
なんの話しだ?アリシアには伝わっているようだが、俺には分からない。もう少し分かり易く話してくれないかな。
「私はもう出自などには拘らん、そう言っているんだ。今後の状況も見はするが、私はこの好青年でも構わないと思っている。」
「勝手な事を言わないでください。」
だからなんの話しだ?
「実際のところはどうなんだ?」
親父さんがアリシアに問い詰めるように聞くと、アリシアは困ったような顔をする。
「わたくしは、その・・・アキトなら構いませんわ。」
「と、家の娘も言っているがアキトはどうだ?」
まったく分からん。どうだ?じゃねぇよ。分かるように言え。
「何の事ですか?」
もう聞くしかない。曖昧に答えてろくな事にならなかったら困るし。
「何って、婚約に決まっているだろう。」
・・・
は?
婚約!?
膨らませ過ぎだろうがっ!
何故いきなり婚約の話しになってんだよ、おい。馬鹿なんじゃないか・・・
「あの、俺まだ16なんですが・・・」
「何を言っている、16なら遅い方だぞ。」
あぁ、そうか。
そうだよな。
世界が違えば、習慣も違うんだよな。ってそういう問題じゃない!
「それとも、アリシアでは不服か?」
あぁ来た、そういうの聞くのはずるいよなぁ。不服は無いし嫌いでもない。けど、そのニュアンスは汲み取ってくれそうにないよな。
「いえ、そんな事はありません。実直で、気も回る素晴らしい女性だと思っています。」
なんて思ってないが。確かに、真面目なのは分かっている。見た目も悪くない。たまにアホだけど許容範囲だろう。だが、俺が好きなのは綺迦だからな。それを此処で言っても仕方のない事だ。
「良かったなアリシア。」
「はい。」
おい・・・勝手に納得してんな。
「ただ、少し考える時間が欲しいです。今日、別の世界に来て気が動転しているのもありますし。」
何とか先延ばしする理由を思いついた。実際にそれどころじゃないし。
「すまぬ、話しが性急過ぎたな。」
「そうですわお父様。アキトは知らない地に放り出されたばかり、少し落ち着く時間が必要ですわ。」
お前は話しに乗っていた方だよな。
「では落ち着いてからでいい、ゆっくり考えてみてくれ。」
「はい。」
まぁ、そう言っておけばいいだろう。どうせすぐに元の世界に戻るから。
「わたくし、暫し席を外しますわ。」
アリシアはそう言うと、部屋から出て言った。トイレにでも行ったのかもしれないが。
「アリシアから何度も話しは聞いていたのだ。」
アリシアが出ていった扉に目をやりながら、親父さんは突然話しを始めた。あまりいい予感はしない。
「だから、一度アキトには会ってみたいと思っていた。だが、別世界と言われてはそれも叶わぬと思っていたのだ。」
普通はそうだよな。
「アキトも向こうに生活があり、大切な人が居るだろう。私にとってはアリシアやエメラもそうだった。」
そうか。突然、家族が居なくなったら嫌だよな。辛いだろうし、俺には想像が出来ない。
「だから今日は、私にとっては忘れられない日になったよ。アリシアの事を含め、改めて礼を言わせてくれ、ありがとう。」
親父さんはそう言うと、頭を下げた。そこまでされるような事はしていない。
「いえ。元気そうでなによりです。アリシアから、戻った時の事は少し聞きましたから。」
「そうか。」
「アリシアは戻ったのだ。だから君もおそらく戻るのだろうと思っている。」
少しの沈黙のあと、親父さんが話しを続ける。
「俺も、そう思っていますが。」
「こんな事を言うのは心苦しいが、先ほどの話しも冗談ではない。」
・・・
「もし、戻る事が出来なかった場合、どうだろうか?」
そんな真面目な話しをされても困るな。
「その時は、俺も真面目に向き合ってみます。」
「悪いな、残った時の話しをしてしまって。」
「大丈夫です。」
アリシアが戻り、雑談をしながら食事を終えると、俺は部屋に戻って休む事にした。いろいろあり過ぎて疲れたのか、ベッドに横になったら直ぐに眠りに落ちた。
俺は目が覚めると、ゆっくりと上体を起こす。朝日が眩しく、部屋の中は灯りが無くても明るかった。
・・・
「って戻ってねぇ!!」
つまりあれだ、体感的にうっすら気付いてはいたがこれは現実なんだ。
うっすら気付いていたと言うのは嘘で、正確には気付きたくなかったんだろう。でも、体験してしまうとその淡い望みも打ち砕かれる。
ってか、これを出来るのってアイツしか居ないじゃないか。何の恨みがあって俺をこっちの世界に飛ばしやがった・・・
くそ。
まさかずっとこっちに置くつもりじゃないだろうな。
そう思っても、世界が違うのでどうしようもない。やべぇ・・・今になってかなり不安になってきた。
何故だ?
何故俺はこんな目に遭わなければならないんだ?
思い当たる節は・・・うん、無い。
「!」
考え事をしていると、突然ノックされた音に吃驚する。
「はい。」
返事をすると扉が開き、入って来たのはエメラだった。ただ、部屋に一歩踏み入れただけでそれ以上入って来る気配はなさそうだ。
「朝食の準備が出来ましたので、昨夜と同じ場所までお越し下さい。」
エメラは用件だけ伝えると一礼し、一歩下がって扉を静かに閉める。その行動に拍子抜けしてしまったが、あれが本来のエメラなのだろう。本来と言っても、ここでの役割としての。
俺が知っているのはDEWS内のエメラだから、急にあんなのを見る方が戸惑ってしまった。
「とりあえず、何も出来ないし飯でも食うか。」
朝飯を食った後は、昨日に続き屋敷の案内をしてもらい、その後馬車で街まで出かけた。
慣れない事、場所で疲れていたのか、自室に戻ると直ぐに眠りに落ちてしまった。これからどうするのかとか、考える間もなく。
-翌朝-
エメラはアキトの部屋をノックするも、反応が無い事に首を傾げる。
「返事が無いので入りますよ。」
部屋に入り、室内を確認する。
「これは・・・」
エメラは慌てて部屋を飛び出した。
暫しの後、アリシアを連れ再び部屋を訪れる。
「そう・・・きっと、戻ってしまったのね。」
「お嬢様・・・」
寂しそうに聞こえたアリシアの声に、エメラも釣られて言うとアリシアの顔を見る。その顔には思っていた以上に寂寥感が漂っていた。
そろそろエメラが来る頃かな。
そう思ってベッドから起きると見慣れた景色だった。
「あれ、戻ってら。」
そこで、見計らったように電話が鳴る。携帯には非通知の番号と表示されているが、出てみる事にした。
「あたしだ。」
「誰だよ・・・」
「夢那だ。」
・・・
うん、繋がった。絶対こいつの仕業だよ。
「お姫様との再会はどうだったー?」
「やっぱりお前か・・・」
「まぁそう言うなー。それより、お姫様と進展はあったのかー?」
電話から聞こえる声はやけに楽しそうだった。悪い意味で。
「どうでもいいだろ。」
「なーんだ。二晩も一緒に居て何もないのか、ヘタレだなー。」
お前にそんな事を言われる筋合いはない。
「そんな事より、何してくれてんだ。」
「ちょっとした検証だ。逆アリアドネの糸、的な?」
的な?じゃねぇよ、なんで最後疑問調なんだよ、アホか。
「意味がわからん。」
「お姫様を還す時にな、向こうへ渡るための小細工をしていたんだ。それをどうしても検証したくてな。」
する意味があるのか?
「ちなみに晶社にはちゃんとアリアドネの糸と同様の効果を持たせたからな。ちゃんと還ってこれたろー?まぁ、やったのはあたしだけど。」
一歩間違えばこの世界から人が一人消えるような危険な検証を、一般人でするなよ。
「俺の必要はあったのかよ。」
「ん?お姫様との感動の再開はお前しかいないだろうが。」
ムカつく・・・
「また何か企んでんじゃないだろうな。こんな検証に何の意味があるんだ。」
「意味は大いにあるぞー。あたしの知的探求心を満たすためだー。」
おい・・・
「それ、面白そうだから俺で遊んだってだけにしか聞こえないんだが?」
「何か問題が?」
・・・
「大ありだろうが!馬鹿ヤロー!!」
俺はこの巫山戯た話しに、思わず叫んで携帯をベッドに投げつけた。
終わり。
第2弾で予告したとおり、軽い話しでした。
ちょっとしたお遊び的な感じです。
本編を書いている途中から、夢那の悪戯を書きたくて考えていました。
これでDEWS関連は、おまけを含め終わりです。
ありがとうございました。
本編とはまったくの無関係なので、読まなくても問題ありません。
単なる私のお遊びです。
本編が終わったら書こうと思っていた内容です。
「・・・」
「・・・」
「・・・!!」
「何処だよ此処は!!?」
俺は昨夜、普通にベッドで寝たはずなんだ。だが、朝起きたらまったく別の場所にいる。目が覚めてから現状を認識するまでかなりの時間を要してしまった。
これは思うに、夢だろ。
そのうち、目が覚めたら、変な夢だったなと思って忘れていくだけだ。人間であるからには、誰もが、何度も、体験する事だろう。
というか、よくマンガとかでありそうな状況だな。不要になったから道中に捨てられた雑魚のような扱いだ。
あれか、これは俺がゲームのし過ぎだって事なんだろうか。まさかこんな夢を見るなんて思いもしなかったよ。
だって、舗装もされていない道路の上で目が覚めるって、そういう事だろ?
周りに見える景色には家すらない。道路から外れた場所はただの草むらだ。その先に林のようなものが見えるだけなんて、ファンタジーのマンガで出てきそうな景色だろ。
しかも、そんな場所に捨てられたように寝ている俺は、家に居た時の寝巻のままだ。これが夢じゃなかったとしたら何なんだ?
いや、夢に決まっている。
だいたい夢なんて、身体の自由が利かないんだ。だったら、早いところ意識が飛んで部屋に戻るのを待つしかない。
という事で、寝よう。
・・・
・・・
・・・
眠れん!!
しょうがない、空でも眺めているか。
澄んだように青い空には、所々に浮かぶ真っ白な雲がゆっくりと流れている。何も考えずに眺めていたら、何れベッドの上で目が覚めるだろう。
予想通り、何時の間にか意識が飛んでいたようだ。
が、もう少し微睡んでいたい気分だ。どうせ、今日は休みだしな。
そんな事を思っていると、微かに声が聞こえる。
「何で馬車を使わなかったんですかぁ。」
「何を言っていますの?馬車は行動に融通が利きませんわ。」
「街まではいいじゃないですかぁ。」
「徒歩が旅の醍醐味ですわ。」
馬車?あぁ、ファンタジーならありがちな設定だな。
「お嬢様、人が死んでますよ。」
「本当ですわ。」
寝てるだけだっての。
「レイピアの剣先で突いてみましょうか?」
「そうですわね。」
何で抜剣してんだよ・・・アホか!普通、確認するなら鞘の先で突くもんだろうが。頭のおかしい危ない奴らだな、多分。
「蛆虫とか出てきませんかね?」
「腐敗臭が漂ってないませんわ、問題ないでしょう。」
さらっと怖い事を言ってんな、こいつら。アホなんじゃないか?
「で、あの死体は最終的には埋めた方がいいですよね。」
「触りたくありませんわ。」
「えぇ・・・でもここに置いていたら通行人の邪魔ですよ。馬車が通ったら、ぐしゃっていく可能性もありますし。」
「それは、嫌ですわね。でしたら、その辺の草むらに捨ておきましょう。」
「ですね。」
恐ろしく物騒な話しをしているな。
しかし、どっかで聞いた事のあるような声なんだよなぁ。俺の気のせいか?
「あれ、この顔・・・似てませんか?」
だいぶ近付いて来たな。もう俺の直ぐ傍じゃねぇか。
「アキト!!?」
「え?お嬢様、ついに妄想で現実が見えなくなったんでぐっ・・・」
何故俺の名前を?
と思って目を開けると、見慣れた奴らが居た。
これはあれか、俺の脳が創り出したご都合世界か。何処かで気にしていたって事なんだろうか?それとも、脳が適当に存在する情報から見せているだけなんだろうか。
「うぉ・・・」
まぁいいやって思って、身体を起こすとアリシアがタックルをかましてきた。
「また会えて嬉しいですわ。」
タックルではなく、抱き着いてきたようだ。アリシアの顔を見ると、本当に嬉しそうで、目には涙がうっすらと浮かんで、頬を伝った。
これは、俺の願望なのか?
「どうしてアキトがこんなところで死んでいるんですか?」
「死んでねぇよ!ってか、こっちが聞きたいくらいだ。」
「でも、エメラの言う通りどうしてアキトが此処に居るんですの?」
「俺にも分からん。それより、もしかして此処はアリシアの世界なのか?」
「えぇ。無事に還って来れましたの。」
そうか、それは良かった。
って良くねぇ!!
アリシアが無事に戻れた事は良かったが、この状況は無いだろ。何で俺がアリシアの世界に来てんだよ!
「もしかして、わたくしに会いに来ましたの?」
「お嬢様、やけに積極的ですね。」
「五月蠅いですわ。」
お前もだよ。しかも話しを聞いてないだろ、来た理由は俺が知りたいわ!
「夜に寝て起きたら此処に居たんだよ。」
「でも道路で寝るのは良くないですよ?せめて道端で寝てください。」
それ、どう違うんだ?
「だから家のベッドで寝てたんだよ。」
「でも現状、此処に居るのですから、現実を受け止めた方がいいですわ。」
うーん・・・絶対夢だよな、これ。
そう思っていると、アリシアは意地の悪そう笑みを浮かべる。
「立場が逆になりましたわね。」
「あ、あぁ・・・」
「まずはその土塗れの姿をなんとかしないといけないですわ。」
好きでなってるわけじゃないんだがな。
「この先の教会にでも捨てていきましょうか?」
捨てるってなんだよ。ってか、右も左も分からない俺を放置していくつもりか、あのアホメイド。
「いえ、一旦家に戻りましょう。」
「えぇ、さっき出て来たばかりで格好悪いですよ、そんなの。」
何の事か分からんが・・・
「だったらエメラ一人で行ってもいいですわよ。」
「それ酷くないですかぁ、私はお嬢様のお守をルーデリオ様に仰せつかっているんですよ。」
「だから、アキトを放置しては行けないでしょう?」
「仕方が無いですね。」
俺の所為か?
俺が悪いのか?
「まずは馬車で・・・」
「歩くのが醍醐味と言ったのはお嬢様ですからね。」
それなりの距離を歩かされた俺は、先ず風呂にぶっこまれた。アリシアの親父さんには挨拶だけだったが、杖を突いて歩いているのは、どこか悪いんだろうか?
「背中流しますよー。」
「うわぁっ、え?ちょ、何で入って・・・」
まるで豪勢な部屋のような風呂場で、バスタブに浸かっていると突然エメラが入って来た。何で堂々と入って来るかな・・・
「やだなぁ、仕事ですよ。」
「俺の世界じゃそんな風習は無い!独りにしてくれ。」
「ちぇっ・・・」
ちぇって何だよ、何か企んでたんじゃないだろうな。
「エメラ、何処にいますの!?」
「やばっ。」
エメラはそう言うと慌てて去って行った。何か企んでいた方に一票だな。
「なぁ、もう少し楽な服は無いのか?」
「お父様の服に文句がありますの?そもそもそれがスタンダードですわ。」
これが普通なのか。きついし着るのも面倒臭ぇ。
「そもそも我儘が言える立場ですの?」
「いや、すまん・・・」
確かにアリシアの言う通りなんだが。これなら寝巻の方が遥かに楽だ。が、この屋敷の中をそんな恰好でうろうろする方が面倒そうだな。
「夕食までもう少し時間がありますわ。アキト用に部屋を準備させたので、まずは案内致しますわ。」
お、おぅ。
俺に部屋か。てっきり馬小屋にでも放り込まれるんじゃないかと思ってたよ。というのはマンガの弊害かもしれないな。
案内された部屋は、家の俺の部屋とは比べようもない。まぁ世界が違うからと言われればそれまでだが。
大きなベッドに一通りの家具も揃っていて、家のリビングより広いんじゃないかと思う程だった。
「客間ですが、他にも空きはあるので好きに使って頂いて構いませんわ。」
「ありがとな。」
アリシアの方を向いて言うと、優しく微笑んでくれた。そんな顔をあんまり見た事が無い気がして、気恥しさから顔を逸らした。
「知らない場所に独り放り出されると不安になって当然ですわ。わたくしは、アキトのお陰で救われましたもの。今度はわたくしが、アキトのために動いてあげますわ。」
そう言われると有難いが、俺はアリシアに対してそんな大層な事はしていない。最初の頃は適当にあしらっていたわけだし。
「悪いな。」
「気にしなくていいですわ。それより、屋敷内を案内致しますわ。」
「あぁ、助かる。」
それから屋敷内を見て回ったが、俺にとって必要なのはトイレくらいだった。最後に案内された部屋は、大きなテーブルが置いてあり、複数の椅子とその前にカトラリーが並んでいた。
「そろそろ、夕食の時間ですわ。」
うわ・・・俺はこんな形式の食事をした事が無いんだが。出来れば箸がいいな。
それから程なく、アリシアの親父さんが現れ、三人での食事になった。エメラが居ない事に対し、一瞬疑問を感じたが、そもそも従者と言っていたからこの場には居ないものなのか?と、勝手に納得した。
「アキトと言ったな。」
「はい。」
うわぁ、緊張するわ・・・
「アリシアから話しは聞いている。」
どんな話だよ。まったくいい予感はしない。そう思ってアリシアの方を見ると、顔を逸らしやがった。このやろう・・・
「あの、すいません。」
とりあえす先に謝っておけ。
「何故謝る?」
しまったぁ。そっちに来たか。
「いえ、何か迷惑になるような事をしてしまったんじゃないかと・・・」
何をしたかまったく不明だが、とりあえずそう言ったんだが、親父さんはきょとんした後に笑い出した。
「ははは、そんなに畏まらなくてもいい。」
と言われても無理だっての。
「知らない世界に放り出されたアリシアを助け、こちらに戻って来れるよう獅子奮迅の活躍だったと聞いている。」
勝手に盛ってんじゃねぇ!
そう思ってまたアリシアの方を見るが、こちらを見ようともしない。
「体調を崩した時も心配して見舞いに来たり、優しい言葉を掛けてもらったりしたとも聞いている。それに、アリシアが此処に戻れるまで力を尽くすと寄り添ってくれたそうじゃないか。」
盛り過ぎだろうが!!
「そんなアキトに、アリシアも惹かれ、お互いに手を取り合って乗り越えたとエメラも言っていたぞ。」
あの女ぁ・・・
「それはエメラの妄言ですわ。」
その通りだ。もっと言ってやれ。
「本人は気付かずとも、周りにはそう見えていたという事だろう。」
聞く気ねぇよこのオヤジ・・・
「アリシア本人も、随分と心の支えになったようだ。私は父親でありながら何も出来なかった、ありがとう。」
「いえ、そんな大層な事はしてませんよ。」
本当にな。女性に手を上げる事はしないが、何とかあのアホメイドをしばく方法はないかな。
「ところで、帰る当ては無いのだろう?」
「はい、今のところは。」
「ふむ・・・私共も巻き込まれた側だからな、何か力になれる事があればいいのだが。」
と言って親父さんは神妙な面持ちで言った。そこまで心配してくれるのは有難いが、俺は今でも夢だと思っているので、そこまで問題視していない。
「アキトさえ良ければ、暫くここに滞留してはどうかな?」
「あの、行く当てもありませんので、助かります。」
本当にな。
こんな世界で放り出されても逆に困る。
「アリシアに対する態度からすると、貴族としても責務を果たせると私は思っているんだが。」
「お父様!!」
なんの話しだ?アリシアには伝わっているようだが、俺には分からない。もう少し分かり易く話してくれないかな。
「私はもう出自などには拘らん、そう言っているんだ。今後の状況も見はするが、私はこの好青年でも構わないと思っている。」
「勝手な事を言わないでください。」
だからなんの話しだ?
「実際のところはどうなんだ?」
親父さんがアリシアに問い詰めるように聞くと、アリシアは困ったような顔をする。
「わたくしは、その・・・アキトなら構いませんわ。」
「と、家の娘も言っているがアキトはどうだ?」
まったく分からん。どうだ?じゃねぇよ。分かるように言え。
「何の事ですか?」
もう聞くしかない。曖昧に答えてろくな事にならなかったら困るし。
「何って、婚約に決まっているだろう。」
・・・
は?
婚約!?
膨らませ過ぎだろうがっ!
何故いきなり婚約の話しになってんだよ、おい。馬鹿なんじゃないか・・・
「あの、俺まだ16なんですが・・・」
「何を言っている、16なら遅い方だぞ。」
あぁ、そうか。
そうだよな。
世界が違えば、習慣も違うんだよな。ってそういう問題じゃない!
「それとも、アリシアでは不服か?」
あぁ来た、そういうの聞くのはずるいよなぁ。不服は無いし嫌いでもない。けど、そのニュアンスは汲み取ってくれそうにないよな。
「いえ、そんな事はありません。実直で、気も回る素晴らしい女性だと思っています。」
なんて思ってないが。確かに、真面目なのは分かっている。見た目も悪くない。たまにアホだけど許容範囲だろう。だが、俺が好きなのは綺迦だからな。それを此処で言っても仕方のない事だ。
「良かったなアリシア。」
「はい。」
おい・・・勝手に納得してんな。
「ただ、少し考える時間が欲しいです。今日、別の世界に来て気が動転しているのもありますし。」
何とか先延ばしする理由を思いついた。実際にそれどころじゃないし。
「すまぬ、話しが性急過ぎたな。」
「そうですわお父様。アキトは知らない地に放り出されたばかり、少し落ち着く時間が必要ですわ。」
お前は話しに乗っていた方だよな。
「では落ち着いてからでいい、ゆっくり考えてみてくれ。」
「はい。」
まぁ、そう言っておけばいいだろう。どうせすぐに元の世界に戻るから。
「わたくし、暫し席を外しますわ。」
アリシアはそう言うと、部屋から出て言った。トイレにでも行ったのかもしれないが。
「アリシアから何度も話しは聞いていたのだ。」
アリシアが出ていった扉に目をやりながら、親父さんは突然話しを始めた。あまりいい予感はしない。
「だから、一度アキトには会ってみたいと思っていた。だが、別世界と言われてはそれも叶わぬと思っていたのだ。」
普通はそうだよな。
「アキトも向こうに生活があり、大切な人が居るだろう。私にとってはアリシアやエメラもそうだった。」
そうか。突然、家族が居なくなったら嫌だよな。辛いだろうし、俺には想像が出来ない。
「だから今日は、私にとっては忘れられない日になったよ。アリシアの事を含め、改めて礼を言わせてくれ、ありがとう。」
親父さんはそう言うと、頭を下げた。そこまでされるような事はしていない。
「いえ。元気そうでなによりです。アリシアから、戻った時の事は少し聞きましたから。」
「そうか。」
「アリシアは戻ったのだ。だから君もおそらく戻るのだろうと思っている。」
少しの沈黙のあと、親父さんが話しを続ける。
「俺も、そう思っていますが。」
「こんな事を言うのは心苦しいが、先ほどの話しも冗談ではない。」
・・・
「もし、戻る事が出来なかった場合、どうだろうか?」
そんな真面目な話しをされても困るな。
「その時は、俺も真面目に向き合ってみます。」
「悪いな、残った時の話しをしてしまって。」
「大丈夫です。」
アリシアが戻り、雑談をしながら食事を終えると、俺は部屋に戻って休む事にした。いろいろあり過ぎて疲れたのか、ベッドに横になったら直ぐに眠りに落ちた。
俺は目が覚めると、ゆっくりと上体を起こす。朝日が眩しく、部屋の中は灯りが無くても明るかった。
・・・
「って戻ってねぇ!!」
つまりあれだ、体感的にうっすら気付いてはいたがこれは現実なんだ。
うっすら気付いていたと言うのは嘘で、正確には気付きたくなかったんだろう。でも、体験してしまうとその淡い望みも打ち砕かれる。
ってか、これを出来るのってアイツしか居ないじゃないか。何の恨みがあって俺をこっちの世界に飛ばしやがった・・・
くそ。
まさかずっとこっちに置くつもりじゃないだろうな。
そう思っても、世界が違うのでどうしようもない。やべぇ・・・今になってかなり不安になってきた。
何故だ?
何故俺はこんな目に遭わなければならないんだ?
思い当たる節は・・・うん、無い。
「!」
考え事をしていると、突然ノックされた音に吃驚する。
「はい。」
返事をすると扉が開き、入って来たのはエメラだった。ただ、部屋に一歩踏み入れただけでそれ以上入って来る気配はなさそうだ。
「朝食の準備が出来ましたので、昨夜と同じ場所までお越し下さい。」
エメラは用件だけ伝えると一礼し、一歩下がって扉を静かに閉める。その行動に拍子抜けしてしまったが、あれが本来のエメラなのだろう。本来と言っても、ここでの役割としての。
俺が知っているのはDEWS内のエメラだから、急にあんなのを見る方が戸惑ってしまった。
「とりあえず、何も出来ないし飯でも食うか。」
朝飯を食った後は、昨日に続き屋敷の案内をしてもらい、その後馬車で街まで出かけた。
慣れない事、場所で疲れていたのか、自室に戻ると直ぐに眠りに落ちてしまった。これからどうするのかとか、考える間もなく。
-翌朝-
エメラはアキトの部屋をノックするも、反応が無い事に首を傾げる。
「返事が無いので入りますよ。」
部屋に入り、室内を確認する。
「これは・・・」
エメラは慌てて部屋を飛び出した。
暫しの後、アリシアを連れ再び部屋を訪れる。
「そう・・・きっと、戻ってしまったのね。」
「お嬢様・・・」
寂しそうに聞こえたアリシアの声に、エメラも釣られて言うとアリシアの顔を見る。その顔には思っていた以上に寂寥感が漂っていた。
そろそろエメラが来る頃かな。
そう思ってベッドから起きると見慣れた景色だった。
「あれ、戻ってら。」
そこで、見計らったように電話が鳴る。携帯には非通知の番号と表示されているが、出てみる事にした。
「あたしだ。」
「誰だよ・・・」
「夢那だ。」
・・・
うん、繋がった。絶対こいつの仕業だよ。
「お姫様との再会はどうだったー?」
「やっぱりお前か・・・」
「まぁそう言うなー。それより、お姫様と進展はあったのかー?」
電話から聞こえる声はやけに楽しそうだった。悪い意味で。
「どうでもいいだろ。」
「なーんだ。二晩も一緒に居て何もないのか、ヘタレだなー。」
お前にそんな事を言われる筋合いはない。
「そんな事より、何してくれてんだ。」
「ちょっとした検証だ。逆アリアドネの糸、的な?」
的な?じゃねぇよ、なんで最後疑問調なんだよ、アホか。
「意味がわからん。」
「お姫様を還す時にな、向こうへ渡るための小細工をしていたんだ。それをどうしても検証したくてな。」
する意味があるのか?
「ちなみに晶社にはちゃんとアリアドネの糸と同様の効果を持たせたからな。ちゃんと還ってこれたろー?まぁ、やったのはあたしだけど。」
一歩間違えばこの世界から人が一人消えるような危険な検証を、一般人でするなよ。
「俺の必要はあったのかよ。」
「ん?お姫様との感動の再開はお前しかいないだろうが。」
ムカつく・・・
「また何か企んでんじゃないだろうな。こんな検証に何の意味があるんだ。」
「意味は大いにあるぞー。あたしの知的探求心を満たすためだー。」
おい・・・
「それ、面白そうだから俺で遊んだってだけにしか聞こえないんだが?」
「何か問題が?」
・・・
「大ありだろうが!馬鹿ヤロー!!」
俺はこの巫山戯た話しに、思わず叫んで携帯をベッドに投げつけた。
終わり。
第2弾で予告したとおり、軽い話しでした。
ちょっとしたお遊び的な感じです。
本編を書いている途中から、夢那の悪戯を書きたくて考えていました。
これでDEWS関連は、おまけを含め終わりです。
ありがとうございました。
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そっかー、こうかー(^^)
いやー、僕個人の希望としては、
アキトを挟んで、田舎娘と辺境娘のバトルが見たかったんだよねー(^^)
ただ、そうなると、まーまーの文字数になるから、オマケって訳にはいかんかもね(^^)
お疲れ様でした(^^)
さこゼロ様
早速ありがとうございます。
確かにそのバトルは今の結末からは盛り上がりそうですが、
多分私の体力がありません。笑
前からユメナの悪戯を書きたかったので、こうなりました。
とても面白かったです(^^)
色々な事が絡み合ってて、それをちゃんと最後まで書き切って、本当に作者さまには尊敬しかありません!
確かに個人的には思うところは多々あります。
何と言うか…それでもマリアには此処に残って、アキトたちをかき回して欲しかったし、そもそもアヤカの父上を攻略出来るのかも疑問です。姫は結局、フラグ立たんし、妹は最後までツンのまま…
ですが、声を大にしてひと言だけ…
本当にお疲れ様でした(^^)
追伸:その技術ですが…
ゲームを介せばアキトたちも、アリシアの世界に行けるのでしょうか?
なんちゃって(^^)
さこゼロ様
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
面白かったとのコメント、とても嬉しいです。
確かに、姫と月下に関してもいろいろ考えていた事はあります。本当は姫が
アキトに最初にちょっかい出す予定だったとか。書ききれなかったというのもありますが、
結果としては今の位置も楽しいなと思っています。いろいろボツになった
思惑と言うのはありますが、今の状態もありかなと思っています。
ネタバレになりますが、追伸に関しての内容は、もともと考えていた事なので、
書いている途中です。もしもシリーズなのですが。笑
遠くないうちに最後の遊びとして載せる予定ではいます。
流石にアヤカさんは住む世界が違うかー(^^)
これはアキトにはどーにも出来んよなー…マリアかアヤカは甲乙付け難いんだよねー(^^)姫はフラグ立ちそうで立たんから、まーしゃーない…
さこゼロさま
いつもありがとうございます。
まぁ、そうですねぇ。この辺の件は前々から考えていて、
やっとたどり着いた感じです。どうなるにせよ、お付き合い頂けたら
ありがたいです。