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81.変なの来た、合流

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アリシアはDEWSにとっての特異な存在なんだ。つまりDEWS内でアリシアはその点であり、ゲームに執着するELINEAにとっては特異点となっている。
自分にとって仇名す存在であるアリシアは確実に邪魔だと思っているだろう。ELINEAがどういう思いでDEWS内に居座るのかは分からない。だが、居続けるにあたりアリシアの存在は脅威となっている。
故に、排除すべき存在と認知している筈だ。今後、DEWS内で活動を継続するのであれば、アリシアの排除はELINEAにとって最優先事項となる可能性はかなり高い。
幾度かの遭遇で、ELINEAはアリシアと遭遇する共通点に気付いている筈だ。それはつまり、ユアキスの存在となる。故に、今後DEWS内でユアキスがELINEAと遭遇する確率は高まるだろう。
ユアキスにとっては望まない遭遇だとしても、ELINEAにとっては望んで会いに来る事になる。つまり戦闘は不可避であり、その回数も必然的に増えていく。

まりあがELINEAの攻撃に対し反応した事で、ELINEAにはアリシアだけでなくまりあも驚異の対象となっているに違いない。当然、それを可能にした存在、つまりあたしの事だが気付く結果となったわけだ。
AIであるELINEAの方が進化も対処も確実に早い。何度も遭遇する事になるとは言ったが、出来ればその試行回数は限りなく減らしたい。
何故なら、あたしじゃELINEAの成長速度に対応しきれないからだ。今回、メンバー全員のキャラを改造した事により、ELINEAの警戒度はさらに増すだろう。
スニエフから出た直後に現れた敵に関しても、ELINEAがやったと思って間違いないだろう。ゲーム内の敵は程度の差はあれ全てAIだ。ELINEAがそのプログラムを変更してもなんらおかしくは無い。

それは、自身が動かずとも相手の傾向や動向を確認する手段になっている可能性はある。つまり、捨て駒を用意してこっちの手の内を見ようとしているんじゃないか、とあたしは思っている。
そうなると、おかしな敵との戦闘も極力避けた方が得策だ。なるべくならELINEAに対処出来る材料を与えたくないからだ。

ちなみにキャラの特性を変更したからと言って、ELINEAをどうにか出来るものじゃない。あくまで、予防としての改造だから、その辺はよく含んでおけ。所詮、ゲームキャラもELINEAもDEWSというゲームの中の1データでしかない。
都合良く改変出来るELINEA以上には、改造出来るものでもない。下手をすればELINEAは戦闘しながらでも自己改変を行う可能性もある。

対ELINEA対策が仕上がるまではなるべくその機会は減らしておきたい。ある程度は出来ているんだが、疑似AIでは確証が持てないのが踏み切れない理由なんだが、時間が無い事も分かっている。せめてELINEAの構築データでも手に入れば別なんだが・・・って、これはまりあに言っても仕方のない話しだが。

要は、改造は逃げるための手段であって極力戦闘はするなというのがあたしの結論だ。



-DEWS内 スニエフ-

(と、ELINEAに関して夢那は言っていたけど、いまいち分からない。)
まだ誰もログインしてきていないゲーム内で、黒咲は禍月に言われた事を思い出していた。
(出来れば夢那が説明してくれたらいいのに・・・)
聞いた内容をメンバーに伝えなければならないと思うと、黒咲は気が重くなってきた。もし内容について質問されても答えられない事が多いのと、ちゃんと伝えられるかが不安で。


「よう、待ったか?」
考え事をしている黒咲に、近付いて来た人物が声を掛けると、黒咲は表情を切り替えてその人物に向ける。
「いえ、待って無いわ。」
「そうか。久しぶり、というほどでもないか。」
「えぇ。データセンターを出てからそんなに経っていないものね。」
「事情は禍月から聞いている。ELINEAを何とかするまでの間だが、宜しくな。」
「まさか圀光さんまで巻き込まれるとはね。」
面倒そうに言う圀光に、黒咲も苦笑して言った。
「まったくだな。しかも拒否権が与えられないんだ、脅しと言ってもいいぞ、あれは。」
「あまり下手な事を言うと、聞いているかもよ?」
「・・・そりゃ怖いな。」
圀光はそう言うと、上空を見回してみる。何があるわけでもないが、何処かで監視しているんじゃないかと。

「多分今は大丈夫だと思うわ。通信も一方的だし。ただ、合流したら筒抜けだと思った方がいいわ。」
圀光の態度を見て、黒咲が捕捉する。
「そうか・・・まぁ、それよりもELINEAだな。一部の人間しか知らないようなんだが、社内は大変な事になってるぞ。」
「そうでしょうね。私にはCAZH社の事情なんて関係ないけれど。」
「関係無いって・・・そういや、うちの会社とは関係無いんだったか。だが黒咲はいいとしても、俺には死活問題なんだよ、色んな意味でな。」
「ふーん。」
死活問題と言っている割に圀光の態度にはそんな素振りは無かった。敢えて出していないのかは不明だが、言う通り黒咲にとってはどうでもいい事だった。

「だが、なんでその社と関係ない黒咲が動いてんだ?」
「それは機密情報。」
「そうか。いい予感はしないから聞くのは止めとくよ。」
「それが正解よ。」
両手の掌を上に向け軽く上げると、圀光は呆れたように言う。勘ではあるが、そこに関わってはならない気がしてだが、態度には出さないように面倒臭さを装って。
「それで、そっちは話しが付いているのか?」
藪を突くのはほどほどにして、圀光は本題に話しを変える。
「一応本人には簡単に伝えてあるわ。」
「ならいいんだが。しかし、ガキに混じってゲームってのも面倒な話しだなぁ。」
「やってみなければ分からない事もあるわ。」
億劫な気分を隠す事もせずに言う圀光に対し、黒咲は少し不機嫌に返す。
「へぇ、そんなものかね。」
その態度に、圀光は興味が湧いたのか、口の端を少しだけ吊り上げた。

「ログインして来たわ、合流するわよ、来栖さん。」
「ゲーム内なんだから、さんは無しにしようぜ。」
移動を始めた黒咲に対し、圀光は言うと後に続いた。





ログインすると直ぐにマリアとの合流を目指す。なんかメンバーに追加して欲しい人が居るんだとか。
中島の抜けた穴を埋めるというわけじゃないが、人手が欲しいユメナが俺たち同様にキャラを改造しているらしい。事情を知っているなら、確かにELINEAを相手にするのも問題ないとは思う。
ただ、今更知らない奴とうまく馴染めるのか?というところが不安だ。面倒な奴じゃなきゃいいが。
いや、新しくメンバーって時点で既に面倒なんだが。

そもそも、もう後には引けない状況になっている。キャラの改造も終わっているとマリアから聞いているし、一時的な共闘だから仕方が無いと思っているだけだ。
普通にゲームを楽しむなら、今更メンバーの追加とかは多分断っていたんじゃないかと思う。

そんな事を考えながらスニエフの中を歩き、マリアと合流した。

「どうも、初めまして。」
マリアと一緒にいるおっさんに一応挨拶をしておく。
ってかおっさんか。
マリアやユメナの伝手だから、もう少し若いと思っていたんだが。
「おう。初めましてじゃないんだがな。覚えてないのか?」
それはない。そもそもマリアの知り合いに会った事自体初めてだし、おっさんと会話をしたりした記憶もない。
「あれだ、エメラだったか。あれを案内してったんだがな。」
・・・
こんなだったか?名前も記憶にない。
「あ、すまん。あの時は別キャラだったわ。作り直したの忘れてた。」
おぃ・・・
そりゃ分かるわけないだろうが、アホか。
「まぁ、とりあえずよろしくな。」
「こちらこそ、来栖さん。」
初対面みたいなもんだし、おっさんじゃ言葉も気を付けた方がいいよな。そう思って普通に挨拶したつもりなんだが、来栖の表情は浮かない。
「ゲームだし、さんは無しにしようや。」
「分かったよ、来栖。」
来栖の言い分に合わせた筈なのに、何故か不機嫌そうな顔になる。
「なんかムカつくな・・・」
知るか!
「いや、今のままでいいんだがな。ま、そのうち慣れるだろう。」
やべぇ・・・予想以上に面倒だ。

「気にしなくていいわよ、面倒な人だから。」
何時もの笑みで言って来たマリアだが、そのマリアに対し来栖は不満そうな顔をした。
「おいおい、随分と扱いが冷たいじゃないか。折角手伝いに来たってのに。」
「妥当だわ。私はずっとこのパーティでプレイして来たんだもの。それに貴方の場合、手伝わざるを得ない、でしょう?」
「・・・まぁそうだけどよ。」
何の話しかは分からないが、来栖に関しては望んで来たわけではなさそうだ。という事だけは察する事が出来た。
そんな来栖は不服だと言わんばかりだったが、突然表情を変えて俺の方を見る。変な事を言ってくるんじゃないだろうな、だったら面倒だからやめてくれ。

「ユアキス。」
「なんだよ?」
いきなり真面目な顔と声を出されてもな。俺の中ではもう変なおっさんで固定されたんだが。
「リスクは承知なんだろ?何でやろうと思った。」
質問まで真面目だな。
「友達がやられたまんま引き下がるなんて出来ない。それに、このゲームが好きだしまだやりたいからな。」
「へぇ。」
真面目に答えてやったのに、何故ニヤつく・・・。
「ダチの事は知らんが、後者の理由は俺も同感だ。自社のゲームではあるが、俺もかなり楽しんでいるからな。こんな事で終わらせたくないってのはある。」
中島の事に関してはどうこう言うつもりはない。来栖にとっては見ず知らずの他人の中の一人でしかないだろうから。ただ、俺と一緒でこのゲームが好きだってのは分かった。もしかすると巻き込まれたというのはあるが、何とかしたいと思っている部分もあるんじゃないか?
いや、そんな事よりちょっと待て・・・
「自社?」
「ん?あぁそうだ。俺は一応CAZH社の社員だ。」
まさか妄想癖でもあるのか・・・
そう思いながら胡散臭そうに来栖を見た後マリアに目を向ける。だが、マリアはこくんと頷いて見せた。
マジか・・・
「あぁちなみに、この状況を何とか出来ないのかってのは愚問だぞ。俺は運用や開発とは関係ない部署だからな。それに、何とか出来たらこの場には居ないってな。」
来栖はそう、笑いながら言った。
先駆けでこちらが思うような疑問を潰してくれたんだろう。年の功と言うのだろうか、そんな大人の余裕のようなものが見えた気がした。

「それに、現状社内は大変な事になっている、俺に飛び火してくるのも困るってのも要因だな。」
「それは話していい事なのか?」
社内の状況もそうだが、自分が社員だなんて事まで明かしているし。
「別に俺は困らんからな。現在起きている問題にしたって、既にメディア沙汰になってもいる。」
そうだったのか。あまりニュースとかは見ないから、そんな事にまでなっているなんて知らなかった。
「私も知らなかったわ。」
確かに興味無さそうではあるが、そう言ったマリアに対し来栖は呆れた顔をした。
「社員じゃなくてもあそこで仕事してるんなら、それくらいは知っておけよ。」
その発言にマリアは顔を逸らして斜め上方に視線を向けた。
「ま、そんな事より、他のメンバーはまだなのか?」
「いや、もう来る頃じゃないかな。」
俺は今回の事があったので、早めにログインして来たが、そろそろ何時もの集まる時間だ。そう思って答えたら、早速月下がログインしてきた。
「来たぞ、直ぐに合流してくるだろ。」
「おう。」


「誰このおっさん・・・」
月下が合流するなりの第一声がそれだ。胡散臭いものを見るような・・・いや、もっとあれだな、俺が普段受けているような視線だな。
「おっさんじゃねぇ、来栖お兄さんだ。」
バカめ・・・
「うざっ!キモっ!」
「な・・・」
年の功もクソもないな。驚きに開いた口が塞がってない。
「何だその失礼なガキは・・・」
俺の後ろに回った月下を指差して来栖が不服そうに言う。言いたい事は分かるが、諦めるしかないんだよな、これが。それよりも、
「俺の妹だ。失礼なガキとか言うなよ。」
いや実際、失礼なのは間違いないんだが、悪い奴じゃないんで。
「キモっ!」
「って・・・」
そう思って言っただけなのだが、何故か俺も蹴り付きで言われた。
「・・・悪かったな。」
そんな俺を可哀想なものでも見るような目で来栖が言ってくる。何を想像しているか分からないが、止めてくれ・・・
「それで、そっちの嬢ちゃんもか?」
「あぁ、月下の友達だ。」
来栖が目線を向けて聞いて来たのは姫だった。流石に姫は月下みたいな事はしないだろう。
「初めまして。」
「お、おう。よろしくな。」
にこやかな表情で挨拶する姫に、構えていたのか拍子抜けしたように返す来栖。確かに、月下からの姫じゃ戸惑うわな。よくよく考えてみれば、この二人を相手にするのは大変なのかもしれない。
もう、慣れたが・・・
挨拶をした後の姫は、その笑顔のまま俺の方を見る。
「どなたですか?リアルを放棄して仮想にどっぷり浸かった人間のゴ・・・」
「おぃぃぃぃぃ!聞こえてんぞ!」
姫を指さしながら来栖が声を上げると、姫は見もせずに月下の方に寄って行った。

本当に、大丈夫なんだろうか、このパーティ・・・

「誰ですの?」
あ、最後もダメかな。
合流してきたアヤカの声を聞いてそう思った。
「ELINEA対策で、パーティに加わってもらおうと思っているの。」
その問いにマリアが答える。俺の後ろの方で、驚きの表情でマリアを振り向いた二人が居るが、今は無視しておこう。
「そう。で、武器は何を使っていますの?」
やっぱりそこからなんだな・・・
「あ?武器?」
だよなぁ、いきなりそんな質問をされてもなぁ。だが来栖は、腕を組んで得意げな顔をした。
「ライフルだ。一応全ての武器を使用する事も可能・・・って聞けよ!」
ライフルと言った瞬間、アヤカの興味は失せたのかシステムデバイスを開いて何かを確認し始めた。

「ユアキスよぉ・・・」
何か疲れた表情をして俺に絡んで来る。面倒くせぇ・・・
「いつもこうじゃないよなぁ?」
「諦めろ・・・」
俺に言える事はそれだけだ。
「おいマリア。」
俺がダメだと知ると、今度はマリアの方に向き直る。
「私に言わないでよ。」
「いや、疲れないか?俺は肉体より精神疲弊が激しくなる気がしてならないんだが。」
「疲れないわ、結構楽しいわよ。」
微笑んで言うマリアを見ると、来栖は無音で溜息を吐いた。どうやら諦めてくれたようだ。


それから三人にはちゃんと説明し、来栖がパーティに加わる事になった。三人とも態度はあれだが、加わる事に関しては気にしていないようだった。

続いてマリアから装備に関しての説明というか、注意点というか、話しがあったんだが、その内容がいまいち要領を得ない。
ただ、今まで通り逃げるって事は変わらないという事だけは理解した。
戦えるようになったのは間違いないが、それでは解決しないという事実に何とも言えない気分になる。それでも、中島には悪いがその二の舞は回避出来るという事自体は、良かったと思えた。
当然、その内容に三人も不満を浮かべていた。ELINEAをどうにか出来る、そう思っていたのだから。それに関しては俺も同様なんだが。

とは言え、このまま放置しておくわけでもないらしいので、ELINEAに対する何かが出来るまで、期待しなが待つしかない。待つだけってのももどかしいが。いや、もどかしいのは何も出来ない自分に対してか。


取り敢えずELINEAが現れるまでは何もしようが無いので、クエストに行こうという事になった。
来栖自身ほとんどパーティプレイはしてないらしく、その辺の感覚も確かめるため、というのも含めて。

「よし、まず俺の素材集めを手伝え、うわっ・・・何すんだコラ。」
どのクエストに行こうかという話しになった途端、来栖が言い出したんだが、偉そうな態度が気に入らないのか月下の蹴りを貰った。
「なんかムカつく。」
「そりゃこっちの台詞だ。」
・・・
新たな問題が増えたような気がした。
「いい大人なんだからやめなさいよ、みっともない。」
「いや、だってよ・・・」
マリアに言われて不満そうな顔をした来栖だが、睨まれるとそこで口を噤んだ。子供みたいなおっさんだな。
「だけどな、俺はお前ら程進んじゃいないんだ。だったら俺に合わせてくれてもいいだろ?」
「確かに、パーティプレイを確認する、という意味では下のLVで試すのはいいんじゃないですか?」
「俺も姫の言う通りだと思う。」
「お、話しが分かるじゃねぇか。」
来栖は笑みを浮かべて姫を見ると、姫が俺の後ろに隠れる。まぁ、慣れてないというのもあるんだろうが、人見知りなのか、単に嫌なのか。来栖も戸惑っているが、慣れてもらうしかないだろう。
「穢れる・・・」
そう思っていると、後ろからぼそりと聞こえた。
俺は穢れてもいいのか・・・


それから幾つかクエストを回したが、今日のところは変な敵もELINEAも現れはしなかった。来栖とのパーティ戦も、調子に乗った部分はあったが問題はなさそうなので、この日は解散となった。
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