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66.そういうんじゃない、同情

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-CAZH社 自社データセンター サーバールーム管理室-


「チート万歳!」
禍月は諸手を上げて大きく言った。八鍬も美馬津も、その行動に驚くと手を止め禍月の方を見るが、直ぐに呆れた表情になる。
「何を堂々と犯罪宣言してるんだよ。」
「アホか。ここは既に無法地帯だろー。」
当の禍月も呆れた顔を美馬津に向け言った後、ニヤリと笑って見せる。突っ込んだ美馬津も言われるとなるほど、という顔をしたが直ぐに真面目な顔になった。
「あのな、だからと言ってゲーム内にまで影響を及ぼして良いわけじゃないだろう。」
「勘違いするなー。あたしはお姫様の武器の話しをしているんだ。」
「あぁ、例のレイピア。」
禍月はプレッツェルを振りながら得意げに頷く。

「今までの物質転送プログラムを大幅に改良した結果だ。転送する際に付加される効果が格段に違うぞ。」
「それ、強化してどうするんだよ、危ないだけじゃないか・・・」
呆れと懸念を口にする美馬津だが、八鍬は腕を組んで禍月を見据える。その真面目な顔に気付くと、禍月も八鍬の方に向きなった。
「何かあるんだろう?」
だが禍月は、八鍬の問いにいつものやる気の無さそうな顔になると、プレッツェルを銜えて両手を頭の後ろで組んだ。
「知らん。」
「なんだよそれ。」
美馬津も、八鍬の態度に何かあると思ったが、思い過ごしだったかと力が抜ける。
「ただ、あたしはまりあの事を信じている、それだけだ。」
「そうか、好きにすればいい。」
禍月の言っている内容は、八鍬にとって意味は分からなかったが、それだけ言うとふっと笑った。
「ちょっと主任、いいんですか?」
「ああ。」
美馬津も話しの内容は分からなかったが、八鍬のように悟った態度になる事は出来なかった。

「そんな事よりあっきー、そっちの方は進んでいるんだろうなー?」
その話しはもういいとばかりに、禍月は話題を変える。
「まぁ、概ね出来ているけど。」
「なら後で確認させろー。」
禍月は不敵な笑みを浮かべるが、美馬津は不安な顔をする。
「それはいいけど、問題は検証出来ないところなんだよな。」
「結果も確認出来ないしなー。」
「そこな。逆は成功の確認が出来るけど、これはどうにもならない・・・」
それが一番の不安要素だとばかりに、美馬津は顔を顰める。

「ちょっと待て。」
美馬津の不安などどうでもいいとばかりに、禍月がディスプレイに目を戻すとある事に気付いて声を上げる。八鍬も美馬津も怪訝な顔で、次の禍月の言葉を待った。
「渦中のアレを発見だー。」
楽しそうに言う禍月に、美馬津は席を立ってディスプレイを確認しに動いた。
「あ、ELINEAじゃないか。」
美馬津が見たときには、ELINEAがちょうどユアキスのパーティーメンバーに近付いたところだった。
「確かに、ネットでもかなり話題になってるよね。」
「まぁなー。」
禍月は適当に相槌を打ちながらパネルキーボードを操作していく。

「まりあ、聞こえるか?」
禍月がディスプレイに話し掛け、少し間をおいて応答が返ってくる。
<聞こえてるわ。ELINEAの事かしら?>
「そうだー。」
<分かってるわよ、関わらないようにすればいいんでしょ。>
「そうなんだが、ちょっと面倒な状況になっててなー。」
禍月は多少声を低くして言うと、黒咲はその雰囲気に聞き返す事はせず、無言で続きを待った。
「実はELINEAはチートをしているみたいでなー。」
<チート?>
「あぁ、不正改造。本来、プレイヤー出来る行動の範囲を、その改造によって超えてプレイしていると言ったら分かるかー?」
<そんな事が可能なのね。>
何処か落ち着いた黒咲の反応に、禍月はまだ理解出来ていないんじゃないかと頭を捻る。
「例えばそうだなー、例の強制ログアウトがあるだろー?」
<え?えぇ・・・>
「プレイヤーが意図的にあの動きと強制ログアウトを出来るとしたらどう思う?」
<それは、危険じゃない・・・って、ELINEAがそれを出来るって事?>
「それが出来るかどうかはわからんが、似たようなものかなー。」

<それで、私は何をすればいいの?>
やっと理解してくれたようなので、禍月は話しを進める事にする。
「それをネタに、ELINEAを追い払ってくれればいい。」
<ネタにって言われても・・・>
今までゲームに触れて来なかった黒咲にとって、その行為も説明も、なかなか理解するのが難しいようだと禍月は感じた。が、それは黒咲の問題でしかないとも。
「大丈夫だー。少なくとも周りの奴らは好きでゲームしているんだ。チートという単語さえ出せば、後は勝手に盛り上がる。」
<そういうものなの?>
「まぁなー。」
<分かったわ。>

「どうせもうすぐ消されるAIに、そこまでする必要があるのか?」
禍月が黒咲との会話を終えたのを確認して、美馬津は今の内容について疑問を口にする。
「だからだろー。次に何をしでかすか分からない爆弾には、極力関わらない方がいい。本社が目を付けているなら尚更だろー。」
「確かにそうだけどさ。」
美馬津は納得するも、やはりそこまで警戒する必要性は感じなかった。
「ふむ。私はこのAI、嫌な感じがするがな。」
「お、さすがだなーしゅにん。実はあたしも同じ意見だ。」
「え、主任もですか・・・」
腕を組んで神妙な顔付きで言う八鍬に、禍月はにやりと笑って同意する。
「まぁ、勘でしかないがな。」
八鍬は付け加えて言うと、勘だけで物事を図るなど、管理者としても技術者としても失格だなと自嘲する。その勘に、美馬津も多少は不安を抱かない事も無かったが、二人が気にするほどの事かは、疑問でしかなかった。





「あの、タッキー・・・」
スニエフで雑談をしていると、何時か現れた女の子がタッキーに近付いて声を掛けている。いっその事、マリアよりあっちにアタックした方が可能性はあるんじゃないかと思えた。
「あ、久しぶりー。でもごめんね、空きはないよ。」
「え・・・」
タッキーは普通に話し掛けただけなんだが、何故かELINEAは驚き戸惑っている。
しかし、髪や肌ってあんな色だったかな・・・確か髪は水色だったような?あれ、今の銀髪だったっけ?
興味が無かったので覚えていない。ただ、透き通るような白い肌は、違ったように思う。俺らとそんな変わらなかった気がするからだ。その時に今と同じ見た目だったら、インパクトがあるから記憶に残ると思うんだよな。

「そんなに見つめるなんて、私にはもう興味が無いのね・・・」
隣に来たマリアが、小さな声で悲しそうに言った。
「あのな・・・」
「ふふ、冗談よ。」
「分かってるよ。」
俺は呆れて言うと、マリアの方に目を向ける。そのマリアが、睨むようにELIENAを見ていたのに驚いた。俺は初めて、マリアのそんな顔を見た気がする。ELINEAに何かあるんだろうか?
タッキーに話し掛ける女子に対してどうこうという思いは無いのだけは分かるが。

「どうしたの?驚いて。」
ELINEAの態度に、タッキーは首を傾げて言う。
「あ、いえ。私・・・」
「変なの。空きが出来た時に連絡するから、また今度ね。」
「うん。他に人が居なくて、ログインしているのがタッキーだけだったから、来てみただけなの。」
うん。マリアよりELINEAの方が合っている気がする。ただなぁ、そうなるとこっちのパーティに参加しなくなる可能性も高いよな、タッキーの場合。
「そっかぁ。でも僕じゃどうにも。」
と言ってタッキーが俺の方を見る。
見るな。
「能天気な八方美人が抜ければ解決・・・」
・・・

姫は何故俺の近くでぼそりと言うのか。
それよりも、今更知らない奴が入って来る方が、俺としてはやりづらいんだがな。
「あ、大丈夫。誰か、探してみるから。またね。」
ELINEAは弱々しく微笑むとそう言った。弱々しいというよりは、今にも崩れてしまいそうな笑みにも見えた。
「うん。」
笑顔で返事をするタッキーの横に、いつの間にかマリアが移動していた。
「または無いわ。今後、私たちには関わらないで。」
「何言い出してんだよマリア!」
冷たく言い放つマリアに、タッキーは驚いて大きな声を出す。それに関しては俺も同じ意見だが、マリア自身が気分でそんな事を言ったりはしないと思っている。ただ、何故突然そんな事を言い出したのかは分からないが。
「え・・・」
マリアの言葉で、ELINEAは後退りすると、険しい表情になった。
「チート、しているのでしょう。」
「チートだって!?」
おいおい、マジかよ。

「チートってなんですの?」
一連のやりとりに興味を示さなかったアヤカが、その単語には反応した。出来ればそのまま自分の興味にまっしぐらになっててくれ。
「後でな。」
今は説明している雰囲気ではないので、それだけ言うと、興味を失ったのか離れてまたシステムデバイスを起動した。

「違うの。」
「ネット上では有名よ。」
へぇ、そうなんだ。DEWSに関しての攻略は見たりするが、そんな話題まで拾うほど広くは見ないからなぁ。
「ELINEA・・・それは、流石にアウトだよ。」
タッキーの笑顔も消え、今は冷たい目になっている。
「違う、違うの。私は、与えられたから使っただけなの。この力が、駄目なものだって知らなかった・・・」
与えられたって、んな馬鹿な。神から授かった力とでも言いたいのか?ゲームだからそんな神託なんか在りはしない、神が居るとすればCAZH社だろう。ただ、1プレイヤーに能力を超えた力を与えるなんて事は有り得ない事だ。

「ゲームが破綻するから、運営が与えるなんて事はないよ。むしろ、よくまだキャラを消されてないね。」
何時もの阿呆っぽさも無く、人懐っこい笑みも無く、ただ冷めた目だけを向けてタッキーは言った。
「マリアの言う通り、これ以上関わらないでください。私たちが加担していると、思われても困りますので。」
続いた姫も、やはりそこに温和さは無い。

ELINEAは言われると、後退りしながら首を左右に振る。今にも何かが崩壊しそうな表情は何故なんだろうか。
チートなんて、自分の力を誇示したかったり、自分勝手な理由でするものが多いだろう。だが、距離をおいていくELINEAはとてもそうは見えない。何故、あんなに悲しそうで、泣きそうな顔をしているのだろうか。
余りにも切ない表情をするので、俺は目が離せなかった。ELINEAはある程度退がると、俺たちの存在を振り払うように後ろを向いて、走って去って行った。
その姿が見えなくなるまで、何故か俺はその姿に視線を固定していた。

「同情?」
何も考えられず、呆と突っ立っている俺にマリアが話しかけてきた。その声で、夢から現実に引き戻されたような気分になる。
「いや、そんなんじゃねぇよ。」
苦笑しながら言ってマリアの方を見ると、そこにいつもの微笑は無かった。見た事が無い、顔が俺に向いていた。表情こそ普通だが、その瞳は深く冷たい感じがする、ぞっとするような目がそこにはあった。
「お願い、ELINEAには関わらないで。」
「関わるも何も、もう会う事も無いだろうよ。」
マリアがそこまで言うって事は、何かあるのかも知れない。だけど、その視線を正面から受け止める事が出来ない俺は、顔を逸らして言った。
言葉通り、チートをしていたのならELINEAに会う事はもう無いだろう。それよりも、俺は今のマリアの方がよく分からねぇよ。

「それで、チートって何ですの?」
・・・
居たよ、そう言えば、こんな奴が。
一通り終わったのを、一応見計らって話しかけてきたのだろう。アヤカがまた聞いて来る。確かに後でとは言ったけどさ。
「例えば、敵が消えるくらい早く動いた行動、今まで何回かあったろ?」
「ありましたわね。」
「俺らが自分のデータを改造して、同じような動きが出来るようになったり、敵の攻撃をまったく食らわなくなったり、作れない装備を作ったりとか、ゲームのデータを自分の都合の良いように改造する。そんな感じかな。」
説明しろと言われても、ちゃんと説明出来ないんだが、まあこんなもんだろ。
「それの何が楽しいんですの?」
「さぁ、俺に聞かれても分からねぇ。ただ、それが楽しい奴らも居るって事だよ。」
「何でもありになったら、それこそ面白くないですわ。」
「その通りだよ。」
とりあえず、理解してくれたようで良かったよ。
「そんな事より、早く斬りに行きますわよ。」
あぁ、はいはい。

「次は、素材納品だってさ。」
システムデバイスを確認していた月下が、やっと終わったのかとばかりに伸びをしながら言う。確かに、どうでもいいと言えば、どうでもいい話しだった気もする。
ELINEAが来たことで、場の空気が変な感じになったのは間違いない。だけど、それを引き摺ってもしょうがない、いつも通りにプレイするだけだ。
「良かった、そんなに苦労しなさそうだね。」
「それなら、素材集めは任せましたわ。」
おい・・・
「戦いに行こうとするな。」
「違いますわ、敵が戦いに来るのですわ。」
ものは言い様だな。

そんなわけで、俺らは素材集めのクエストに向かった。大型魔獣を倒して手に入れる素材を納品するという、結局いつもと大差ないクエストに。




DEWSを終了して部屋に戻ると、携帯の会話アプリにメッセージがある事に気付く。
『さっきはごめん。私の態度、嫌だったよね。』
麻璃亜からのメッセージだった。
確かに、怖くはあったけど、麻璃亜の事だから何か理由があるのだろうとも思えた。だからそこまでは気にしていない。
どちらかと言えば、何故その態度をとったのか、という方が気になる。
『いや、気にしてない。』
直接聞いたら、答えてくれるだろうか。
それとも、アリシアの様に話せない内容なのだろうか。態度からするに、ELINEAに関しても麻璃亜はきっと何かを知っている気がしたから、そんな事を思った。
『うん、ありがと。』
今、ここで聞いてもいいのだが、文字だけだと相手の反応が分かりずらい。かといって、家の中じゃ電話をする気にもなれない。会話を聞かれる危険性があるからな。
『私、そろそろ紅茶とケーキを口にしたいなぁ。』
・・・
真面目に考えていたんだが、そのメッセージを見た瞬間、急に馬鹿らしくなってきた。それとは別に、いつもの麻璃亜だと思わされた事で安堵する。
なんで俺、麻璃亜の態度に振り回されてんだろうな。
まぁ、またいつものように呼び出されるのか。だったらそのついでに聞けばいいよな。
『食べたいなぁ。』
つまり俺に誘えって事か・・・

『明日の、放課後。』
前に気が向いたらな、とか言ったのを思い出す。あれはあれで恥ずかしいんだが、結局言わされる時点で誘われてるのと変わらないよな。
『明日の放課後がどうかしたの?』
くそ・・・
察しろよ。いや、察してこの態度か。
『麻璃亜が良かったら、あのカフェに来ないか?』
・・・
文字だけだってのに、何でこんな恥ずかしい思いをするんだろうな。
『きゃー。晶社くんにデートに誘われた!』
うぜぇ・・・
『嬉しい。明日が楽しみ。』
もう否定するのも面倒くせぇ。まぁ、いいか。聞く事さえ聞ければそれで。
『じゃ、お休み。』

はぁ・・・なんか疲れた。もう寝よ。と思った瞬間、またメッセージが届く。今度は中島か?そう思いながらもう一度携帯を確認する。
『あと、鬱陶しいとか思っちゃダメだよ。』
く・・・




-DEWS内 スニエフ とある裏路地-

壁に寄り掛かりながらシステムデバイスを確認する男が居た。人相は良く見えないが、面倒そうな表情がそれを一層際立たせている。

「良かった、まだやめてなかったんだね。」
その男にELINEAは近付くと、力ない笑みで言った。
「あん?」
男はその声に振り向くと、嫌そうな表情になる。
「一応クエストは修正されたからな。それよりも、またパーティ組もうとか言い出すんじゃねぇだろうな・・・」
男の言葉に、ELINEAは以前の事を思い出し、覚えていてくれた事に嬉しくなって笑みを零す。
「ううん、もう言わないよ。」
あれ程独りを嫌悪していた自分から、目の前の男を見てもその思いが出てこない事に、ELINEAは違和感を感じる。
「なんで、罵倒しないの?」
「あ?あぁ、あの事か。俺には関係無いからな。俺の関係ないところで消されるだけだ、興味もねぇ。」
男にとってELINEAの存在はどうでもいいのか、システムデバイスを見ながら、どうでも良さそうに言った。
ELINEAにとって今まで出会った人間は、ほぼ全員が罵倒を浴びせてきた。罵り、嫌悪を吐き、冷たい目を向け、拒絶された。
なのに、自分が嫌悪した人間は、何故かそれを向けてこない。ELINEAはこの状況に困惑する。自分が関わって来た人間が、なんなのか分からなくなって。

(私が見てきた人は、なんだったの・・・何故、こんなにも・・・)

ELINEAは答えの出ない疑問を思い浮かべると項垂れた。

(水守や宇吏津は、知っていたの?)

そのまま力なく、膝を落とす。

(教えてよ!!)
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