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34.始まりと共に来る、倦怠

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雲も無く照りつける陽の光は、見ているだけで気持ちが暑くなってくる。まだ朝のため、教室には陽光が射し込んで、冷房の効きを著しく低下させている。
9月はまだ夏真っ盛り、朝から30度近い気温は、昼前に軽く30度を超えていく。昔の9月はもう秋の始まりだったらしい。一雨一度と言って、この頃から気温が下がっていくものだったのだとか。
だがそんな事を言われても、今の状況からして、とてもじゃないが信じられない。後2ヵ月はこの暑さと向き合わなきゃならないんだ。

「おはよう雪待。」
「あぁ、おはよー。」
射し込む陽射しを見てうんざりしている所に、登校して来た中島が挨拶をしてきた。当たり前だが返しておく。
「今日から学校かぁ、怠いね。」
「まぁな。みんな思ってるだろうけど、来たくねぇよな。」
今日から2学期の始まりだ。始業式とかいう集会は今でも残っている。今でもっていうのは、親父に聞いた話しからだ。昔からある風習みたいなものなんだろう。
「そう言えば、何で雪待は通信にしなかったの?」
「いや、家にも居たくねぇ。」
今の時代、通学制の高校に通う学生は昔に比べて少ない。メディアの情報を鵜のみにすれば、半々といったところだろうか。それだけ通信教育で済ませる人が多くなったんだと、親父は言っていた。
「何だよそれ。行くとこ無いじゃん。」
「まぁ、面倒だけどさ、家に居るよりはまだいいよってところだな。」
正直なところ、ただでさえ生活が家なんだ。勉強まで家でやってたら息が詰まる。だったら、こうやって外に出て、友達としょうもない会話してる方がいい。
無機質な景色でも。
他愛ない会話でも。
クソ暑い気温でも。
面倒な登校でも。
怠い授業でも。
帰り際の買い食いでも。
家の中で生活が完結するより、俺にとってはましだ。俺がそう感じているだけで、他の人の事は知らないが。そうじゃない人もいるんだろう。
「ところで、城之内はやっぱ来れないか?」
「うん、昨夜もらった連絡だと、まだ入院中だってさ。」
城之内の頭痛は消えるどころか、あれから酷くなったらしい。中島のところにたまに連絡が来るくらいで、容体の詳細については俺も中島も知らない。

オルデラの攻撃が原因じゃないのかって話しだが、そんな馬鹿な事があるかと思う。
そもそも城之内は頭痛を推してゲームをしていたんだ。それが酷くなったから、異変を察知したHMDが強制ログアウトさせたんだろうって話しで落ち着いている。
翌日、病院に行って少し楽になった城之内が、中島に頭痛が酷くなってログイン出来なくなったと連絡があったくらいだ。本人がそう言ってるんだから、そうなんだろう。

もしそれが原因だと言うなら、俺の左腕だって何か異変が起きても不思議じゃない。だが今のところ、そんな事は起きていない事から、城之内の場合も関係ないかも知れない。
でも、あの体験をした側からしてみれば、そうじゃないとも言い切れない。何故なら、事象が起きた原因も分からないからだ。どこにもそんな情報は出ていないのも不思議だ。
だた、あの時戦闘をしていた俺らは、その状況を目の当たりにしている。ログアウトのタイミングに、たまたま大剣が重なっただけじゃないかとも言われてはいる。だけど、俺はオルデラ以前に不可思議な現象を実際に体験しているんだ。だから、城之内の件も同様じゃないかと疑っている。
そこまでは、未だ誰にも話してはいないが。

「暫くは学校に来れないんじゃないかな。」
「話しを聞く限りじゃな。」
城之内は頭痛の原因が分からなく、大学病院へ入院となったんだ。今日の中島の話しから、まだ退院出来てなく、学校には来れないんだろう。
「学校休めて羨ましい?」
「いやまったく。学校を休めるのはいいけどさ、ゲーム出来ないのは苦痛だろ。」
「はは、雪待らしいや。」
やる事をやっているから、やりたい事もやれるんだろ。入院とか、どっちも無いじゃないか。ただ生活を制限されているだけで。
「中島だってそうだろ?」
「まぁ、入院は確かに退屈そうだから、そうかもね。」
「入院してる城之内には悪いが、俺らじゃ何も出来ないしな。戻って来るまでに精々強くなっておくか。」
「だねぇ、復帰したら楽させてあげなきゃ。」
そこで鳳隆院が教室に入って来たが、こちらを一瞥しただけで自席へと移動していく。挨拶くらいあってもいいようなものだが。

夏休み前も、帰りがけに何かを言って来る事はあっても、朝はこんな調子だったっけな。その辺の生活スタイルは休み前も、休み明けも変わらないらしい。
花火大会を一緒に見た俺としては、何か変化があるんじゃないかと思ったが、思い込みでしかなかったようだ。ゲームでも大分慣れて会話もしているし、クエストも行っている。
でも、現実での態度に変化はまるで無い。鳳隆院が何を考え、何を思っているのか、俺にはまったく分からない。鳳隆院なりの何かがあるんだろうけど。それはプライドなのか、矜持なのか、別の何かなのか、本人にしか分からない。でもそれは俺にとって、少し寂しい気もした。

「そう言えば、今日からクエストレベル10に突入だよね。」
「あぁ。9がすげぇ長かったような気がする。」
「色々あったからね。メンバーも増えたりとか。」
振り返ってみるとそうだな。ミカエルが加入したのも9に入ってからだし、新たに始めたヒナを、悠美と同じレベルまで上げるのを手伝ってもいた。いろいろやってはいたが、クエストレベルはそこまででもないか。
だけど、パーティメンバーがある程度居ないと、進むのも難しいのは良く分かったよ。
「だけどさ、10ってクエスト1個だけで、開示されてなかったよね?」
「だな、嫌な予感しかしねぇ。」
???となっているだけで、行き先しか指定されていない。またオルデラの時のような感じの可能性は高いだろう。一度やられると身構えてしまうわけだが、たまにはこういう演出も嫌いじゃない。
「帰ってからのお楽しみだね。」
「あぁ。」




-CAZH社 自社データセンター 隔離サーバールーム管理室-

薄暗い管理室では、いつもの様に禍月はディスプレイを眺めながらプレッツェルを齧っている。八鍬には禍月が手を頭の後ろで組んでいるその姿勢は、やる気のある態度には見えなかった。が、それが禍月のスタイルであり、実際にやる気がないわけじゃない事も分かったいた。
そんな事よりも、いつもと違う状態の人間がいる事の方が八鍬としては気になっている。
「美馬津、夜勤明けなんだから休憩に行ってもいいんだぞ。」
疲れた目をしながらも、若干落ち着きの無さを見せている美馬津に、八鍬は半分呆れを込めて言った。
「でも、今日からですよね、手配してる人って。」
「そうは言っていたがな、当てになるかは分からん。」
八鍬が西園寺と話した時には、今日から来ることに決まりはしたが、そもそも八鍬自身も西園寺の事については詳しく知らない。そのため、その言葉の信憑性は本人にも分からなかった。
「それは多分問題ない。気分屋だけど、日程を口にしたのなら守るじーさんだ。」
「だといいのだが。」
「そんな事よりアッキーは、来るのが女の子だから残ってんだろー。」
「な、そんなわけ無いだろう。どっちみちこれから一緒に仕事しなきゃならいんだろ。だったらみんなまとめて顔合わせした方が都合がいいじゃないか。」
「まぁ、そゆことにしといてやる。」
「あのなぁ・・・」
美馬津の方を見もせずにプレッツェルを齧りながら言った禍月の態度に、美馬津も溜息混じりに呆れる。本当にそんな事は考えてもなかったからだが、圀光なら嬉々として待ったんじゃないだろうかとも思った。
「まあ美馬津の言う通り、1回で済ませられるならそれでいいだろう。時間の無駄だしな。」
八鍬が美馬津の言った事に同意したところで、管理室の自動扉が開いた。室内の3人が同時に、同じ場所に視線を集める。扉から入って来た人物を目にすると八鍬は顔を顰め、美馬津は目を見開き、禍月は半眼で睨む。

「久しぶりだなー、まりあ。少しは胸の露出減らせー。誰得だよ、それ。」
「あら、割と居ると思うわよ。」
管理室に入って来た女性は、胸元が大きく開いた服と、そこから垣間見えるふくよかな胸の谷間を晒している。ウェーブの掛かった長い髪の毛の間から、女性は妖艶な笑みを浮かべて美馬津を見つめた。
が、美馬津は慌てて目を逸らした。八鍬にも同じ事をするが、咳払いをして同様に目を逸らす。
「ここに来るときは結構視線、集めたのにな。」
女性はそう言うと、微笑みながら口を尖らせた。
「あぁ、ここで集まるのは冷めた視線だけだぞー。」
「それよりも、君が派遣された人員で間違いないのか?」
若干、苛立ち気味に八鍬が確認する。
「はい、先に自己紹介でしたね。黒咲 麻璃亜(くろさき まりあ)19歳。みなさん、よろしく。」
黒咲は微笑みながら自己紹介すると、一礼した。
「早速内容を説明するから、そこ座れ。」
禍月が黒咲に、空いている椅子をプレッツェルで指しながら座るよう促す。黒咲は頷くと、足を美馬津の方に向けて椅子に腰を下ろした。もともと膝上丈のフレアスカートがさらに捲り上がり、白い太腿が露になる。
黒咲は座るとすぐに、右足を左足の上にゆっくりと重ねて足を組むと、美馬津に微笑みかける。
「そ、それじゃ、僕は休憩に入ります。」
白い下着が目に入った美馬津は、その場から逃げるように管理室を後にした。
「パンツ見せんな、あと来た早々アッキーで遊ぶなよ。」
「えぇ、楽しいのに。」
「お前だけな。」
「そうよ。下着なんてただの布切れ、見られたところで私は困らないわ。見た方は反応するから面白いけどね。」
黒咲はそう言うと、クスっと笑ってお道化て見せる。
「相変わらず人を食った奴だなー。」
「私も一服してくる、少し頼むぞ・・・」
それを見た八鍬は、語尾に疲れを含んだように言って自動扉へと向かった。
「りょーかい。しゅにんもゆっくりしてきていいよー。」
八鍬は禍月の返事に、一瞬振り向くがその顔には明らかに疲労が浮かんでいるようだった。

「っと、こんなところだな。」
「御大のプロジェクトに影が落ちるのも困りものね、払うのはいつも私たち・・・」
一通り説明を終えた禍月に、黒咲が面白くなさそうに言う。
「まぁそう言うな。あたしらそれでご飯食ってるわけだしなー。」
その黒咲に、プレッツェルを振りながら禍月は言い返した。
「私もちょっと休憩したいな、何か飲みながら。どうせこの後ログインしなきゃいけないんでしょ?」
「うんそうだ。戻ったら部屋に案内するよ、しゅにんがな。あたしはこっから離れられないし。」
「分かった。」
黒咲は頷くと、椅子から立ち上がって管理室から出ようとする。丁度そこへ八鍬が戻って来て、入れ違いに出て行った。
「早いな。」
「大した説明じゃないからなー。細かい話しはログインしてからでも可能だし。」
「そうか。」
八鍬はそれだけ言うと、黒咲が出て行った扉に目を向けて険しい表情をする。
「大分ふわっとした感じだが、使えるのか?お前や、西園寺を疑っているわけじゃないが。」
八鍬の問いに、禍月は多少迷いを見せたが、苦笑すると口を開いた。
「前に言ったろー。マルチハイスペック。」
「ああ・・・」
「何でも出来るんだよね、あいつ。それでいてじーさんお抱えの腹心で、密偵。」
「な・・・まさかそこまでの存在だとは・・・」
八鍬もそれなりに齢を重ね、こういう仕事もしている以上、大抵の事で驚くことはないと思っていた。が、禍月から出た話しは想像を超えていた。
「身構えなくても大丈夫だ、標的にならない限り、まりあはいつもあんな感じだから。」
「そうは言ってもな・・・」
西園寺グループの頂点に存在する西園寺 宗太郎。単に金だけの話しではなく、黒い噂も当然絶えない。政界との絡みは無いと言われているが、法政界含めて西園寺宗太郎を敵に回す人物は居ないとさえ言われている。その腹心がこんな場所に居る事自体、気が休まらないと八鍬は思わされた。
「本当に、まりあについては心配無用だ。」
八鍬から見て、そう言った禍月の顔は、浮かない表情に見えた。

「ふぅー。」
(最近、本数が増えてきたかな・・・)
紫煙を吐き出しながら、美馬津はそんな事を思った。以前に八鍬から1本貰って咽たが、それから吸うようになった煙草。休憩の度に吸うようになったが、その本数も順調に増えている。
(でもま、これが無いと落ち着かなくなってきたのも事実だしな。)
美馬津はそんな事を思いながら、缶コーヒーを飲んで、煙草を咥え吸い込む。八鍬に貰った時は咽たが、今は大きく吸い込んだりしなければ平気になった。
(しかし、あんな娘が来るなんて、部屋にも居ずらいな、目のやり場に困る。これが圀光さんなら喜んで見そうなんだけどな。)
ログインしている時は別室にいるからいいんだが、圀光のようにずっとログインしっぱなしになるわけじゃない。そうなると、管理室で顔を合わせる事も多くなるだろう。美馬津はそう考えると、気が重くなってきた。
美馬津がもう一息吸おうと煙草を口に咥えると、喫煙ブースの扉を開けて誰かが入ってきた。美馬津はまた、八鍬が管理室から逃げ出して一服しに来たんじゃないかと振り向く。
「ぶほっ・・・」
入って来たのは黒咲で、それを見た瞬間、美馬津は吸いかけていた煙で咽る。
「お邪魔かしら?」
「な、何故君がここに・・・」
「私だって、休憩くらいするわ。」
「そ、そうか。そうだよな。」
休憩以外の何でこの喫煙室に来る理由があるんだと、自分が口にした間抜けな疑問に美馬津は呆れた。その間に黒咲はポーチから煙草を取り出して火を点けている。
「ふぅ・・・」
黒咲の艶やかな唇から吐き出される紫煙を、美馬津は少しの間見とれていたが、ある事に気付き我に帰る。
「君、年齢・・・」
「君って言わないで、自己紹介したつもりなのに。」
「あ、ああごめん。黒咲さん。」
「さんは要らない。なんなら、名前で呼んでもいいのよ。」
黒咲が微笑んで言うと、美馬津は直視出来ないのか、斜め上に視線を逸らして煙草を吸い込む。
「煙草ね・・・お酒も、社交も、何時からかな・・・嗜まないと、私の存在価値が上がらなかったの。」
そう言った黒咲の瞳に、何処か空虚さが在ったように美馬津には見えた。
「どういう事・・・だい?」
「知らない方が良い世界もあるのよ。それとも美馬津さんは、私の過去に興味があるの?」
「い、いや・・・」
お道化たように笑んで言う黒咲に、美馬津はまた顔を逸らす。
「それより、僕にもさんはいらないよ、何か違和感が・・・」
「あらそう?私は夢那と違って社交的な方なのよ。先輩に対してそんな失礼な態度、取らないわよ。」
「はは、そうか。ここじゃ禍月意外だと僕が年下だからね、みんな呼び捨てだし。禍月に至ってはアッキーだからね。さん付けで呼ばれる事に慣れてないんだな。」
意外な発見、というよりは、改めて此処での生活はそんな事すら考える余地も無かったんだなと、美馬津は気付かされた。そう思うと苦笑交じりに、自分への呆れを紫煙に含めて吐き出す。
「そろそろ戻るわ、これから宜しくね。」
「あ、あぁ・・・」
笑顔で言って喫煙室を後にした黒咲、美馬津は黒咲が去った後も喫煙室の扉を眺めたままでいた。この場所に似つかわしくない容姿や雰囲気、美馬津はそれを未だに受け入れられないでいた。何しろ、美馬津にとっては無縁の生活だったから、気持ちがすんなり受け入れてはくれないのだろう。
「さて、僕はひと眠りするか・・・」
美馬津はその思いを振り払うように言うと、煙草の火を消して、残った缶コーヒーの中身を一気に飲み干した。
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