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22.避けさせてもらえない、戦闘

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移動速度は変わりはしないものの、攻撃速度、攻撃力、衝撃波の範囲は明らかに増加した。
という分析を呑気にしているわけじゃない。
(死ぬ!!!)
必死で振り下ろされた大剣の衝撃波の範囲から逃れ、急いで回復薬を使用する。
(あぶね、死ぬとこだった・・・)
タッキーもパーティの回復が追い付かない、アヤカをメインに回復しているためだからしょうがない。役割がそれだけじゃなし、攻撃をしてもらわないとならないし。俺の場合、死なないようにオルデラの攻撃のターゲットにならなきゃ役に立たないからな。
「ユアキス、僕もう回復尽きた!」
アヤカに回復銃弾を撃ったところで、タッキーがそう叫んだ。
「こっちも残り少ねぇ、後は本人に任せろ。」
「承知しましたわ!」
オルデラに駆け寄りつつ言うと、聞こえていたアヤカがオルデラを斬りながら応答する。

オルデラのHPはまだ半分程残っている。確かにこれじゃ、6人パーティで負けるのも納得するわ。
(ってか強すぎだろ!)
内心でそう叫びながらオルデラに片手剣を振り下ろす。二撃目に移った瞬間、オルデラが目の前から消えた。オルデラが突進を開始した事により二撃目は空を斬り、当の本人は既にタッキーに向かって大剣を打ち下ろしていた。
(まずい!)
と思ったがもう遅い。ただタッキーのHPは満タンなので急いで回復すれば・・・
(くそっ!一撃かよ!)
既にオルデラとの間合いを詰めたアヤカが、背後から連撃を叩き込む。姫の火炎矢で燃えるオルデラに俺もすぐに追いつき跳躍、片手剣を両手で持って渾身の力を籠める。
「まだ死ねるかよっ!」

俺の一撃が当たった瞬間、オルデラは不自然な吹っ飛び方をした。
(なんだ?)
大剣を杖のようにして、左膝を地面につける。
「やるじゃねぇか。」
アヤカも追い掛けるのをやめ、太刀を構えたまま様子を見守っている。
「ここまで出来りゃ合格だ、この先へ進むことを認めてやってもいい。」
あ、つまりクリアか。
撃退条件はオルデラのHPを50%以下にする事だったんだな。状況を理解した俺は、片手剣を鞘に収める。それを見ていた姫も、弓を背中の留め具に留めた。
まて、姫はクリア条件知ってる筈だよな。
「だが、俺に膝を付かせた程度じゃ生き抜くのは難しい。精々精進するこったな。」
「まだ終わっていませんわ!」
オルデラが立ち上がりながら言うと、アヤカがそれに反応した。
おい。
やめろ。
「もう終わったんだって。」
今にも飛び出しそうなアヤカに無駄だと伝える。
「なんか納得いきませんわ。」
んな事を言われてもな。もう攻撃したって何も起きないっての。
「この先、もっと強いのがいるって言ってるじゃん。憂さならそいつらで晴らせよ。」
「僕、なんかやられ損じゃない?」
戦闘が終わったことで、HP1で起き上がったタッキーが不満そうに言う。だよなぁ、撃破直前で死んじまったら納得いかないよな。
「まぁ、クリア出来たんだからいいじゃねぇか。」
「そうだけどさ。」
「なんとかクリア出来ましたね。正直、4人でいけるかは不安でしたが。」
俺は途中で無理だと思ったけどな。
「でも、姫が居なかったらまた全滅してたな。」
「そうだよねぇ、ほんと。加わってくれて良かったよ。」
俺の言葉に、タッキーも同意する。
「認めざるを得ませんわね。どっかの田舎令嬢じゃなくて助かりましたわ。」
一言余計だっての。
どんだけアリシアが嫌なんだよ。
「いえ、私も正直、クリア出来るとは思って無かったので。」
「装備の違いだよね、きっと。」
そういや、上位ランクの弓を装備してたな。今回はその攻撃力にも助けられたか。
「それより、姫はクリア条件知ってた筈だよな?」
「あ!そうだよね。」
今気づいたのかよ。そう思ってタッキーに呆れた目を向ける。が、気付かれなかった。
「はい。情緒・・・言ってしまうと、面白くなくなるかと思いまして。」
正解。
「その気遣い、いい心掛けですわ。」
お前が言うな。
ヒナもそれくらいの気遣いがあったらな、家の中で俺の精神はもう少し安寧な生活を送れる気がするんだが。
「ここから先は、高純度の原石が手に入ります。私もログイン出来る時は手伝いますので。」
やっと来たか!今の武器を強化するには必要だったからな、出る時を待ってたんだよなぁ。
「本当ですの!?」
俺より食いつきのいい奴が居たよ。分かってたけどさ。
「はい。」
「ユアキス、まずは太刀に必要な原石のクエストから行きますわよ!」
さっきまでのオルデラに対する鬱憤は何処に行ったんだよ。
「えぇ、一人で行けよ、原石くらい。」
そんな効率の悪い事はしたくない。バラバラに武器強化して、ボスとか一緒に行けばいいじゃないか。
「いえ、パーティで行った方がいいと思います。高純度原石の入手は難易度が高いんですよ。強い魔獣と戦う事にもなりますし。」
マジかぁ・・・
ほいほい武器強化も出来ねぇじゃん。
「貴方に初めから選択肢なんかありませんわ。」
強制かよ!
「ほう、太刀以外の装備をろくに揃えられない奴が何言ってんだよ。」
「言ってくれますわね。でしたらここは、先達である姫に決めてもらえばいいですわ。」
お、珍しくまともな事を言ってやがる。
「僕もその案がいいと思う。」
「確かに、アヤカのくせに一理あるな。いいか?姫。」
「今なんと言いましたの?」
ちっ、聞いてやがったか。
「はい、私で良ければ。」
「さぁ、私の原石が最初に必要といいなさい。」
アホか!
一理どころか害しかねぇわ。つまり最初から姫を使って太刀の材料と言わせる気だったんだな。
「姑息な奴め。」
「ふふん、言ったもの勝ちですわ。」
ムカッ。
あの勝ち誇ったように見下げる視線が腹立つわ。
「まぁまぁ、落ち着いてください。」
苦笑いしながら姫が両手を上げて窘める。まったく大人げのない年上ばっかりだな、年下に言われるなんて。
「大人げないからやめなよ、とりあえず姫の話しを聞こうよ。」
タッキーに言われるとなんか腑に落ちないな。

「このパーティでしたら攻撃の要であるアヤカの太刀を強化する方がいいと思います。」
なるほど。言われてみればそうか。その流れだったら俺が最後の方がいいな。サポートと属性を使い分けられるタッキーの銃を次に強化させた方がいいだろう。
アヤカの視線を感じる気がするが、絶対に見てやらない。間違いなく勝ち誇った顔をしているだろうからな。
そんな事よりも。
「で、集めるなら白光原石だろ。」
「はい、それが一番効率的かと思います。」
やっぱりそうだよな。
「え?どういう事?」
「クエストを進めると一番手に入りやすかったのが、白光原石だ。それでいて、嵐皇龍と戦うクエストが多かったわけだ。」
「あ、なるほど。」
疑問を口にしたタッキーだったが、俺がそこまで言うと納得した。まぁ多分、あれは今の説明でも分かってないだろうが。と思ってアヤカを横目に見ると、まださっきの余韻に浸っているようだった。
「そうゆうこと。だから俺らの武器、敢えて作ろうと思わなければ、揃って嵐皇龍の武器だろ。強化しやすく出来ているだろうと思うし、全員が高純度の白光原石は必要になるんだよ。」
「その見解で合っています。」
俺の考えを姫が肯定する。傾向からいってそうだろうなと思ったが、間違っていなかったようだ。
「ユアキスのくせに生意気ですわ。」
お前に言われたくねーよ。
「はいはい、結果として太刀から強化なんだから問題ないだろ。」
とは言えだ、クエスト報酬は全員貰えるから、太刀が強化出来る時には俺もタッキーも強化可能になる可能性は高いな。報酬の数にもよるけどさ。
それは、黙っておこう。
面倒くさいし。
「何か馬鹿にされている気がしますわ。」
「気のせいだから。」
「まあ、次の方針が決まったんだからさ、とりあえず街に戻ろうよ。」
「そっか、クエスト報告しないとな。」



アーニルケの街にある設備は、基本的にメルフェアと殆ど変わらない。当然、クエスト屋も存在する。そんなわけでクエストの報告はアーニルケで行う事にする。
ぱっと移動出来るわけでもないのに、わざわざ時間を掛けてメルフェアまで移動するメリットは無い。

LV9-1解放
高純度な石を集めよう 補足:漆黒の巨狼
強力な回復薬を作ろう
自爆の屍20体退治
鎚滅の巨人の撃破 【BOSS】
帰ってきたゴミ掃除1

帰ってくんな!!
LV9-1のクエストを見て一番最初に目に入ってきたクエストに内心、全力で突っ込んでいた。いやアホだろ、見たくもなかったわ。
クエスト報告後にいきなり疲れさせられるとは思ってもみなかった。

「制作者の悪意を感じますわ・・・」
「嫌がらせにも程があるよね・・・」
「ぬか喜びさせやがって・・・」
それともう一つ、姫を除く三人が口々に呪いたい気分に落とされる。何故か、黒耀のオルデラの撃退報酬として、高純度原石セットをもらった。
当然、喜ぶに決まっている。しかも5個ずつというなかなか気の利いた量をもらえたんだが。
装備強化に必要な原石は、どの装備にしろ最低6個は使用する。
つまりそういう事だ。
呪いを吐きたくもなる。
「まあまあ、一度クエストに行けば、数は満たせるので。」
姫が慰めるように言ってくれるが、顔が苦笑していのは見逃してないぞ。きっとこいつらアホだなとでも思っているのかもしれないが、アホなのはアヤカだけだ。
「何か良からぬ事を考えていませんこと?」
「気のせいだって・・・」
察しのいいアヤカに俺はそう言って誤魔化す。
「それより、最初に行くクエストは原石集めだろ?」
「当然ですわ。」
「僕もそれで問題ないよ。」
まぁ、後1個原石があれば強化出来るんだから、行かないわけないよな。しかし、今までの納品クエストと違って、不吉な追記がある気がするんだよな。一体、漆黒の巨狼は何なんだ?
「なぁ姫。」
「はい?」
「漆黒の巨狼って?倒さなきゃならないのか?」
俺の疑問に、タッキーもアヤカも気になったのか、姫に視線が集まる。姫は少し考えるような素振りをして口を開いた。
「話しても?」
行く前に話してしまってもいいのか?という疑問だが、三人とも同時に頷いた。クエストの内容よりも、武器を強化したい欲望が勝った結果だな。
「倒さなくてもいいのですが、原石を採取していると、轢き逃げをしていきます。」
「うわっ、嫌なやつ・・・」
「殺った方が早そうですわ。」
アヤカの物騒な発言はおいといて、厄介な魔獣だな。手分けをしてノルマ分の原石を集め、クエストをクリアした方が良さそうだ。
そう考えて姫を見ると、頷いてくれたので、察したのだろう。なんて出来た子だ。
「倒すのは体力が多いので、採取してクエストクリアした方が断然早いと思います。」
ちなみに説明までしてくれた。分かってない奴もいるからな、誰とは言わんが。
よし、そうなれば漆黒の巨狼は、戦いたくてしょうがないアヤカに押し付ければ万事解決だな。
「じゃぁ、俺は採取に専念するから、狼はアヤカが相手してくれ。」
そう言った瞬間、アヤカが俺の肩に手を置いて鋭い眼を向けてくる。
「敵前逃亡は、武士にあるまじき行為ですわ。」
俺は武士じゃねぇっ!
「じゃぁ、僕は姫と一緒に採取しておくね。」
姫と一緒という件で、かなりのニヤケ顔でそう言ったタッキーの腕を掴んでやる。
「回復が居ないとまずよな、アヤカ。」
「当たり前ですわ。」
よし、道連れ成功。お前だけ逃がすと思うなよ。
「そんなぁ・・・」
「えっと、私が採取でいいんですか?」
俺らのやりとりを見ていた姫が、苦笑いで聞いてくる。そりゃそうだろうな、説明もしたし、採取のみで終わらせれば早いものを、わざわざ戦う方向に行ったわけだし。
「頼む。」
俺がそう言うと、姫は笑顔で頷いてくれた。
戦闘しなくていいなら、出来れば避けたかったのに、ほんとにこのアホは。
「わかりました。規定量の採取が終わったら、合流しますね。」
「なる早でね。」
タッキーが縋るように言ってみるが、姫から帰って来たのは多分、愛想笑いだ。

まぁ、効率なんか気にしていたらアヤカに付き合ってなんかいないわけで、ゲームは楽しんだ者勝ちだ。そう考えれば、戦う事はさして問題じゃない。
ただなぁ、武器の強化だけはこの戦闘を避けてもやりたかったな。戦うならその後でもいいじゃねぇか。どうせ漆黒の巨狼とか、ボスとしも出てくんだろ。
「そうと決まれば、早速行きますわよ。早く戻って太刀を強化したいですもの。」
そう思うなら戦闘を回避してくれ。
「だったら戦う必要無いじゃねぇか。」
「無理ですわ。」
俺の突っ込みにアヤカは、意味が分からないとばかりに首を傾げて言った。お前の思考回路の方が分かんねぇよ!
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