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13.もう少ししてくれ、学習
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-CAZH社 自社データセンター 隔離サーバールーム管理室-
「お嬢様の様子は変わりないか美馬津。」
以前よりも目の下の隈が濃くなった美馬津に、同じく隈が出来ている八鍬が確認する。お互い、隠す気も無いのか、疲れた顔のままディスプレイに向けている視線は前と変わっていない。
「健康状態は問題ないようです。」
「そりゃ食事も睡眠も摂っているんだ、そうそう壊れるものでもあるまい。」
求めている答えではない事に八鍬が呆れたように言うと、美馬津が肩を竦めてみせた。
「変化が無い、わけじゃありません。」
「上がってきているデータを見る限り、精神の安定性が向上しているのは間違いないな。」
「はい。生活に慣れてきた、プレイヤーとの交流で落ち着いてきた、等の要素が強いでしょうね。」
「だろうな、見ていればそれは分かる。」
他のプレイヤーと当たり前のように会話し、笑ったり怒ったりするアリシアの姿を見てきた八鍬は、当然のことだと口にする。
「まだ二ヵ月程です、今後の変化に気を付けなければなりませんね。」
「問題は、他のプレイヤーにとってはゲームでしかないという事だ。何時までもお嬢様の周りに同じプレイヤーが居続けるわけではない。」
「自分を取り巻く状況が変わった時の心情の変化、それに伴う体調の変化等も確認しなければなりませんね。」
「まったく、嫌気しか出てこない仕事だな。」
八鍬はそう言うとディスプレイから視線を外し、溜息を吐きながら額に掌を当てる。
「二ヵ月経っても人材の補充はされないですしね。」
美馬津も疲れた声で、データの収集は順調だが、改善されない環境を嘆くように言った。それを聞いた八鍬が、急に椅子から立ち上がる。
「すっかり忘れていた。」
「どうしました?」
「人材で思い出したんだが、補充される事になったぞ、このプロジェクト。」
「え・・・本当ですか!?」
八鍬の思いがけない言葉に、美馬津は驚くと同時に椅子から立ち上がる。監視していたディスプレイからは目を離し、口が開いたままの間の抜けた顔を八鍬に向けた。
「そんな驚ろかんでもいいだろ、もともと要請は出していたのだら。」
「主任も思ってましたよね、増員は無いなって。それでも言わなければこちらが持たないから、言い続けていたんじゃないですか。」
「いやまぁ、そうなんだが。」
美馬津の言う通り八鍬にとっても諦めていた事案だったため、うっかり忘れていたのだった。
何故今になって増員を認めたのか。今のところ監視も順調なため、依頼側が本腰を入れ始めたのだろうと八鍬は想像している。
「これで少しは楽になりそうですね。で、いつからですか?」
明確な話しは聞いていないため、美馬津が期待を押し殺して実際のところを確認する。だが八鍬の顔は曇り気味だった。
「人材は向こうで決めるそうだ。ここに来るまでは年齢も性別も顔もわからん。何時から来るかも不明だ。ただ、補充すると言われただけなんだ。」
八鍬の言葉に、明らかに美馬津は落胆した。
「つまり、補充するという言葉だけで、来るかどうかも分からないって事じゃないですか。」
「有体に言えば、そうなってしまうな。」
「結局、今まで通りって事ですね。」
美馬津はそう言うと椅子に座り、再びディスプレイへと目を向けた。
「お前もさっき自分で言ったじゃないか、増員は無いだろうと。だったら、来たら儲けもの程度に捉えておくのが丁度いいんじゃないか。」
「そうですねぇ・・・僕は一人でぬか喜びに陥ったわけですねぇ。」
「まぁそう不貞るな。」
「いえ、そうでもないですよ。普段と違う反応をさせられたせいか、気分転換にはなりましたし。」
美馬津が少し笑みを浮かべながら言ったことに、八鍬はそれならいいかと自分もディスプレイに目を向けた。
来るにせよ来ないにせよ、何時かは倒れる事になるだろうその時まで、ディスプレイに映る令嬢の監視を続けるしかないんだと言い聞かせて。
「ユアキス、左ですわ!」
「分かってるって。」
深淵の巨人が放つ右腕の横殴りを躱しつつ足元に潜り込んだ俺は、抜刀の斬り上げから袈裟斬り、横凪、横凪を止めず体を回転させてからの逆袈裟、そのまま踏み込んで三連突き。
(どうだ、今俺が使える最高の七連撃だ。)
「詰めが甘いですわ。」
俺の横を通り過ぎながらアヤカが言う。余計なお世話だ。
アヤカは太刀を逆風に振り上げながら跳躍、頂点に達すると袈裟斬りから振り抜いた勢いで回転し、勢いを付けた唐竹で着地してそのまま払い抜けで背後へ抜ける。
4メートル程ある深淵の巨人は、ゆっくりと倒れると大きな音を立てて巨躯が地面を揺るがす。その後ゆっくりと消滅していった。
「これでLV8-10 深淵の巨人3体の撃破、完了だな。」
「えぇ、軽かったですわ。」
光剣ラーズヴェイト、攻撃速度20%アップ、攻撃硬直短縮10%、攻撃力15%アップ、光属性付与、一部の通常攻撃後三連突き派生が可能。
これが今、俺が装備している片手剣だ。クエストレベルもここまで進むと、武器の性能も始めた頃よりかなり高性能だ。しかも、あくまで武器だけの能力なので、防具や装飾品などの他の装備と合わせると、さらに増える。
(神剣ラーズアルティアまで強化出来たら、攻撃数+1で8連撃が可能だから、早く欲しいな。)
そんな事より、アヤカの太刀の方がやばい。絶刀 繚乱、攻撃速度40%アップ、攻撃硬直短縮20%、攻撃力50%アップ、抜刀攻撃のみ攻撃力追加50%アップ。特定の攻撃から剣閃を翔ばす事が可能。
属性とか付加効果は無いが、単純火力がすごい。
次の強化で、絶華一刀 繚乱姫媚になると、連続攻撃数+2と、麻痺効果が付与されるんだよな。いやいや、強すぎじゃないか?
「二人ともやっぱつぇーわ。」
「タッキーの補助があればこその部分も大きいけどな。」
「状態異常というのが、ここまで効果的とは思いませんでしたわ。」
ゲーム音痴のアヤカはそう思うだろうな。
このタッキーは、同じクラスの中島 隆之だ。たかゆきだからタッキーなんだと。本名のアヤカは論外として、俺も中島も名前のセンスは無いようだ。
前に買うと言ってから、それほど時間も経たずに買って、一緒にパーティを組むようになった。当然、最初の方は手伝っていたが、今では居ると便利なサポート役になっている。
ちなみに、俺とタッキーがクエストしている時、最初にアヤカが来たときは、
「何方ですの?」
「あぁ、同じクラスの中島だよ。」
「存知ませんわ。」
だ。
地味に中島がへこんでやがったのは、ちょっとウケたけど。ゲームの中で初対面だから知らないのは当然として、現実でも知らないってのはどうかと思ったよ。
主にサポート役であるタッキーの武器は二丁拳銃だ。銃も一回使ってみたい代物ではあるが、俺としては剣を振って攻撃する方が実感が湧くというか。
二丁拳銃は攻撃力に乏しいものの、多種に渡る銃弾が装填可能で、毒や麻痺、睡眠、混乱、持続ダメージ等、サポートとして力を発揮する効果のものが多い。火力のアヤカと、サポートのタッキーは相性が良いようで、パーティとしてはうまく回っている気がする。
俺が中途半端なのは今に始まったことじゃないので、もう気にしない事にした。楽しんでこそのゲームだしな。
大きな変化と言えば、中島が加わった事だけだ。あれだけ面倒だと思っていた鳳隆院とは、結局ずっと一緒にやっているのが不思議といえば不思議だが。
今でもたまに面倒だと思う事はあっても、始めた当初みたいに心の底から思っている感じがしなくなった。
他のプレイヤーともパーティを組んだり、知り合いになったりはしているが、俺にとって今はこのメンバーが落ち着いてプレイできるメンバーになっている。
そこそこ順調なDEWSでも、一つ問題がある。
俺はその問題に目を向けた。
風に靡いてもいない髪をかき上げ、遠くに視線を向けるアリシア。気取ってはいるが、戦闘で糞の役にも立たないところは変わっていない。
結局彼女はなんなのか分からないまま今に至っている。パーティが組めるわけでもなく、プレイヤーの役に立つ事をなにかしてくれるわけでもない。
単に鬱陶しい話し相手くらいにしかなっていない。
「あらユアキス、わたくしに見とれていましたの?」
単に疑問の目を向けていただけなんだが、視線に気付いたのかアリシアがこっちを向いて阿呆な事をいいやがった。
「この目の何処がそう見えるんだ?」
「まぁ、照れる気持ちもわからなくはないですわ。」
聞けよ!
まあいいや、こいつの相手も慣れたし。ただ不思議なことに、NPCのくせに装備品は上等になっているんだよな。俺らが新しい装備を作って少しすると。
あれか、プレイヤーに合わせて成長するNPCとかか?
とか思っても、結局答えの分からないまま今に至るわけだけど。
「ところで、残りの8-10クエストってなんだっけ?」
「一つはボスだね、腐敗を撒く屍竜の討伐。」
俺の疑問にタッキーがシステムデバイスで確認する。
「もう一つはは???のまま開示されてませんわ。」
今までに無いパターンだな。8-9までは、そのレベルに達したときに、そのレベルのクエストは全て表示されていた。ここに来て新しい趣向?遅すぎるというか、今更な気もする。隠す意味あるのかよって。
「腐敗は面倒だね。」
「確かにな。」
「あら、そうなんですの?」
戦闘以外に関しては学習能力が乏しいんだよな。いや、頭はいいんだ。学習出来ないんじゃなく、興味が無いから覚えないんだ、アヤカの場合。うわ、質悪い。
「この前、常禍の回廊でロトンブレス食らって死んだのどこのどいつだよ。」
腐敗の持続ダメージで死んだくせに、覚えてないのかまったく。
「あ、あれがそうでしたの・・・確かに危険ですわ。」
思い出してくれたようでよかった。恥ずかしくて顔を反らすくらいなら覚えておけよ。
「もう一つ効果があってな、ステータスを一時的に減少させてくる。」
「それは困りますわ。」
おぅ、こっちは理解しているようだ。直接自分の能力に関わってくる事は覚えているんだな。
どっちにしろ腐敗対策は必要だから、一度街に戻って準備が必要だな。
「一回街に戻って準備するぞ。」
「僕もそれがいいと思う。」
タッキーも同意したところで、アヤカも頷いたがNPCが不服そうな顔をした。
「順調ですのに戻りますの?わたくし行ったり来たりがもう面倒ですわ。」
ゲームをしてるのは俺らなんだけどな、NPCは黙っとれ。
「片田舎の子爵令嬢が口を挟む事ではありませんわ。」
その通りなんだが、そこまで言わなくてもいいだろうと思う。ってか、2か月経ってもこの二人の関係はまったく進展していない。何を張り合っているのか知らないが面倒、というか聞き飽きた。いや、既に慣れてどうでもよくなっているが正解か。
「鳳隆院財閥なんて聞いた事がありませんわ、わたくし辺境の地まで存じ上げませんもの。」
今更何を言っているんだ。アリシアなりの意地なんだろうが。
「故に、わたくしの提案を否定される謂れはありませんわ。」
ま、ほっといて街に戻るか。
と、移動しようとした時、二人が俺を見てくる。見んな。
『で、どっちの話しを受け入れるんですの!?』
知るか!
「お前まで聞いて来るなよ、街に戻るでさっき一致しただろうが!」
「片田舎の子爵令嬢に絆されて気が変わっていないか、確認の為ですわ。」
阿呆くさ。
「今までクエストクリアをするのに、NPCの発言に流された事なんてないだろうが。」
新たにクエストが発生するならともかく、今のところそんな情報なんてないし。
「だからそのえぬぴーしーってなんですの?」
まだ言ってる。ってかずっと言い続けそうだな。NPCにNPCの説明するとか、そんな間抜けな事はするつもりもないので、今回も無視しておこう。
「よし、じゃぁ戻るか。」
次は腐敗を撒く屍竜か、名前からして嫌な感じだな。
「お嬢様の様子は変わりないか美馬津。」
以前よりも目の下の隈が濃くなった美馬津に、同じく隈が出来ている八鍬が確認する。お互い、隠す気も無いのか、疲れた顔のままディスプレイに向けている視線は前と変わっていない。
「健康状態は問題ないようです。」
「そりゃ食事も睡眠も摂っているんだ、そうそう壊れるものでもあるまい。」
求めている答えではない事に八鍬が呆れたように言うと、美馬津が肩を竦めてみせた。
「変化が無い、わけじゃありません。」
「上がってきているデータを見る限り、精神の安定性が向上しているのは間違いないな。」
「はい。生活に慣れてきた、プレイヤーとの交流で落ち着いてきた、等の要素が強いでしょうね。」
「だろうな、見ていればそれは分かる。」
他のプレイヤーと当たり前のように会話し、笑ったり怒ったりするアリシアの姿を見てきた八鍬は、当然のことだと口にする。
「まだ二ヵ月程です、今後の変化に気を付けなければなりませんね。」
「問題は、他のプレイヤーにとってはゲームでしかないという事だ。何時までもお嬢様の周りに同じプレイヤーが居続けるわけではない。」
「自分を取り巻く状況が変わった時の心情の変化、それに伴う体調の変化等も確認しなければなりませんね。」
「まったく、嫌気しか出てこない仕事だな。」
八鍬はそう言うとディスプレイから視線を外し、溜息を吐きながら額に掌を当てる。
「二ヵ月経っても人材の補充はされないですしね。」
美馬津も疲れた声で、データの収集は順調だが、改善されない環境を嘆くように言った。それを聞いた八鍬が、急に椅子から立ち上がる。
「すっかり忘れていた。」
「どうしました?」
「人材で思い出したんだが、補充される事になったぞ、このプロジェクト。」
「え・・・本当ですか!?」
八鍬の思いがけない言葉に、美馬津は驚くと同時に椅子から立ち上がる。監視していたディスプレイからは目を離し、口が開いたままの間の抜けた顔を八鍬に向けた。
「そんな驚ろかんでもいいだろ、もともと要請は出していたのだら。」
「主任も思ってましたよね、増員は無いなって。それでも言わなければこちらが持たないから、言い続けていたんじゃないですか。」
「いやまぁ、そうなんだが。」
美馬津の言う通り八鍬にとっても諦めていた事案だったため、うっかり忘れていたのだった。
何故今になって増員を認めたのか。今のところ監視も順調なため、依頼側が本腰を入れ始めたのだろうと八鍬は想像している。
「これで少しは楽になりそうですね。で、いつからですか?」
明確な話しは聞いていないため、美馬津が期待を押し殺して実際のところを確認する。だが八鍬の顔は曇り気味だった。
「人材は向こうで決めるそうだ。ここに来るまでは年齢も性別も顔もわからん。何時から来るかも不明だ。ただ、補充すると言われただけなんだ。」
八鍬の言葉に、明らかに美馬津は落胆した。
「つまり、補充するという言葉だけで、来るかどうかも分からないって事じゃないですか。」
「有体に言えば、そうなってしまうな。」
「結局、今まで通りって事ですね。」
美馬津はそう言うと椅子に座り、再びディスプレイへと目を向けた。
「お前もさっき自分で言ったじゃないか、増員は無いだろうと。だったら、来たら儲けもの程度に捉えておくのが丁度いいんじゃないか。」
「そうですねぇ・・・僕は一人でぬか喜びに陥ったわけですねぇ。」
「まぁそう不貞るな。」
「いえ、そうでもないですよ。普段と違う反応をさせられたせいか、気分転換にはなりましたし。」
美馬津が少し笑みを浮かべながら言ったことに、八鍬はそれならいいかと自分もディスプレイに目を向けた。
来るにせよ来ないにせよ、何時かは倒れる事になるだろうその時まで、ディスプレイに映る令嬢の監視を続けるしかないんだと言い聞かせて。
「ユアキス、左ですわ!」
「分かってるって。」
深淵の巨人が放つ右腕の横殴りを躱しつつ足元に潜り込んだ俺は、抜刀の斬り上げから袈裟斬り、横凪、横凪を止めず体を回転させてからの逆袈裟、そのまま踏み込んで三連突き。
(どうだ、今俺が使える最高の七連撃だ。)
「詰めが甘いですわ。」
俺の横を通り過ぎながらアヤカが言う。余計なお世話だ。
アヤカは太刀を逆風に振り上げながら跳躍、頂点に達すると袈裟斬りから振り抜いた勢いで回転し、勢いを付けた唐竹で着地してそのまま払い抜けで背後へ抜ける。
4メートル程ある深淵の巨人は、ゆっくりと倒れると大きな音を立てて巨躯が地面を揺るがす。その後ゆっくりと消滅していった。
「これでLV8-10 深淵の巨人3体の撃破、完了だな。」
「えぇ、軽かったですわ。」
光剣ラーズヴェイト、攻撃速度20%アップ、攻撃硬直短縮10%、攻撃力15%アップ、光属性付与、一部の通常攻撃後三連突き派生が可能。
これが今、俺が装備している片手剣だ。クエストレベルもここまで進むと、武器の性能も始めた頃よりかなり高性能だ。しかも、あくまで武器だけの能力なので、防具や装飾品などの他の装備と合わせると、さらに増える。
(神剣ラーズアルティアまで強化出来たら、攻撃数+1で8連撃が可能だから、早く欲しいな。)
そんな事より、アヤカの太刀の方がやばい。絶刀 繚乱、攻撃速度40%アップ、攻撃硬直短縮20%、攻撃力50%アップ、抜刀攻撃のみ攻撃力追加50%アップ。特定の攻撃から剣閃を翔ばす事が可能。
属性とか付加効果は無いが、単純火力がすごい。
次の強化で、絶華一刀 繚乱姫媚になると、連続攻撃数+2と、麻痺効果が付与されるんだよな。いやいや、強すぎじゃないか?
「二人ともやっぱつぇーわ。」
「タッキーの補助があればこその部分も大きいけどな。」
「状態異常というのが、ここまで効果的とは思いませんでしたわ。」
ゲーム音痴のアヤカはそう思うだろうな。
このタッキーは、同じクラスの中島 隆之だ。たかゆきだからタッキーなんだと。本名のアヤカは論外として、俺も中島も名前のセンスは無いようだ。
前に買うと言ってから、それほど時間も経たずに買って、一緒にパーティを組むようになった。当然、最初の方は手伝っていたが、今では居ると便利なサポート役になっている。
ちなみに、俺とタッキーがクエストしている時、最初にアヤカが来たときは、
「何方ですの?」
「あぁ、同じクラスの中島だよ。」
「存知ませんわ。」
だ。
地味に中島がへこんでやがったのは、ちょっとウケたけど。ゲームの中で初対面だから知らないのは当然として、現実でも知らないってのはどうかと思ったよ。
主にサポート役であるタッキーの武器は二丁拳銃だ。銃も一回使ってみたい代物ではあるが、俺としては剣を振って攻撃する方が実感が湧くというか。
二丁拳銃は攻撃力に乏しいものの、多種に渡る銃弾が装填可能で、毒や麻痺、睡眠、混乱、持続ダメージ等、サポートとして力を発揮する効果のものが多い。火力のアヤカと、サポートのタッキーは相性が良いようで、パーティとしてはうまく回っている気がする。
俺が中途半端なのは今に始まったことじゃないので、もう気にしない事にした。楽しんでこそのゲームだしな。
大きな変化と言えば、中島が加わった事だけだ。あれだけ面倒だと思っていた鳳隆院とは、結局ずっと一緒にやっているのが不思議といえば不思議だが。
今でもたまに面倒だと思う事はあっても、始めた当初みたいに心の底から思っている感じがしなくなった。
他のプレイヤーともパーティを組んだり、知り合いになったりはしているが、俺にとって今はこのメンバーが落ち着いてプレイできるメンバーになっている。
そこそこ順調なDEWSでも、一つ問題がある。
俺はその問題に目を向けた。
風に靡いてもいない髪をかき上げ、遠くに視線を向けるアリシア。気取ってはいるが、戦闘で糞の役にも立たないところは変わっていない。
結局彼女はなんなのか分からないまま今に至っている。パーティが組めるわけでもなく、プレイヤーの役に立つ事をなにかしてくれるわけでもない。
単に鬱陶しい話し相手くらいにしかなっていない。
「あらユアキス、わたくしに見とれていましたの?」
単に疑問の目を向けていただけなんだが、視線に気付いたのかアリシアがこっちを向いて阿呆な事をいいやがった。
「この目の何処がそう見えるんだ?」
「まぁ、照れる気持ちもわからなくはないですわ。」
聞けよ!
まあいいや、こいつの相手も慣れたし。ただ不思議なことに、NPCのくせに装備品は上等になっているんだよな。俺らが新しい装備を作って少しすると。
あれか、プレイヤーに合わせて成長するNPCとかか?
とか思っても、結局答えの分からないまま今に至るわけだけど。
「ところで、残りの8-10クエストってなんだっけ?」
「一つはボスだね、腐敗を撒く屍竜の討伐。」
俺の疑問にタッキーがシステムデバイスで確認する。
「もう一つはは???のまま開示されてませんわ。」
今までに無いパターンだな。8-9までは、そのレベルに達したときに、そのレベルのクエストは全て表示されていた。ここに来て新しい趣向?遅すぎるというか、今更な気もする。隠す意味あるのかよって。
「腐敗は面倒だね。」
「確かにな。」
「あら、そうなんですの?」
戦闘以外に関しては学習能力が乏しいんだよな。いや、頭はいいんだ。学習出来ないんじゃなく、興味が無いから覚えないんだ、アヤカの場合。うわ、質悪い。
「この前、常禍の回廊でロトンブレス食らって死んだのどこのどいつだよ。」
腐敗の持続ダメージで死んだくせに、覚えてないのかまったく。
「あ、あれがそうでしたの・・・確かに危険ですわ。」
思い出してくれたようでよかった。恥ずかしくて顔を反らすくらいなら覚えておけよ。
「もう一つ効果があってな、ステータスを一時的に減少させてくる。」
「それは困りますわ。」
おぅ、こっちは理解しているようだ。直接自分の能力に関わってくる事は覚えているんだな。
どっちにしろ腐敗対策は必要だから、一度街に戻って準備が必要だな。
「一回街に戻って準備するぞ。」
「僕もそれがいいと思う。」
タッキーも同意したところで、アヤカも頷いたがNPCが不服そうな顔をした。
「順調ですのに戻りますの?わたくし行ったり来たりがもう面倒ですわ。」
ゲームをしてるのは俺らなんだけどな、NPCは黙っとれ。
「片田舎の子爵令嬢が口を挟む事ではありませんわ。」
その通りなんだが、そこまで言わなくてもいいだろうと思う。ってか、2か月経ってもこの二人の関係はまったく進展していない。何を張り合っているのか知らないが面倒、というか聞き飽きた。いや、既に慣れてどうでもよくなっているが正解か。
「鳳隆院財閥なんて聞いた事がありませんわ、わたくし辺境の地まで存じ上げませんもの。」
今更何を言っているんだ。アリシアなりの意地なんだろうが。
「故に、わたくしの提案を否定される謂れはありませんわ。」
ま、ほっといて街に戻るか。
と、移動しようとした時、二人が俺を見てくる。見んな。
『で、どっちの話しを受け入れるんですの!?』
知るか!
「お前まで聞いて来るなよ、街に戻るでさっき一致しただろうが!」
「片田舎の子爵令嬢に絆されて気が変わっていないか、確認の為ですわ。」
阿呆くさ。
「今までクエストクリアをするのに、NPCの発言に流された事なんてないだろうが。」
新たにクエストが発生するならともかく、今のところそんな情報なんてないし。
「だからそのえぬぴーしーってなんですの?」
まだ言ってる。ってかずっと言い続けそうだな。NPCにNPCの説明するとか、そんな間抜けな事はするつもりもないので、今回も無視しておこう。
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