12 / 98
11.不毛な争い、勃発
しおりを挟む
「確か、子供・・・だよな・・・」
「えぇ、そのはずですわ・・・」
ウゼンナ山の中腹にある、開けた場所に目を向けながら俺は漏らすように言葉を吐いた。
アヤカも同様の事を思ってか、同意するように頷く。
間違いじゃないよなって思って、システムデバイスを確認するが、内容に変更はない。LV1-3のボス、火竜の子供討伐という文字に何の変化もない。
「つまり、あれが子供なんだな。」
「そういう事ですわ。」
四足で歩く赤い竜。その頭は明らかにこっちの身長の倍はある高さに存在した。
俺はもっと小さいのを予想していたっての。あの大きさで子供とか書くな。
「あれが子供だとしたら、成竜はどのくらいの大きさになるのか、想像もつかないですわね。」
おう、恐ろしい事をさらっと言ったな。考えないようにしてたのに。だがアヤカの言う通りで、子供と敢えて表記しているからには、当然普通の火竜もいるんだろう。
かなりでかそうだな。
「本当にあんなのと戦うんですの?」
後ろから震える声でアリシアが言ってくる。ってか毎回なんで付いてくるんだよ、こいつは。
一度相手にしたら、どこにでも付いてくるペットみたいなものか?それなら何かアイテムくれたり、有益な情報教えてくれたり、戦闘をサポートしてくれたりしてもいいんじゃないか?
あれ、悲鳴を上げて逃げいるだけだぞ。
「不足はありませんわ、田舎娘は下がって見ていなさい。」
レイピアを杖代わりに足を震わせていたアリシアに対し、アヤカが嘲笑うような目を向けて言った。いや、NPC挑発すんなよ、アホか。
「今なんとおっしゃいました?田舎娘と聞こえたような気が致しますが、気のせいですわよね?」
アリシアの目付きが鋭くなり、アヤカに向けられる。足の震えは既になく、杖にしていたレイピアの柄に手を掛け、抜剣しそうな勢いだ。
気のせいとか確認しておきながら、レイピアを抜こうとしているあたり、気のせいと思ってないだろ。
ってかこんなところで揉めるなよな。
「気のせいじゃありませんわ。田舎貴族の娘は、隅で震えていていいんですのよ。ここは私が何とかしますから。」
何煽ってんだよ!
「言ってくれますわね、聞いたこともない財閥の小娘の分際でわたくしを愚弄するなど、身の程を知りなさい。」
ってなんでお前も乗っかってんだよ!
レイピアを抜くな!
どんなNPCだよ・・・
レイピアを抜いたアリシアに対し、アヤカも背中の太刀に手を掛けて警戒の姿勢で構えている。あの、相手はNPCなんだが、何を本気になっているんだ。
ぐるるるぅ・・・
アヤカが踏み込みのために姿勢を落とし、一触即発の緊張感が膨れ上がった瞬間だった。
その唸り声が聞こえたのは。
唸り声が聞こえた方に、俺たちは同時に目を向ける。鱗に覆われた巨体が行き先を塞ぎ、見上げれば獰猛な眼が俺たちを見下ろしていた。
「お前らが騒ぐから・・・」
気付かれたじゃねーかって続けようとしたんだが、その前に火竜の子供が覆いかぶさって来たので、咄嗟に散開した。
いや、避けたと言えるのは俺とアヤカであって、アリシアはまぁ、悲鳴を上げながら凄い勢いで火竜とは反対方向であるウゼンナ山の入り口に向かって走って行った。
さっきまでの威勢はどうしたよ。
結果として、火竜の子供は一触即発の危機を回避してくれた。が、俺にとっての本番はこれからなわけだ。
アリシアの事は放っておく事にして、俺とアヤカは火竜の横を通り抜けて開けた場所の中心部へと移動する。緩慢な動作で火竜は俺たちに体ごと顔を向けると、大きく息を吸い始める。
(げ、あれは嫌な予感がする。)
火竜の口の中が輝き始めると、俺たちに向かって大きくその咢を開いた。咄嗟に俺とアヤカは、火竜の口の直線状から逃れるように左右に跳ぶ。直後に炎のうねりが俺たちがさっきいた場所を飲み込んでいった。
(あぶなっ!)
じゃねぇ!
掠って火傷やられになってるじゃねーか!
(良かった、状態回復薬作っておいて。)
俺がそんな状態であたふたしている間に、アヤカは火竜に向かってブレスの範囲外から、太刀を構えて突っ込んでいく。一気に間合いを詰めたアヤカの、渾身かどうか分からないが袈裟斬りが火竜の胴に振り下ろされた。
ガギンッ
そんな音とともに、アヤカの振り下ろした太刀は、火竜の短い手で受け止められていた。効果音は爪で受け止めたって感じだろうか。
ってか受け止められるのかよ!?
太刀を受け止めた火竜は、太刀ごとアヤカを横に放り投げる。
マジでリアルバトルしているみたいな感じだな・・・
コンピュータが動かしてるモンスターとは思えない、まるで意思があるような動きをしてやがる。こんなゲームは初めてだ。
投げられたアヤカは空中で体制を整えると、山肌を蹴って着地していた。動きが玄人すぎる・・・
このゲームの可能性なのかもしれないが、そこまで動けるようになるなら、もっと楽しめそうだな。
って考えている場合じゃねぇ。
火竜の口内が赤く輝くのを見て、慌てて俺は射線から離れる。
おいおい、まだクエストLV1-3だぞ、今からこんなに敵が強いって感じると、今後戦っていけるんだろうかと不安になる。
なんて考えていてもしょうがないな。
アヤカが側面から間合いを詰めていくのを確認しながら、俺は反対方向から火竜との間合いを詰める。
さすがに二方向から攻められたらどっちかは攻撃を叩き込めるこめるだろう。それならば、俺が囮になって、火力のあるアヤカの攻撃を当てるのが理想だ。
だが、それは火竜も分かっているのか、身体をアヤカの方に向けだす。
本当に思考を持って戦ってんじゃないのか?と疑いたくなるわ。
アヤカに向かって火竜は、右手の鉤爪を振り下ろす。火力は足りないが、攻撃のチャンスに攻撃をして少しでも敵の体力を削らなければ。
そう考え、俺は火竜の背中に向かって剣を振り下ろす。
が、届く前に視界が回転した事に一瞬思考が止まった。
状況を把握して気付いたのは、身体をアヤカに向けた反動で、火竜は尻尾を振って俺を弾き飛ばしたようだ。
だから強いっての。
着地する前に、火竜の手を潜り抜けて胴に横凪を入れるアヤカの姿が見えた。ゲームはした事無いってわりに、俺より強い事に若干やるせなさを感じながら、俺は背中から地面に落下した。
痛みは無いが、いい気分ではない。
(ってやべぇ、回復薬使わないと。)
半分以上減ったHPを見て、慌てて回復薬を使う。
その間にもアヤカは、火竜の攻撃を避けながら太刀を振っていた。動きに慣れてきたのかもしれない。
それでも戦っていると動きのパターンがあり、俺も慣れてくると問題なく戦うことが出来た。
多少時間はかかったものの、無事火竜を撃破。
火竜の牙ゲット。
これで武器が作れる。
「足りませんわ。」
内心で喜んでいる俺に水を差す言葉をアヤカが発した。安易に素材が揃わないから、また戦うぞという事だろう。もう慣れてきた。
太刀は獲物として大きいせいか、片手剣にくらべて使う素材の量が多いみたいだ。
今後、クエストに付き合わされる事を考えると、毎回のようにこのノリになりそうで嫌な気分になる。
「もう一回か?」
「その通りですわ。」
ま、予想通りだったわけだ。
「あら、倒しましたのね。」
いつの間に戻ってきていた、こいつは。察しがいいのか、隠れて見ていたのかは不明だが、タイミングが良すぎる。
ってかそのまま街まで帰ればいいのに。
「何しに戻って来たんだよ、街に居ればいいのに。」
「酷い言い種ですわね。」
いや、正直迷惑なのは事実なんだが。
「それに、頼る当てもないですし、街の人はなにか機械的な反応しかしません。リュステニア王国に戻れるようになるまでは、あなた方に同行させて頂きますわ。」
マジかよ。
なんて面倒臭いNPCなんだ。
まぁでも、ゲーム上付いて来るのが当たり前ならしょうがないよな、面倒でも放っておくしかないか。
「とりあえず一旦、クエスト報告に戻らね?」
クエスト報酬に次のクエスト確認、武器の作成とやることはいっぱいある。一回戻って整理したいってのが正直なところだ。
「面倒ですわ。私は戻るメリットを感じませんもの、早く武器を作りたいユアキスと違って。」
聡いよなぁ、アヤカのやつ。
しっかりと牽制してきやがって。
「わかったよ、だったら早く片付けてしまおうぜ。」
「街に戻るんじゃありませんの?」
そこで、俺とアヤカのやりとりにアリシアが割って入る。どうせ逃げるんだから、黙っていればいいのに。
「いや、さっきの火竜ともう一回戦うんだ。」
「倒しではありませんか!」
「何回でも戦えるんだって。」
「この世界おかしいですわ!」
NPCに言われたくねーよ。
「別に納得しろとは言わないけどさ、待ってるなり街に戻るなりしててくれよ。」
「仕方ないですわね。」
なんでNPCの了承をもらわなきゃならないんだ。あほくさ。言った自分が馬鹿みてぇ。
「ちょっと待て、このモンスター強くないか!?」
一回戦ったから、火竜の動きはだいたい把握済みだ。だから落ち着いてそんな苦労もせずに倒せる。そう思っていたが、二回目の戦闘でそんな言葉が漏れる。
「明らかに、攻撃パターンが増えてますわ。」
前も思ったが、戦う度に進化や学習するんじゃないのか?だとしたら、なんて嫌なシステムなんだ。敵が学習して強くなっていくって、プレイヤーにどんな苦労をさせたいんだよ。
いや、そういうのが好きなプレイヤーも居るだろうけどさ。
ただ勝手に難易度が上がっていくのはちょっとな・・・いや、これはゲームをプレイしている側の概念かもしれない。難易度がそれぞれあって、自分に合わせて選ぶのが当たり前だという。
プレイヤーがゲームに合わせる、そんなシステムがあったとしても不思議ではないのかもしれない。
そんな事を考えるより、今は戦闘に集中しないとな。
一回目より苦労した気はするが倒すことが出来、アヤカの必要な材料も揃ったので戻ることにした。
結局待っていたアリシアと合流して、材料の揃った俺とアヤカはメルフェアの街に戻った。
「さぁ、早速試し切りに行きますわよ。」
両手をワキワキさせながら、アヤカが不敵な笑みを浮かべる。口調はお嬢様なんだが、行動と言動は危ない奴そのものだな。
「俺もレッドファングが出来たことだし、確かに行きたい気持ちはわかる。」
「私の緋太刀、なかなかの見栄えですわ。所詮ゲームと馬鹿にしておりましたが、良く出来ていますわ。」
まぁ、すっかりはまっている感じがするもんな。
「この緋太刀、紅吹雪と同じように進化先がありますの。その焔円舞を作成する前に、一度は振っておきたいですわ。」
言いたいことはわかるが、そもそも材料足りてないだろ。俺も進化先の紅蓮が作れないんだから。
「だったら、次のクエストやりつつでいいんじゃないか?まだ見たことのない材料が必要そうだし。」
「ええ、その通りですわ。」
まだ報告していなかった火竜討伐をクエスト屋で報告。LV1-3完了と、LV1-4が開放される。
求めていた材料、武器を強化するための紅水晶を納品するクエストがあった。
「これだな。」
「そうですわね、このクエストを行えば私の焔円舞が手に入りますわ!」
さっきよりもアヤカの目の輝きが増した気がした。その顔はゲームデータとはいえ、現実のきつい鳳隆院のイメージはなく、可愛く見えてしまった。考えてみれば、鳳隆院は見た目は美人なんだよな。
すっかりゲームにはまってしまった感じがするアヤカ。
そんな令嬢に振り回されるのが嫌で、早く解放されたくてたまらなかった。そう感じて、解放されたいと思っていた筈なのに、今はこの状況も悪くないと思い始めている自分に、俺はまだ気付いていなかった。
「えぇ、そのはずですわ・・・」
ウゼンナ山の中腹にある、開けた場所に目を向けながら俺は漏らすように言葉を吐いた。
アヤカも同様の事を思ってか、同意するように頷く。
間違いじゃないよなって思って、システムデバイスを確認するが、内容に変更はない。LV1-3のボス、火竜の子供討伐という文字に何の変化もない。
「つまり、あれが子供なんだな。」
「そういう事ですわ。」
四足で歩く赤い竜。その頭は明らかにこっちの身長の倍はある高さに存在した。
俺はもっと小さいのを予想していたっての。あの大きさで子供とか書くな。
「あれが子供だとしたら、成竜はどのくらいの大きさになるのか、想像もつかないですわね。」
おう、恐ろしい事をさらっと言ったな。考えないようにしてたのに。だがアヤカの言う通りで、子供と敢えて表記しているからには、当然普通の火竜もいるんだろう。
かなりでかそうだな。
「本当にあんなのと戦うんですの?」
後ろから震える声でアリシアが言ってくる。ってか毎回なんで付いてくるんだよ、こいつは。
一度相手にしたら、どこにでも付いてくるペットみたいなものか?それなら何かアイテムくれたり、有益な情報教えてくれたり、戦闘をサポートしてくれたりしてもいいんじゃないか?
あれ、悲鳴を上げて逃げいるだけだぞ。
「不足はありませんわ、田舎娘は下がって見ていなさい。」
レイピアを杖代わりに足を震わせていたアリシアに対し、アヤカが嘲笑うような目を向けて言った。いや、NPC挑発すんなよ、アホか。
「今なんとおっしゃいました?田舎娘と聞こえたような気が致しますが、気のせいですわよね?」
アリシアの目付きが鋭くなり、アヤカに向けられる。足の震えは既になく、杖にしていたレイピアの柄に手を掛け、抜剣しそうな勢いだ。
気のせいとか確認しておきながら、レイピアを抜こうとしているあたり、気のせいと思ってないだろ。
ってかこんなところで揉めるなよな。
「気のせいじゃありませんわ。田舎貴族の娘は、隅で震えていていいんですのよ。ここは私が何とかしますから。」
何煽ってんだよ!
「言ってくれますわね、聞いたこともない財閥の小娘の分際でわたくしを愚弄するなど、身の程を知りなさい。」
ってなんでお前も乗っかってんだよ!
レイピアを抜くな!
どんなNPCだよ・・・
レイピアを抜いたアリシアに対し、アヤカも背中の太刀に手を掛けて警戒の姿勢で構えている。あの、相手はNPCなんだが、何を本気になっているんだ。
ぐるるるぅ・・・
アヤカが踏み込みのために姿勢を落とし、一触即発の緊張感が膨れ上がった瞬間だった。
その唸り声が聞こえたのは。
唸り声が聞こえた方に、俺たちは同時に目を向ける。鱗に覆われた巨体が行き先を塞ぎ、見上げれば獰猛な眼が俺たちを見下ろしていた。
「お前らが騒ぐから・・・」
気付かれたじゃねーかって続けようとしたんだが、その前に火竜の子供が覆いかぶさって来たので、咄嗟に散開した。
いや、避けたと言えるのは俺とアヤカであって、アリシアはまぁ、悲鳴を上げながら凄い勢いで火竜とは反対方向であるウゼンナ山の入り口に向かって走って行った。
さっきまでの威勢はどうしたよ。
結果として、火竜の子供は一触即発の危機を回避してくれた。が、俺にとっての本番はこれからなわけだ。
アリシアの事は放っておく事にして、俺とアヤカは火竜の横を通り抜けて開けた場所の中心部へと移動する。緩慢な動作で火竜は俺たちに体ごと顔を向けると、大きく息を吸い始める。
(げ、あれは嫌な予感がする。)
火竜の口の中が輝き始めると、俺たちに向かって大きくその咢を開いた。咄嗟に俺とアヤカは、火竜の口の直線状から逃れるように左右に跳ぶ。直後に炎のうねりが俺たちがさっきいた場所を飲み込んでいった。
(あぶなっ!)
じゃねぇ!
掠って火傷やられになってるじゃねーか!
(良かった、状態回復薬作っておいて。)
俺がそんな状態であたふたしている間に、アヤカは火竜に向かってブレスの範囲外から、太刀を構えて突っ込んでいく。一気に間合いを詰めたアヤカの、渾身かどうか分からないが袈裟斬りが火竜の胴に振り下ろされた。
ガギンッ
そんな音とともに、アヤカの振り下ろした太刀は、火竜の短い手で受け止められていた。効果音は爪で受け止めたって感じだろうか。
ってか受け止められるのかよ!?
太刀を受け止めた火竜は、太刀ごとアヤカを横に放り投げる。
マジでリアルバトルしているみたいな感じだな・・・
コンピュータが動かしてるモンスターとは思えない、まるで意思があるような動きをしてやがる。こんなゲームは初めてだ。
投げられたアヤカは空中で体制を整えると、山肌を蹴って着地していた。動きが玄人すぎる・・・
このゲームの可能性なのかもしれないが、そこまで動けるようになるなら、もっと楽しめそうだな。
って考えている場合じゃねぇ。
火竜の口内が赤く輝くのを見て、慌てて俺は射線から離れる。
おいおい、まだクエストLV1-3だぞ、今からこんなに敵が強いって感じると、今後戦っていけるんだろうかと不安になる。
なんて考えていてもしょうがないな。
アヤカが側面から間合いを詰めていくのを確認しながら、俺は反対方向から火竜との間合いを詰める。
さすがに二方向から攻められたらどっちかは攻撃を叩き込めるこめるだろう。それならば、俺が囮になって、火力のあるアヤカの攻撃を当てるのが理想だ。
だが、それは火竜も分かっているのか、身体をアヤカの方に向けだす。
本当に思考を持って戦ってんじゃないのか?と疑いたくなるわ。
アヤカに向かって火竜は、右手の鉤爪を振り下ろす。火力は足りないが、攻撃のチャンスに攻撃をして少しでも敵の体力を削らなければ。
そう考え、俺は火竜の背中に向かって剣を振り下ろす。
が、届く前に視界が回転した事に一瞬思考が止まった。
状況を把握して気付いたのは、身体をアヤカに向けた反動で、火竜は尻尾を振って俺を弾き飛ばしたようだ。
だから強いっての。
着地する前に、火竜の手を潜り抜けて胴に横凪を入れるアヤカの姿が見えた。ゲームはした事無いってわりに、俺より強い事に若干やるせなさを感じながら、俺は背中から地面に落下した。
痛みは無いが、いい気分ではない。
(ってやべぇ、回復薬使わないと。)
半分以上減ったHPを見て、慌てて回復薬を使う。
その間にもアヤカは、火竜の攻撃を避けながら太刀を振っていた。動きに慣れてきたのかもしれない。
それでも戦っていると動きのパターンがあり、俺も慣れてくると問題なく戦うことが出来た。
多少時間はかかったものの、無事火竜を撃破。
火竜の牙ゲット。
これで武器が作れる。
「足りませんわ。」
内心で喜んでいる俺に水を差す言葉をアヤカが発した。安易に素材が揃わないから、また戦うぞという事だろう。もう慣れてきた。
太刀は獲物として大きいせいか、片手剣にくらべて使う素材の量が多いみたいだ。
今後、クエストに付き合わされる事を考えると、毎回のようにこのノリになりそうで嫌な気分になる。
「もう一回か?」
「その通りですわ。」
ま、予想通りだったわけだ。
「あら、倒しましたのね。」
いつの間に戻ってきていた、こいつは。察しがいいのか、隠れて見ていたのかは不明だが、タイミングが良すぎる。
ってかそのまま街まで帰ればいいのに。
「何しに戻って来たんだよ、街に居ればいいのに。」
「酷い言い種ですわね。」
いや、正直迷惑なのは事実なんだが。
「それに、頼る当てもないですし、街の人はなにか機械的な反応しかしません。リュステニア王国に戻れるようになるまでは、あなた方に同行させて頂きますわ。」
マジかよ。
なんて面倒臭いNPCなんだ。
まぁでも、ゲーム上付いて来るのが当たり前ならしょうがないよな、面倒でも放っておくしかないか。
「とりあえず一旦、クエスト報告に戻らね?」
クエスト報酬に次のクエスト確認、武器の作成とやることはいっぱいある。一回戻って整理したいってのが正直なところだ。
「面倒ですわ。私は戻るメリットを感じませんもの、早く武器を作りたいユアキスと違って。」
聡いよなぁ、アヤカのやつ。
しっかりと牽制してきやがって。
「わかったよ、だったら早く片付けてしまおうぜ。」
「街に戻るんじゃありませんの?」
そこで、俺とアヤカのやりとりにアリシアが割って入る。どうせ逃げるんだから、黙っていればいいのに。
「いや、さっきの火竜ともう一回戦うんだ。」
「倒しではありませんか!」
「何回でも戦えるんだって。」
「この世界おかしいですわ!」
NPCに言われたくねーよ。
「別に納得しろとは言わないけどさ、待ってるなり街に戻るなりしててくれよ。」
「仕方ないですわね。」
なんでNPCの了承をもらわなきゃならないんだ。あほくさ。言った自分が馬鹿みてぇ。
「ちょっと待て、このモンスター強くないか!?」
一回戦ったから、火竜の動きはだいたい把握済みだ。だから落ち着いてそんな苦労もせずに倒せる。そう思っていたが、二回目の戦闘でそんな言葉が漏れる。
「明らかに、攻撃パターンが増えてますわ。」
前も思ったが、戦う度に進化や学習するんじゃないのか?だとしたら、なんて嫌なシステムなんだ。敵が学習して強くなっていくって、プレイヤーにどんな苦労をさせたいんだよ。
いや、そういうのが好きなプレイヤーも居るだろうけどさ。
ただ勝手に難易度が上がっていくのはちょっとな・・・いや、これはゲームをプレイしている側の概念かもしれない。難易度がそれぞれあって、自分に合わせて選ぶのが当たり前だという。
プレイヤーがゲームに合わせる、そんなシステムがあったとしても不思議ではないのかもしれない。
そんな事を考えるより、今は戦闘に集中しないとな。
一回目より苦労した気はするが倒すことが出来、アヤカの必要な材料も揃ったので戻ることにした。
結局待っていたアリシアと合流して、材料の揃った俺とアヤカはメルフェアの街に戻った。
「さぁ、早速試し切りに行きますわよ。」
両手をワキワキさせながら、アヤカが不敵な笑みを浮かべる。口調はお嬢様なんだが、行動と言動は危ない奴そのものだな。
「俺もレッドファングが出来たことだし、確かに行きたい気持ちはわかる。」
「私の緋太刀、なかなかの見栄えですわ。所詮ゲームと馬鹿にしておりましたが、良く出来ていますわ。」
まぁ、すっかりはまっている感じがするもんな。
「この緋太刀、紅吹雪と同じように進化先がありますの。その焔円舞を作成する前に、一度は振っておきたいですわ。」
言いたいことはわかるが、そもそも材料足りてないだろ。俺も進化先の紅蓮が作れないんだから。
「だったら、次のクエストやりつつでいいんじゃないか?まだ見たことのない材料が必要そうだし。」
「ええ、その通りですわ。」
まだ報告していなかった火竜討伐をクエスト屋で報告。LV1-3完了と、LV1-4が開放される。
求めていた材料、武器を強化するための紅水晶を納品するクエストがあった。
「これだな。」
「そうですわね、このクエストを行えば私の焔円舞が手に入りますわ!」
さっきよりもアヤカの目の輝きが増した気がした。その顔はゲームデータとはいえ、現実のきつい鳳隆院のイメージはなく、可愛く見えてしまった。考えてみれば、鳳隆院は見た目は美人なんだよな。
すっかりゲームにはまってしまった感じがするアヤカ。
そんな令嬢に振り回されるのが嫌で、早く解放されたくてたまらなかった。そう感じて、解放されたいと思っていた筈なのに、今はこの状況も悪くないと思い始めている自分に、俺はまだ気付いていなかった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
私はいけにえ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」
ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。
私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。
****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
世界樹の森でちび神獣たちのお世話係はじめました
カナデ
ファンタジー
仕事へ向かう通勤列車の事故であっさりと死んだ俺、斎藤樹。享年三十二歳。
まあ、死んでしまったものは仕方がない。
そう思いつつ、真っ暗い空間を魂のままフラフラ漂っていると、世界の管理官を名乗る神族が現れた。
そこで説明されたことによると、なんだか俺は、元々異世界の魂だったらしい。
どうやら地球の人口が多くなりすぎて、不足する魂を他の異世界から吸い取っていたらしい。
そう言われても魂のことなぞ、一市民の俺が知る訳ないが、どうやら俺は転生の待機列からも転がり落ちたそうで、元々の魂の世界の輪廻へ戻され、そこで転生することになるらしい。
そんな説明を受け、さあ、じゃあ元の世界の輪廻へ移行する、となった時、また俺は管理官の手から転がり落ちてしまった。
そうして落ちたのは、異世界の中心、神獣やら幻獣やらドラゴンやら、最強種が集まる深い森の中で。
何故か神獣フェニックスに子供を投げ渡された。
え?育てろって?どうやって?っていうか、親の貴方がいるのに、何故俺が?
魂の状態で落ちたはずなのに、姿は前世の時のまま。そして教えられたステータスはとんでもないもので。
気づくと神獣・幻獣たちが子育てのチャンス!とばかりに寄って来て……。
これから俺は、どうなるんだろうか?
* 最初は毎日更新しますが、その後の更新は不定期になる予定です *
* R15は保険ですが、戦闘というか流血表現がありますのでご注意下さい
(主人公による戦闘はありません。ほのぼの日常です) *
見切り発車で連載開始しましたので、生暖かい目に見守ってくれるとうれしいです。
どうぞよろしくお願いします<(_ _)>
7/18 HOT10位→5位 !! ありがとうございます!
7/19 HOT4位→2位 !! お気に入り 2000 ありがとうございます!
7/20 HOT2位 !!
7/21 お気に入り 3000 ありがとうございます!
転生幼女の引き籠りたい日常~何故か魔王と呼ばれておりますがただの引き籠りです~
暁月りあ
ファンタジー
転生したら文字化けだらけのスキルを手に入れていたコーラル。それは実は【狭間の主】という世界を作り出すスキルだった。領地なしの名ばかり侯爵家に生まれた彼女は前世からの経験で家族以外を苦手としており、【狭間の世界】と名付けた空間に引き籠る準備をする。「対人スキルとかないので、無理です。独り言ばかり呟いていても気にしないでください。デフォです。お兄様、何故そんな悲しい顔をしながら私を見るのですか!?」何故か追いやられた人々や魔物が住み着いて魔王と呼ばれるようになっていくドタバタ物語。
左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?~貧乏孤児院の救世主!
武蔵野純平
ファンタジー
大手企業に勤める平凡なアラフォー会社員の米櫃亮二は、セクハラ上司に諫言し左遷されてしまう。左遷先の仕事は、移動販売スーパーの運転手だった。ある日、事故が起きてしまい米櫃亮二は、移動販売車ごと異世界に転生してしまう。転生すると亮二と移動販売車に不思議な力が与えられていた。亮二は転生先で出会った孤児たちを救おうと、貧乏孤児院を宿屋に改装し旅館経営を始める。
レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか
宮崎世絆
ファンタジー
うたた寝していただけなのに異世界転生してしまった。しかも公爵家の長女、レティシア・アームストロングとして。
あまりにも美しい容姿に高い魔力。テンプレな好条件に「もしかして乙女ゲームのヒロインか悪役令嬢ですか?!」と混乱するレティシア。
溺愛してくる両親に義兄。幸せな月日は流れ、ある日の事。
アームストロング公爵のほかに三つの公爵が既存している。各公爵家にはそれぞれ同年代で、然も眉目秀麗な御子息達がいた。
公爵家の領主達の策略により、レティシアはその子息達と知り合うこととなる。
公爵子息達は、才色兼備で温厚篤実なレティシアに心奪われる。
幼い頃に、十五歳になると魔術学園に通う事を聞かされていたレティシア。
普通の学園かと思いきや、その魔術学園には、全ての学生が姿を変えて入学しなければならないらしく……?
果たしてレティシアは正体がバレる事なく無事卒業出来るのだろうか?
そしてレティシアは誰かと恋に落ちることが、果たしてあるのか?
レティシアは一体誰の手(恋)をとるのか。
これはレティシアの半生を描いたドタバタアクション有りの爆笑コメディ……ではなく、れっきとした恋愛物語である。
ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~
にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。
その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。
そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。
『悠々自適にぶらり旅』
を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。
電子世界のフォルトゥーナ
有永 ナギサ
SF
人工知能を搭載した量子コンピュータセフィロトが自身の電子ネットワークと、その中にあるすべてのデータを物質化して創りだした電子による世界。通称、エデン。2075年の現在この場所はある事件をきっかけに、企業や国が管理されているデータを奪い合う戦場に成り果てていた。
そんな中かつて狩猟兵団に属していた十六歳の少年久遠レイジは、エデンの治安維持を任されている組織エデン協会アイギスで、パートナーと共に仕事に明け暮れる日々を過ごしていた。しかし新しく加入してきた少女をきっかけに、世界の命運を決める戦いへと巻き込まれていく。
かつての仲間たちの襲来、世界の裏側で暗躍する様々な組織の思惑、エデンの神になれるという鍵の存在。そして世界はレイジにある選択をせまる。彼が選ぶ答えは秩序か混沌か、それとも……。これは女神に愛された少年の物語。
<注意>①この物語は学園モノですが、実際に学園に通う学園編は中盤からになります。②世界観を強化するため、設定や世界観説明に少し修正が入る場合があります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる