女神ノ穢レ

紅雪

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二章 姉妹ニ捧グ静寂ノ黒

16.感化

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馬が逃げたため、徒歩でイフンル村に向かうことになった。
その村で馬を調達したら、いよいよケープニアは目前となる。
ただ、そこまでは野宿をするしかないのだけど。

「あたしは行く予定がなかったから、詳細を知らないんだよね。」
焚火を目にリリエルが聞いてくる。
近くの川で獲って焼いた魚を齧りながら。
「先ずは街に居るユルナという少女を訪ねるわ。」
ケープニアについてはエルメラから道筋は示されている。
リリエルはそれを知らないから、聞いてきたと思い答える。
とは言え、私も一挙手一投足を示されているわけじゃない。
もっとも、そんな事をされれば誰の復讐かわからなくなる。
それでも、ゼラウスに辿り着ける情報は助かった。
闇雲に動いて失敗する事を考えると。
これが最後なら良いけど、そうじゃないし。

「え、女の子?」
確かに私もそれは疑問。
その少女を訪ねればゼラウスまで辿り着けると言われた。
「そこから先は聞いてないのよ。」
「それじゃ仕方ないね。でもエルが言ったなら大丈夫だと思う。」
リリエルはそう言って笑顔を見せた。
エルメラを信用しているのでしょうね。
私は日も浅いから、そこまでに至ってはいない。
「信用しているのね。」
「うん。でも、アリアちゃんならわかると思う。」
「何が?」
信用、に関してならば今の段階ではわからない。

「あたしたち塵が、安住出来る場所があるということ。」
リリエルは真面目な顔をして言った。
単純な話し、私とリリエルでは確かにそこが大きく違う。
「あたしが捨てられた時、血塗れで毛布にくるまれていたんだって。」
そう、なのね。
ただ捨てられたなんて平和な話じゃないのか。
「塵だから捨てられたのか、殺しても死なないから捨てられたのか、それはわからない。」
死なないから捨てるのに、孤児院は違うんじゃないかな。
「エルが調べてくれたけど、誰が捨てたのかわからなかったって。だから、アリアちゃんみたいに復讐も出来ない。」
・・・
「そういう気持ちはあるの?」
そんな風には見えなかったから聞いた。
明るいし、可愛いし、楽し気にしているから。
でも、暗い瞳に涙を浮かべたリリエルを見たら、今まで見せてこなかっただけだとわかった。

「あたしだって相手がわかったら殺したいよ!女の子なのに、心にも身体にも消えない傷を残され、捨てられてんのに、ヘラヘラ生きられるわけないじゃん!!」
そう、か。
私は、リリエルの上辺しか見てなかったのね。
自分の復讐しか考えてなかった。
傷も無い綺麗な可愛い子。
嫉ましくもあった。
だから、上辺しか見ようとしなかったのかもしれない。
「ごめんね・・・」
勢いで立ち上がっていたリリエルが、私が言うと腰を下ろした。
「あたしこそ。アリアちゃん何も知らないのにね。」
そうじゃない。
知ろうとしなかった。
機会はあったのだから。

「エルが居なかったら、あたしもどうなっていたかわからない。」
・・・
リリエルの言葉は、私にも影を落とした。
セアクトラ以降の情報は無かった。
そこで復讐は終わったのだろうか。
復讐が終わったとして、私はどうなるのだろうか。
生き方なんか知らない。
その後、きっとどうしていいかわからなくなってる。
何処かで野垂れ死んでいたでしょうね。

それを考えれば、エルメラとの出会いは僥倖だったと、今なら思える。
「そうね。私も、そうかも知れない。」
「エルと会わなきゃ、アリアちゃんより凄い事になってたかも、あたし。」
私が酷いみたいじゃない。
否定はしない。
身体中焼けどと傷だらけで、復讐に囚われているのだもの。
それも、対象がわかっていればこそ。
リリエルにはリリエルの葛藤があったのね。
「っと、暗い話しになっちゃったね。」
「ううん、話してくれてありがと。」
知りたいと思ったわけでも、知りたかったわけでもない。
でも、聞いても気にならない程度には、受け入れられた。
エルメラやリリエルに感化されたのかもしれない。

「そろそろ寝よう・・・」
リリエルが口を開いて止めた。
私も気付いている。
7人か8人くらい。
何処にでも沸くわね。
「最初に何人か減らすわ。」
私は右手の人差し指をゆっくりと動かしながら言う。
「うん、残りはまかせて。」
リリエルも右手を開いたり握ったりしながら笑みを浮かべる。
退屈でもしていたのかしら。
私は面倒なだけなんだけど。

「まだガキじゃねぇか・・・」
最初に焚火の灯りに照らされた男がつまらなさそうに言った。
私のほうが面白くないわよ。
「でも女は女だ。」
続く男は口の端を上げて嗤う。
「違ぇねぇ。二人居ればそれなりに楽しめんだろ。」
下卑た笑みを浮かべた奴らが続けて灯りに照らされた。
言っていることは下衆だが、抜身の獲物はさらに醜悪さを晒しているとしか思えない。
生かしておく気は無いのでしょうね。

「槍禍。」
私は相手の出方を待たずに指先をそいつらに向けた。
私の顔を見て硬直した奴らは、動く間も無く木の幹ほどもある炎の槍に貫かれた。
高木ほどの長さがある槍は、その後ろに続く奴らも巻き込んでいる。
一番手前の直撃した奴は即死だけど、綺麗に整列していたわけではないので後続は悲鳴を上げながらのたうち回っている。
胴に穴が開いたり削り取られたりして、大量の血と臓物を垂らしているから長くはない。
「な、なんだ、こいつ・・・」
耳障りな苦鳴の中、難を逃れた三人が口々に驚愕と恐怖を口にしながら後退った。
「凍旗・極。」
逃げ出した三人の足元に白煙が漂ったかと思うと、あっという間に氷の球体が包み込んだ。
凍死でもさせるのかと思った。
放っておいても死ぬだろうから。
けれど、中に現れた球状の氷が膨張して、中の奴らの絶叫に混じり骨が砕ける音が響く。

中は、黒い体液に塗れた球体となった。
酷い・・・
私が言えた立場じゃないけど。
「邪魔するからだよ。ね?」
と、最後は同意を求められた。
でも、寝ようとしたところに現れたのが迷い人ならまだしも、邪な思いを持った奴らだから同情の余地はないわね。
「そうだね。」
「ここ、臭いし汚いから場所変えよ。」
「うん。」
同意見。
人の焼ける臭いと汚物の臭いが漂うところに居たくはない。



私とリリエルは、寝不足で次の朝を迎えた。
もう一度野宿をしてからの、イフンル村へ到着。
村で一泊し、翌朝馬を調達してケープニアへ発つ。
十日で到着予定だったが、現時点では十二日の予定となった。



「大きい・・・」
街を囲うように外壁があり、街道から街に入るための門を見上げながら思った。
これがケープニア。
予想以上に大きい街。
「もともとは城塞都市と呼ばれていたらしいよ。」
「そうなのね。」
呼ばれていた、という事は今は違うって事よね。
「廃城となったゲールデリク城とも、今は外壁で隔たれているけどね。」
なるほど。
黒鷲は廃城が拠点とエルメラ言っていた。
廃城となり、街と隔離されているから拠点として都合が良かった。
というところかしら。
向かうにしても、ユルナという少女を訪ねて情を得るところからね。
「じゃぁ、とりあえず宿に行こうよ。」
「そうね。」
リリエルの言葉に頷くと、私とリリエルはケープニアの門を潜った。
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