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一章 友ニ捧ぐ塵灰ノ光
11.悔恨
しおりを挟むその後、各部屋を確認した。
執事らしき男が一人。
気付いて起きたが声を出す前に喉を斬り裂いた。
この騒ぎでも起きてない警備兵らしき男が二人。
酒の臭いがかなりしたので、騒ぎでも起きなかったのだろう。
その他、よくわからないけど数人。
全部殺して火を点けた。
領主館に居た人間は、全部殺した。
石造りの建物である領主館は、内装は燃えても躯体は燃えない。
今後使用出来るかは不明だけど。
それも、使用したければね。
領主館の外に出ると、煌々と灯りが漏れる窓を眺めている人が数人。
今のうちに街を出た方が良さそう。
ただ、気まぐれで逃がした侍女は見当たらなかった。
何も知らず、田舎に戻るならそれに越した事は無い。
そう思って門に向き直ると、外にガリウが立っていた。
こちらを睨んでいる。
「どうしたの?」
近付いて声を掛ける。
「思えば、宿で待ってても戻らないと思ってな。終わったら街を出るつもりだったろ。」
言われてみるとそうね、そこまで考えて無かった。
「確かに。ここで待っててもらえば良かったね。」
「俺から逃げようとか思ってなかったのか?」
「そんな事、しないわよ。」
そんな考えがあるなら、最初から同行なんて認めてない。
「なら、早く出ようぜ。」
「うん。」
私とガリウは速足で街の外に向かった。
何人かに不審な目で見られたけど、どうでもいい。
「終わったのか?」
「うん。」
次は、私とお母さんをこの境遇に陥れるために共謀した奴等。
一度お城に戻ってエルメラに情報を確認する必要がある。
イギールの居場所は判明しているけど、どこを優先するかは帰ってから決めよう。
エルメラにも戻ると言ってしまったし。
「今日は野宿になっちゃったね。」
「別にいいよ。」
ガリウは静かに言った。
いつもの様に文句言うかと思ったのに。
「街からは、少し距離を取った方がいいよね。」
「当たり前だ。」
領主館が燃えて、窓から光を放っているだろうセアクトラを背に歩く。
陽炎は簡単に消える炎じゃない。
だから、確認のため振り向きはしない。
「なぁ、復讐って気は晴れるのか?」
「全然。」
今更だが、ガリウがそんな事を聞いてきた。
殺したからといって何が変わるわけでもない。
お母さんが還ってくるわけでもない。
関わった奴を目の当たりにする度、嫌な思いをするだけ。
「それを実行したという自己満足だけよ。」
「そうか・・・」
ガリウの問いに何かを思うわけじゃない。
私がその対象になる事だってわかっている。
「ここまでくればいいかな。」
街からもそうだけど、街道からも外れ、人目の付かないところまで移動した。
「あぁ、どこでもいい。」
気持ちが疲れた。
少し休みたい。
「俺・・・疲れた。」
「宿に泊まれなかったもんね。」
それでいて街から逃げる様に出て来たし。
いや、逃げたんだけど。
「なぁアリア・・・」
私が焚火の準備をしていると、後ろから小さくガリウが呼んできた。
「もう少し待ってね。」
「ごめん。」
・・・
そっか。
「ごめんな、アリア・・・」
「いいよ。」
後ろから駆け寄って来るガリウを、私は振り向くと両手を広げて抱き留めた。
「俺・・・おれ、ダメだった・・・ごめん・・・」
「駄目じゃないよ、当たり前だよ。」
「アリアの事、嫌いじゃない・・・」
「知ってる。」
私の腕の中で、ガリウは肩を震わせながら大粒の涙を流していた。
「でも・・・でもやっぱり許せなかった・・・」
「わかってる。」
何時かこうなるって、予感はしていた。
あの日、レイーベの町の宿でガリウが、泣きながら父さん、母さんって言っていた夜から。
「ごめんな・・・好きだけど、ごめん・・・うぅ・・・」
ずっと葛藤していたんだね。
辛かったよね。
苦しかったよね。
「旅・・・楽しかった・・・」
「私もだよ。」
ガリウの身体から力が抜けるのを感じた。
それから、私に刺した短剣から両手が離れ垂れさがる。
「先に、行ってる・・・」
「待っててくれるの?私なんかを。」
「あたり・・・まえだろ・・・」
涙で濡れた顔を上げると、ぎこちない笑みを浮かべてガリウは言った。
「しょうがないなぁ。」
私はガリウの首にそっと短刀を当てる。
何故かわからないけど、ガリウの顔が霞んで見えた。
ガリウの首は簡単に斬り離せた。
こんなにも脆い・・・
噴き出した生暖かい体液が身体を濡らしていく。
やがて、支えを失った身体はゆっくりと崩れ、地面に鈍い音を立てて横たわった。
ガリウの顔は、涙で濡れた最後の表情のまま。
「ごめんね、ガリウ・・・」
私、泣いていた。
苦痛で泣き叫ぶ以外で、初めてかも。
これ、哀しいって事?
苦しい。
こんな思いするくらいなら、出会った時に殺せば良かった。
どうしてこんな。
こんな・・・
こんな・・・
「う、うぁぁ・・・」
どれくらい時間が経った?
ガリウの頭部を抱え、膝を付いて泣いていたみたい。
まだ暗いから、そんなに時間は経ってないかも。
(ガリウ、帰ろうね。)
ガリウの頭部を身体の上に置くと、距離を取って右手の人差し指を向ける。
長く揺らめくように動かして止めた。
「煌燼。」
ガリウの身体を青白い幾重もの光球が包むと、音もなく吹き上がり光の柱となった。
高温の柱の熱波は、私の髪を、肌を、衣服を焦がしていく。
焼け焦げる人体の臭いが鼻を突いたが気にせず、私はただただその光を眺めていた。
「帰って来たよ、ガリウ。」
お母さんの墓標である石がある場所に、鞄から取り出したガリウの骨を置く。
村が見渡せる場所だから、いいかと思った。
(ちょっともう一人増えるけど、許してね。)
石に向かってそう心の中で呟くと、近くに穴を掘って骨を埋めた。
その上に、別の石を置く。
丘の上から見える村は、あの時の惨状まま変わっていない。
風雨に晒され時間が経過したと感じさせる程度。
ちょうど朝日が昇り辺りは明るくなったけど、煤だらけの村は山の影となり一層暗く、闇のようだった。
(待っててねお母さん、ガリウ。)
私は心の中でそれだけ言うと、墓標に背を向けてその場を離れた。
一章 了
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