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紅湖に浮かぶ月6 -変革- 第二部
3章 希願の光
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「人は固執する程、視野が狭くなる。そしてその硬質化は自己修復できない。」
「アン・トゥルブ、それが私の関わる組織。でも私は所属しているわけではな
く協力しているだけなのよ。」
やはりそうか。なんとなく分かっていた事なので驚きはしない。なんとなくと
言うよりは、この前のモフェグォート山脈の件でほぼ確定と言えるのだけど。
そうなると現地に居たあのジジイや小僧もそうだろう。
「各地にある呪紋式の装置を監視、保護の目的で結成されたのが約五百年前に
なるわ。」
それも概ね分かっていた事だ。リュティが自分の動向を隠さなくなった、それ
どころか手伝わされたのだから。そう考えるとアン・トゥルブには間接的とは
言え、協力した事になるのかな。釈然としない。
ただ五百年っていうのは驚きだわ、人間の寿命から考えれば気の遠くなるよう
な話しだし、想像もつかないわ。
「当時百人近く居た組織の人間は、今では十人ほどしか居ない。だから人手不
足なのよ、このままでは組織としての目的は潰えるでしょうね。」
随分と減ったものだ。確かにその人数で各地に点在する設備の監視は難しいだ
ろう。私が駆り出されるのも分かる気がする。だけど補充はしないのだろうか。
その度に連れまわされるは流石に困る。私にはお店があるのよ、アン・トゥル
ブのやる事に巻き込まれるのは勘弁して欲しい。
「組織が潰れる前に、なんで増やさないのよ?」
私の疑問に、リュティは憂いをもったような表情で頷いた。
「話しの流れで分かるわ。」
「そう、割り込んでごめん。」
「いいのよ、私が話したくて話しているのだから。」
リュティは笑みを浮かべると、続けようとする。が、私は手を上げて待ったを
かける。
「場所を変えましょう、ずっと話していて喉も渇いたし。直ぐ終わる話しじゃ
ないでしょう?」
「ええ、そうね。」
えっと、もう零時か。時計を確認すると短針と長針が真上で重なっていた。こ
れは寝不足確定じゃないだろうか。
「ノエアに戻って、閉店後はテイクアウトで二階、でどう?」
「それでいいわ。」
リュティが頷くとの見ると、二人でお店を出て鍵を掛ける。闇の落ちたレニー
メルナ通りでは、カフェ・ノエアだけがまだ煌々とした灯りで街路を照らして
いる。その灯りに惹かれるように、私とリュティはノエアに向かった。
ノエアの店主ロアネールは特に怪訝な顔をするわけでもなく、何時もの愛想の
良い笑顔で麦酒と葡萄酒を出してくれた。深夜一時閉店のためか、余りの食材
でおつまみをサービスしてくれる。有難い。
「で、現状までは聞いたわよね。」
私は麦酒を一口飲むと、続きを促す。リュティは頷くと口を開き始めた。
「アン・トゥルブの頭首はミサラナ・エンシェルカ・リーアライナ。彼女は私
の妹になるわ。」
姉妹だったのか。ちょっと驚いたが、そりゃ大抵の人は家族が居るわよね。勝
手に私と同じで独り者と思い込んでいたわ。ちょっと待て、名前が全然違くな
いか?
「見た目も変わらないわ。シルバーブロンドの髪に緋色の目。実はアン・トゥ
ルブの人間は赤系統の目が多いのよ。」
「ふーん。」
私も紅色だが関係ないだろう。アリータも赤だったわね。珍しいが見ない色じ
ゃない。しかしミサラナは、見かけたら直ぐに分かりそうね。それより名前が
気になるのよ。実はリュティの名前は全然憶えてないのだけど、聞けば思い出
す。だから違うってのだけは分かるのよね。
「名前が違うのは私が嫌だったからよ。ミサラナが頭首となった時、私はアン
・トゥルブに属す事を嫌ったため。」
そう言う事か。頭首と繋がりがある事を嫌がったのね。
「それはいいとして、重要なのはここからよ。アン・トゥルブを結成したのは
現頭首ミサラナなのよ。それは結成時から変わっていない。」
はっ?なんだって?今凄い事を言ったわよね。
「ちょっと待て、頭首が変わってない?」
おかしいでしょ、アン・トゥルブが結成されたのは五百年前って言ってなかっ
たか?人間の寿命を遥かに超えているじゃないか!
「そうよ。それがアン・トゥルブ最大の秘密であり、増員出来ない理由に関係
しているのよ。」
認めたな。ミサラナは少なくとも五百年は生きている事になる。人間の寿命を
遥かに超えているって事は、どんな存在なんだ?それは既に人間と言えないん
じゃないか?いや待て待て。
「ミサラナの姉であるリュティも、それだけ生きているって事?」
「そうなるわね。」
驚きを通り越して頭が回らない。ただ、やけに達観したところや察しが良いと
ころ、見た目年齢のわりに小型端末に触れようとしない理由が、なんとなく分
かったわ。
「アン・トゥルブの人員は当時造られた九十六人で構成されているの。そして
もう造られる事が無いため、増員が出来ないのよ。」
おかしな話しが出すぎて困る。造られたって何よ?人を造る?そんな馬鹿げた
事が可能なのか?人知を超えた領域の話しじゃないでしょうね。
「じゃあ、あの無愛想や、糞ジジイも、小僧もそうって事?同じく五百年前か
ら存在するの?」
名前はなんだったか思い出すのも面倒なので、とりあえずこれで通じるだろう。
「そうよ。」
当たり前のように肯定される。当たり前じゃないのだけど、聞いてる私がおか
しいみたいな気分になってくる。これが本当だとしたら大事じゃない。アン・
トゥルブの素性がよく分からないのも、人里離れたところで生活しているのも
そういう事か。歳を取らない人間が居るのは不自然だ。
「ただ造られたと言っても一からではないわ。私達は元々人間なのよ。歳は取
らないけれど、それ以外は普通に食事もするし、痛みも感じる。もちろん、死
にもするわ。」
成る程、吃驚したわ。それでも人間を改造したって事よね、ろくでもない事に
変わりは無い。もっと軽い話しかと思っていたが、とんでもない内容だ。だけ
どそうか、身体が再生するのはそういう事か。
「呪紋式によって今の身体にされた?」
「結果としてはその通りよ。」
やはり予想通りか。だが結果としてというのは?
「志願者のみよ、施されたのはね。」
だとしてもだ、やっている事は禁忌と言えるだろう。でもそれだけの呪紋式使
いが当時は居たという事になる。今の時代ではそんな呪紋式、聞いた事がない。
どこかで似たような事を研究はしているかも知れないが。
「私達は齢を重ねる事が出来ない身体になったため、人の多いところは避ける
ようになった。だからアン・トゥルブの本拠地はエユーイフェデル聖国、モー
メルリーエンにあるのよ。」
あの国か。聞いた事しか知らないけれど、確かに都合がいいのかもしれない。
聞いた知識でしかないけれど、どの国とも迎合せず独自の文化を築いている国
で、開拓されていない土地が多いんだっけか。その情報が正しければ、現代こ
そうってつけよね。
「で、呪紋式を護る為にその身体になったわけ?」
「違うわ。呪紋式を護る目的の方が後付けなのよ。私達に呪紋式を施した本人
が死んだ後、ミサラナが当主の意思を継いで結成したのがアン・トゥルブよ。」
うわぁ。頭が混乱して来たわ。結局なんでその身体になったのか、そこはまだ
明かされて無いわよね。
「場所を移動しましょう。」
ん?もう閉店時間か?と思って時計を確認する。まだ十五分あるじゃないか。
「ここからの話しは、アラミスカ家が関わってくるわ。」
「分かったわ。」
そういう事か。何となくリュティが近付いて来た理由はそうじゃないかって思
っていた。今の言葉でその可能性が高くなったわ。ちょっと軽く聞き流そうと
思っていたのに、相当重い話しになっていきそうだ。
ロアネールに新たな麦酒と葡萄酒を用意してもらったのだけど、家で飲むから
と言ったのにグラスを押し付けられた。後で返してくれればいい、グラスで飲
んだ方が美味しいだろって言われて。なんて粋な店主なのかしら。
「何処かでそんな気はしていたのよ。」
家に場所を移して、テーブルに着いた私はそう言う。アラミスカの名前が出た
事で思った事を。
「私が現れた時点で、その可能性を示唆してしまったのね。」
「かも知れない。ただ一つはっきりしたのは、呪紋式を施したのは当時のアラ
ミスカ当主ね。」
私の言葉にリュティは頷いた。だろうと思った、式伝継承がその証左だ。これ
が出来るって事は、人体の改造も可能だろうと思わされたから。つくづくアラ
ミスカ家ってのは業の深い家名ね。
「ちなみに当時のアラミスカ家当主が、アラミスカの初代になるわ。」
そうすると現存するアン・トゥルブのメンバーと、アラミスカ家の歴史は同じ
くらいか。じゃあずっとアラミスカ家に関わってきたのか?
「当時の私達は式伝継承の存在を知らないのよ。当代が亡くなった時点で私達
の役目は終わったと思ったわ。だからミサラナがアラミスカ家の代わりにアン
・トゥルブを結成したのよ。」
どういう事だ?リュティ達が造られた時に式伝継承はまだ完成していなかった
?それとも隠していたのか。
「アラミスカに関しては後から存続を知ったのだけど、ミサラナはアラミスカ
家に付くことを拒否したわ。」
まあ、いいんじゃないかな。アラミスカに関わってもろくな事にならないだろ
うし。
「初代の名前をアラミスカ・フェイル・イリアというのだけど、我らが当主は
イリア様のみ、故に後のアラミスカ家に尽くす必要はない。というのがミサラ
ナの言い分でアン・トゥルブ内の一致だった。」
その辺の話しはどうでもいいな。アン・トゥルブやミサラナがどうしようが私
には関係の無い話しだから。
「イリアが何故私達の存在を求めたかについては定かではないの。でも各地に
点在する呪紋式の管理は含まれていたのよ。」
結局そこは明らかにならないのか。だったら何故、リュティ達は望んでその身
体になったんだ?それよりも待て。
「初代は呪紋式の存在もその場所も知っていたという事?」
話しからすればそうなる。何故イリアは壊す術を持っていながら放置して、リ
ュティのような存在を生み出したのか。明らかに未来へ残す選択をした結果だ
と思えるわ。
「そうなるわね。私達を防人として造ったのかは定かではないけれど、ミサラ
ナはそうだと思っているのよ。」
面倒臭いな。いっそ聞かなかった事にするか。
「私達がイリアの提案を受けたのは簡単な話し。イリアを守るため、呪紋式の
管理をしたい、強さが欲しい、単に長生きしたい、目的は各々別だけど、イリ
アの為に何かしたいってところは共通だったと思うわ。それでも私たちは別に
不死では無いのよ。」
「まあ、減ってるものね。」
なるほど、初代は人望があったわけだ。それが一部の人間か、大勢かは分から
ない。だけど、いくら改造を施されたと言っても、やはり人間の域から出てい
るわけではないのか。
「身体が大きな損傷を受けると、勝手に修復しようとする。ただ、脳や心臓の
破壊、若しくは修復を超える損傷には耐えられない。」
出会った時のあれがそうか。考えないように頭の隅に追いやっていたんだけど
な。というか、爪が伸びていたわよね?
「気付いていると思うけれど、イリアが施したのはそれだけではない。護るに
も私達は圧倒的に数が少ないもの。」
私の疑問を察したのか、リュティはそう言った。戦う為の力ってわけか。その
力で近寄る者を退けてきたって事なのだろう。
「封印する呪紋式も?」
「そうよ。」
そうよね。そうじゃなければ管理にならない。以前オーレンフィネアでリュテ
ィが見せたあれがそうなのだろうと気になって聞いてみたけど、当たりだった
ようだ。
「でも当時はそれで良かったのかも知れないけど、進化と数の前に私達は無力
に等しいのよ。」
それがアン・トゥルブの現状なんだろうな。技術の進化と人口の増加。それは
人の欲の加速を意味する。アン・トゥルブだけでどうにか出来る話しじゃない。
「私はアン・トゥルブには属さず協力しているだけと言ったでしょ。それはイ
リアの想いは受け取ったけれど、ミサラナに迎合する気は無かったからなのよ
。」
だから私のお店で働き始めた?いや、違うな。
「アラミスカの存続が確認されて以降は、その監視もアン・トゥルブの活動に
含まれた。」
そりゃそうだろう。初代が護ろうとしても、他がどうするかなんて分からない。
利己で利用する者が現れても不思議じゃないのだから。
「何代かのアラミスカに接触したけれど、イリアはその存在も私達に施した呪
紋式も継いではいなかったみたい。」
それがもう増やす事が出来ない理由か。でも私はそれでいい、そんなもの引き
継がれても困る。尤も、使う気もさらさら無いけれど。
「ただ二十年程前、正確には二十三年前かしら、メーアクライズの消滅によっ
てその監視は解かれた。」
「私がやったであろう、アラミスカ家の消滅ね。」
「ええ。」
リュティはそこで悲しそうな表情をする。何に気遣ってかは知らないけれど、
起きた事はどうしようもない。忌々しい事この上ないが。
「メーアクライズでの発現が私達にとって初めて確認できた事象だったのよ。
それまでは知識のみの認識でしか無かったけれど、危険性については考えが甘
かったのね。」
人は体験しないと認知出来ない事が多々ある。それは想像からかけ離れれば離
れるほど難しい。大きいほど漠然としか考えられないから、結局分からないの
と一緒なのよね。
「ちなみにメーアクライズにもアン・トゥルブの人間は滞在していたのよ。」
「ああ・・・」
そんな事を言われてもね。
「別に気にしなくていいわ。それよりも、危険性をはっきりと認知出来たアン
・トゥルブは、もう殆ど人員が残っていない事が大きな問題だった。」
驚くのはその人数で、よく五百年も発動させなかったものだ。存在が知られて
いないのと、呪紋式が今ほど普及していなかったっていうのもあるかも知れな
いけれど。
でも現状を考えると、危険とアン・トゥルブの人数は反比例している。今後の
活動は無理と言っても過言じゃないだろう。
「それで人数が少ないから、協力という形でリンハイアと繋がったわけね。」
私がそう言うとリュティは表情に驚きを見せる。
「知っていたの?」
「違うわよ。話しの流れでそう思っただけよ。」
これでリュティが私の前に現れた理由がはっきりした。あの糞執政統括め、次
に会ったら覚えておけよ。
「私がアラミスカの生き残りだというのは、リンハイアからの情報でしょ。」
「そうよ。よく分かったわね。」
うちのジジイとハイリが同門で、ハイリはたまにジジイを訪ねて来ていた。ハ
イリはグラドリア国の軍事顧問でリンハイアは執政統括。司法裁院の高査官最
高責任者はハイリだ。阿呆くさ。何よそれ。
それでアン・トゥルブはアラミスカ家と繋がりがあって、リンハイアとの繋が
りを持った。しっかりと線は結ばれ円になっているじゃないか。ああ!そう考
えるとむかつく!
「クスカがリンハイアから依頼を受けた時、その内容を見た私は横取りしてミ
リアに会いに行ったのが、モッカルイアでの事よ。」
「成る程、まったく嫌な邂逅よね。」
滅んだと思ったアラミスカ家の監視を再開するためだろう。リンハイアの情報
はアン。トゥルブにとっても重要だったわけだ。
「イリアの面影があったから。」
「私に?」
リュティが何故、横取りして私に会いに来たのかだろう。
「そうよ。確かめたくなったのよ、貴女がどんな人物か。それに私がアン・ト
ゥルブの思惑で動くと思う?」
「今更それは無いけれど。」
目的が変わったのでしょうね。最初は間違いなく確認が目的だっただろうし、
お店に来たのは観察といったところだろうか。どんな心境変化があったのか知
らないけれど、今は助かっている。
「私が護りたいものは、今此処にあるのよ。」
何を見て何を思ってそう言っているのか、分からない。その思いは本当に今に
あるのか、五百年前に置き去りにしてきたものを見ているのか。分からないけ
れど、どうでもいいか。
どう思ったところで私は私でしかない。
「好きにすればいいんじゃない?」
「そのつもりよ。来た時はただの興味本意だったのよ、でも今は変わってしま
った。それは結構満足しているのよ。」
「へぇ。」
微笑んで言ったリュティの言葉に、私は目を細めて相槌を打つ。
「何よ。」
「別に。」
と言ってお互いに笑う。直ぐにリュティは真面目な顔になる。
「そんな事よりミリア、これからの貴女は大変になるわよ。」
「まあ、予想は付くわ。」
アラミスカ家の人間が持つ特異性と、呪紋式が刻み込まれた石柱の破壊。一部
には知られてしまっている。特にリンハイアは容赦なく利用してくるだろう。
「アン・トゥルブも見方が変わったでしょうね。」
「最初はどうだったのよ?」
「放置の方向だったわ。それは私が傍に居ると分かっていたからでしょうね。」
成る程ね。存在しているという認識程度だったわけか。
「私にもミサラナの考えは分からないわ。護りたいのか、壊したいのか。」
「イリアに傾倒していたなら、護りたいんじゃない?壊さなかったんだもの。」
私はそう思えた。私は壊してしまってもいいと思う。オーレンフィネアが公表
した考えに賛成だわ。
「そうかも知れないわね。でもイリアはどうしたかったか、もう分からないの
よ。イリアが壊す術をまだ知らなかった事も考えられるし。」
「それは無いんじゃないかな。後のアラミスカに存在を伝えなかったのなら、
その呪紋式を新たに式伝継承に含めるのは不自然じゃない?」
「そうなのかしら?」
「そうか。多種多様な呪紋式を後継させるという観点から考えれば有りか。で
も私はそうじゃない気がするのよね。まあ考えてもしょうがないか。」
「そうね。」
イリアの想いはどうでもいいや、答えなんて出ないのだから。今の私がどうす
るか、それが重要なのよ。
「そうなると、アン・トゥルブとの対立も有り得るけど?」
「そうね。私は構わないわよ。頭の固まった組織にそれほど未練は無いもの。」
少しはあるんだな。まあ五百年も付き合った奴らだもんね。感慨が無い方が不
思議か。
「取り敢えず今は薬莢への記述かな。」
「それは手伝えないわ。」
「知ってる。」
やってくれたら私がもっと楽出来るのに。
「やる?」
「やらないわ。」
駄目か。
「あ!」
「突然どうしたの?」
「ちょっと、外が明るくなって来たじゃない。」
「本当だわ。」
窓の外が白んでいる事に気付いて、時計を見るともうすぐ六時だ。うわぁ、寝
る時間が無いじゃないか。寝不足とか嫌だなぁ。仕方ない、サラーナが来るま
でに記述してみるか。
「朝御飯にする?」
「うん。早く食べて開店前に一発仕上げてみたい。」
「じゃぁ用意するわね。」
「これ、ありがとう。」
「いえいえ。開店と同時に休憩ですか?」
ノエアで店主ロアネールにグラスを返すと、そんな事を言われる。仕事しない
でさぼっているようで心外だわ。
「寝てないのよ。」
「若いですね。」
「好きで寝てないわけじゃないのよ。」
「そうですか。紅茶で?」
「ええ。あとグリルチキンサンドも。」
「了解。」
食べないとやってられない。記述したらお腹が空いてしまった。薬莢と呪紋式
の紙は自宅に置いて、お店は三人に任せている。
記述してみた感じでは、大型呪紋式銃の薬莢でも行けそうだった。ただ私が使
っている小銃の薬莢では無理。そこが限界でしょうね。
大型の薬莢に記述出来たら、アリータに連絡しよう。どっちが都合がいいか決
めてもらう必要があるし。普通に考えれば遠距離は無いと思うけれど。現地を
確認した状態で決めた方が確実だろう。
しかし、眠い。
なんか何時もの時間の流れだっていうのに、昨日から色んな情報が一辺に流れ
込んできて、違う時間に迷い込んだ気分。特にリュティの話しは衝撃だったわ。
だからと言って私の生活が変わるわけでも無いけれど。気持ちが落ち着けばい
つも通りに感じるようになるでしょう。
「ペンスシャフル国からの回答は、山道の建設に賛成だそうです。告知さえあ
れば何時からでも作業をして構わないそうです。ただ、支援に関しては協議中
との事で、直ぐには結論を出せないとの事です。」
「それは良い事だ。今のうちに進めたいところだね。ついでにターレデファン
も煽ろうか。」
「はい、公表は何時でも可能です。ペンスシャフル国からも許可は得ています
し、カリメウニア領のホーグス議長も乗り気ですから。」
既に話しを伝えたカリメウニア領のホーグス議長は、提案を持ち掛けた時点で
大層喜んでいた。もし道が出来るのであれば大歓迎だと。リンハイア曰く、そ
うなればカリメウニアが北方連国の出入口になるからであり、単純に救済を喜
んだだけではないと。
アリータはそれに納得したが、現状は他に手が無い事も事実だと分かっていた。
利権をカリメウニアが手にしようと、それでも北方連国の人々は助かるのだか
ら。
ペンスシャフル国からの回答は会談後、数日のうちに出た。人と金に関しては
時間が掛かるのは当たり前なので、それは直ぐに求めてはいない。というのが
グラドリアの立場となっている。
オーレンフィネアからの回答が翌日だったのには驚いたが、支援を決めたとい
う連絡だけで程度は協議の上、相談させて欲しいとの事だった。
バノッバネフ皇国からの回答は今のところは無い。
「では早速、明日の朝に出そうか。」
「はい。首相は直ぐに反応するでしょうか?」
「するだろうね。掌を返したように条件付きで建設の協力に動く、カリメウニ
ア側とのみならば、とね。でも遅い。」
確かに、ターレデファンの姿勢は、ザンブオンへ対する非難から始まっている。
カリメウニアだけでも協力を見せそうだとアリータは納得する。だがリンハイ
アの言う通り、それは後出しでしかない。逆に非難や反発は増えるだろう。
グラドリアを含め他国をも非難したのだ。そのグラドリアが口だけでなく、行
動するのだから。それを知ってから自分も動くのであれば、今までの態度は何
だったのか、他国が動いたから慌てて路線変更かと。目に見えていると、アリ
ータは自分でさえ分かる事だと思った。
「あとミリアさんから連絡が来ています。」
「ほう。」
「両方可能だから、使う方を教えて欲しいそうです。」
「流石だね。これで山道への着手は目前となったわけだ。」
「はい、良かったです。少しでも助けられるのなら、それに越した事はありま
せん。」
「場所も概ね決まっている、後は調整だけだ。薬莢が出来次第直ぐにでも動け
るようにしておいてくれ。」
「はい。」
翌日朝、グラドリア国はペンスシャフル国と、カリメウニア政府とも協力して
新たな山道の建設を実施すると公表した。グラドリア国が主体となり建設を進
め、準備も概ね出来ている為、早期の着手も可能だとした。
その公表を待っていたかのように、ペンスシャフル国、法皇国オーレンフィネ
ア、バノッバネフ皇国がそれぞれの立場で、出来うる限りの支援をすると追随
した。
これに対し人道支援に対する感謝を示すと同時に、新たな未来への可能性、国
家間の新たな協力の誕生と、生活の安定度向上への期待をカリメウニア政府は
伝える。
同時に予想された通り、ターレデファン国はこれに異を唱えた。既に間道があ
るにも関わらず、我が国に及ぶ脅威も考慮せず、我が国を非難して貶める行為
だと。グラドリア国の蛮行はターレデファン国民に仇なすものであり、決して
容認出来る内容ではないとした。
続けてカリメウニア領側との建設着手であれば、今すぐにでも行う準備は出来
ているとも発表した。
このターレデファン国の公表に対しては、どの国も反応を見せる事は無かった。
当事者であるカリメウニア領ですら。
ザンブオン領は領で暮らす人々が助かるのならばと感謝を示すだけに止まり、
ダレンキス領も同様でありカリメウニア領政府を支持をするとだけ伝えた。
夕方にはターレデファン国内での反感感情が急激に高まり、暴動が起きている
箇所もあると報道される。現首相のソグノーウは今すぐ退陣しろと、国民が至
るところで声を上げ始めたと。
北方連国を陸の孤島としていたターレデファンは、ソグノーウ首相の強硬姿勢
によって逆に孤立する結果となったのだった。
「よし終わった。」
遠距離用の薬莢に記述した呪紋式は消して、大型呪紋式銃の薬莢を三発用意。
お店は三人に任せ、私は家で作業していた。サラーナはおっとりした感はある
ものの、なかなかに優秀だと思う。だから見せるわけにはいかない。手伝いを
申し出てくれたが、これだけは駄目だと却下した。
「もうすぐ閉店時間か。」
時計を見ると既に夜の七時半を廻っている。私がお店に居なくても問題ないっ
てところがいいわ。自分の作業に専念出来る。
待てよ、私はアクセサリーを個人的に売りたかったんだよな。これって本末転
倒じゃないか?ふとそんな事を思ったけれど、これはこれで良いかとも思った。
お店には出れる時に出れれば。やっぱり自分が造ったアクセサリーが売れる瞬
間を見るのは、嬉しいのよね。その時、お店を持てて良かったと一番実感出来
るから。
「お店を覗いて、ノエアに行くかな。」
そう呟いて一階の店舗に向かう。
お店に入ると、お客さんが丁度会計をするところだった。ヒリルが笑顔で接客
している。
「嬉しそうね。」
店内で閉店準備をしていたリュティが、そう言ってきた。顔に出ていたのだろ
うか。
「そりゃぁね。この為に、この瞬間の為に、私はこの場所を求めたのだもの。」
ヒリルが商品を包装してお客さんに渡すのを見ながら、リュティの言葉に応え
る。そうなのよね、言ってみると余計に実感出来る。私が私でいられる為の場
所なんだって。
「素敵なアクセサリーです。頑張って下さい。」
「ありがとうございます。」
帰り際のお客さんにそんな事を言われた。嬉しい。これはちょっと涙が出そう
な気分。
「で、終わったの?」
おお、しっかりと水を差してくれるわね。人がせっかくいい気分でいたのに。
なんでそういう事は察してくれないかな、普段無駄に察しが良いくせに。
「終わったわよ。」
「いよいよね。」
「その話しは後で。」
「分かったわ。」
取り敢えずアリータに連絡しておくか。多分直ぐにでも動く事になりそうだな。
夕方の報道ではターレデファンが凄いことになっていた。ソグノーウ首相はこ
の後どうするのか。辞めずに居座ったら凄いなと思う。近隣国からも国内から
も非難されて、残るとしたらどういう手を使うのだろうか。
「ミリア、お店閉めるね。」
「ん、ああ、お願い。」
呆と考えていると、ヒリルが声を掛けてきた。
「あ、それと今日はノエア行けないの、ごめんね。」
「別にいいわよ。」
いつ誰が来てくれと頼んだよ。いつも行っているところに混じってくるのはヒ
リルの方だ。リュティもそうだが、別に示し合わせて行っているわけではない。
それぞれが勝手に集まっているだけだもの。だからいちいち断らなくてもいい
のに。
「久しぶりに時間が出来たからって、食事に誘われちゃったの。」
聞いてねぇ。理由とか言わなくていいから好きにしろ。興味無いって言ってる
のに。
「そう、良かったわね。」
嬉しそうに言うヒリルに、それだけ言っておく。
「ミリアも誰か見つければいいのに。」
余計なお世話だ。どの口が言ってんだ。この前まで愚痴っていたくせに。
「私はお店があればいいのよ。」
それは本音だけど、私はあまり人と関わりたくないのも本音だ。自分が持つ業
に、誰かを引き込む事など出来ない。
お店を閉め、何処かに向かうヒリルとサラーナを見送ってノエアに入る。
「おや、二人なのは久しぶりですね。」
「デートだそうよ。」
「微笑ましいですね。」
「本当にね。」
店主ロアネールとそんな会話をして麦酒を受け取る。葡萄酒を受け取ったリュ
ティと、適当な席に座ると私は直ぐに口を開いた。
「お店、二人に任せて大丈夫かな?」
「それはミリアが決める事じゃない。」
ああ、そうか。そうよね。私のお店なのだから私が決めるのは当たり前、なの
だけど。
「意見を聞くくらい、いいじゃない。」
「そうねぇ・・・大丈夫じゃないかしら。」
まったく、相談くらいいいじゃない。決めろと言っているわけでもないのに。
そう思って言うと、リュティは少し考えてから答えた。
「よし、採用。」
「後で私のせいにしないでよね。」
ちっ。
「ところで、抱えているのって薬莢だけじゃ無いわよね?」
お店の話しは無かったようにリュティが話題を変える。
「まあね。そっちは今のところ情報が無いわ、多分時間が掛かるんじゃないか
しら。」
ボウトールの件については全く連絡が無い。司法裁院の事だから、このまま来
ないって事は無いだろうけど。キュディーグが言ってきた事だ、何れ何かしら
の答えは出るでしょう。
「被ったらどうするの?」
「嫌なこと言わないでよ。」
更に面倒になるだけじゃない。まあその時は、モフェグォート山脈の方はリュ
ティに任せるか。
「出来れば早く終わらせたいわね。」
「そうね。って噂をすれば、返信が来たわよ。」
アリータに送っていた文書通信の返事が、小型端末に届く。私は早速内容を確
認する。
「決行は明後日。」
読みながら実行日を伝える。
「早すぎじゃないかしら。」
「何時でも出来るように準備していたんでしょうね。」
「さらに騒がしくなりそうね。」
なるでしょうね。ターレデファンのソグノーウ首相がどんな反応をするか、気
になるところだ。
「それはリンハイアの範疇だから、気にしてもしょうがない。私達は、報道で
見守るだけよ。」
「そうね。」
「お昼にはオレンティア駅に集合。アリータが同行するらしいわ。」
それとメイ・カーか。リンハイアの護衛でしか会った事はないけれど、私は苦
手なのよね。
「お店は取り敢えず二人に任せてみようかな。当日の午後と、次の日の午前中
くらいだったら。」
「いいの?戸締まりと開店も任せる事になるわよ。」
まあ不安が無いと言えば嘘になるけれど、それくらい大丈夫でしょう。ヒリル
が何かするとは思えないし。
「いいと思うわ。明日には説明しないとね。」
「分かったわ。」
私は言った後、麦酒を飲み干しておかわりを注文するために席を立つ。
「私のもお願い。」
しまった、先に立ったのは失敗だったわ。微笑で言うリュティから空きグラス
を受け取ると、カウンターでグラスを磨くロアネールのところに向かった。
2.「法は法でしかない。だが個人の勝手な解釈で捻じ曲げらるの現実だ。」
不穏は突如訪れる。因果というのはそうなっているのだろう。望んでいない事
ほど、前触れというものを考慮してくれない。こっちの事情なんてお構い無し
に襲い掛かって来るんだ。平常を享受するのが当たり前の人間にとっては、受
け入れがたい現実。それが望まない非現実だ。
「間が悪い・・・」
お店を訪ねて来たキュディーグに対する、私の第一声はそれだった。
「出直しましょうか?」
「いえ、そういう意味ではないのよ。出ましょうか。」
「ありがとうございます。」
店内で話す事ではないので、外に出る事を促す。リュティに目を向けると頷い
てくれたので、お店を任せてノエアに向かった。ってか昨夜リュティが余計な
事を言ったせいだろ、これ。
「そちらにも都合があるでしょうが、聞くだけでもいいので。」
ノエアのテーブルに着くと、キュディーグが話し始める。
「可能なら動くわよ、気にしなくていいわ。」
「助かります。」
キュディーグは軽く頭を下げると、珈琲を口にした。私は聞く側なので、紅茶
を飲みながら話しが出るのを待つ。
「ボウトールですが、ターレデファンの潜伏先が確定しました。」
「それで?」
そうじゃなければ来ないでしょうね。私にとって有益か、そうじゃなければ打
ち切りしかない。ただ議員の息子である以上、その可能性は低い。
「近々に何か動きがある予定はありませんが、決着を付けるなら早い方がいい
と思いまして。」
そりゃそうだけど。色々あるのよね。ただ渦中のあの国はどっちも絡んでしま
っている。
「今あの国は大変な事になっているわね。」
「だから、隠れ易いのでしょう。」
混乱に乗じてって事も可能、か。私が行く頃には更に騒動が大きくなっていそ
うな気がする。
「他にやる事がありますね。」
キュディーグに隠し事が通用しないんだったわね。内容までは流石に読み取れ
ないでしょうけど、別に隠す事でもない。
「明日の夜、ペンスシャフルで仕事があるわ。それが終わった後にターレデフ
ァンへ向かう。それでどう?」
キュディーグはゆっくりと頷く。
「それで構いません。ターレデファンの詳細については書類に纏めております
ので、後ほど確認してください。」
「ええ。」
その辺はいつもの依頼書なのだろう。
「私がターレデファンへ着く頃には、今よりも騒ぎが大きくなっている気がす
るわ。」
まさか夜のうちに山肌が削られ、山道の元が出来るなんて思わないでしょうね。
いやでも、現地の確認なんてすぐ出来はしないだろう。そう考えれば多少の猶
予はあるかも知れない。
「それが仕事ですか。」
「そうね。あいつの手伝い。でもまあ、そこまででも無い気がするのよ。だか
ら、騒ぎが大きくなる前に何とかするわ。」
というかそれしか無いでしょうね。
「執政統括殿ですか。それは大変ですね。」
大変というか面倒臭い。関わりたくないってだけなのだけど。その話しはキュ
ディーグに言ったところでどうしようもない。単に私の感情の話しでしかない
のだから。
「望んでもいないのに巻き込んでくるからね。」
私はそう言って苦笑いする。
「そうですか。そちらに関して私はどうとも言えませんが、ボウトールの方は
かなり警戒心が強くなっています。」
そりゃそうでしょうね、逃げているのだから。逆に精神が磨り減っているとい
う事も、考えられるけれど。
「騒ぎが問題なんですよ、普段以上に警戒しなければいけない。だから余計に
気が立つんです。そうなると感情も穏やかではいられない、些細な事で苛立ち
が増し、沸点も低くなる。」
成る程。キュディーグが言うと説得力がある気がするわ。言う通り平常心を欠
いていたら何をするか分からないわね。
「国内に居たときは理知的だったとしても、それは勝手知ったる土地であり、
身を守る術が存在するから、狡猾に動けるのです。だが今の彼にその鎧はあり
ません。」
言われてみればその通りだ。私はそんな事まで考えた事が無いわ。言ってみれ
ば全てを疑い常に警戒している手負いの獣みたいなものか?だとすれば、面倒
な相手になっている可能性もあるか。
「通常の精神状態ではないかもしれません。平静を装っていてもそうじゃない
可能性もある。普段なら気付かない音や気配を、察してしまうかもしれない。」
さっきからなんなの?キュディーグは私を脅しに来たんだろうか。私も追い詰
められていってる感じがして嫌なんだけど。
「これは失礼しました。ただ、心構えをして頂きたかったのです。我々が実行
するわけではありませんが、この仕事は常にそういう危険を孕んでいます。」
確かに言われてみればそうよね。私には危機感が足りていない、まったくもっ
てその通りだわ。だから今まで何度も危険な目に遇っている。その意識があれ
ば回避出来た事だって、思い当たる節は幾らでもあった。
「いえ、ありがとう。私にはもう少し慎重さが必要ってのはよく分かったわ。」
まさか司法裁院の人間相手にありがとうなんて言葉が出てくるとは思わなかっ
たが、素直にそう思えたから口にしていた。
「我々は依頼している側です。受けてくれる人が居なければ、それも成り立ち
ません。自分の立ち位置を人は意識しておく必要があると、私は思っているだ
けですよ。」
キュディーグの言っている事は依頼する方、受ける方、両方に当てはまる事だ
ろう。極論を言えば動かしているのはお金なのだろう。犯罪者が許せないから
と言って、無償で依頼を受けている奴なんて居ないと思うし。
そう考えれば、そこに付随するのは質になってくる。危険が付きまとうこの仕
事は、意識が低ければ死に繋がる可能性は十分にあるだろうから。お互い慈善
事業で行っているわけではない、それを理解しておけという事だろうか。
「そうかもね。」
「一番いいのは月並みですが、我々が依頼を出さなくて済む事です。」
そりゃ誰だって思う事だからね。ただどんなに法を整備しようと、取り締まり
を強化しようと、人の本質は変わりなどしない。そこに感情と欲が在る以上、
無くなりはしないのよ。
「それも人間の業でしかないけれどね。」
「仰る通りです。」
人は自分が生きるのに都合良く社会を造っているに過ぎないのだから。多数が
少数を殺していると感じるのは少数派だろう。人は生まれた以上、好きに生き
たいと思うのは当たり前だ。でも他人が関わると、その時点で違う思いが交差
する。そこに折り合いをつけて生きるのが社会なのだ。だからこそ、そこに法
律という物が存在する。
「何処まで行っても終わりの無い葛藤よね。」
「はい、それが人間でしょう。」
年齢は関係無い。どんなに齢を重ねようと、分別の出来ない人間はいる。私も
その一人なのだろう、こんな仕事をしている以上は。
「あまり自分を責めるのは心が疲れますよ。人は生きる以上、必ず正と負が付
きまといます。行動一つとっても、良い結果になる人も居れば、一方で望まな
い結果になる人も居る。それを考えていてはね。」
まあそうか。でも、それも人だ。結果に振り回され苦悩する。例外無く私もそ
うだけど、それが無くなったら人として生きていると言えなくなりそう。
「長居してしまいましたね。私は戻りますので、依頼の方はお願いします。」
「ええ。」
キュディーグが席を立ち、お金置こうとする。
「それは無し、この前ので十分よ。」
私は手で制止をしながら言う。毎回そんなお金を置かれても困る。
「では遠慮無くご馳走になります。」
キュディーグはそう言うと、穏和な笑みのまま去って行った。
これでお店は休店決定ね。戻るまで何日掛かるか分からないし、その間二人に
任せっぱなしというわけにもいかない。まあ連休があってもいいわよね、丁度
いいんじゃないかしら。
「私も行く!」
おい・・・。
「遊びに行くわけじゃ無いのよ。」
「分かってるよ。その間、私は私で楽しんでいるから気にしなくて大丈夫だよ
。」
お店に戻って、仕事で出掛けるから数日休みにすると言ったらこれだ。ヒリル
も行くと言い出しやがった。観光旅行じゃないっての。
「巻き込まれる危険があるのよ。」
「仕事には関わらないよ。それで迷惑を掛けるつもりはないから。」
どうして行きたがるんだ?何も楽しい事は無いだろうし、お金も掛かるのに。
「行った事無いから、私は私で楽しむから気にしなくていいよ。」
それなら一人で行けばいいことだ。私達と一緒に道程を共にする必要は無い。
「冷たいなぁ。食事くらい一緒に出来るでしょ。道中は寂しくないし。」
そういう事か。そこに危険が無いとも言えないし、ヒリルが居る間は仕事の話
しも出来ないじゃないか。話しに関しては居ない時にすればいい事だけど、何
か有ったらという不安は拭えない。
「まあいいんじゃないかしら。」
「ほら、リュティもああ言ってる事だし。」
微笑魔め、余計な事を。ヒリルも屈託の無い笑顔でこっちを見るな。本当に危
機感が無い奴らね。って、私も言えた義理じゃないけれど。
「しょうがないわね。本当に付いて来るだけになるわよ?」
「うん、それでいいよ。」
仕方がないか。私にヒリルを説得出来る自信は無いわ。アリータには悪いけれ
ど、道中は我慢してもらおう。
翌日、オレンティア駅で合流したアリータ、メイと私達五人は、電車に乗り込
んでペンスシャフル国へと向かった。
当然の如くメイは無愛想な顔をしていたが。一般人が混じっているのが気に入
らないのか、もともと気に入らない私と行動を共にするのが嫌なのか分からな
いけれど。事情を知っている知っていないの差だけで、私も考えてみれば一般
人なのよね。って事は私に対してか?いや、どうでもいいか。
ヒリルの同行を前もってアリータに連絡したら、それは楽しそうと了承してく
れた。こいつもか。なんて思ったけれど、考えてみればアリータって常にリン
ハイアと一緒に居るのよね。私だったら発狂しそうだ。だから解放される事に
喜んだのだろうか・・・いや、それは無いか。リンハイアに傾倒する執務諜員
に限ってと、私は思ってしまう。
ペンスシャフル国に入ると、ターレデファンへ向かう途中から乗り換えて北上
する。リュンネーグという街で下車をすると、その駅付近で予約しておいたホ
テルへ移動。執務諜員の二人に関しては、どうするのか知らないけれど、十九
時に駅に集合となった。
「晩御飯食べる?」
「そうね、時間まで何も無いし。」
今は十七時、駅までは歩いて十分程だから、ヒリルの提案に乗る。現地に行っ
たら食べる所なんて無いだろうし、食べられるとすれば軽食程度だろう。だっ
たら時間まで、お店で料理を楽しんでおいた方が良さそうだ。
「駅前でお店を探したら丁度いいんじゃないかしら。」
「確かに。私もそれでいいよ。」
リュティの提案にヒリルが賛成した事で、私達はリュンネーグ駅前に移動した。
「しかし夜に仕事だとは思わなかった。あの二人と仕事なんだよね?」
「そうよ。」
麦酒を飲みながらヒリルの問いに私は頷く。流石にグラドリア国執政統括直属
の執務諜員とは言えないので、適当に濁しておいた。ヒリルの中では何処かの
架空会社の社員になっている。関わらせたくないので、それでいいだろう。
「で、仕事なのになんで二人とも飲んでんのよ。」
「私は付き添いだもの。」
「飲みたいから。」
「うわ、適当・・・いいのそれで。」
リュティと私の答えにヒリルが呆れた顔をした。モフェグォート山脈の山肌を
削るだけの仕事だ、それに私は監視の為に来ている。それほどの影響は無いで
しょうし、危険も無いだろう。電車で移動の時に買おうとしたら、メイの奴に
止められたので飲めなかったというのもある。それに、現地の料理と麦酒は遠
出した時の楽しみでもあるし。
「そこまで気を遣う内容じゃ無いのよ。」
「ふーん。で、明日にはターレデファンに向かうんだよね?」
「そうなるわね。」
「ペンスシャフルを観光する時間が無いじゃない!」
リュティの答えにヒリルがはっとして声を上げる。いや説明したからね?それ
もあってのこの時間だ。麦酒を飲むなら今しかない。
「だから言ったでしょう。それを承知で来たのでしょう?」
「あはは、あまり考えて無かった。」
阿呆か。
「しょうがない。この後と、明日出発前に何とかする。」
拳を握りしめて言うヒリルを見て、殆ど時間は無いと思うけれど好きにすれば
いいわと思う。私にどうこう出来る問題じゃ無いし、来たのはヒリルの都合な
のだから。
「ターレデファンはもう少し長く居るのよね?」
不安になったのか、ヒリルは表情にも出して聞いてくる。
「予定ではね。長居はしたく無いけれど、早くても二、三日。」
「良かったぁ。」
着いて直ぐにボウトールの始末ってわけにはいかない。滞在先は分かっている
が、司法裁院が長い事ボウトールの生活を調べていたわけじゃない。現地で行
動を観て対処する必要がある。安堵するヒリルとは逆に、私は思い出すだけで
面倒なと思っていた。工程が面倒なだけであって、ボウトールを何とかしたい
という気持ちは変わりないけれど。
「そろそろ時間よ。」
リュティの言葉で時間を確認すると、十分前だった。
「本当ね。じゃあ行ってくるわ。」
「うん、気を付けてね。」
私はヒリルにお金を渡すと、集合場所である駅前に移動した。
駅前に着くと、アリータとユリファラが既に待っていた。
「久しぶりだなミリア。」
何時ものツインテールを揺らしながら、ユリファラはにんまり笑って言ってく
る。
「そうね。」
ユリファラと会ったのは半年ぶりくらいだろうか。ターレデファンで会った後、
一度お店に顔を出してくれて依頼だ。
「今メイが車を用意しています、もう少し待っててください。」
「分かったわ。」
車か、久しぶりに乗る気がする。私は電車での移動だけで、基本的に車に乗る
ことは無い。司法裁院の仕事の時は、ある程度の距離なら身体強化の呪紋式で
走れば事足りる。
「なあミリア。」
「何よ?」
「新しいアクセサリーが欲しいんだよ。」
それも久しぶりだなぁ。お店では受け付けていないから、アクセサリーの依頼
は滅多に無い。たまにこんなのが欲しいって言われた時、私が居れば受け付け
るくらいで。一年に何回もある事じゃない。
「この仕事が終わったら聞いてあげるわ。」
「まじか!よし、早いとこ終わらせちまおうぜ。」
「あの・・・」
喜ぶユリファラの横で、アリータが口を開く。何かを言いたそうにして、でも
はっきりしない態度は仕事じゃないだろう。
「はいはい、アリータもね。」
「え?はい。でも迷惑じゃないでしょうか。」
察して言った私の言葉に、アリータは一瞬嬉しそうにするが、直ぐに窺うよう
な表情になる。
「そんなわけないでしょう。そのためのお店なのよ。造ったアクセサリーが売
れる、私が本来望むところよ。」
「では、お願いします。」
そう、それが私のやりたい事なのだから。アリータの笑顔を見てそう内心で呟
いた。
「待たせたわね。」
そこで一台の車が私達の側に付けられ、開けた窓からメイが声を掛けてくる。
「では早速向かいましょう。」
アリータの言葉を合図に車に乗り込む。アリータは助手席に、私とユリファラ
は後部座席へと。
現地へ着くと仮設のテントが設置され、数人の人間がいた。その周辺にはなん
だか分からない機材も積み上げられている。舗装に使う道具だろうか。私はや
った事が無いのでわからないけれど。
(げっ、あのおっさんも居るのか。)
その中にカマルハーを見つけてそう思った。こっちに来るなよと思う。
「ここがそうなのね。」
「はい。周囲に殆ど木も無く、リュンネーグからはほぼ直線で道路を建設しや
すい場所です。」
「正直モフェグォート山脈は何処に行っても同じだ、だったら平地で利便性の
良い場所を探すしか無かっただけなんだ。」
アリータに続くユリファラの説明に納得する。言われてみればそれが最適解だ
ろう。餓死者が出ている現状で、真っ先に要求されるのは迅速さでしょうから。
「カリメウニア領側も似たような立地です。都合の良い場所が見つかって良か
ったです。」
「向こうにも誰か待機しているの?」
「はい、エリミアインが待機しています。」
反対側にも誰か居るんだろうなって思い聞いてみたが、聞き覚えがある。
「オーレンフィネアで一緒だったかと。」
あいつか。アリータの追加説明で思い出した。私がぶっ飛ばした奴ね。うわぁ、
なんか会いたくないわ。でも一度向こう側に行かないと、銃を撃つことが出来
ない。下に向けて撃ったら地面にどれ程の穴が開くかわからないもの。
「会いたく無いわ。」
「なに我が儘言ってんだよ、ガキじゃあるまいし。」
ユリファラに言われるとなんか納得出来ないわ。
「なにしてくれてんだオイっ!」
ツインテールを結んでやろうかと思ったけれど、逃げられた。
「エリミアインなら気にしていないと思います。自分の未熟さだからと言って
いましたし。」
それならいいのだけど。私だったら多分、やり返すわね。
山肌はなるべく勾配が急にならないようにする必要がある。微調整は後ですれ
ばいいとして、最初に削れるだけ削る必要があるだろう。
「それで、削った後はどうするの?直ぐに舗装するわけ?」
「いえ。そんな猶予はありませんので、あれを使います。」
アリータが指差した方向には、先程の何だか分からない機材の山。メイがそこ
で何かを会話している。
「あれは何なの?」
「簡単に言えば滑車と鋼線です。先ずは物資供給が優先されるため、荷物だけ
でも運べるようにします。物資は明日の朝、此処に届く予定になってますよ。」
成る程、そこまでは考えて無かったわ。といっても私の考える範疇じゃないの
だけれど、聞いて少し安堵した。これで助かる命があるのかも知れないと思え
ば。
「朝までに準備出来るの?」
とはいえ、見たところカマルハーとメイを抜けば五人しか居ない。そんな数で
朝までに設置出来るのだろうか。
「後で作業の為の増員が来ます。山肌が削れた後に連絡をする予定ですので、
呪紋式に関しては気にせず使用してください。」
まあ気を使ってくれるのは助かるけれど。まて、今使ってくださいって言わな
かったか?
「私が撃つの!?」
「はい、そう聞いておりますが?銃はカマルハーが持ってきている筈ですよ。」
いつ決まったのよそんな事。誰だ勝手にそんな話しにした奴は。
「いや、挨拶がおくれましたな。」
いつの間にか近付いて来ていたカマルハーが話し掛けてくる。
「リンハイア様から預かっております。」
続けてそう言うと軽金属製の箱を渡してくる。早速開けてみると、大型呪紋式
銃が入っていた。しかもかなり綺麗だ。
「今日撃つのは貴女だと聞いております。そのため新品の銃をと、リンハイア
様より言われましたのでね。」
あいつか。あいつが私が撃つと言ったんだな。私は監視させろと言っただけな
のに。
「予備の銃身は何も記述しておりません。好きに描くといいでしょう。」
描くといいって言われてもね、私は銃の方は作成をした事が無いのよね。ちょ
っと待てよ、また不穏な事が聞こえたわよね?
「好きに描け?」
「はい。その銃は貴女用に新調したものですよ。」
「はぁっ?」
思わず間抜けな声を上げてしまう。いやだって、呪紋式銃は安くないわよ。私
の雪華と紅月だって合わせて五百万ほどしている。大型なら物によっては軽く
一千万を越えるもの。そんな物を簡単にくれるってなんなのよ。
「くれるって言うなら、有り難く貰うけれど。」
それによって何か依頼してきても聞かない。だって貰う時にそんな話しされて
ないもの。
「それは良かった。」
でも司法裁院の仕事で使うのは難しいわね。大きいのと重いのとで動きに支障
が出そう。重量に振り回されそうだわ。慣れれば違うでしょうけれど。
「早速行いますか?」
おっさん、何をそんなに期待してんのよ。表情に出過ぎだっての。
「でもその前に。」
「何でしょう?」
「リュティ、気付いてる?」
カマルハーは無視してリュティに話し掛ける。
「ええ。」
少し離れた木陰に不穏な気配を感じる。いや、殺気なのだけど。リュティ同様
にアリータやメイもそちらに視線を向けている。流石は執務諜員、気付かない
わけがないか。
「数は二十程でしょうか。私とメイで片付けますのでミリアさんは、そちらに
集中してください。」
「そう?じゃ、よろしく。」
やってくれるならそれに越した事はない。だけどそう簡単には行かなさそうだ。
「ミリア。」
「よく分かっているじゃない。」
アリータとメイが木陰の方に向かって疾走するのを確認すると、私とリュティ
は反対方向に駆け出す。こっちは気配を消しているつもりの様だったが、油断
したのでしょうね。反対側の殺気に気を取られた時に気配が漏れていた。
木陰から様子を窺っていた顔に驚きが見える。自分で居場所を教えておいて驚
かれてもね、馬鹿じゃないの。
「こっちの方が少ないわね。」
「ええ。」
十人ほどか。先頭の一人が銃を既に抜いて、私に向けている。直ぐに発砲。闇
夜を一瞬照らす閃光と響き渡る銃声。背後からも聞こえてくるので向こうも始
まったようだ。
私は弾道を見切って避けると、続いて他の奴も合わせての連続射撃。弾幕で近
付く前に仕留めようという事でしょうけど、その程度でやられるくらいならこ
の仕事はしてないっての。
内心で思いながら左に避けつつ右足を蹴り上げる。下ろして踏み込むと更に加
速して距離を詰めて行く。牽制にしかならないと思ったけれど、<六華式拳闘
術・華巖閃>の鎌鼬は先頭に居た奴の胴から頭部を駆け抜けた。斬れた切断面
から鮮血を噴き出して倒れていく。
最近避けられてばかりだったから、当たらないものだと思っていた。けれど普
通の相手には通用するのよね。司法裁院の高査官からの依頼や、クソジジイが
強すぎなのよ。
木が乱立するところまで来ると、銃を構えたままそれぞれが抜剣する。堂々と
帯剣しているとは、何者だ?建設を邪魔する目的ならペンスシャフル軍では無
いかもしれない。って、そんな事は終わってから考える事ね。
手近にいた奴の銃弾を避け、振り下ろしの斬撃を身体を捌いて躱すと同時に<
六華式拳闘術・華流閃>の手刀。赤い糸を引いて宙を舞う頭部を追い掛けるよ
うに、断面から鮮血が噴き上がる。私は止まらずに背後からの斬撃を避け、頭
部に右回し蹴りを放つ。
左の蟀谷を直撃した蹴りは頭蓋骨を砕き、衝撃で左眼球が視神経を引いて飛び
出した。右足を地に付き踏み込みに変え、追い討ちの右肘を胸に叩き込んで肋
骨を砕いて肺ごと潰す。
少し離れたところでは、リュティに眼球から頭部を貫かれている奴がいた。伸
びた爪で貫かれている当人は宙に浮いている。
(うわぁ、痛そう・・・)
そんな事を思いながら、右からの斬撃を躱して<六華式拳闘術・華徹閃>を放
つ。斬りかかってきた奴の胴に穴が開く。その場所にあった内蔵は、脂肪や血
と一緒に背後に飛び散って地面を汚す。粗末な音を立てて落ちた内蔵の上に、
そいつが倒れていく。
そこで銃声。私は避けると、木陰から狙ってきた奴との距離を詰める。そいつ
は慌てて離れてさらに発砲。既に狙いが定まっていない銃弾は、私を捉える事
は無かった。
間合いに入ると闇雲に剣を振り出したので、持っている右手を<華流閃>の手
刀で切断。鮮血を撒き散らしながら右手が宙を舞う。相手が驚愕していても、
私は優位性に浸る気はまったく無いので、直ぐに横凪ぎの<六華式拳闘術・朔
破閃>で頭部を破砕した。
眼球が飛び出し、砕けた頭蓋骨からはみ出た脳漿を散らしながら原型の無くな
った頭部が舞う。更に千切れた首の断面からは鮮血が噴き出し、身体が傾いて
いった。
リュティの方を見ると、爪で幾つにも切断された頭部が落ちていくところだっ
た。
(あの爪、あんな斬れるのか。)
初めて見た光景に少し恐怖する。
リュティが頭部を斬り刻んだ奴で最後のようだった。他に気配も無いので、一
旦さっきの場所に戻る事にする。
戻ると既にアリータとメイが戻っていた。
(早くないか?こっちの倍はいたわよね・・・)
そう思うと改めて執務諜員の怖さを思い知った気がする。機材のところでカマ
ルハーと何やら話しているユリファラは別として。
「すいません、お手数を掛けました。」
「別に。早く終わらせるに越した事はないでしょう。」
アリータの言葉に軽く手を振って返す。ってか私、動かなくて良かったんじゃ
ないか?
「ありがとうございます。」
「自分の安全を確保したに過ぎないわ。」
こんなところで邪魔をされるわけにもいかない。止められればそれだけ人が死
んでいくのだから。襲ってきた奴らの事は知った事ではない。もとより覚悟の
上で来たと私は割り切る事にした。
「彼等の素性ですが、見た事のある記章が服に着いていました。」
「私はそんなところまで見て無いわよ。」
「はい。おそらく見ても分からないと思います。」
見てみないと分からないけれど、やけに自信がありそうね。
「おそらく彼等はターレデファン国諜報部隊、カーゼルクリフでしょう。」
うん、知らない。
「国が秘密裏に保持する情報収集兼暗殺部隊と聞いています。」
さらっと言いやがったな。
「そんな事を一般人に明かさないでよ。」
「あ、ごめんなさい。」
私が知っている事で、私の身に何か有ったらどうしてくれるのよ。
「ミリアさんは色々と絡む事が多いので、つい・・・」
つい、で私の身を危険に晒すな。私自身の立場がそうだから、今更な気もする
けれど危険は少ないに越した事は無い。
しかしターレデファンか、どうしてもグラドリア国に山道を建設して欲しくな
いようね。それは北方連国との繋がりを独占したいからなのか、自分の保身を
考えてなのかは分からないけれど。
いけない、私が考える事じゃないわ。さっさと終わらせて此処を離れよう。
「じゃぁ私は山を削るわね。」
「はい、お願いします。私はこの事を報告していますので、何かあればメイに
言ってください。」
私は頷くとリュティに目配せをする。周囲の警戒を頼んだところで、ユリファ
ラと目的の場所に移動した。
「この辺だ。一応決めた場所はな。」
「分かったわ。」
後ろに控えているカマルハーのおっさんは無視しておこう。新品の大型呪紋式
銃に記述してきた薬莢を籠める。大型を使用するのは初めてだ。中型も使った
事は無いけれど。
「結構重いわね。」
「使った事ねーのか?」
「小銃しか無いわ。」
ユリファラに答えながら握りを確認する。試し撃ちくらいしたかったな。そう
思いながら山肌に銃口を向ける。
うわ、思った以上に緊張する。角度も考えないといけないし、予備の薬莢も準
備していない。それが今になって圧し掛かってくる。
「私じゃないと駄目?」
後ろを向いてカマルハーに聞いてしまう。
「今更怖じ気づいてんなよ。」
お前が言うな。そう思ってユリファラを睨む。
「失敗は気にせずにどうぞ。誰がやっても大差ありませんし、責める事もあり
ません。その呪紋式は貴女しか用意出来ないのですから。」
余計に重圧だっての。阿呆か。
でもやるしかないか。もう一度山肌に銃口を向けて、私は引き金を引いた。銃
から出た廃莢が地面に乾いた音を立て落ちる中、目の前では白光の呪紋式が眩
い光を放つ。予想通り圧縮された呪紋式は、光る円の様に見えた。やがて前に
青白い光が収束して輝きを増していくと、呪紋式が消えると同時に山肌を照ら
しながら一瞬で駆け抜け、空の彼方へと消えていった。
「す・・・げぇな・・・」
ユリファラが隣で口を開けたまま、呆然と見ているが同じ気分だった。光が迸
った後の山肌は半円状に消滅して、山頂までそれが真っ直ぐ伸びている。
「これが、以前グラドリア城の一部を破壊した光ですか・・・」
カマルハーも顔に出る驚きを隠せていない。硬いだろう山肌が、一瞬通過した
光で消滅するなんて、驚く以外に無い。それをグラドリア城が受けたと考える
と恐ろしいわ。
いや、私はこの呪紋式の前に飛び込んだのよね。今思えばそっちの方が恐ろし
いか。
「ちょっと急だったかしら。」
「いえ、十分でしょう。」
自分のやった事への肯定が欲しかったのかもしれない、カマルハーの言葉で私
は安堵する。後は反対側のカリメウニア領から撃つ必要がある。この勾配なら
走って登れそうだが、問題は降りる方か。
直径五メートル程の半円は、舗装すれば車が通るにも十分そうだ。後はリンハ
イアが何とかするでしょうし。
「それじゃ、私は反対側に行くわ。」
「老体には厳しいので、此処で光が見えるのを待ちましょう。」
それは助かる、付いて来るなんて言われたら嫌だもの。
私はリュティに手で合図をする。それを見てこっちに向かって来るが、一緒に
アリータも来た。
「エリミアインは居ますが、私も同行した方がいいですよね?」
確かに。そういう気遣いは有難い。さっきのような発言もしないよう気を遣っ
て欲しいところではある。
「それは助かるわ。」
会話が出来るか不安だもの。
「改めて見ると凄いわね。」
隣でリュティがモフェグォート山脈を見上げて言った。本当にその言葉しか出
てこないのよね。でも今は感慨に耽っている場合じゃない。
「じゃ、行こうか。」
「ええ。」
リュティに続きアリータも頷く。
坂道は身体強化を使った状態だったため、大した事はなかった。エカラールか
らの間道に比べれば、勾配はやや急だけど何とかなる範疇だろう。
山頂からカリメウニアに下るのが大変だった。一番の弊害は夜の闇夜なのだけ
ど、崖や絶壁のような山肌は、下るなんてものじゃない。
ただアリータの異常な身体能力を、この時初めて目の当たりにした。この山肌
を下るのが、そんなに大変じゃなさそうと錯覚したもの。実際下りてみるとそ
んな事は無い、アリータがおかしいのよ。
結局下山したのは私が最後だった。リュティに関しては別にいい、その素性を
考えれば未知数なのだから。空を飛んでも受け入れられそうな気がするわ。
私より先に下りたアリータは、既に長身の男と会話していた。ああ見覚えがあ
る、確かにエリミアインは長身だったことを思い出した。
「以前は少ししか登らなかったから分からなかったけれど、これは下りでも辛
いわね。」
黙れ。
私より先に下りておいてどの口が言っているんだ。私だって身体を動かす事に
少しは自身があったのよ。ハイリのところに通うようになってからは、向上も
したと思っていた。でも桁違いだったわ。
「まあ帰りは無くなっているから、まだ良かったわ。」
「そうね。」
「ミリアさん、何時でも大丈夫ですよ。」
少しは休ませろ。
「ちょっと休憩。」
「オーレンフィネアでは世話になったな。」
一緒に居たエリミアインが仏頂面で話し掛けてくる。いや、そんな顔してまで
無理に話さなくていいから、嫌なら来るな。
「まあ、こちらこそ。」
一応返しておく。
「しかし凄いですな、掛心の使い手で呪紋式まで操るとは。」
操ってないし。操るって何よ?こいつは多分疎いんだろうなって思った。
「何もかも中途半端なだけよ。」
「そんな事はないです。少なくともオーレンフィネアと今回、誰かを助ける為
に身体を張っている。尊敬に値する事だ。」
いやしなくていい、むしろしないで欲しい。ついでに関わって欲しくもない。
「ただの人殺しよ。次からそういう事を言わないで。」
落ち着いてきたので、薬莢を籠めながらエリミアインに言う。
「此処にいる全員、少なからず人殺しだ。どう生きているかで、評価が変わる
と思っている。自分が恥ずかしいと思う事をせず、正しいと思うことに邁進す
ればいいのだ。」
駄目だ、私はエリミアインと合わないわ。私の考えと交わらない。これならク
ノスの方が遥かに話しやすい。
「エリミアイン、あまり邪魔にならないようにしてください。」
「すまん、少しでしゃばってしまったようだ。」
取り敢えず話し掛けてこなければ何でもいいわ。立っているだけなら、ただの
人だもの。いや、長身過ぎるのも考えものだな。
「さて、やるか。」
落ち着いたところで、私は銃口を山頂の方に向ける。山頂が半円状に欠けてい
るため、次は分かりやすい。そこを目掛けて私は、引き金にかけた指に力を入
れる。
同様に廃莢が飛び出し、白光の呪紋式が浮かび上がって青白い光を収束し始め
た。呪紋式の消失と共に、輝く光は山肌を照して天へと伸びて消える。山頂を
境にペンスシャフルとカリメウニアに坂道が出来たが、山頂はどうしようか?
「天辺は削る?」
「そうですね、降ろす前に平地があった方がいいでしょうし。」
ただそうなると水平に発動させなければならない。モフェグォート山脈より高
い建物は、私は知らないが光がどのくらい伸びるのか知らない。見えない場所
で何らかの影響が出ても困る。
「多少の勾配は付けるわよ。水平には撃ちたくないもの。」
「はい。確かにその通りですね。」
それから私達は山頂付近まで近付くとカリメウニア領側から、多少の角度を付
けて呪紋式を発動させた。どうしても角を取る事は出来ないけれど、後は建設
時にやる事でしょう。
ペンスシャフル側に戻ると仮設テントの前で、それぞれがお茶を飲みながら寛
いでいた。私が終わるまでする事がないのは分かるけれど、なんか納得出来な
い。
「私達も休憩しましょう。落ち着いたらホテルまでお送りします。」
「そうね。流石に疲れたわ。」
身体強化をしているとはいえ、モフェグォート山脈越えの往復は疲れた。
「上手くいったようですな。」
椅子に腰掛けお茶を飲む。簡易なものでも暖かい飲み物は身体に沁みて落ち着
く感じがする。終わった事に安堵しているとカマルハーがそう話し掛けてきた。
「ええ、一安心だわ。」
「明日からが楽しみだな。あたしは此処に残留だけどよ。」
「それはどうかな。襲撃もあった事だし、微妙な問題じゃないかな。」
ユリファラはターレデファンの変化が気になっているようだけど、私としては
それは困る。それに襲撃までしてくるような国が、更なる状況の変化で暴走す
る可能性だってある。いや、国ではなくソグノーウ首相がか。
「その辺、あたしには分からねーけど、おっさんが上手い事やんだろ。」
「そうね。」
ま、私が考える事じゃない。私は仕事に影響が出ない事を望むわ。
それから三十分程休憩して、アリータにホテルまで送ってもらった。休憩中に
現れた三十人くらいの団体が、早速作業に取り掛かるのを見て、北方連国の人
が少しでも助かる事を望んで。そうじゃなければ受けた意味を見出だせない。
薬莢を使いきれた事には安堵した。後で消すとしても、持っているだけで不安
になる。光が通過した場所は全て消滅、なんて物は存在しない方が良いに決ま
っている。
ホテルに付いた私はリュティとラウンジで軽く飲んで部屋に戻った。予想以上
に疲れていたのか、寝台に入ると直ぐに眠りに落ちていった。
「アン・トゥルブ、それが私の関わる組織。でも私は所属しているわけではな
く協力しているだけなのよ。」
やはりそうか。なんとなく分かっていた事なので驚きはしない。なんとなくと
言うよりは、この前のモフェグォート山脈の件でほぼ確定と言えるのだけど。
そうなると現地に居たあのジジイや小僧もそうだろう。
「各地にある呪紋式の装置を監視、保護の目的で結成されたのが約五百年前に
なるわ。」
それも概ね分かっていた事だ。リュティが自分の動向を隠さなくなった、それ
どころか手伝わされたのだから。そう考えるとアン・トゥルブには間接的とは
言え、協力した事になるのかな。釈然としない。
ただ五百年っていうのは驚きだわ、人間の寿命から考えれば気の遠くなるよう
な話しだし、想像もつかないわ。
「当時百人近く居た組織の人間は、今では十人ほどしか居ない。だから人手不
足なのよ、このままでは組織としての目的は潰えるでしょうね。」
随分と減ったものだ。確かにその人数で各地に点在する設備の監視は難しいだ
ろう。私が駆り出されるのも分かる気がする。だけど補充はしないのだろうか。
その度に連れまわされるは流石に困る。私にはお店があるのよ、アン・トゥル
ブのやる事に巻き込まれるのは勘弁して欲しい。
「組織が潰れる前に、なんで増やさないのよ?」
私の疑問に、リュティは憂いをもったような表情で頷いた。
「話しの流れで分かるわ。」
「そう、割り込んでごめん。」
「いいのよ、私が話したくて話しているのだから。」
リュティは笑みを浮かべると、続けようとする。が、私は手を上げて待ったを
かける。
「場所を変えましょう、ずっと話していて喉も渇いたし。直ぐ終わる話しじゃ
ないでしょう?」
「ええ、そうね。」
えっと、もう零時か。時計を確認すると短針と長針が真上で重なっていた。こ
れは寝不足確定じゃないだろうか。
「ノエアに戻って、閉店後はテイクアウトで二階、でどう?」
「それでいいわ。」
リュティが頷くとの見ると、二人でお店を出て鍵を掛ける。闇の落ちたレニー
メルナ通りでは、カフェ・ノエアだけがまだ煌々とした灯りで街路を照らして
いる。その灯りに惹かれるように、私とリュティはノエアに向かった。
ノエアの店主ロアネールは特に怪訝な顔をするわけでもなく、何時もの愛想の
良い笑顔で麦酒と葡萄酒を出してくれた。深夜一時閉店のためか、余りの食材
でおつまみをサービスしてくれる。有難い。
「で、現状までは聞いたわよね。」
私は麦酒を一口飲むと、続きを促す。リュティは頷くと口を開き始めた。
「アン・トゥルブの頭首はミサラナ・エンシェルカ・リーアライナ。彼女は私
の妹になるわ。」
姉妹だったのか。ちょっと驚いたが、そりゃ大抵の人は家族が居るわよね。勝
手に私と同じで独り者と思い込んでいたわ。ちょっと待て、名前が全然違くな
いか?
「見た目も変わらないわ。シルバーブロンドの髪に緋色の目。実はアン・トゥ
ルブの人間は赤系統の目が多いのよ。」
「ふーん。」
私も紅色だが関係ないだろう。アリータも赤だったわね。珍しいが見ない色じ
ゃない。しかしミサラナは、見かけたら直ぐに分かりそうね。それより名前が
気になるのよ。実はリュティの名前は全然憶えてないのだけど、聞けば思い出
す。だから違うってのだけは分かるのよね。
「名前が違うのは私が嫌だったからよ。ミサラナが頭首となった時、私はアン
・トゥルブに属す事を嫌ったため。」
そう言う事か。頭首と繋がりがある事を嫌がったのね。
「それはいいとして、重要なのはここからよ。アン・トゥルブを結成したのは
現頭首ミサラナなのよ。それは結成時から変わっていない。」
はっ?なんだって?今凄い事を言ったわよね。
「ちょっと待て、頭首が変わってない?」
おかしいでしょ、アン・トゥルブが結成されたのは五百年前って言ってなかっ
たか?人間の寿命を遥かに超えているじゃないか!
「そうよ。それがアン・トゥルブ最大の秘密であり、増員出来ない理由に関係
しているのよ。」
認めたな。ミサラナは少なくとも五百年は生きている事になる。人間の寿命を
遥かに超えているって事は、どんな存在なんだ?それは既に人間と言えないん
じゃないか?いや待て待て。
「ミサラナの姉であるリュティも、それだけ生きているって事?」
「そうなるわね。」
驚きを通り越して頭が回らない。ただ、やけに達観したところや察しが良いと
ころ、見た目年齢のわりに小型端末に触れようとしない理由が、なんとなく分
かったわ。
「アン・トゥルブの人員は当時造られた九十六人で構成されているの。そして
もう造られる事が無いため、増員が出来ないのよ。」
おかしな話しが出すぎて困る。造られたって何よ?人を造る?そんな馬鹿げた
事が可能なのか?人知を超えた領域の話しじゃないでしょうね。
「じゃあ、あの無愛想や、糞ジジイも、小僧もそうって事?同じく五百年前か
ら存在するの?」
名前はなんだったか思い出すのも面倒なので、とりあえずこれで通じるだろう。
「そうよ。」
当たり前のように肯定される。当たり前じゃないのだけど、聞いてる私がおか
しいみたいな気分になってくる。これが本当だとしたら大事じゃない。アン・
トゥルブの素性がよく分からないのも、人里離れたところで生活しているのも
そういう事か。歳を取らない人間が居るのは不自然だ。
「ただ造られたと言っても一からではないわ。私達は元々人間なのよ。歳は取
らないけれど、それ以外は普通に食事もするし、痛みも感じる。もちろん、死
にもするわ。」
成る程、吃驚したわ。それでも人間を改造したって事よね、ろくでもない事に
変わりは無い。もっと軽い話しかと思っていたが、とんでもない内容だ。だけ
どそうか、身体が再生するのはそういう事か。
「呪紋式によって今の身体にされた?」
「結果としてはその通りよ。」
やはり予想通りか。だが結果としてというのは?
「志願者のみよ、施されたのはね。」
だとしてもだ、やっている事は禁忌と言えるだろう。でもそれだけの呪紋式使
いが当時は居たという事になる。今の時代ではそんな呪紋式、聞いた事がない。
どこかで似たような事を研究はしているかも知れないが。
「私達は齢を重ねる事が出来ない身体になったため、人の多いところは避ける
ようになった。だからアン・トゥルブの本拠地はエユーイフェデル聖国、モー
メルリーエンにあるのよ。」
あの国か。聞いた事しか知らないけれど、確かに都合がいいのかもしれない。
聞いた知識でしかないけれど、どの国とも迎合せず独自の文化を築いている国
で、開拓されていない土地が多いんだっけか。その情報が正しければ、現代こ
そうってつけよね。
「で、呪紋式を護る為にその身体になったわけ?」
「違うわ。呪紋式を護る目的の方が後付けなのよ。私達に呪紋式を施した本人
が死んだ後、ミサラナが当主の意思を継いで結成したのがアン・トゥルブよ。」
うわぁ。頭が混乱して来たわ。結局なんでその身体になったのか、そこはまだ
明かされて無いわよね。
「場所を移動しましょう。」
ん?もう閉店時間か?と思って時計を確認する。まだ十五分あるじゃないか。
「ここからの話しは、アラミスカ家が関わってくるわ。」
「分かったわ。」
そういう事か。何となくリュティが近付いて来た理由はそうじゃないかって思
っていた。今の言葉でその可能性が高くなったわ。ちょっと軽く聞き流そうと
思っていたのに、相当重い話しになっていきそうだ。
ロアネールに新たな麦酒と葡萄酒を用意してもらったのだけど、家で飲むから
と言ったのにグラスを押し付けられた。後で返してくれればいい、グラスで飲
んだ方が美味しいだろって言われて。なんて粋な店主なのかしら。
「何処かでそんな気はしていたのよ。」
家に場所を移して、テーブルに着いた私はそう言う。アラミスカの名前が出た
事で思った事を。
「私が現れた時点で、その可能性を示唆してしまったのね。」
「かも知れない。ただ一つはっきりしたのは、呪紋式を施したのは当時のアラ
ミスカ当主ね。」
私の言葉にリュティは頷いた。だろうと思った、式伝継承がその証左だ。これ
が出来るって事は、人体の改造も可能だろうと思わされたから。つくづくアラ
ミスカ家ってのは業の深い家名ね。
「ちなみに当時のアラミスカ家当主が、アラミスカの初代になるわ。」
そうすると現存するアン・トゥルブのメンバーと、アラミスカ家の歴史は同じ
くらいか。じゃあずっとアラミスカ家に関わってきたのか?
「当時の私達は式伝継承の存在を知らないのよ。当代が亡くなった時点で私達
の役目は終わったと思ったわ。だからミサラナがアラミスカ家の代わりにアン
・トゥルブを結成したのよ。」
どういう事だ?リュティ達が造られた時に式伝継承はまだ完成していなかった
?それとも隠していたのか。
「アラミスカに関しては後から存続を知ったのだけど、ミサラナはアラミスカ
家に付くことを拒否したわ。」
まあ、いいんじゃないかな。アラミスカに関わってもろくな事にならないだろ
うし。
「初代の名前をアラミスカ・フェイル・イリアというのだけど、我らが当主は
イリア様のみ、故に後のアラミスカ家に尽くす必要はない。というのがミサラ
ナの言い分でアン・トゥルブ内の一致だった。」
その辺の話しはどうでもいいな。アン・トゥルブやミサラナがどうしようが私
には関係の無い話しだから。
「イリアが何故私達の存在を求めたかについては定かではないの。でも各地に
点在する呪紋式の管理は含まれていたのよ。」
結局そこは明らかにならないのか。だったら何故、リュティ達は望んでその身
体になったんだ?それよりも待て。
「初代は呪紋式の存在もその場所も知っていたという事?」
話しからすればそうなる。何故イリアは壊す術を持っていながら放置して、リ
ュティのような存在を生み出したのか。明らかに未来へ残す選択をした結果だ
と思えるわ。
「そうなるわね。私達を防人として造ったのかは定かではないけれど、ミサラ
ナはそうだと思っているのよ。」
面倒臭いな。いっそ聞かなかった事にするか。
「私達がイリアの提案を受けたのは簡単な話し。イリアを守るため、呪紋式の
管理をしたい、強さが欲しい、単に長生きしたい、目的は各々別だけど、イリ
アの為に何かしたいってところは共通だったと思うわ。それでも私たちは別に
不死では無いのよ。」
「まあ、減ってるものね。」
なるほど、初代は人望があったわけだ。それが一部の人間か、大勢かは分から
ない。だけど、いくら改造を施されたと言っても、やはり人間の域から出てい
るわけではないのか。
「身体が大きな損傷を受けると、勝手に修復しようとする。ただ、脳や心臓の
破壊、若しくは修復を超える損傷には耐えられない。」
出会った時のあれがそうか。考えないように頭の隅に追いやっていたんだけど
な。というか、爪が伸びていたわよね?
「気付いていると思うけれど、イリアが施したのはそれだけではない。護るに
も私達は圧倒的に数が少ないもの。」
私の疑問を察したのか、リュティはそう言った。戦う為の力ってわけか。その
力で近寄る者を退けてきたって事なのだろう。
「封印する呪紋式も?」
「そうよ。」
そうよね。そうじゃなければ管理にならない。以前オーレンフィネアでリュテ
ィが見せたあれがそうなのだろうと気になって聞いてみたけど、当たりだった
ようだ。
「でも当時はそれで良かったのかも知れないけど、進化と数の前に私達は無力
に等しいのよ。」
それがアン・トゥルブの現状なんだろうな。技術の進化と人口の増加。それは
人の欲の加速を意味する。アン・トゥルブだけでどうにか出来る話しじゃない。
「私はアン・トゥルブには属さず協力しているだけと言ったでしょ。それはイ
リアの想いは受け取ったけれど、ミサラナに迎合する気は無かったからなのよ
。」
だから私のお店で働き始めた?いや、違うな。
「アラミスカの存続が確認されて以降は、その監視もアン・トゥルブの活動に
含まれた。」
そりゃそうだろう。初代が護ろうとしても、他がどうするかなんて分からない。
利己で利用する者が現れても不思議じゃないのだから。
「何代かのアラミスカに接触したけれど、イリアはその存在も私達に施した呪
紋式も継いではいなかったみたい。」
それがもう増やす事が出来ない理由か。でも私はそれでいい、そんなもの引き
継がれても困る。尤も、使う気もさらさら無いけれど。
「ただ二十年程前、正確には二十三年前かしら、メーアクライズの消滅によっ
てその監視は解かれた。」
「私がやったであろう、アラミスカ家の消滅ね。」
「ええ。」
リュティはそこで悲しそうな表情をする。何に気遣ってかは知らないけれど、
起きた事はどうしようもない。忌々しい事この上ないが。
「メーアクライズでの発現が私達にとって初めて確認できた事象だったのよ。
それまでは知識のみの認識でしか無かったけれど、危険性については考えが甘
かったのね。」
人は体験しないと認知出来ない事が多々ある。それは想像からかけ離れれば離
れるほど難しい。大きいほど漠然としか考えられないから、結局分からないの
と一緒なのよね。
「ちなみにメーアクライズにもアン・トゥルブの人間は滞在していたのよ。」
「ああ・・・」
そんな事を言われてもね。
「別に気にしなくていいわ。それよりも、危険性をはっきりと認知出来たアン
・トゥルブは、もう殆ど人員が残っていない事が大きな問題だった。」
驚くのはその人数で、よく五百年も発動させなかったものだ。存在が知られて
いないのと、呪紋式が今ほど普及していなかったっていうのもあるかも知れな
いけれど。
でも現状を考えると、危険とアン・トゥルブの人数は反比例している。今後の
活動は無理と言っても過言じゃないだろう。
「それで人数が少ないから、協力という形でリンハイアと繋がったわけね。」
私がそう言うとリュティは表情に驚きを見せる。
「知っていたの?」
「違うわよ。話しの流れでそう思っただけよ。」
これでリュティが私の前に現れた理由がはっきりした。あの糞執政統括め、次
に会ったら覚えておけよ。
「私がアラミスカの生き残りだというのは、リンハイアからの情報でしょ。」
「そうよ。よく分かったわね。」
うちのジジイとハイリが同門で、ハイリはたまにジジイを訪ねて来ていた。ハ
イリはグラドリア国の軍事顧問でリンハイアは執政統括。司法裁院の高査官最
高責任者はハイリだ。阿呆くさ。何よそれ。
それでアン・トゥルブはアラミスカ家と繋がりがあって、リンハイアとの繋が
りを持った。しっかりと線は結ばれ円になっているじゃないか。ああ!そう考
えるとむかつく!
「クスカがリンハイアから依頼を受けた時、その内容を見た私は横取りしてミ
リアに会いに行ったのが、モッカルイアでの事よ。」
「成る程、まったく嫌な邂逅よね。」
滅んだと思ったアラミスカ家の監視を再開するためだろう。リンハイアの情報
はアン。トゥルブにとっても重要だったわけだ。
「イリアの面影があったから。」
「私に?」
リュティが何故、横取りして私に会いに来たのかだろう。
「そうよ。確かめたくなったのよ、貴女がどんな人物か。それに私がアン・ト
ゥルブの思惑で動くと思う?」
「今更それは無いけれど。」
目的が変わったのでしょうね。最初は間違いなく確認が目的だっただろうし、
お店に来たのは観察といったところだろうか。どんな心境変化があったのか知
らないけれど、今は助かっている。
「私が護りたいものは、今此処にあるのよ。」
何を見て何を思ってそう言っているのか、分からない。その思いは本当に今に
あるのか、五百年前に置き去りにしてきたものを見ているのか。分からないけ
れど、どうでもいいか。
どう思ったところで私は私でしかない。
「好きにすればいいんじゃない?」
「そのつもりよ。来た時はただの興味本意だったのよ、でも今は変わってしま
った。それは結構満足しているのよ。」
「へぇ。」
微笑んで言ったリュティの言葉に、私は目を細めて相槌を打つ。
「何よ。」
「別に。」
と言ってお互いに笑う。直ぐにリュティは真面目な顔になる。
「そんな事よりミリア、これからの貴女は大変になるわよ。」
「まあ、予想は付くわ。」
アラミスカ家の人間が持つ特異性と、呪紋式が刻み込まれた石柱の破壊。一部
には知られてしまっている。特にリンハイアは容赦なく利用してくるだろう。
「アン・トゥルブも見方が変わったでしょうね。」
「最初はどうだったのよ?」
「放置の方向だったわ。それは私が傍に居ると分かっていたからでしょうね。」
成る程ね。存在しているという認識程度だったわけか。
「私にもミサラナの考えは分からないわ。護りたいのか、壊したいのか。」
「イリアに傾倒していたなら、護りたいんじゃない?壊さなかったんだもの。」
私はそう思えた。私は壊してしまってもいいと思う。オーレンフィネアが公表
した考えに賛成だわ。
「そうかも知れないわね。でもイリアはどうしたかったか、もう分からないの
よ。イリアが壊す術をまだ知らなかった事も考えられるし。」
「それは無いんじゃないかな。後のアラミスカに存在を伝えなかったのなら、
その呪紋式を新たに式伝継承に含めるのは不自然じゃない?」
「そうなのかしら?」
「そうか。多種多様な呪紋式を後継させるという観点から考えれば有りか。で
も私はそうじゃない気がするのよね。まあ考えてもしょうがないか。」
「そうね。」
イリアの想いはどうでもいいや、答えなんて出ないのだから。今の私がどうす
るか、それが重要なのよ。
「そうなると、アン・トゥルブとの対立も有り得るけど?」
「そうね。私は構わないわよ。頭の固まった組織にそれほど未練は無いもの。」
少しはあるんだな。まあ五百年も付き合った奴らだもんね。感慨が無い方が不
思議か。
「取り敢えず今は薬莢への記述かな。」
「それは手伝えないわ。」
「知ってる。」
やってくれたら私がもっと楽出来るのに。
「やる?」
「やらないわ。」
駄目か。
「あ!」
「突然どうしたの?」
「ちょっと、外が明るくなって来たじゃない。」
「本当だわ。」
窓の外が白んでいる事に気付いて、時計を見るともうすぐ六時だ。うわぁ、寝
る時間が無いじゃないか。寝不足とか嫌だなぁ。仕方ない、サラーナが来るま
でに記述してみるか。
「朝御飯にする?」
「うん。早く食べて開店前に一発仕上げてみたい。」
「じゃぁ用意するわね。」
「これ、ありがとう。」
「いえいえ。開店と同時に休憩ですか?」
ノエアで店主ロアネールにグラスを返すと、そんな事を言われる。仕事しない
でさぼっているようで心外だわ。
「寝てないのよ。」
「若いですね。」
「好きで寝てないわけじゃないのよ。」
「そうですか。紅茶で?」
「ええ。あとグリルチキンサンドも。」
「了解。」
食べないとやってられない。記述したらお腹が空いてしまった。薬莢と呪紋式
の紙は自宅に置いて、お店は三人に任せている。
記述してみた感じでは、大型呪紋式銃の薬莢でも行けそうだった。ただ私が使
っている小銃の薬莢では無理。そこが限界でしょうね。
大型の薬莢に記述出来たら、アリータに連絡しよう。どっちが都合がいいか決
めてもらう必要があるし。普通に考えれば遠距離は無いと思うけれど。現地を
確認した状態で決めた方が確実だろう。
しかし、眠い。
なんか何時もの時間の流れだっていうのに、昨日から色んな情報が一辺に流れ
込んできて、違う時間に迷い込んだ気分。特にリュティの話しは衝撃だったわ。
だからと言って私の生活が変わるわけでも無いけれど。気持ちが落ち着けばい
つも通りに感じるようになるでしょう。
「ペンスシャフル国からの回答は、山道の建設に賛成だそうです。告知さえあ
れば何時からでも作業をして構わないそうです。ただ、支援に関しては協議中
との事で、直ぐには結論を出せないとの事です。」
「それは良い事だ。今のうちに進めたいところだね。ついでにターレデファン
も煽ろうか。」
「はい、公表は何時でも可能です。ペンスシャフル国からも許可は得ています
し、カリメウニア領のホーグス議長も乗り気ですから。」
既に話しを伝えたカリメウニア領のホーグス議長は、提案を持ち掛けた時点で
大層喜んでいた。もし道が出来るのであれば大歓迎だと。リンハイア曰く、そ
うなればカリメウニアが北方連国の出入口になるからであり、単純に救済を喜
んだだけではないと。
アリータはそれに納得したが、現状は他に手が無い事も事実だと分かっていた。
利権をカリメウニアが手にしようと、それでも北方連国の人々は助かるのだか
ら。
ペンスシャフル国からの回答は会談後、数日のうちに出た。人と金に関しては
時間が掛かるのは当たり前なので、それは直ぐに求めてはいない。というのが
グラドリアの立場となっている。
オーレンフィネアからの回答が翌日だったのには驚いたが、支援を決めたとい
う連絡だけで程度は協議の上、相談させて欲しいとの事だった。
バノッバネフ皇国からの回答は今のところは無い。
「では早速、明日の朝に出そうか。」
「はい。首相は直ぐに反応するでしょうか?」
「するだろうね。掌を返したように条件付きで建設の協力に動く、カリメウニ
ア側とのみならば、とね。でも遅い。」
確かに、ターレデファンの姿勢は、ザンブオンへ対する非難から始まっている。
カリメウニアだけでも協力を見せそうだとアリータは納得する。だがリンハイ
アの言う通り、それは後出しでしかない。逆に非難や反発は増えるだろう。
グラドリアを含め他国をも非難したのだ。そのグラドリアが口だけでなく、行
動するのだから。それを知ってから自分も動くのであれば、今までの態度は何
だったのか、他国が動いたから慌てて路線変更かと。目に見えていると、アリ
ータは自分でさえ分かる事だと思った。
「あとミリアさんから連絡が来ています。」
「ほう。」
「両方可能だから、使う方を教えて欲しいそうです。」
「流石だね。これで山道への着手は目前となったわけだ。」
「はい、良かったです。少しでも助けられるのなら、それに越した事はありま
せん。」
「場所も概ね決まっている、後は調整だけだ。薬莢が出来次第直ぐにでも動け
るようにしておいてくれ。」
「はい。」
翌日朝、グラドリア国はペンスシャフル国と、カリメウニア政府とも協力して
新たな山道の建設を実施すると公表した。グラドリア国が主体となり建設を進
め、準備も概ね出来ている為、早期の着手も可能だとした。
その公表を待っていたかのように、ペンスシャフル国、法皇国オーレンフィネ
ア、バノッバネフ皇国がそれぞれの立場で、出来うる限りの支援をすると追随
した。
これに対し人道支援に対する感謝を示すと同時に、新たな未来への可能性、国
家間の新たな協力の誕生と、生活の安定度向上への期待をカリメウニア政府は
伝える。
同時に予想された通り、ターレデファン国はこれに異を唱えた。既に間道があ
るにも関わらず、我が国に及ぶ脅威も考慮せず、我が国を非難して貶める行為
だと。グラドリア国の蛮行はターレデファン国民に仇なすものであり、決して
容認出来る内容ではないとした。
続けてカリメウニア領側との建設着手であれば、今すぐにでも行う準備は出来
ているとも発表した。
このターレデファン国の公表に対しては、どの国も反応を見せる事は無かった。
当事者であるカリメウニア領ですら。
ザンブオン領は領で暮らす人々が助かるのならばと感謝を示すだけに止まり、
ダレンキス領も同様でありカリメウニア領政府を支持をするとだけ伝えた。
夕方にはターレデファン国内での反感感情が急激に高まり、暴動が起きている
箇所もあると報道される。現首相のソグノーウは今すぐ退陣しろと、国民が至
るところで声を上げ始めたと。
北方連国を陸の孤島としていたターレデファンは、ソグノーウ首相の強硬姿勢
によって逆に孤立する結果となったのだった。
「よし終わった。」
遠距離用の薬莢に記述した呪紋式は消して、大型呪紋式銃の薬莢を三発用意。
お店は三人に任せ、私は家で作業していた。サラーナはおっとりした感はある
ものの、なかなかに優秀だと思う。だから見せるわけにはいかない。手伝いを
申し出てくれたが、これだけは駄目だと却下した。
「もうすぐ閉店時間か。」
時計を見ると既に夜の七時半を廻っている。私がお店に居なくても問題ないっ
てところがいいわ。自分の作業に専念出来る。
待てよ、私はアクセサリーを個人的に売りたかったんだよな。これって本末転
倒じゃないか?ふとそんな事を思ったけれど、これはこれで良いかとも思った。
お店には出れる時に出れれば。やっぱり自分が造ったアクセサリーが売れる瞬
間を見るのは、嬉しいのよね。その時、お店を持てて良かったと一番実感出来
るから。
「お店を覗いて、ノエアに行くかな。」
そう呟いて一階の店舗に向かう。
お店に入ると、お客さんが丁度会計をするところだった。ヒリルが笑顔で接客
している。
「嬉しそうね。」
店内で閉店準備をしていたリュティが、そう言ってきた。顔に出ていたのだろ
うか。
「そりゃぁね。この為に、この瞬間の為に、私はこの場所を求めたのだもの。」
ヒリルが商品を包装してお客さんに渡すのを見ながら、リュティの言葉に応え
る。そうなのよね、言ってみると余計に実感出来る。私が私でいられる為の場
所なんだって。
「素敵なアクセサリーです。頑張って下さい。」
「ありがとうございます。」
帰り際のお客さんにそんな事を言われた。嬉しい。これはちょっと涙が出そう
な気分。
「で、終わったの?」
おお、しっかりと水を差してくれるわね。人がせっかくいい気分でいたのに。
なんでそういう事は察してくれないかな、普段無駄に察しが良いくせに。
「終わったわよ。」
「いよいよね。」
「その話しは後で。」
「分かったわ。」
取り敢えずアリータに連絡しておくか。多分直ぐにでも動く事になりそうだな。
夕方の報道ではターレデファンが凄いことになっていた。ソグノーウ首相はこ
の後どうするのか。辞めずに居座ったら凄いなと思う。近隣国からも国内から
も非難されて、残るとしたらどういう手を使うのだろうか。
「ミリア、お店閉めるね。」
「ん、ああ、お願い。」
呆と考えていると、ヒリルが声を掛けてきた。
「あ、それと今日はノエア行けないの、ごめんね。」
「別にいいわよ。」
いつ誰が来てくれと頼んだよ。いつも行っているところに混じってくるのはヒ
リルの方だ。リュティもそうだが、別に示し合わせて行っているわけではない。
それぞれが勝手に集まっているだけだもの。だからいちいち断らなくてもいい
のに。
「久しぶりに時間が出来たからって、食事に誘われちゃったの。」
聞いてねぇ。理由とか言わなくていいから好きにしろ。興味無いって言ってる
のに。
「そう、良かったわね。」
嬉しそうに言うヒリルに、それだけ言っておく。
「ミリアも誰か見つければいいのに。」
余計なお世話だ。どの口が言ってんだ。この前まで愚痴っていたくせに。
「私はお店があればいいのよ。」
それは本音だけど、私はあまり人と関わりたくないのも本音だ。自分が持つ業
に、誰かを引き込む事など出来ない。
お店を閉め、何処かに向かうヒリルとサラーナを見送ってノエアに入る。
「おや、二人なのは久しぶりですね。」
「デートだそうよ。」
「微笑ましいですね。」
「本当にね。」
店主ロアネールとそんな会話をして麦酒を受け取る。葡萄酒を受け取ったリュ
ティと、適当な席に座ると私は直ぐに口を開いた。
「お店、二人に任せて大丈夫かな?」
「それはミリアが決める事じゃない。」
ああ、そうか。そうよね。私のお店なのだから私が決めるのは当たり前、なの
だけど。
「意見を聞くくらい、いいじゃない。」
「そうねぇ・・・大丈夫じゃないかしら。」
まったく、相談くらいいいじゃない。決めろと言っているわけでもないのに。
そう思って言うと、リュティは少し考えてから答えた。
「よし、採用。」
「後で私のせいにしないでよね。」
ちっ。
「ところで、抱えているのって薬莢だけじゃ無いわよね?」
お店の話しは無かったようにリュティが話題を変える。
「まあね。そっちは今のところ情報が無いわ、多分時間が掛かるんじゃないか
しら。」
ボウトールの件については全く連絡が無い。司法裁院の事だから、このまま来
ないって事は無いだろうけど。キュディーグが言ってきた事だ、何れ何かしら
の答えは出るでしょう。
「被ったらどうするの?」
「嫌なこと言わないでよ。」
更に面倒になるだけじゃない。まあその時は、モフェグォート山脈の方はリュ
ティに任せるか。
「出来れば早く終わらせたいわね。」
「そうね。って噂をすれば、返信が来たわよ。」
アリータに送っていた文書通信の返事が、小型端末に届く。私は早速内容を確
認する。
「決行は明後日。」
読みながら実行日を伝える。
「早すぎじゃないかしら。」
「何時でも出来るように準備していたんでしょうね。」
「さらに騒がしくなりそうね。」
なるでしょうね。ターレデファンのソグノーウ首相がどんな反応をするか、気
になるところだ。
「それはリンハイアの範疇だから、気にしてもしょうがない。私達は、報道で
見守るだけよ。」
「そうね。」
「お昼にはオレンティア駅に集合。アリータが同行するらしいわ。」
それとメイ・カーか。リンハイアの護衛でしか会った事はないけれど、私は苦
手なのよね。
「お店は取り敢えず二人に任せてみようかな。当日の午後と、次の日の午前中
くらいだったら。」
「いいの?戸締まりと開店も任せる事になるわよ。」
まあ不安が無いと言えば嘘になるけれど、それくらい大丈夫でしょう。ヒリル
が何かするとは思えないし。
「いいと思うわ。明日には説明しないとね。」
「分かったわ。」
私は言った後、麦酒を飲み干しておかわりを注文するために席を立つ。
「私のもお願い。」
しまった、先に立ったのは失敗だったわ。微笑で言うリュティから空きグラス
を受け取ると、カウンターでグラスを磨くロアネールのところに向かった。
2.「法は法でしかない。だが個人の勝手な解釈で捻じ曲げらるの現実だ。」
不穏は突如訪れる。因果というのはそうなっているのだろう。望んでいない事
ほど、前触れというものを考慮してくれない。こっちの事情なんてお構い無し
に襲い掛かって来るんだ。平常を享受するのが当たり前の人間にとっては、受
け入れがたい現実。それが望まない非現実だ。
「間が悪い・・・」
お店を訪ねて来たキュディーグに対する、私の第一声はそれだった。
「出直しましょうか?」
「いえ、そういう意味ではないのよ。出ましょうか。」
「ありがとうございます。」
店内で話す事ではないので、外に出る事を促す。リュティに目を向けると頷い
てくれたので、お店を任せてノエアに向かった。ってか昨夜リュティが余計な
事を言ったせいだろ、これ。
「そちらにも都合があるでしょうが、聞くだけでもいいので。」
ノエアのテーブルに着くと、キュディーグが話し始める。
「可能なら動くわよ、気にしなくていいわ。」
「助かります。」
キュディーグは軽く頭を下げると、珈琲を口にした。私は聞く側なので、紅茶
を飲みながら話しが出るのを待つ。
「ボウトールですが、ターレデファンの潜伏先が確定しました。」
「それで?」
そうじゃなければ来ないでしょうね。私にとって有益か、そうじゃなければ打
ち切りしかない。ただ議員の息子である以上、その可能性は低い。
「近々に何か動きがある予定はありませんが、決着を付けるなら早い方がいい
と思いまして。」
そりゃそうだけど。色々あるのよね。ただ渦中のあの国はどっちも絡んでしま
っている。
「今あの国は大変な事になっているわね。」
「だから、隠れ易いのでしょう。」
混乱に乗じてって事も可能、か。私が行く頃には更に騒動が大きくなっていそ
うな気がする。
「他にやる事がありますね。」
キュディーグに隠し事が通用しないんだったわね。内容までは流石に読み取れ
ないでしょうけど、別に隠す事でもない。
「明日の夜、ペンスシャフルで仕事があるわ。それが終わった後にターレデフ
ァンへ向かう。それでどう?」
キュディーグはゆっくりと頷く。
「それで構いません。ターレデファンの詳細については書類に纏めております
ので、後ほど確認してください。」
「ええ。」
その辺はいつもの依頼書なのだろう。
「私がターレデファンへ着く頃には、今よりも騒ぎが大きくなっている気がす
るわ。」
まさか夜のうちに山肌が削られ、山道の元が出来るなんて思わないでしょうね。
いやでも、現地の確認なんてすぐ出来はしないだろう。そう考えれば多少の猶
予はあるかも知れない。
「それが仕事ですか。」
「そうね。あいつの手伝い。でもまあ、そこまででも無い気がするのよ。だか
ら、騒ぎが大きくなる前に何とかするわ。」
というかそれしか無いでしょうね。
「執政統括殿ですか。それは大変ですね。」
大変というか面倒臭い。関わりたくないってだけなのだけど。その話しはキュ
ディーグに言ったところでどうしようもない。単に私の感情の話しでしかない
のだから。
「望んでもいないのに巻き込んでくるからね。」
私はそう言って苦笑いする。
「そうですか。そちらに関して私はどうとも言えませんが、ボウトールの方は
かなり警戒心が強くなっています。」
そりゃそうでしょうね、逃げているのだから。逆に精神が磨り減っているとい
う事も、考えられるけれど。
「騒ぎが問題なんですよ、普段以上に警戒しなければいけない。だから余計に
気が立つんです。そうなると感情も穏やかではいられない、些細な事で苛立ち
が増し、沸点も低くなる。」
成る程。キュディーグが言うと説得力がある気がするわ。言う通り平常心を欠
いていたら何をするか分からないわね。
「国内に居たときは理知的だったとしても、それは勝手知ったる土地であり、
身を守る術が存在するから、狡猾に動けるのです。だが今の彼にその鎧はあり
ません。」
言われてみればその通りだ。私はそんな事まで考えた事が無いわ。言ってみれ
ば全てを疑い常に警戒している手負いの獣みたいなものか?だとすれば、面倒
な相手になっている可能性もあるか。
「通常の精神状態ではないかもしれません。平静を装っていてもそうじゃない
可能性もある。普段なら気付かない音や気配を、察してしまうかもしれない。」
さっきからなんなの?キュディーグは私を脅しに来たんだろうか。私も追い詰
められていってる感じがして嫌なんだけど。
「これは失礼しました。ただ、心構えをして頂きたかったのです。我々が実行
するわけではありませんが、この仕事は常にそういう危険を孕んでいます。」
確かに言われてみればそうよね。私には危機感が足りていない、まったくもっ
てその通りだわ。だから今まで何度も危険な目に遇っている。その意識があれ
ば回避出来た事だって、思い当たる節は幾らでもあった。
「いえ、ありがとう。私にはもう少し慎重さが必要ってのはよく分かったわ。」
まさか司法裁院の人間相手にありがとうなんて言葉が出てくるとは思わなかっ
たが、素直にそう思えたから口にしていた。
「我々は依頼している側です。受けてくれる人が居なければ、それも成り立ち
ません。自分の立ち位置を人は意識しておく必要があると、私は思っているだ
けですよ。」
キュディーグの言っている事は依頼する方、受ける方、両方に当てはまる事だ
ろう。極論を言えば動かしているのはお金なのだろう。犯罪者が許せないから
と言って、無償で依頼を受けている奴なんて居ないと思うし。
そう考えれば、そこに付随するのは質になってくる。危険が付きまとうこの仕
事は、意識が低ければ死に繋がる可能性は十分にあるだろうから。お互い慈善
事業で行っているわけではない、それを理解しておけという事だろうか。
「そうかもね。」
「一番いいのは月並みですが、我々が依頼を出さなくて済む事です。」
そりゃ誰だって思う事だからね。ただどんなに法を整備しようと、取り締まり
を強化しようと、人の本質は変わりなどしない。そこに感情と欲が在る以上、
無くなりはしないのよ。
「それも人間の業でしかないけれどね。」
「仰る通りです。」
人は自分が生きるのに都合良く社会を造っているに過ぎないのだから。多数が
少数を殺していると感じるのは少数派だろう。人は生まれた以上、好きに生き
たいと思うのは当たり前だ。でも他人が関わると、その時点で違う思いが交差
する。そこに折り合いをつけて生きるのが社会なのだ。だからこそ、そこに法
律という物が存在する。
「何処まで行っても終わりの無い葛藤よね。」
「はい、それが人間でしょう。」
年齢は関係無い。どんなに齢を重ねようと、分別の出来ない人間はいる。私も
その一人なのだろう、こんな仕事をしている以上は。
「あまり自分を責めるのは心が疲れますよ。人は生きる以上、必ず正と負が付
きまといます。行動一つとっても、良い結果になる人も居れば、一方で望まな
い結果になる人も居る。それを考えていてはね。」
まあそうか。でも、それも人だ。結果に振り回され苦悩する。例外無く私もそ
うだけど、それが無くなったら人として生きていると言えなくなりそう。
「長居してしまいましたね。私は戻りますので、依頼の方はお願いします。」
「ええ。」
キュディーグが席を立ち、お金置こうとする。
「それは無し、この前ので十分よ。」
私は手で制止をしながら言う。毎回そんなお金を置かれても困る。
「では遠慮無くご馳走になります。」
キュディーグはそう言うと、穏和な笑みのまま去って行った。
これでお店は休店決定ね。戻るまで何日掛かるか分からないし、その間二人に
任せっぱなしというわけにもいかない。まあ連休があってもいいわよね、丁度
いいんじゃないかしら。
「私も行く!」
おい・・・。
「遊びに行くわけじゃ無いのよ。」
「分かってるよ。その間、私は私で楽しんでいるから気にしなくて大丈夫だよ
。」
お店に戻って、仕事で出掛けるから数日休みにすると言ったらこれだ。ヒリル
も行くと言い出しやがった。観光旅行じゃないっての。
「巻き込まれる危険があるのよ。」
「仕事には関わらないよ。それで迷惑を掛けるつもりはないから。」
どうして行きたがるんだ?何も楽しい事は無いだろうし、お金も掛かるのに。
「行った事無いから、私は私で楽しむから気にしなくていいよ。」
それなら一人で行けばいいことだ。私達と一緒に道程を共にする必要は無い。
「冷たいなぁ。食事くらい一緒に出来るでしょ。道中は寂しくないし。」
そういう事か。そこに危険が無いとも言えないし、ヒリルが居る間は仕事の話
しも出来ないじゃないか。話しに関しては居ない時にすればいい事だけど、何
か有ったらという不安は拭えない。
「まあいいんじゃないかしら。」
「ほら、リュティもああ言ってる事だし。」
微笑魔め、余計な事を。ヒリルも屈託の無い笑顔でこっちを見るな。本当に危
機感が無い奴らね。って、私も言えた義理じゃないけれど。
「しょうがないわね。本当に付いて来るだけになるわよ?」
「うん、それでいいよ。」
仕方がないか。私にヒリルを説得出来る自信は無いわ。アリータには悪いけれ
ど、道中は我慢してもらおう。
翌日、オレンティア駅で合流したアリータ、メイと私達五人は、電車に乗り込
んでペンスシャフル国へと向かった。
当然の如くメイは無愛想な顔をしていたが。一般人が混じっているのが気に入
らないのか、もともと気に入らない私と行動を共にするのが嫌なのか分からな
いけれど。事情を知っている知っていないの差だけで、私も考えてみれば一般
人なのよね。って事は私に対してか?いや、どうでもいいか。
ヒリルの同行を前もってアリータに連絡したら、それは楽しそうと了承してく
れた。こいつもか。なんて思ったけれど、考えてみればアリータって常にリン
ハイアと一緒に居るのよね。私だったら発狂しそうだ。だから解放される事に
喜んだのだろうか・・・いや、それは無いか。リンハイアに傾倒する執務諜員
に限ってと、私は思ってしまう。
ペンスシャフル国に入ると、ターレデファンへ向かう途中から乗り換えて北上
する。リュンネーグという街で下車をすると、その駅付近で予約しておいたホ
テルへ移動。執務諜員の二人に関しては、どうするのか知らないけれど、十九
時に駅に集合となった。
「晩御飯食べる?」
「そうね、時間まで何も無いし。」
今は十七時、駅までは歩いて十分程だから、ヒリルの提案に乗る。現地に行っ
たら食べる所なんて無いだろうし、食べられるとすれば軽食程度だろう。だっ
たら時間まで、お店で料理を楽しんでおいた方が良さそうだ。
「駅前でお店を探したら丁度いいんじゃないかしら。」
「確かに。私もそれでいいよ。」
リュティの提案にヒリルが賛成した事で、私達はリュンネーグ駅前に移動した。
「しかし夜に仕事だとは思わなかった。あの二人と仕事なんだよね?」
「そうよ。」
麦酒を飲みながらヒリルの問いに私は頷く。流石にグラドリア国執政統括直属
の執務諜員とは言えないので、適当に濁しておいた。ヒリルの中では何処かの
架空会社の社員になっている。関わらせたくないので、それでいいだろう。
「で、仕事なのになんで二人とも飲んでんのよ。」
「私は付き添いだもの。」
「飲みたいから。」
「うわ、適当・・・いいのそれで。」
リュティと私の答えにヒリルが呆れた顔をした。モフェグォート山脈の山肌を
削るだけの仕事だ、それに私は監視の為に来ている。それほどの影響は無いで
しょうし、危険も無いだろう。電車で移動の時に買おうとしたら、メイの奴に
止められたので飲めなかったというのもある。それに、現地の料理と麦酒は遠
出した時の楽しみでもあるし。
「そこまで気を遣う内容じゃ無いのよ。」
「ふーん。で、明日にはターレデファンに向かうんだよね?」
「そうなるわね。」
「ペンスシャフルを観光する時間が無いじゃない!」
リュティの答えにヒリルがはっとして声を上げる。いや説明したからね?それ
もあってのこの時間だ。麦酒を飲むなら今しかない。
「だから言ったでしょう。それを承知で来たのでしょう?」
「あはは、あまり考えて無かった。」
阿呆か。
「しょうがない。この後と、明日出発前に何とかする。」
拳を握りしめて言うヒリルを見て、殆ど時間は無いと思うけれど好きにすれば
いいわと思う。私にどうこう出来る問題じゃ無いし、来たのはヒリルの都合な
のだから。
「ターレデファンはもう少し長く居るのよね?」
不安になったのか、ヒリルは表情にも出して聞いてくる。
「予定ではね。長居はしたく無いけれど、早くても二、三日。」
「良かったぁ。」
着いて直ぐにボウトールの始末ってわけにはいかない。滞在先は分かっている
が、司法裁院が長い事ボウトールの生活を調べていたわけじゃない。現地で行
動を観て対処する必要がある。安堵するヒリルとは逆に、私は思い出すだけで
面倒なと思っていた。工程が面倒なだけであって、ボウトールを何とかしたい
という気持ちは変わりないけれど。
「そろそろ時間よ。」
リュティの言葉で時間を確認すると、十分前だった。
「本当ね。じゃあ行ってくるわ。」
「うん、気を付けてね。」
私はヒリルにお金を渡すと、集合場所である駅前に移動した。
駅前に着くと、アリータとユリファラが既に待っていた。
「久しぶりだなミリア。」
何時ものツインテールを揺らしながら、ユリファラはにんまり笑って言ってく
る。
「そうね。」
ユリファラと会ったのは半年ぶりくらいだろうか。ターレデファンで会った後、
一度お店に顔を出してくれて依頼だ。
「今メイが車を用意しています、もう少し待っててください。」
「分かったわ。」
車か、久しぶりに乗る気がする。私は電車での移動だけで、基本的に車に乗る
ことは無い。司法裁院の仕事の時は、ある程度の距離なら身体強化の呪紋式で
走れば事足りる。
「なあミリア。」
「何よ?」
「新しいアクセサリーが欲しいんだよ。」
それも久しぶりだなぁ。お店では受け付けていないから、アクセサリーの依頼
は滅多に無い。たまにこんなのが欲しいって言われた時、私が居れば受け付け
るくらいで。一年に何回もある事じゃない。
「この仕事が終わったら聞いてあげるわ。」
「まじか!よし、早いとこ終わらせちまおうぜ。」
「あの・・・」
喜ぶユリファラの横で、アリータが口を開く。何かを言いたそうにして、でも
はっきりしない態度は仕事じゃないだろう。
「はいはい、アリータもね。」
「え?はい。でも迷惑じゃないでしょうか。」
察して言った私の言葉に、アリータは一瞬嬉しそうにするが、直ぐに窺うよう
な表情になる。
「そんなわけないでしょう。そのためのお店なのよ。造ったアクセサリーが売
れる、私が本来望むところよ。」
「では、お願いします。」
そう、それが私のやりたい事なのだから。アリータの笑顔を見てそう内心で呟
いた。
「待たせたわね。」
そこで一台の車が私達の側に付けられ、開けた窓からメイが声を掛けてくる。
「では早速向かいましょう。」
アリータの言葉を合図に車に乗り込む。アリータは助手席に、私とユリファラ
は後部座席へと。
現地へ着くと仮設のテントが設置され、数人の人間がいた。その周辺にはなん
だか分からない機材も積み上げられている。舗装に使う道具だろうか。私はや
った事が無いのでわからないけれど。
(げっ、あのおっさんも居るのか。)
その中にカマルハーを見つけてそう思った。こっちに来るなよと思う。
「ここがそうなのね。」
「はい。周囲に殆ど木も無く、リュンネーグからはほぼ直線で道路を建設しや
すい場所です。」
「正直モフェグォート山脈は何処に行っても同じだ、だったら平地で利便性の
良い場所を探すしか無かっただけなんだ。」
アリータに続くユリファラの説明に納得する。言われてみればそれが最適解だ
ろう。餓死者が出ている現状で、真っ先に要求されるのは迅速さでしょうから。
「カリメウニア領側も似たような立地です。都合の良い場所が見つかって良か
ったです。」
「向こうにも誰か待機しているの?」
「はい、エリミアインが待機しています。」
反対側にも誰か居るんだろうなって思い聞いてみたが、聞き覚えがある。
「オーレンフィネアで一緒だったかと。」
あいつか。アリータの追加説明で思い出した。私がぶっ飛ばした奴ね。うわぁ、
なんか会いたくないわ。でも一度向こう側に行かないと、銃を撃つことが出来
ない。下に向けて撃ったら地面にどれ程の穴が開くかわからないもの。
「会いたく無いわ。」
「なに我が儘言ってんだよ、ガキじゃあるまいし。」
ユリファラに言われるとなんか納得出来ないわ。
「なにしてくれてんだオイっ!」
ツインテールを結んでやろうかと思ったけれど、逃げられた。
「エリミアインなら気にしていないと思います。自分の未熟さだからと言って
いましたし。」
それならいいのだけど。私だったら多分、やり返すわね。
山肌はなるべく勾配が急にならないようにする必要がある。微調整は後ですれ
ばいいとして、最初に削れるだけ削る必要があるだろう。
「それで、削った後はどうするの?直ぐに舗装するわけ?」
「いえ。そんな猶予はありませんので、あれを使います。」
アリータが指差した方向には、先程の何だか分からない機材の山。メイがそこ
で何かを会話している。
「あれは何なの?」
「簡単に言えば滑車と鋼線です。先ずは物資供給が優先されるため、荷物だけ
でも運べるようにします。物資は明日の朝、此処に届く予定になってますよ。」
成る程、そこまでは考えて無かったわ。といっても私の考える範疇じゃないの
だけれど、聞いて少し安堵した。これで助かる命があるのかも知れないと思え
ば。
「朝までに準備出来るの?」
とはいえ、見たところカマルハーとメイを抜けば五人しか居ない。そんな数で
朝までに設置出来るのだろうか。
「後で作業の為の増員が来ます。山肌が削れた後に連絡をする予定ですので、
呪紋式に関しては気にせず使用してください。」
まあ気を使ってくれるのは助かるけれど。まて、今使ってくださいって言わな
かったか?
「私が撃つの!?」
「はい、そう聞いておりますが?銃はカマルハーが持ってきている筈ですよ。」
いつ決まったのよそんな事。誰だ勝手にそんな話しにした奴は。
「いや、挨拶がおくれましたな。」
いつの間にか近付いて来ていたカマルハーが話し掛けてくる。
「リンハイア様から預かっております。」
続けてそう言うと軽金属製の箱を渡してくる。早速開けてみると、大型呪紋式
銃が入っていた。しかもかなり綺麗だ。
「今日撃つのは貴女だと聞いております。そのため新品の銃をと、リンハイア
様より言われましたのでね。」
あいつか。あいつが私が撃つと言ったんだな。私は監視させろと言っただけな
のに。
「予備の銃身は何も記述しておりません。好きに描くといいでしょう。」
描くといいって言われてもね、私は銃の方は作成をした事が無いのよね。ちょ
っと待てよ、また不穏な事が聞こえたわよね?
「好きに描け?」
「はい。その銃は貴女用に新調したものですよ。」
「はぁっ?」
思わず間抜けな声を上げてしまう。いやだって、呪紋式銃は安くないわよ。私
の雪華と紅月だって合わせて五百万ほどしている。大型なら物によっては軽く
一千万を越えるもの。そんな物を簡単にくれるってなんなのよ。
「くれるって言うなら、有り難く貰うけれど。」
それによって何か依頼してきても聞かない。だって貰う時にそんな話しされて
ないもの。
「それは良かった。」
でも司法裁院の仕事で使うのは難しいわね。大きいのと重いのとで動きに支障
が出そう。重量に振り回されそうだわ。慣れれば違うでしょうけれど。
「早速行いますか?」
おっさん、何をそんなに期待してんのよ。表情に出過ぎだっての。
「でもその前に。」
「何でしょう?」
「リュティ、気付いてる?」
カマルハーは無視してリュティに話し掛ける。
「ええ。」
少し離れた木陰に不穏な気配を感じる。いや、殺気なのだけど。リュティ同様
にアリータやメイもそちらに視線を向けている。流石は執務諜員、気付かない
わけがないか。
「数は二十程でしょうか。私とメイで片付けますのでミリアさんは、そちらに
集中してください。」
「そう?じゃ、よろしく。」
やってくれるならそれに越した事はない。だけどそう簡単には行かなさそうだ。
「ミリア。」
「よく分かっているじゃない。」
アリータとメイが木陰の方に向かって疾走するのを確認すると、私とリュティ
は反対方向に駆け出す。こっちは気配を消しているつもりの様だったが、油断
したのでしょうね。反対側の殺気に気を取られた時に気配が漏れていた。
木陰から様子を窺っていた顔に驚きが見える。自分で居場所を教えておいて驚
かれてもね、馬鹿じゃないの。
「こっちの方が少ないわね。」
「ええ。」
十人ほどか。先頭の一人が銃を既に抜いて、私に向けている。直ぐに発砲。闇
夜を一瞬照らす閃光と響き渡る銃声。背後からも聞こえてくるので向こうも始
まったようだ。
私は弾道を見切って避けると、続いて他の奴も合わせての連続射撃。弾幕で近
付く前に仕留めようという事でしょうけど、その程度でやられるくらいならこ
の仕事はしてないっての。
内心で思いながら左に避けつつ右足を蹴り上げる。下ろして踏み込むと更に加
速して距離を詰めて行く。牽制にしかならないと思ったけれど、<六華式拳闘
術・華巖閃>の鎌鼬は先頭に居た奴の胴から頭部を駆け抜けた。斬れた切断面
から鮮血を噴き出して倒れていく。
最近避けられてばかりだったから、当たらないものだと思っていた。けれど普
通の相手には通用するのよね。司法裁院の高査官からの依頼や、クソジジイが
強すぎなのよ。
木が乱立するところまで来ると、銃を構えたままそれぞれが抜剣する。堂々と
帯剣しているとは、何者だ?建設を邪魔する目的ならペンスシャフル軍では無
いかもしれない。って、そんな事は終わってから考える事ね。
手近にいた奴の銃弾を避け、振り下ろしの斬撃を身体を捌いて躱すと同時に<
六華式拳闘術・華流閃>の手刀。赤い糸を引いて宙を舞う頭部を追い掛けるよ
うに、断面から鮮血が噴き上がる。私は止まらずに背後からの斬撃を避け、頭
部に右回し蹴りを放つ。
左の蟀谷を直撃した蹴りは頭蓋骨を砕き、衝撃で左眼球が視神経を引いて飛び
出した。右足を地に付き踏み込みに変え、追い討ちの右肘を胸に叩き込んで肋
骨を砕いて肺ごと潰す。
少し離れたところでは、リュティに眼球から頭部を貫かれている奴がいた。伸
びた爪で貫かれている当人は宙に浮いている。
(うわぁ、痛そう・・・)
そんな事を思いながら、右からの斬撃を躱して<六華式拳闘術・華徹閃>を放
つ。斬りかかってきた奴の胴に穴が開く。その場所にあった内蔵は、脂肪や血
と一緒に背後に飛び散って地面を汚す。粗末な音を立てて落ちた内蔵の上に、
そいつが倒れていく。
そこで銃声。私は避けると、木陰から狙ってきた奴との距離を詰める。そいつ
は慌てて離れてさらに発砲。既に狙いが定まっていない銃弾は、私を捉える事
は無かった。
間合いに入ると闇雲に剣を振り出したので、持っている右手を<華流閃>の手
刀で切断。鮮血を撒き散らしながら右手が宙を舞う。相手が驚愕していても、
私は優位性に浸る気はまったく無いので、直ぐに横凪ぎの<六華式拳闘術・朔
破閃>で頭部を破砕した。
眼球が飛び出し、砕けた頭蓋骨からはみ出た脳漿を散らしながら原型の無くな
った頭部が舞う。更に千切れた首の断面からは鮮血が噴き出し、身体が傾いて
いった。
リュティの方を見ると、爪で幾つにも切断された頭部が落ちていくところだっ
た。
(あの爪、あんな斬れるのか。)
初めて見た光景に少し恐怖する。
リュティが頭部を斬り刻んだ奴で最後のようだった。他に気配も無いので、一
旦さっきの場所に戻る事にする。
戻ると既にアリータとメイが戻っていた。
(早くないか?こっちの倍はいたわよね・・・)
そう思うと改めて執務諜員の怖さを思い知った気がする。機材のところでカマ
ルハーと何やら話しているユリファラは別として。
「すいません、お手数を掛けました。」
「別に。早く終わらせるに越した事はないでしょう。」
アリータの言葉に軽く手を振って返す。ってか私、動かなくて良かったんじゃ
ないか?
「ありがとうございます。」
「自分の安全を確保したに過ぎないわ。」
こんなところで邪魔をされるわけにもいかない。止められればそれだけ人が死
んでいくのだから。襲ってきた奴らの事は知った事ではない。もとより覚悟の
上で来たと私は割り切る事にした。
「彼等の素性ですが、見た事のある記章が服に着いていました。」
「私はそんなところまで見て無いわよ。」
「はい。おそらく見ても分からないと思います。」
見てみないと分からないけれど、やけに自信がありそうね。
「おそらく彼等はターレデファン国諜報部隊、カーゼルクリフでしょう。」
うん、知らない。
「国が秘密裏に保持する情報収集兼暗殺部隊と聞いています。」
さらっと言いやがったな。
「そんな事を一般人に明かさないでよ。」
「あ、ごめんなさい。」
私が知っている事で、私の身に何か有ったらどうしてくれるのよ。
「ミリアさんは色々と絡む事が多いので、つい・・・」
つい、で私の身を危険に晒すな。私自身の立場がそうだから、今更な気もする
けれど危険は少ないに越した事は無い。
しかしターレデファンか、どうしてもグラドリア国に山道を建設して欲しくな
いようね。それは北方連国との繋がりを独占したいからなのか、自分の保身を
考えてなのかは分からないけれど。
いけない、私が考える事じゃないわ。さっさと終わらせて此処を離れよう。
「じゃぁ私は山を削るわね。」
「はい、お願いします。私はこの事を報告していますので、何かあればメイに
言ってください。」
私は頷くとリュティに目配せをする。周囲の警戒を頼んだところで、ユリファ
ラと目的の場所に移動した。
「この辺だ。一応決めた場所はな。」
「分かったわ。」
後ろに控えているカマルハーのおっさんは無視しておこう。新品の大型呪紋式
銃に記述してきた薬莢を籠める。大型を使用するのは初めてだ。中型も使った
事は無いけれど。
「結構重いわね。」
「使った事ねーのか?」
「小銃しか無いわ。」
ユリファラに答えながら握りを確認する。試し撃ちくらいしたかったな。そう
思いながら山肌に銃口を向ける。
うわ、思った以上に緊張する。角度も考えないといけないし、予備の薬莢も準
備していない。それが今になって圧し掛かってくる。
「私じゃないと駄目?」
後ろを向いてカマルハーに聞いてしまう。
「今更怖じ気づいてんなよ。」
お前が言うな。そう思ってユリファラを睨む。
「失敗は気にせずにどうぞ。誰がやっても大差ありませんし、責める事もあり
ません。その呪紋式は貴女しか用意出来ないのですから。」
余計に重圧だっての。阿呆か。
でもやるしかないか。もう一度山肌に銃口を向けて、私は引き金を引いた。銃
から出た廃莢が地面に乾いた音を立て落ちる中、目の前では白光の呪紋式が眩
い光を放つ。予想通り圧縮された呪紋式は、光る円の様に見えた。やがて前に
青白い光が収束して輝きを増していくと、呪紋式が消えると同時に山肌を照ら
しながら一瞬で駆け抜け、空の彼方へと消えていった。
「す・・・げぇな・・・」
ユリファラが隣で口を開けたまま、呆然と見ているが同じ気分だった。光が迸
った後の山肌は半円状に消滅して、山頂までそれが真っ直ぐ伸びている。
「これが、以前グラドリア城の一部を破壊した光ですか・・・」
カマルハーも顔に出る驚きを隠せていない。硬いだろう山肌が、一瞬通過した
光で消滅するなんて、驚く以外に無い。それをグラドリア城が受けたと考える
と恐ろしいわ。
いや、私はこの呪紋式の前に飛び込んだのよね。今思えばそっちの方が恐ろし
いか。
「ちょっと急だったかしら。」
「いえ、十分でしょう。」
自分のやった事への肯定が欲しかったのかもしれない、カマルハーの言葉で私
は安堵する。後は反対側のカリメウニア領から撃つ必要がある。この勾配なら
走って登れそうだが、問題は降りる方か。
直径五メートル程の半円は、舗装すれば車が通るにも十分そうだ。後はリンハ
イアが何とかするでしょうし。
「それじゃ、私は反対側に行くわ。」
「老体には厳しいので、此処で光が見えるのを待ちましょう。」
それは助かる、付いて来るなんて言われたら嫌だもの。
私はリュティに手で合図をする。それを見てこっちに向かって来るが、一緒に
アリータも来た。
「エリミアインは居ますが、私も同行した方がいいですよね?」
確かに。そういう気遣いは有難い。さっきのような発言もしないよう気を遣っ
て欲しいところではある。
「それは助かるわ。」
会話が出来るか不安だもの。
「改めて見ると凄いわね。」
隣でリュティがモフェグォート山脈を見上げて言った。本当にその言葉しか出
てこないのよね。でも今は感慨に耽っている場合じゃない。
「じゃ、行こうか。」
「ええ。」
リュティに続きアリータも頷く。
坂道は身体強化を使った状態だったため、大した事はなかった。エカラールか
らの間道に比べれば、勾配はやや急だけど何とかなる範疇だろう。
山頂からカリメウニアに下るのが大変だった。一番の弊害は夜の闇夜なのだけ
ど、崖や絶壁のような山肌は、下るなんてものじゃない。
ただアリータの異常な身体能力を、この時初めて目の当たりにした。この山肌
を下るのが、そんなに大変じゃなさそうと錯覚したもの。実際下りてみるとそ
んな事は無い、アリータがおかしいのよ。
結局下山したのは私が最後だった。リュティに関しては別にいい、その素性を
考えれば未知数なのだから。空を飛んでも受け入れられそうな気がするわ。
私より先に下りたアリータは、既に長身の男と会話していた。ああ見覚えがあ
る、確かにエリミアインは長身だったことを思い出した。
「以前は少ししか登らなかったから分からなかったけれど、これは下りでも辛
いわね。」
黙れ。
私より先に下りておいてどの口が言っているんだ。私だって身体を動かす事に
少しは自身があったのよ。ハイリのところに通うようになってからは、向上も
したと思っていた。でも桁違いだったわ。
「まあ帰りは無くなっているから、まだ良かったわ。」
「そうね。」
「ミリアさん、何時でも大丈夫ですよ。」
少しは休ませろ。
「ちょっと休憩。」
「オーレンフィネアでは世話になったな。」
一緒に居たエリミアインが仏頂面で話し掛けてくる。いや、そんな顔してまで
無理に話さなくていいから、嫌なら来るな。
「まあ、こちらこそ。」
一応返しておく。
「しかし凄いですな、掛心の使い手で呪紋式まで操るとは。」
操ってないし。操るって何よ?こいつは多分疎いんだろうなって思った。
「何もかも中途半端なだけよ。」
「そんな事はないです。少なくともオーレンフィネアと今回、誰かを助ける為
に身体を張っている。尊敬に値する事だ。」
いやしなくていい、むしろしないで欲しい。ついでに関わって欲しくもない。
「ただの人殺しよ。次からそういう事を言わないで。」
落ち着いてきたので、薬莢を籠めながらエリミアインに言う。
「此処にいる全員、少なからず人殺しだ。どう生きているかで、評価が変わる
と思っている。自分が恥ずかしいと思う事をせず、正しいと思うことに邁進す
ればいいのだ。」
駄目だ、私はエリミアインと合わないわ。私の考えと交わらない。これならク
ノスの方が遥かに話しやすい。
「エリミアイン、あまり邪魔にならないようにしてください。」
「すまん、少しでしゃばってしまったようだ。」
取り敢えず話し掛けてこなければ何でもいいわ。立っているだけなら、ただの
人だもの。いや、長身過ぎるのも考えものだな。
「さて、やるか。」
落ち着いたところで、私は銃口を山頂の方に向ける。山頂が半円状に欠けてい
るため、次は分かりやすい。そこを目掛けて私は、引き金にかけた指に力を入
れる。
同様に廃莢が飛び出し、白光の呪紋式が浮かび上がって青白い光を収束し始め
た。呪紋式の消失と共に、輝く光は山肌を照して天へと伸びて消える。山頂を
境にペンスシャフルとカリメウニアに坂道が出来たが、山頂はどうしようか?
「天辺は削る?」
「そうですね、降ろす前に平地があった方がいいでしょうし。」
ただそうなると水平に発動させなければならない。モフェグォート山脈より高
い建物は、私は知らないが光がどのくらい伸びるのか知らない。見えない場所
で何らかの影響が出ても困る。
「多少の勾配は付けるわよ。水平には撃ちたくないもの。」
「はい。確かにその通りですね。」
それから私達は山頂付近まで近付くとカリメウニア領側から、多少の角度を付
けて呪紋式を発動させた。どうしても角を取る事は出来ないけれど、後は建設
時にやる事でしょう。
ペンスシャフル側に戻ると仮設テントの前で、それぞれがお茶を飲みながら寛
いでいた。私が終わるまでする事がないのは分かるけれど、なんか納得出来な
い。
「私達も休憩しましょう。落ち着いたらホテルまでお送りします。」
「そうね。流石に疲れたわ。」
身体強化をしているとはいえ、モフェグォート山脈越えの往復は疲れた。
「上手くいったようですな。」
椅子に腰掛けお茶を飲む。簡易なものでも暖かい飲み物は身体に沁みて落ち着
く感じがする。終わった事に安堵しているとカマルハーがそう話し掛けてきた。
「ええ、一安心だわ。」
「明日からが楽しみだな。あたしは此処に残留だけどよ。」
「それはどうかな。襲撃もあった事だし、微妙な問題じゃないかな。」
ユリファラはターレデファンの変化が気になっているようだけど、私としては
それは困る。それに襲撃までしてくるような国が、更なる状況の変化で暴走す
る可能性だってある。いや、国ではなくソグノーウ首相がか。
「その辺、あたしには分からねーけど、おっさんが上手い事やんだろ。」
「そうね。」
ま、私が考える事じゃない。私は仕事に影響が出ない事を望むわ。
それから三十分程休憩して、アリータにホテルまで送ってもらった。休憩中に
現れた三十人くらいの団体が、早速作業に取り掛かるのを見て、北方連国の人
が少しでも助かる事を望んで。そうじゃなければ受けた意味を見出だせない。
薬莢を使いきれた事には安堵した。後で消すとしても、持っているだけで不安
になる。光が通過した場所は全て消滅、なんて物は存在しない方が良いに決ま
っている。
ホテルに付いた私はリュティとラウンジで軽く飲んで部屋に戻った。予想以上
に疲れていたのか、寝台に入ると直ぐに眠りに落ちていった。
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