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マウリシア大陸編

五十話 彼女の歩いた道

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「今回の試験参加者です。」
差し出される名簿をアリィは受け取る。アリィは一通り目を通すと、返しながら、それに言葉を付け加える。
「34番不合格。」
「は?」
アリィは不機嫌そうな顔をする。
「試験の成績に関係なく、問答無用で不合格!」
何があったのか、それはこの一魔術師にはわからないが、アリィがこれほどまでに不快を得るということは、気は進まないが言う事を聞いておいたほうが身のためだという結論に達する。
「あ、はい・・・わかりました。」
「確かに実力的には問題ないかもしれないけど、精神的に問題ありよ。」
アリィは不合格の理由を告げた。
「お知り合いなのですか?」
「そう、知り合いね、一応。ということだから、この件に関しては以上。あとは通常通りにやって。」
「わかりました。」
魔術師は一礼すると、部屋を出て行った。

部屋の外で魔術師は34番の人物を眺める。
-ファユリー・ファルティア、14歳・・・・・ー
その他の情報を見るが、アリィのいう精神的な部分がわかるはずもないなと思うと、そのまま立ち去った。
  【この後、本当に問答無用で不合格にされる。が、一年後の試験では、
  若干15歳という最年少で宮廷魔術師団に入ることになる。】

(早すぎよね、試験受けに来るのが。まあ実力的に言えば、確かに問題ないだろうけど、来たら来たでうるさいからイヤだし。)
そんなことを考えていると、横から声を掛けられる。
「またそんな勝手なことしていいんですか?」
声を掛けた男は、そういいながらもニコニコしてる。
「いいのよ。魔力・知識はいいとして、社会勉強が足りないんだから。はっきり言って、そんなニコニコなんてしていられなくなるわよ、リューセル。」
「それは大いに困りますね。」
そんなことを漏らす。
「僕が合格したとき、あなたは既にフィルテイサーズになっていた。正直驚きましたよ。それよりも、嬉しかったですけどね。なので今の現状が壊れてしまうのはイヤです。」
「そう。」
アリィは素っ気無く答えたが、知ってる人が近くにいると多少は安心するからと言って、合格したばかりのリューセルを自分のもとにおいたのだった。昔、一緒に試験を受けだけの仲だけど、城内のやつを置くよりは全然いいと。



メイリーが居なくなってからすぐ、試験の申し込みに来たら無条件でいれられ、カウンにフィルテイサーズまで押し付けられたのだ。もっとも、アリィとしてはもとからなろうと思っていたのだから丁度良かった。

それからカウンと協力し、精霊師団を魔術師団と統合。理由は精霊と契約はしない、使う魔法は変わらない、研究対象が違うだけなら別々の必要なしと考えたからだ。もちろん、反対者は多かったが、問答無用でことを進め、当時の現職はほとんど入れ替えてしまったのだ。故に今でも、アリィに対する嫌がらせや刺客が絶えないが、最近ではめっきりその数も減った。何故なら、アリィの実力を思い知らされるから。

それから間もなく、申し込むはずだった試験が始まり、リューセルが入って来たのである。

「ところで、ちょっとおつかい頼みたんだけど。」
「はい、いいですよ。」
「城の料理毎日食べてると飽きるのよね、町に出てなんか買って来てくれない?」
アリィは苦笑する。
「そですね、僕もたまには違うもの食べたいです。」
「じゃ、お願いね。」
「わかりました。」
相変わらずニコニコしたまま部屋を出て行く。それを確認したあと、アリィは口を開く。
「なんの用?」
誰も居ないはずの部屋で。
「ん~、悪いな。無理に買い物に行かせたみたいで。」
部屋の影から頭を掻きながら男が出てくる。
「久しぶりね、ケイ。」
「ああ。もうあれから一年近いもんな。」
「なにもコソコソ来なくても、正面からどうどうと来ればいいじゃない。」
「こっちの方が楽なんでな。」
(城の中も穴だらけね。)
アリィはそんなことを思ったが口には出さなかった。なんにせよ、久しぶりにケイと会えたことは嬉しかった。
「ところで、ただ顔を見に来たってわけじゃないんでしょう?」
「まあな。」
ケイは少し微笑んでから続ける。
「あいつが居なくなってもうすぐ一年だろ。あいつの最後の場所に行って、あいつの辿った道を逆から旅してみようかと思ったんだ。」
アリィは黙ったまま聞いてる。
「でまぁ、誘うつもりで来たんだが忙しいだろうし、トップが長い間留守にするのも問題だよなと思っていたところなんだが。」
「当たり前でしょ、私にそんな暇は無いわ。」
アリィはきっぱりと言う。ケイはそれを聞くとアリィに背を向けた。
「だから作ることにするわ。」
アリィの言葉にケイは立ち止まる。
「んなことだろうと思ったよ。」

アリィは書置きをすると、それを机の上に置いた。
「じゃ、いきましょうか?」
「荷物は?」
「そんなの、途中で揃えていけばいいじゃない。」
それを聞くとケイは無言で部屋を抜け出す。アリィもその後を着いて行く。

それから程なくして、リューセルが戻ってくる。
「アリィさん、買ってきましたよ・・・って、居ないですね。」
リューセルは机の上に買ってきた物を置こうとして、書置きに目が止まる。
~暫く旅に出るから、あとよろしくね~
たったそれだけである。
「アリィさん・・・・・まったく勝手すぎるんだから。少しは自重して
もらわないと、こっちが苦労するんですよ。」
誰も居ない部屋でリューセルは一人漏らすが、顔はニコニコしたままだった。そんなことを言ってはいるが、リューセルはそんなアリィが好きだった。

城の中は多少の騒ぎはあったものの、何事もなくその日々を過ごす。



「人が寝ようとしてる時になんなのよ。」
アリィは明らかに不機嫌な声を上げる。
「俺が片付けるから、寝てていいよ。」
ケイはアリィに言いながら立ち上がり、懐から短剣を取り出す。それを見たアリィは疑問に思ったが、口には出さなかった。

「おいにいちゃん、あんた一人で俺らとやろうってのか?こっちは十五人もいるんだぜ。」
夜盗十五人、ケイにとっては取るに足らない相手だった。
「ああ。」
ケイは言い終わる前に駆け出した。
「やっちまえ!」
それを合図に夜盗たちも一斉にケイに襲い掛かる。

「あ、もう終わったの?」
何事も無かったように戻ってきたケイにアリィは話しかける。どうせ見てもつまんないから見ていなかったのだ。
「まあ、明日の昼には目覚めるだろ。」
ケイは焚き火の前に座る。それを待っていたかのようにアリィが話しかける。
「あんたアルゲイストはどうしたの?」
アリィは最初に思った疑問を投げかけた。
「メイと闘ったときに、ひびが入っちまってな。」
そう言ってアルゲイストを取り出す。
「俺が死ぬまではこのままでいい。俺にとってはこの傷が、あいつと旅した証であり、思い出だから。」
アリィはアルゲイストを受け取ると、ひびの入った部分を見た。
「それに俺にはもう一つ良い短剣があるんでな。」
さっき使っていた短剣をケイは見つめる。アリィもそれに目をやった。
「なんかどこにでも売ってそうな短剣じゃない、なにが良いの?」

ケイは自分の村のことをアリィに話した。忘れ去られた村、誰も居なくなってしまった村。
「そういえば、カウンがそんなことで動いてた時もあったわね。」
アリィは少し昔を思い出しながら言った。
「それで、そのシェリルの短剣をメイが連れて行ったんだが、あいつの旅は終わってしまったからな。だから今度は俺が、二人の分旅してやろうかと思って。」
アリィは首を傾げる。
「メイの辿った道旅するんじゃないの?」
「それが終わってからの話だ。あいつが見れなかった分、シェリルの分、新しい土地でも行こうかと思ってさ。」
「私は行かないわよ、あまり長い間城を空けられないもの。」
「わかってるって。」
ケイは頷くと、短剣とアルゲイストをしまった。

「でもさ、ひと段落ついたら、話聞かせに来てよね。」
アリィは空に目を向けながら言う。
「ああ。」
既に白くなり始めた空を。
「長話で寝る時間無くなったじゃない!」
「いや俺の所為じゃないだろ。それはいいとして、今日はもう先に進むか、早いけど。」
アリィは頷くと、ケイは片付け始める。
「ところで、ファユや親は知ってるのか?」
ケイは唐突にそんなことを思い出し、手を止めて聞いた。
「全然、何も話してないし。」
「じゃぁ今でもどっか、ぶらついてると思われてんじゃねぇのか?」
アリィはちょっと不服そうな顔をする。
「いいのよ、知らないなら知らないで。両親は心配してるだろうけど、あいつの妹はそうじゃいなから。もし話して、メイが馬鹿にされるようなこと言われたら私は耐えられないわ。」
少し涙目になるアリィ。
「それで誰にも言ってないのか?」
「そうよ、悪い。」
「いんや。」
ケイは片付けの続きを再開する。ケイにはアリィの気持ちがなんとなくわかっていた。



「丁度一年前、あいつはここから旅立ったのよね。私たちの知らない世界、その世界を救うため、その命を投げ出して。」
アリィとケイは、マウリシア大陸に渡り、シャクルの北にそびえる山に来ていた。
「似合わないけどな。」
あたりを見回すが、何も無い。
「まったくよね。」
アリィは風になびく髪を掻き上げると、そう言って空を見上げた。
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