上 下
56 / 64
マウリシア大陸編

四十八話 失われた猶予

しおりを挟む
地面に落ちてすぐ、ケイのほう見ると既に立ち上がっていた。
(タフな奴・・・。)
「さて、準備運動終わりかな。」
(準備運動だったんかい。)
ケイの台詞にあたしは呆れた。まあ、これからよね。あたしも立ち上がろうと、膝をついてアンティヴィアを支えにしようと、地面に突き立てる。
が、刺さる感触がなくバランスを崩してうつ伏せに倒れてしまう。
(え?・・・)
「何遊んでんだよ、まさかもう終わりってことはないだろうな。」
「当たり前でしょ!」
あたしはケイを見上げて言った。そして起き上がってアンティヴィアを見る。
「あ・・・。」
アンティヴィアは中ほどから折れていた。
「アンティヴィア・・・。」
あたしはアンティヴィアを自分の胸に抱くと、涙が溢れる。せっかくヴァル兄に貰って、気に入ってたのに。いつの間にか自分の一部のような気がしていた。少しの間、静かな時が流れるが、ケイがそれを破った。
「すまない。」
あたしは首を横に振ると立ち上がって笑顔を作る。
「何言ってんのよ。そんなこといちいち気にしなくていいわ。起こるべくして
起こった。そういうこと。あんたの方はなんともないの?」
ケイはアルゲイストを見て苦笑する。
「まあ、無事と言えば無事かな。ひび入ってるけどよ。」
流石に、あの勢いでぶつかり合ったら魔器といえど無事じゃないか。もっとも、それは使うものの実力もあるのだろうけど。ヴァル兄怒るかな?
(しかし、アンティヴィアでこの状態じゃ、普通の武器なんかはあっさりと斬れてしまうんだろうな。)
そう思うとゾッとする。
「どうする、続けるか?」
「愚問ね。」
あたしはアンティヴィアを構えると詠唱に入る。それと同時にケイもアルゲイストに手をあて、意識を集中させる。
~闇を切り裂く二条の閃光。我手に携えるは失われし幻。尽きぬ想いは彼の光を導く力となる。忘却せし古き名よ、我が魂に応じよ!来たれヴァリウスの光!~

「あんたたち何やってんのよ!」
ちょうど詠唱が終わったところに、聞きなれた声が響く。どうやらアリィが来たようだ。
「思纏閃・・・。」
ケイのアルゲイストを包むように、刀身があらわれる。以前見たときよりも大きく強いちからを感じる。
「邪魔すんなよアリィ。」
ケイはあたしにアルゲイストを向け、アリィのほうは見ずに威圧をかける感じに言った。
「な・・・なによ。」
アリィはケイの威圧に押されてたじろぐ。
『ヴァリアウスメイビア』
あたしも力ある言葉を解き放つ。本来は両手に二条の光の剣を作りだすのだが、あたしはその力を収束させアンティヴィアに重ねる。アンティヴィア全体が光に包まれ、その刀身よりも長く太い剣が出来上がる。
(以前のあたしには無理な魔法だけど、今は使えるのね。)
使ってからふとそんなことを思った。試してもいなかったな、そういえば。
「そゆこと、邪魔はしないでねアリィ。」
あたしもアリィのほうは見なかった。
「なんで闘ってんのよ・・・。」
アリィの声は小さくなっていく。今この場には、誰にも割り込めない空気が流れているのだろうかと思う。

あたしは剣を一振りする。その衝撃波によって地面が削れるのをみて驚く。
(う、ちょっと威力高いかな。まあいいや。)
「いくわよ、ケイ。」
あたしはケイに剣を向けると、一気に間合いを詰める。ケイもこちらに向かってきて、剣を振り下ろす。あたしはそれを横に避けながら、ケイの足を払うようになぎ払う。ケイはそれを上に跳んで避けるがそれが狙い。
「いただき!」
あたしは跳んでいるケイに突きを出す。
「世の中そんな甘くはねぇ。」
あたしの剣の先に、自分の剣の先を押し付けて、その力を使ってさらに高く後方に飛ぶ。
「あ・・・なんてまねすんのよ!」
ありえねぇ・・・。

だがしかし、すんなり着地させるわけにはいかない。
『アーグラストハウリング!』
ケイの着地点の地面を球状に削り取ったように消滅させる。さらに刀身に片手をあてて、早口で詠唱を終わらせる。
『バウグラウディス』
バウレディアの上級、その魔法を剣に注ぎ込んで、あたしは剣を振りかぶる。
そしてケイが穴のなかに落ちる頃と同時にその剣を穴の中に投げる。
「これで終わりよ!」

穴の中に着地した剣、ケイよりほんの少し早く着地した剣は、一瞬閃光を放つと光の柱が出来ると同時に爆音を轟かせる。
(やりすぎたか・・・?)
地面に出来ていた穴は、爆発でさらに広がっている。
(ああ、魔力だいぶ使ってしまった。)
もう光は無く、粉塵と爆発でできた煙が多少漂ってる。そして問題のケイの気配はない。
「ああもう疲れた。」
あたしはその場で、脱力感に両手をぶらさげた。
「いくらなんでもやりすよ、メイ。」
ひと段落ついたところでか、アリィが抗議の声を上げてきた。
あたしはそんなことはないと、アリィのほうを向こうとした。

「油断できるほど強くなったのか!」
突然響いた声と同時に、粉塵のなかからケイが飛び出してくる。剣を構え一直線にあたしに向かってくる。あたしは驚いた顔をしているが、
そんな場合ではない。
「前も言っただろ。」
目の前まで来たケイは、突きを繰り出した。
「うっ・・・。」
「だめぇっ!」
アリィの声が大きく響いたが、
「そ、そんな・・・。」
それは無駄に終わった。



「いよいよ時が来たな。」
「そうねぇん。」
マリアンとヴァルヴィアヴィスはシャクルに来ていた。
「もう少し先かとも思っていたが・・・。」
「思った以上に早かった?」
マリアンはヴァルヴィアヴィスの言葉を継いだ。
「あなたは、メイリンをもう少し自由にさせてあげたいから、仲間のもとに
おいてあげたいから、旅をさせてあげたいからそんな言葉が出てくるんでしょ。」
ヴァルヴィアヴィスは疑問を顔に浮かべる。
「何故そう思う?」
マリアンは溜め息をもらす。
「あのね、何時きてもおかしくない状況にあったわけ。アルクィールとの戦いが終わった時にそれはもうわかっていることでしょ。その戦闘の後でも、あの子が気絶している時でも、わたしたちの状況に合わせてくるわけじゃないのよ。それは既に承知のはずでしょ。なのに、ヴァルが漏らした言葉っていうのは、それを否定することだわ。」
マリアンは一呼吸おいてから続ける。
「あなたはメイリンを甘やかしているのよ。だからそんな言葉が出てくるのよ。
だけどね、これだけは言っておくけど、そういう考えってユティの二の舞よ、それってメイリンに対して失礼なんじゃなくて?」
何時までも物分りの悪いヴァルヴィアヴィスに対して、マリアンは少し腹が立っていた。
「ほんと、何度言われればわかるのかしら。あの子にもさんざん言われたんじゃ
なくて?」
「すまない。」
ヴァルヴィアヴィスは一言そう言うと、空を見上げた。

少しの沈黙の後、ヴァルヴィアヴィスは口を開く。
「皆少なからず、以前よりは成長している。俺よりも人間を嫌っていたヴェイリアでさえ歩み寄っているのだから。」
マリアンは黙って聞いていた。
「一番成長していなかったのは俺かもしれないな。頭が固く、何時までも過去に捕らわれたまま先へ進もうとしない。」
ヴァルヴィアヴィスは空からマリアンへ目線を移す。
「メイリーが、ケイやアリィが何度も俺にそのことを投げかけていたにも関わらず、俺は耳を貸しているつもりでいたらしい。結果、考えを変えることすら出来ずにいた。お前の言うとおり、それはあいつに対して悪いことをしたと思う。」
マリアンはヴァルヴィアヴィスから目を逸らすと、口を開いた。
「そこまでわかれば多少は成長したんじゃない?けどね、行動に起こさなければ
決して成長したとは言えないわ。これから変えていけばいい。」
「そうだな。」
あのとき、なんのためにメイリーと話したんだか。
と、ヴァルヴィアヴィスは思う。

「で、そんなことより、メイリンたち町には居ないみたいよ。」
マリアンは精霊を探ってみるが、町の中には反応は無かった。
「まさかとっくに先に進んだのでは?」
「う~ん、その可能性も否定出来ないからね。あの子は止まれないタイプだから。」
「そうか、都合よくこの町に居てくれると助かったんだがな。」
マリアンはまだ探っているようだが、ヴァルヴィアヴィスはそれを止めようと声をかける。
「しかたがない、もう少し先まで探して見るか。」
が、マリアンは聞いてないようだ。
「マリア?」
ヴァルヴィアヴィスが怪訝な顔する。
「いたわよ!」
「本当か?」
マリアンはふくれる。
「嘘言ってどうすんのよ。町の外、北のほうにいるけど、なんだかメイリンの魔力が極度に減っているみたい。」
「あの馬鹿のことだ、どうせまたなにかやらかしたんだろう。」
マリアンとヴァルヴィアヴィスは呆れた顔をする。

「って、そんな状況じゃないでしょ。もう時間が無いんだから。」
「確かにな。」
マリアンとヴァルヴィアヴィスは、お互いに顔を見合わせ頷くと、
メイリーのもとへ急いで向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?

あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」 結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。 それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。 不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました) ※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。 ※小説家になろうにも掲載しております

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~

石動なつめ
ファンタジー
半端者の公爵令嬢ベリル・ミスリルハンドは、王立学院の休日を利用して隣国のダンジョンに潜ったりと冒険者生活を満喫していた。 しかしある日、王様から『悪役令嬢役』を押し付けられる。何でも王妃様が最近悪役令嬢を主人公とした小説にはまっているのだとか。 冗談ではないと断りたいが権力には逆らえず、残念な演技力と棒読みで悪役令嬢役をこなしていく。 自分からは率先して何もする気はないベリルだったが、その『役』のせいでだんだんとおかしな状況になっていき……。 ※小説家になろうにも掲載しています。

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

処理中です...