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マウリシア大陸編
四十三話 変わらぬ意志
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あたしの左手から幾重の光の粒が解き放たれる。
「なにかと思えば、バウレディアか。こんなものは効かぬ。」
アルクィールは光の粒を手で払った。普通なら爆発するのだが、砕けて無数に散る。
「なに?」
「あたしの合図が無いとダメよ。あ、触れると分裂するから気を付けてね。」
「例え数がいくら増えようと、この魔法程度の爆発では、傷は負わぬ。」
あたしはニヤッと笑うと、
「それはどうかな?」
右手を後ろに向ける。
『エアリアルマイン!』
風を推進力にしてアルクィールに突っ込む。と、同時にアルクィールの周りの光の粒が一斉に爆発する。
「これは・・・エクスカリバー!?魔法の合成だと?」
「そうよ。」
後ろから聞こえた声にアルクィールは咄嗟に振り向く。あたしは既にアンティヴィアを振りかぶっていた。
「まさか、この魔法は目くらましか!?」
「ご名答!」
と、言いながら剣を振り下ろす。アルクィールの反応は遅れて、あたしは狙い通りのところに剣を振り下ろせた。それは、弓弦。
「最初からこれが狙いか。だが、その程度の攻撃では斬れはせぬ!ヴァル殿が作った弓、その程度の斬撃など効くか!」
「まだよ、その弓がヴァル兄の作ったものなら、あたしの剣もヴァル兄のもの、斬ってみせる!」
アルクィールが弓に力を込めて、あたしを弾こうとする。
「無駄だぁ!」
『アンティクスセイバー!』
剣の周りに風が渦巻き、光が増して弓弦を突き抜ける。その光は結界をも切り裂いた。
「やった!・・・ぐふっ」
喜んだのも束の間、アルクィールに殴り飛ばされる。
「まだ終わってはいない、何を喜んでいる。」
「わかってるわよ、でももう弓使えないでしょ。」
「あの馬鹿・・・。」
アリィは呆れたように見ていた。
「やれば出来るじゃねぇか。俺らがやらなくても実証されたわけだ。」
ケイはヴァルヴィアヴィスの方を見る。
「そのようだ。」
「なんとかなりそうよね。」
アリィの言葉に、マリアンとヴァルヴィアヴィスの顔は暗くなる。
「どうしたのよ?」
「見ていればわかるわよん。」
「そうだな、弓が使えなくなったな。だが、それだけだ。しかしまさか、結界が裂けるとは思わなかったな。いったいなんだったのだ?」
「剣に予め貯めておいたエクスカリバーと、あんたの周りのエクスカリバーを収束させたのが、さっきの魔法よ。」
「なるほど、今までにない使い方だな。ましてや魔法の合成など。結界が裂けても不思議ではないのかもしれん。」
「大人しく負けを認めたら?」
あたしの言葉にアルクィールは不敵な笑みを浮かべる。そして、懐から剣を取り出す。
「え?」
「弓は気に入っていたんだがな。壊れてしまっては仕方がない、こっちでやらせてもらうぞ。」
剣なんか持ってたんだ・・・。ってことはまだやる気まんまんってわけね。
せっかく武器を壊したのに、まだ持ってるなんて卑怯よ。まあでも、これを生き残らなければ先へは進めないのよね。
「剣を使うのは久方ぶりだな。」
アルクィールは自分の剣を見て、軽く数回振る。と同時に紅い剣閃が飛んでくる。そのうちの一つがあたしに向かって来たのでアンティヴィアで防ぐ。
がぎぃぃぃん・・・。
耳を劈くような音と共に弾けて消えたが、手には痺れが残っている。
(なんて威力なの、軽く振ってこんな・・・。)
残りの剣閃は結界にあたって消滅した。
「では行くぞ。」
アルクィールが動いた。
(迅い!)
まさに紅き雷光、ついていくのがやっとだよ。跳び回りながら四方八方から繰り出される斬撃を、あたしは防ぐだけでいっぱいいっぱいだ。
(これじゃ、魔法使う余裕がない・・・痛っ!)
あたしの腕を斬撃が掠める。はっきり言って、このままじゃやられる。
「もう抗うのは止めたらどうだ?その調子じゃ、力尽きるのも近いだろう。」
(ふざけんなって、諦めてたまるか!)
確かに、アルクィールの言う通り、このままだと力尽きてしまうだろう。だったらその前に、
「こうよ・・・うぐぅっ!」
あたしはアルクィールの突きに左腕を突き刺す。
一瞬動きの止まったアルクィールにアンティヴィアで突きにいく。
「無駄だ!」
「あぁぁぁっ・・・ぐっ!」
アルクィールは、あたしの腕に刺さった剣を横に凪ぎ、あたしの腕を切り裂いて、突きから逃れる。
(この機は逃さない。)
~尽きることなき焦熱、全てを焦がす紅焔よ、蒼き柩に抱かれし我が身をさらなる閃熱を以て打ち砕け。轟焔封爆!~
『イルティッシュリヴァイン!』
「悪あがきを!」
アルクィールが剣を振りかぶる。あたしから溢れ出した冷気は、あたしを包んで氷の棺が出来上がる。アルクィールの剣閃はその氷りに弾かれた。その瞬間、結界の中に閃光が迸り、爆音とともに炎に包まれる。
「な・・・何考えてんのよメイの奴!?」
「無茶し過ぎだな。このままでは身体の方が持たないぞ。」
そんな中、一人わからずに惚けたことを言う奴がいた。
「なんか問題あんのか?」
ケイである。ケイにとっては魔法の知識は皆無だから、実際なにが危険なのかさっぱりわからないのである。
「あんたには説明するだけめんどくさいわ。」
「そうか。」
そっけないアリィ言葉に、気にしたふうもなくケイはこたえる。
「しかし、かなり強いがまだ本気じゃないな。」
「アルクィールは、剣神と言われるほどの剣の使い手だ。おそらく、アンヴィスティを手にした奴にはもう勝ち目は無いだろう。」
「アンヴィスティ?」
ヴァルヴィアヴィスの言葉に、アリィが疑問を投げかける。
「アルクィールの剣だ。もともとは俺のもので、アンティヴィアとは姉妹剣になるんだが、出来の良い方を奴にやったからな。俺が作った中では最強と言えるだろう。もっとも、使い手がアルクィールだからそう言えるのだが。」
「あんたらはいちいち言われないとわからないのか?」
ケイの突然の言葉に一同、何が?と言った顔をする。
「何かが起こる度にもうダメかもしれないとか、何故あいつのことを信じてやれないんだ?」
・・・。
(そうだな。自分自身をも裏切るってしまうところだった。)
ヴァルヴィアヴィスはフッと笑うと。
「お前の言うとおりだな。メイを信じて待つしかないな。」
(この炎が消える前に手を打たなきゃ。しかし寒い・・・。)
炎の熱を遮るために、自分を氷の棺に閉じこめたが、寒い。でも、どんどん溶けてるから急がないと。あたしはアンティヴィアにまた魔法を貯めると、別の魔法の詠唱に入る。
(合成出来ると言うことは、二つの魔法を別々に放つ事も可能ということかな?)
やってみるしかないが、上手く行くかどうかはわからない。
「こんな炎で我が止められると思うかぁ!」
あたしのいる氷の棺が剣で貫かれる。正確には「あたしがいた」だが。
「そうは思ってないわ。」
「上か!?」
氷の中にあたしは既にいなかった。だが、外の熱気に斬られた腕がじりじりと痛む。あたしは後ろに跳び退いたのだが、跳躍中に声を発したため上だと思ったのだろう。もう既に炎は消えかかっていた。お互い目視出来る状態にまで。あたしがアルクィールの方を見ると、丁度剣を振り抜いたところだった。さっきまであたしがいた場所を紅い剣閃が通り過ぎる。
(危ねぇ・・・。)
あたしは着地と同時に傷ついた手を地面につける。剣を振り抜いたアルクィールの視線がこっちに向けられる。そして構え直してこちらに向かってくる。
『グレイブヴェイパー!』
あたしの周りの地面が隆起し、槍のように地面が突き上がる。突っ込んで来ていたアルクィールが一瞬止まる。
「甘いわ!」
土で出来た槍を貫いてアルクィールが突っ込んでくる。視界を遮られれば直進的な動きをすると思った。ここまでが目くらまし。突進してきたアルクィールの剣を避けて、右手でアルクィールの手を捌くと同時に魔法を解き放つ。
『アーグラストハウリング!』
物質の意味自体を消滅させるこの魔法なら、耐えられないはず。
「ぐあっ!」
あたしの読みは当たっていた。が、精神的にアルクィールの方が強かった。アルクィールは自分の腕がちぎれたにも関わらず、突進した勢いを殺さずにあたしに膝蹴りをかます。あたしはそのまま飛ばされて、結界に叩きつけられた。
「なんて闘いなの・・・。」
アリィが唖然としながら呟いた。それとは反対に、ケイはうずいていた。
(マリア・・・ケイは危険な気がしないか?)
ケイの状態に気付いたヴァルヴィアヴィスが、マリアンに話しかける。
(そうねぇ。彼はメイと闘いたいって言ってたじゃない。)
(にしてもだ、あの戦いを見て笑みを浮かべているあたり、かなり危険な感じがしないか?)
(血が騒ぐんじゃない。)
(闘うのはいいとして、その後メイに支障をきたしたら・・・。)
ヴァルヴィアヴィスに対するマリアンの視線がきつくなる。
(ヴァル、余計なことは考えないでよ。それならそれで諦めるしかないわ。それともユティの時の過ちをまた繰り返すつもり?)
(・・・そうだったな。)
ヴァルヴィアヴィスは、遠い過去を思い出し寂しげな笑みを浮かべる。
(すまんな。)
(いいのよ、本当はわたしもちょっと思ってしまったし。まあ、あいつの好きにさせてあげようよ。)
(ああ。)
「・・・ケイ?」
「・・・ん、なんだ?」
アリィの言葉に、ケイは我に返る。
「なんか恐い顔してたわよ。」
「そうか?」
アリィはなんなのよと思いながら、戦いの方に視線を戻す。ケイの思いには気付いた様子はなかった。ケイの中では、メイと闘うという思いは、この闘いを見る事でかなり大きく膨らんでいた。
「まだ・・・諦めないわけ?」
あたしは息を切らせながら、アルクィールに問いかける。
「我が優勢に変わりはないからな。もっとも、死ぬまでやめるつもりはないが。」
言いながら、落ちた右手から左手で剣を取る。
(ああもう、なんて分からず屋なのよ!)
アルクィールがゆっくりとあたしに近づいてくる。
「お前はもう限界なんじゃないのか?」
「何言ってんのよ、これから本気になるところよ。」
「ほう・・・。」
この、信じてないな。とは言うものの体中痛くて、動くのもやっとだけど、どうしよう。
「出せるのなら出すがいい、本気とやらを。」
あたしの目の前まで来たアルクィールが頭上に剣を構える。
「これで終わりだ。」
その剣があたしに向かって振り下ろされる。
「おい、あいつもうダメなんじゃねぇか!?」
ケイが立ち上がる。
「じゃあ、行きますか。恩を売りに。」
アリィも立ち上がると、マリアンとヴァルヴィアヴィスも立ち上がる。そしてアルクィールの結界めがけて走り出す。
剣はもうあたしの目の前まで来ている。
(ああ、こんなところで力尽きるなんて、いうこときけぇっ!)
あたしは頭の中で叫んだ。
「なにかと思えば、バウレディアか。こんなものは効かぬ。」
アルクィールは光の粒を手で払った。普通なら爆発するのだが、砕けて無数に散る。
「なに?」
「あたしの合図が無いとダメよ。あ、触れると分裂するから気を付けてね。」
「例え数がいくら増えようと、この魔法程度の爆発では、傷は負わぬ。」
あたしはニヤッと笑うと、
「それはどうかな?」
右手を後ろに向ける。
『エアリアルマイン!』
風を推進力にしてアルクィールに突っ込む。と、同時にアルクィールの周りの光の粒が一斉に爆発する。
「これは・・・エクスカリバー!?魔法の合成だと?」
「そうよ。」
後ろから聞こえた声にアルクィールは咄嗟に振り向く。あたしは既にアンティヴィアを振りかぶっていた。
「まさか、この魔法は目くらましか!?」
「ご名答!」
と、言いながら剣を振り下ろす。アルクィールの反応は遅れて、あたしは狙い通りのところに剣を振り下ろせた。それは、弓弦。
「最初からこれが狙いか。だが、その程度の攻撃では斬れはせぬ!ヴァル殿が作った弓、その程度の斬撃など効くか!」
「まだよ、その弓がヴァル兄の作ったものなら、あたしの剣もヴァル兄のもの、斬ってみせる!」
アルクィールが弓に力を込めて、あたしを弾こうとする。
「無駄だぁ!」
『アンティクスセイバー!』
剣の周りに風が渦巻き、光が増して弓弦を突き抜ける。その光は結界をも切り裂いた。
「やった!・・・ぐふっ」
喜んだのも束の間、アルクィールに殴り飛ばされる。
「まだ終わってはいない、何を喜んでいる。」
「わかってるわよ、でももう弓使えないでしょ。」
「あの馬鹿・・・。」
アリィは呆れたように見ていた。
「やれば出来るじゃねぇか。俺らがやらなくても実証されたわけだ。」
ケイはヴァルヴィアヴィスの方を見る。
「そのようだ。」
「なんとかなりそうよね。」
アリィの言葉に、マリアンとヴァルヴィアヴィスの顔は暗くなる。
「どうしたのよ?」
「見ていればわかるわよん。」
「そうだな、弓が使えなくなったな。だが、それだけだ。しかしまさか、結界が裂けるとは思わなかったな。いったいなんだったのだ?」
「剣に予め貯めておいたエクスカリバーと、あんたの周りのエクスカリバーを収束させたのが、さっきの魔法よ。」
「なるほど、今までにない使い方だな。ましてや魔法の合成など。結界が裂けても不思議ではないのかもしれん。」
「大人しく負けを認めたら?」
あたしの言葉にアルクィールは不敵な笑みを浮かべる。そして、懐から剣を取り出す。
「え?」
「弓は気に入っていたんだがな。壊れてしまっては仕方がない、こっちでやらせてもらうぞ。」
剣なんか持ってたんだ・・・。ってことはまだやる気まんまんってわけね。
せっかく武器を壊したのに、まだ持ってるなんて卑怯よ。まあでも、これを生き残らなければ先へは進めないのよね。
「剣を使うのは久方ぶりだな。」
アルクィールは自分の剣を見て、軽く数回振る。と同時に紅い剣閃が飛んでくる。そのうちの一つがあたしに向かって来たのでアンティヴィアで防ぐ。
がぎぃぃぃん・・・。
耳を劈くような音と共に弾けて消えたが、手には痺れが残っている。
(なんて威力なの、軽く振ってこんな・・・。)
残りの剣閃は結界にあたって消滅した。
「では行くぞ。」
アルクィールが動いた。
(迅い!)
まさに紅き雷光、ついていくのがやっとだよ。跳び回りながら四方八方から繰り出される斬撃を、あたしは防ぐだけでいっぱいいっぱいだ。
(これじゃ、魔法使う余裕がない・・・痛っ!)
あたしの腕を斬撃が掠める。はっきり言って、このままじゃやられる。
「もう抗うのは止めたらどうだ?その調子じゃ、力尽きるのも近いだろう。」
(ふざけんなって、諦めてたまるか!)
確かに、アルクィールの言う通り、このままだと力尽きてしまうだろう。だったらその前に、
「こうよ・・・うぐぅっ!」
あたしはアルクィールの突きに左腕を突き刺す。
一瞬動きの止まったアルクィールにアンティヴィアで突きにいく。
「無駄だ!」
「あぁぁぁっ・・・ぐっ!」
アルクィールは、あたしの腕に刺さった剣を横に凪ぎ、あたしの腕を切り裂いて、突きから逃れる。
(この機は逃さない。)
~尽きることなき焦熱、全てを焦がす紅焔よ、蒼き柩に抱かれし我が身をさらなる閃熱を以て打ち砕け。轟焔封爆!~
『イルティッシュリヴァイン!』
「悪あがきを!」
アルクィールが剣を振りかぶる。あたしから溢れ出した冷気は、あたしを包んで氷の棺が出来上がる。アルクィールの剣閃はその氷りに弾かれた。その瞬間、結界の中に閃光が迸り、爆音とともに炎に包まれる。
「な・・・何考えてんのよメイの奴!?」
「無茶し過ぎだな。このままでは身体の方が持たないぞ。」
そんな中、一人わからずに惚けたことを言う奴がいた。
「なんか問題あんのか?」
ケイである。ケイにとっては魔法の知識は皆無だから、実際なにが危険なのかさっぱりわからないのである。
「あんたには説明するだけめんどくさいわ。」
「そうか。」
そっけないアリィ言葉に、気にしたふうもなくケイはこたえる。
「しかし、かなり強いがまだ本気じゃないな。」
「アルクィールは、剣神と言われるほどの剣の使い手だ。おそらく、アンヴィスティを手にした奴にはもう勝ち目は無いだろう。」
「アンヴィスティ?」
ヴァルヴィアヴィスの言葉に、アリィが疑問を投げかける。
「アルクィールの剣だ。もともとは俺のもので、アンティヴィアとは姉妹剣になるんだが、出来の良い方を奴にやったからな。俺が作った中では最強と言えるだろう。もっとも、使い手がアルクィールだからそう言えるのだが。」
「あんたらはいちいち言われないとわからないのか?」
ケイの突然の言葉に一同、何が?と言った顔をする。
「何かが起こる度にもうダメかもしれないとか、何故あいつのことを信じてやれないんだ?」
・・・。
(そうだな。自分自身をも裏切るってしまうところだった。)
ヴァルヴィアヴィスはフッと笑うと。
「お前の言うとおりだな。メイを信じて待つしかないな。」
(この炎が消える前に手を打たなきゃ。しかし寒い・・・。)
炎の熱を遮るために、自分を氷の棺に閉じこめたが、寒い。でも、どんどん溶けてるから急がないと。あたしはアンティヴィアにまた魔法を貯めると、別の魔法の詠唱に入る。
(合成出来ると言うことは、二つの魔法を別々に放つ事も可能ということかな?)
やってみるしかないが、上手く行くかどうかはわからない。
「こんな炎で我が止められると思うかぁ!」
あたしのいる氷の棺が剣で貫かれる。正確には「あたしがいた」だが。
「そうは思ってないわ。」
「上か!?」
氷の中にあたしは既にいなかった。だが、外の熱気に斬られた腕がじりじりと痛む。あたしは後ろに跳び退いたのだが、跳躍中に声を発したため上だと思ったのだろう。もう既に炎は消えかかっていた。お互い目視出来る状態にまで。あたしがアルクィールの方を見ると、丁度剣を振り抜いたところだった。さっきまであたしがいた場所を紅い剣閃が通り過ぎる。
(危ねぇ・・・。)
あたしは着地と同時に傷ついた手を地面につける。剣を振り抜いたアルクィールの視線がこっちに向けられる。そして構え直してこちらに向かってくる。
『グレイブヴェイパー!』
あたしの周りの地面が隆起し、槍のように地面が突き上がる。突っ込んで来ていたアルクィールが一瞬止まる。
「甘いわ!」
土で出来た槍を貫いてアルクィールが突っ込んでくる。視界を遮られれば直進的な動きをすると思った。ここまでが目くらまし。突進してきたアルクィールの剣を避けて、右手でアルクィールの手を捌くと同時に魔法を解き放つ。
『アーグラストハウリング!』
物質の意味自体を消滅させるこの魔法なら、耐えられないはず。
「ぐあっ!」
あたしの読みは当たっていた。が、精神的にアルクィールの方が強かった。アルクィールは自分の腕がちぎれたにも関わらず、突進した勢いを殺さずにあたしに膝蹴りをかます。あたしはそのまま飛ばされて、結界に叩きつけられた。
「なんて闘いなの・・・。」
アリィが唖然としながら呟いた。それとは反対に、ケイはうずいていた。
(マリア・・・ケイは危険な気がしないか?)
ケイの状態に気付いたヴァルヴィアヴィスが、マリアンに話しかける。
(そうねぇ。彼はメイと闘いたいって言ってたじゃない。)
(にしてもだ、あの戦いを見て笑みを浮かべているあたり、かなり危険な感じがしないか?)
(血が騒ぐんじゃない。)
(闘うのはいいとして、その後メイに支障をきたしたら・・・。)
ヴァルヴィアヴィスに対するマリアンの視線がきつくなる。
(ヴァル、余計なことは考えないでよ。それならそれで諦めるしかないわ。それともユティの時の過ちをまた繰り返すつもり?)
(・・・そうだったな。)
ヴァルヴィアヴィスは、遠い過去を思い出し寂しげな笑みを浮かべる。
(すまんな。)
(いいのよ、本当はわたしもちょっと思ってしまったし。まあ、あいつの好きにさせてあげようよ。)
(ああ。)
「・・・ケイ?」
「・・・ん、なんだ?」
アリィの言葉に、ケイは我に返る。
「なんか恐い顔してたわよ。」
「そうか?」
アリィはなんなのよと思いながら、戦いの方に視線を戻す。ケイの思いには気付いた様子はなかった。ケイの中では、メイと闘うという思いは、この闘いを見る事でかなり大きく膨らんでいた。
「まだ・・・諦めないわけ?」
あたしは息を切らせながら、アルクィールに問いかける。
「我が優勢に変わりはないからな。もっとも、死ぬまでやめるつもりはないが。」
言いながら、落ちた右手から左手で剣を取る。
(ああもう、なんて分からず屋なのよ!)
アルクィールがゆっくりとあたしに近づいてくる。
「お前はもう限界なんじゃないのか?」
「何言ってんのよ、これから本気になるところよ。」
「ほう・・・。」
この、信じてないな。とは言うものの体中痛くて、動くのもやっとだけど、どうしよう。
「出せるのなら出すがいい、本気とやらを。」
あたしの目の前まで来たアルクィールが頭上に剣を構える。
「これで終わりだ。」
その剣があたしに向かって振り下ろされる。
「おい、あいつもうダメなんじゃねぇか!?」
ケイが立ち上がる。
「じゃあ、行きますか。恩を売りに。」
アリィも立ち上がると、マリアンとヴァルヴィアヴィスも立ち上がる。そしてアルクィールの結界めがけて走り出す。
剣はもうあたしの目の前まで来ている。
(ああ、こんなところで力尽きるなんて、いうこときけぇっ!)
あたしは頭の中で叫んだ。
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