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マウリシア大陸編

三十三話 謎めく司祭

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どかーんっ・・・
突然の爆発音にオルマウタとケイは対峙を中断させられた。
「何が起こったんです?まさか、あの小娘が!?」
ケイはその言葉に反応すると、オルマウタを睨んで
「小娘ってのは、メイリーってやつじゃないのか?」
オルマウタは微笑を浮かべると、
「そうです。あなたはお仲間ですか?わざわざこんなところに来なければ、死なずにすみましたのに。」
オルマウタの内心は微笑を浮かべられる状況じゃなかった。目の前の小僧はいいとして、あの部屋を魔法で壊すのは不可能なはずなのに、なぜあんな音がと、危惧していた。
「状況を確認しにいかないといけないので、さっさと死んでもらいます。」
「いや、俺のことは気にしないで行けよ、いいから。」
ケイは冷めた視線で手をパタパタさせながら言った。
「逃げられても困りますので、終わらせてから行きますよ。」
「しゃぁねぇな。」
ケイはアルゲイストを取り出す。右手にアルゲイスト、左手にはナイフを持って構える。その途端、オルマウタが喜々とした表情になった。
「素晴らしい、実際に目にするのは初めてですよ。まさか何処の馬の骨とも知らない輩が魔器を持っているとは!」
(こいつ、何者だ?)



「なによ、この爆音は?って考えても思いつくことは限られるわね。それはあの馬鹿がここにいるって考えるのが自然よね。」
アリィは音の聞こえた方に走り出す。

(ここらへんだと思うんだけどなぁ。)
アリィは廊下の途中で止まっていた。が、そこには廊下しかなく、他に部屋らしい部屋も見つからない。
(隠し・・・かな?)



「どうよ!」
あたしは変な部屋を抜けると、そばにあった部屋に入る。そこには乱雑にあたしの荷物が置いてあった。
「おいおい、客の荷物はもっと丁寧扱って欲しいわね。」
あたしは荷物を取ると、部屋を出て廊下を駆け抜けた。

途中、ドアが開いている部屋を見つけ中を覗いて、
「ああぁぁぁぁっ!!おまえ!」
あたしはオルマウタとかいう司祭を見つけて叫んだ。
「って、ケイ、あんたなにやってんのこんなところで?」
「やはりさっきの爆音はあな・・・。」
「お前を捜しに来たんだよ。なんでまた捕まってんだよ馬鹿!」
オルマウタの声がケイの声にかき消され、かなり不服そうな顔をしている。
「ああ、そんなこともあったわね。」
「あったわねじゃねぇ、今の今まで捕まってたじゃねぇか。」
「そんな過去の事は気にしないわ。前向きに生きなきゃダメよ、ケイ。」
「お前なぁ・・・。」
ケイはそこで言葉を切ると、その場を跳び退く。もちろんあたしもあたしたちがさっきまでいた場所には数本の氷の槍がささっている。
「よくもまぁ無視してくれましたね。」
オルマウタが不敵な笑みを浮かべながら、掌をあたしとケイに向けていた。



「聞こえた、あの馬鹿の声だわ。やはりこの奥なのね。だけど扉が見つからない。」
アリィが考えていると、そこへクルナが現れた。
「あ!?」
「え?」
アリィが上げた声にクルナは驚くと来た方向へ走りだした。
「ちょっと待ちなさいよ!・・・ってなんて逃げ足早いの・・・。こうなったら力ずくでいこうかしら。」

アリィは通路の壁をぐ~で殴りながらあるいていた。少し歩くと、壁の音が変わる。
「ここね。」
アリィはその壁に片手を添える。
『バフダグレス!』
壁には何も変化は見られないが、キィィィィンという微かな音が聞こえると、粉々に砕け散った。アリィは壊れた壁の向こうを見ると、メイを視認出来た。
「見つけたわ、馬鹿娘。」
向こうはこっちに気づいてないみたいで、壁が崩れる音がしたにも関わらずこっちを見る気配はない。
(なんなの?まあいいわ。)
アリィはメイの方に向かって走った。



「別に無視したわけじゃないわ。ケイと話していただけよ。」
「大差ねぇって。」
何故かケイが突っ込む。
「この私がわざわざまとめて相手しなければならないとは・・・。あの馬鹿どもは何をしているんだ。」
オルマウタは向こうを見ながら呟いていた。向こうと言っても壁しか無いが。
「さてと、礼はたっぷりさせてもらぶぐぅーーーっ!」
あたしの台詞は、何処からともなく現れたアリィのダッシュ蹴りくらって遮られた。いやもうなんていうか、やるか?、普通。そもそもなんでこんな目にあわなければならないんだ。吹っ飛ぶ中、あたしはそんな事を考えながら落ちていった。
「だらしないわね。」
アリィのそんな台詞が微かに聞こえた・・・鬼・・・。



「何故か知らないけど、メイが伸びたからここからは私が相手よ!」
アリィはアルザレイジを構える。
「なんと!!まさか二つもあるとは!!」
アリィはその喜々としているオルマウタの言ってる意味がわからなかった。
「魔器のことだよ。何故かこいつは知ってるみたいだ。」
「ああ、そういうことね。そりゃ存在するもの。それに対する文献や記録が残っていてもおかしくないわ。まして魔法に関われば、そういったことを調べたがる輩もいるし。」
ケイは頭を掻くと
「ああ、そんなもんか。」
オルマウタから下卑た笑みが消えることはなく、アリィの言葉を繋いだ。
「その通りです。中には詳しく書いてあるものも在りますからね。幸い、その二つの性能はしっています。故に、対処法も考えることが出来る。」
オルマウタは口の端をつり上げる。
「確かにね。けど、私たちのはちょっと違うわよ。なんせ、ついこの間制作者本人が手を加えてくれたから。」
オルマウタから笑みが消える。
「それはヴァルヴィアヴィスに会ったということですか?」
「そうなるな。」
「ふふふ、ははははっ!いい、実に今日は良い日だ。魔器を手に入れ、時の高霊の居場所を聞き出せば更なる力を手に入れることが出来る。まずはお前達の魔器を頂こう。そして見てるがいい、我が水の精霊をこの身に吸収するところを。」
・・・。
・・・。
アリィとケイは半ば呆れていた。
(殺るか?)
(ええ。)
ケイの目線にアリィは頷いた。そんな言葉が交わされたのはどうかはわからないが。

(情けないな、この程度で伸びて。)
(ってゆうか、なんでいきなり蹴りをもらうのよ。)
(我の知るところでは無い。それよりも感じるだろう、あいつの波動を。)
(ああ、微かだがな。保身の為にいままで断っていたのだろう。あのオルマウタという奴、どういうわけか感知できるようだからな。)
(うん。それとあの三人娘にもわかるみたいよ。)
(どういった経緯でそれが出来るかわかりませんが、やっかいですね。もしも彼ら以外にもいたとしら。)
(そうだな。本来ならば私らの存在は感知されるべきものではないからな。)
(それより、メイの奴いつまで寝てるのかしら。)
・・・
はっ!気絶したふりして楽しようと思っていたのに、マジで寝てしまったわ。

(((・・・。)))
呆れて何も言えないアーレリィ、ヴェイリア、マティアだった。そんなことをしているうちに既に戦いははじまっていた。

ケイの投げたナイフがオルマウタの胸に突き刺さる。
「こんなもの、私には効きませんよ。」
が、ケイは止まることなく更にナイフを投げ、同時に間合いを詰める。懐に入るとケイはアルゲイストを突き出す。それをオルマウタは素手で掴んだ。が、ケイはその腕を取って逆関節に極め、折りながら投げを打つ。投げたと同時に喉に向けて連天死を打ち込んだ。
「ちっ!」
ケイはその場から跳び退く。その直後オルマウタの身体から炎が噴き上がる。
「これでどうかしら?」
炎に包まれたオルマウタがゆっくりと立ち上がる。
「やれやれ、服が焦げてしまいますね。」
「な・・・なんなの、こいつ?」
アリィは驚きを隠せずに表情に出している。ケイは冷静を装ってはいたが、実のところは納得がいってなかった。
「強いですねぇ。私のコマになりませんか?」
「ふざけないでよ!これでどう!」
『カーレインディスター!!』

「ふふふ、無駄ですよ。」
「うぐっ・・・。」
「アリィ!」
アリィはオルマウタに捕まっていた。
「動かない方がいいですよ。この女の首の骨が心配ならばね。あなたの魔力も素晴らしいですね。私のコマになるならば命は助けましょう。ただし、あなた方の意思は無くなりますがね、ふふふ。」



なんかピンチねぇ。あたしは現状をぼーっと見ていた。さっきまで寝ていたせいなのかよくわからないけど、なんか身体が思うように動かない。いや、アリィの蹴りをくらってどっかイカレタのかもしれない。
「さて、どうしようか。あたしも動いたらマズイ気もする。」
あいつ、結構したたかそう。気づかない振りして実はあたしにも気づいてそうだし・・・
え?
「なに・・・この感覚?」

「調子に乗るなよ。」
あたしは一瞬のうちにオルマウタを通り抜け、アリィを掴んでいる腕を切り落としていた。通り抜けたオルマウタの方を、振り返って睨む。
(おう、イカス!)
「な・・・なんだお前は?」
「うるせぇ!死にやがれ!」
あたしはオルマウタに向かって一足飛びで間合いを詰め、アンティヴィアを眉間に突き立てる。
『ラリウレイジア!』
バキーンッ
何か衝突したような音とともにオルマウタが弾け跳んだ。



「ユルコ!」
「どうしたの、そんな慌てて。」
クルナがアリィに接触したあと、急いで司祭の部屋に戻ってきた。
「さっき隠し通路のとこにあの女がいたわ。それに、さっきの爆音はもしかして、あの小娘が逃げ出したのかもしれないわ。」
「なんですって!?オルマウタ様は聖堂にいったのよ。」
「まずいでしょ、加勢しにいきましょ。」
「ええ。私たちはどうせ他に行くあてもないしね。ホントは好きじゃないけど、帰る場所すらなくなってしまうよりはいい。」
そんなユルコを、クルナは笑みを浮かべて見ていた。
「な、なに?まさかクルナ・・・。」
その言葉にクルナは首を振ると
「ううん、私もそう思っていたの。私だけじゃないんだなって思ったら、ちょっとホッとしちゃっただけだよ。さ、行こう!」
「うん。」



(まるで別人みたい、あの目つきといい、どうしちゃったのかしら、メイ。)
アリィがそんなことを思っていたとき、突然祭壇が吹き飛んだ。
「今度は何だよ!?」
ケイが叫んだ。
「わからないわ、一体何が起きているのかしら。」
祭壇から目つきの悪い女が出てきた。まるで寝ているところを起こされて、不機嫌な顔をしているように。が、突然ニコっと笑って、
「あのう、静かにしていただけませんか?」
などとカワイイ声で言いやがった。
「おおぉ、目覚めたのですか!あなたたちもこれで終わりです。」
半壊してそうな身体でオルマウタが言った。
「げっ、まだ生きてるわよ、あいつ。」
「確かにしぶといな。」

(来たな。)
(うん、来たね。)
(ええ、来ましたね。)

フゥ・・・ウゥ・・・ガァァァァァッ
オルマウタは咆哮とともに・・・
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