29 / 64
クルライリア大陸編
与太五 ファユ登場(過去の話し)
しおりを挟む
「アリィ、マテッサでお茶してこう。」
「いいわよ、別に。」
あたしとアリィは学院帰りにマテッサという茶店によることにした。ジリウは大きな町じゃ無いけど、魔術学院があるってことはそれなりの町だという話しである。実際、外には出たことないから、他の町のことなんて知らないけど。
「今日は何食べようかな。」
「そして今日も私に奢らせる気ね。」
「うん。」
と、あたしはキッパリ頷いた。
「だってお金無いんだもん。」
そう、あたしは一人で住まわせてもらってて、必要な生活費くらいしかもらってないの。だから、以外とつらいのよね。
「自分で選んだんでしょ。それでも贅沢よ。」
「アリィに言われてもなぁ・・・。」
そんないつも通りの道を、何気ない会話で歩いていく。
「あら、マフィンのバカグループじゃない。今日も元気ねぇ。」
「げ・・・ファユリー・・・。」
「なによ、その不満そうな顔は。」
マフィン達とは、もちろんメイと一緒のクラスのあのマフィン達である。そのマフィン達に対して口の悪いファユリーと呼ばれた少女は、どう見てもマフィン達より年下に見えるのだが、その態度はかなり偉そうである。
「不満に決まってるでしょ。とまあ、私はもう帰るの、じゃあね。」
「ちょっと待ってよ、聞きたいことがあるの。」
「なによ。」
マフィンが明ら様に不満気な顔をする。
「馬鹿メイ見なかった?」
マフィンは思い出すような仕草をしてから、
「ああ、確かアリィと帰ってたな。」
「なに!?アリィお姉様とですって。メイの奴ぅ~。」
そう言うとファユリーは走り去って行く。
「はぁ、あんなのがクラス二だなんて、質が悪いよな。姉妹そろってろくなもんじゃないわね。」
ファユリーの去ったあと、マフィンのぼやきに頷くスフレだった。
「ふ~、美味しかった。ごちそうさま、アリィ。」
「メイはほんっと、ああゆうの好きね。」
「うん、甘い物、特にケーキとかはめっちゃ好きさ。」
「じゃ、帰りましょうか。」
「ファユリークラァァァッシュッ!」
帰ろうとしたあたしの後ろからそんな声が聞こえた。あたしは後ろを振り向きもせずに立ち位置を変える。その直後、さっきまであたしが立っていた場所、地面に何かが激突する。
「ファユ、なんなの、うるさいわよ。」
地面に激突したファユは起きあがり、
「避けんなよ、ヘボ魔術師のくせに。また今日もアリィお姉様にたかっていたのね!」
「いや、別にたかってるというわけじゃ。」
「メイ、十分たかってるから。」
なにを、アリィめ。それでも、アリィはいつもご馳走してくれるんだよね。
「ですよねぇ、アリィお姉様。こんなヘボ魔術師畳んでしまいましょう。」
「やるなら勝手にやって、私は帰るわ。」
「ああそんな、アリィお姉様冷たいですわ。」
ファユがアリィにしがみついて止めようとする。
「んじゃ、あたしも帰るね。」
「まてこら、ヘボ魔術師。お前は葬る!」
ったく、厄介な奴ね。そう、このファユはいつもこの調子である。何が気に入らなくてあたしにつっかかってくるのかわからないが。
「ああ、あたし、メイの妹じゃなく、アリィお姉様の妹に生まれたかったですわ。」
「私はイヤ。」
「ああん、そんな遠慮なさらずに。」
アリィ、かなりうざったそうだ。と言うあたしもうざいんだけど、妹だしねぇ。
「メイなんかと一緒じゃなく、あたしと一緒に行動しましょうよぉ。」
ガスっ!
なんの前触れもなくファユの脳天に打ち下ろされたカカト。
「ごめんメイ、ちょっとうざかったもんで。」
「あ、いいよいいよ、気にしないで。アリィがやってなきゃ、あたしがやってたから。」
ファユはその場に伸びてしまっている。流石に放っておくわけにもいかないので、近くの休憩所、公園みたいなところで休ませる。
「私は帰るわね。」
「あ、うん。ごめんね、たまにこんなことあってさ。」
「メイが謝る事じゃないわ。ま、気にしなくていいわ。私も気にしてないし。」
「ありがとさん。」
「それじゃね。」
アリィが帰ったあと、ファユの顔を見ると、カワイイ寝顔をしてる。まあ。あたしの妹だからカワイイのは当然だが、なんであんなひねくれたガキになったんだろう。まだ十三歳だってのにイヤな性格してるよな。とあたしは苦
笑した。
まあ、原因があたしにもあるかもしれないけど。両親があたしに甘かったのもそうなんだろう。それに一人暮らししてるうえに、学院じゃ万年クラス五。そんなあたしがイヤなんだろうな。ま、コンプレックスなんて持ってて当然か。それに、この歳でわかる必要も無いし。
(だけどこのまま大人になったらイヤだな、マジで。)
あたしはそんな恐ろしいことを考えた。
「ん・・・んん・・・。」
「お、気が付いたか。」
「あれ、あたし・・・。」
「アリィのカカトをもろに受けたんだよ。ありゃ気絶して当然だって。」
「あ、メイ!あんたの所為でアリィお姉様逃しちゃったじゃない。だいたい、こんな状態になってるのもメイの所為よ!」
このガキ、人がせっかく看病もどきしてやったのに・・・。
「ふん、あたし帰るわ。」
「あいよ、じゃあね。」
ファユは振り向きもせずに走っていく。まったく、我が儘というかなんというか。あれでもクラス二にいるってんだから、わからないよなぁ。
「アリィお姉様♪」
アリィは「げ・・・ファユ・・・」と思ったが口には出さなかった。
「今日はヘボ魔術師は一緒じゃないのですわね。」
「そりゃいつも一緒にいるわけじゃなわいよ。」
当たり前と言えば当たり前なのだが、ファユに比べればメイの方が全然いいと思うのも当たり前なのか・・・。アリィはふとそんなことを思った。
「なにしてるんですか?」
「ただの散歩よ。」
「あたしも一緒していいかしら?」
「別に構わないわ。」
そうして並んでついてくるファユ。
それから程なく、アリィとファユの前に、六人ほどの男が立ちはだかった。アリィには彼らの目的が判っていた。一応これでも令嬢なのである。が、知らないとは愚かなことでもあるとも思うのだった。
「アリィ・ナルレノフだな?」
「聞かなくてもわかってるんでしょ。だいたい、身代金が欲しければもっと確保しやすい令嬢とか選んだらいいんじゃないの?」
「わかってるなら話しは早いが、あんたの強さも承知済みだ。」
見る限りじゃ、頭の男以外はそこらの不良共を集めたような感じだ。そんなんで勝算はあるのだろうか?とも思ったが、現にこうしてる以上はなにかあるのだろう。
(さて、私に対しての策とは何か?もしかすると今の私が何時もと違うとか?そんなことはあるはずは無いのだが。)
と考えていたが中断させられた。頭の男が不良共をアリィにけしかける。
「こんな雑魚ども。」
三人同時に襲ってきたが、アリィにしてみれば不良ごとき取るに足らない相手だった。
(待てよ、普段とは違う私じゃない。それは私じゃなくファユ!?)
咄嗟にアリィは振り返ったが既に遅かった。
「流石に良い判断だな。気づくのがもう少し早ければ回避できたかもな。」
そう、アリィが見たものは、首筋に剣を押しつけられてるファユだった。どうやら隠れていた他のメンバーがいたらしい。
「ご・・・ごめんなさい、アリィさん。」
普段のファユからは見られない、泣きそうな感じの弱い声でそう言った。
「まさか見捨てないよな。」
「わかったわ。大人しくするわよ。」
アリィはそうは言ったものの、この状況を打破出来ないか思案していた。頭の男の脇に二人。アリィを掴まえようとしている、さっき殴った三人。そしてファユを人質に取っている男。計七人。
(どうしようかしら。せめてファユを人質に取ってる男が油断してくれれば。)
自分一人ならなんとかなる。人質を殺す覚悟があるかどうかは別として、それが判別すら出来ない以上下手に手を出すのはマズイ。
「このやろう、殴られた分は後できっちり払わせるからな。」
アリィをの腕を押さえながら一人の男がそう言ってきた。表情から見るに、既につまらんことを考えているようだ。というより、妄想してるんじゃないかと言った方が正しいだろうか。
(まったく、ろくな状況じゃないわね。助かったらメイに当たろうかしら。)
アリィがそんな事を思ったときだった。
「あたしの妹に何してんだぁ!」
剣をファユにあてている男の後ろから声がした。アリィはすぐにメイだとわかったが。男は咄嗟に振り向いたがそれが油断になる。振り向いた瞬間、メイの飛び回し蹴りが顔面に炸裂し、そのまま仰け反る形で倒れる。アリィを抑えていた男二人はそのままアリィに殴られ、もう一人は蹴り飛ばされる。メイはそのままファユを引きずると、アリィと背中合わせになって、その間にファユを入れた。
「遅いわよメイ。」
「ピンチの時ほど有り難みが大きいでしょ。」
「なんだてめぇは。」
「あたし?あたしはアリィの主よ!」
「お前が下僕だ!」
メイの言葉に、きっぱりとアリィは言い返した。もちろん、蹴り込みで。
「それが助けに来たあたしに対する態度?」
「それは感謝するけど、これは別よ。」
「ふざけた奴らだ。たかだか小娘三人だろう、さっさと片づけろ!」
頭の男がそう言った。どうやらむかついたことで、アリィが強いとか、そんなことは忘れてしまったらしい。
「今度は手加減しないわよ。」
アリィは口の端に笑みを浮かべる。メイは、「これじゃぁあたしが加勢するだけ無駄だね」と思い、黙って見ていた。
一通りことが片づいた。
「ファユ、大丈夫?」
あたしはファユに聞いた。
「別に、メイなんかに助けられたくなかったわ。」
ファユはそう言ってプイッとそっぽを向いた。あたしは別に構わないが・・・
ドカッ!
あたしはファユを蹴り飛ばす。
「なにすんのよ馬鹿メイ!助けておいて礼も言わないからむかついたの?心が狭いわね。」
なんでこんなにひねくれたんだろうな。あたしは倒れているファユを掴み上げると、
「別にあたしに対しては何言ってもいいわ。が、いくらゴロツキ共の所為でこんな自体になったとはいえ、あんたが人質に取られたことで、アリィが従わざるを得なくなった。そのアリィの思いにまず最初になんか言うべきじゃないの?あたしへの文句なら後からいくらでも言えばいい。」
そう言って突き放す。
「ごめんねアリィ。」
「別に気にしてないわ。結果はこの通り、何事も無かったしね。」
「ありがと。じゃ、あたしは帰るわ。」
あたしはその場を後にした。
「あの、ありがとう、アリィさん。」
「別にいいわ。だけど、子供だからしょうがない部分はあるけど、さっきの態度は良くないわよ。」
ファユはそのまま俯いてしまった。アリィは別に甘やかす気はない。それに、助けに来たメイにちょっと申し訳ないと思う部分もあった。微量でしかないが・・・。
「ああ!あたしのアリィお姉様に変な虫がついてる!」
あたしとアリィが学院帰りに、雑貨屋へ行こうとしていたらファユが現れた。それよりも虫ってあたしか?
「アリィ、なんか買う物あんの?」
「別に無いわよ。」
「それより終わったら、マテッサ行こう。」
あたしはニヤニヤしながら言った。
「いいわよ。」
「って、シカトしてんじゃないわよ!ファユリースラッシュ!!」
「さ、行こうかアリィ。」
あたしは避けながら言った。目の前をファユが通りすぎる。どうやら跳び蹴りだったらしいが、そのまま地面に激突する。
(着地くらいちゃんとしろよ・・・。)
「懲りないわね・・・。」
アリィが冷ややかな視線を送っている。
そして何時も通りの時間が、また流れ出す。
「いいわよ、別に。」
あたしとアリィは学院帰りにマテッサという茶店によることにした。ジリウは大きな町じゃ無いけど、魔術学院があるってことはそれなりの町だという話しである。実際、外には出たことないから、他の町のことなんて知らないけど。
「今日は何食べようかな。」
「そして今日も私に奢らせる気ね。」
「うん。」
と、あたしはキッパリ頷いた。
「だってお金無いんだもん。」
そう、あたしは一人で住まわせてもらってて、必要な生活費くらいしかもらってないの。だから、以外とつらいのよね。
「自分で選んだんでしょ。それでも贅沢よ。」
「アリィに言われてもなぁ・・・。」
そんないつも通りの道を、何気ない会話で歩いていく。
「あら、マフィンのバカグループじゃない。今日も元気ねぇ。」
「げ・・・ファユリー・・・。」
「なによ、その不満そうな顔は。」
マフィン達とは、もちろんメイと一緒のクラスのあのマフィン達である。そのマフィン達に対して口の悪いファユリーと呼ばれた少女は、どう見てもマフィン達より年下に見えるのだが、その態度はかなり偉そうである。
「不満に決まってるでしょ。とまあ、私はもう帰るの、じゃあね。」
「ちょっと待ってよ、聞きたいことがあるの。」
「なによ。」
マフィンが明ら様に不満気な顔をする。
「馬鹿メイ見なかった?」
マフィンは思い出すような仕草をしてから、
「ああ、確かアリィと帰ってたな。」
「なに!?アリィお姉様とですって。メイの奴ぅ~。」
そう言うとファユリーは走り去って行く。
「はぁ、あんなのがクラス二だなんて、質が悪いよな。姉妹そろってろくなもんじゃないわね。」
ファユリーの去ったあと、マフィンのぼやきに頷くスフレだった。
「ふ~、美味しかった。ごちそうさま、アリィ。」
「メイはほんっと、ああゆうの好きね。」
「うん、甘い物、特にケーキとかはめっちゃ好きさ。」
「じゃ、帰りましょうか。」
「ファユリークラァァァッシュッ!」
帰ろうとしたあたしの後ろからそんな声が聞こえた。あたしは後ろを振り向きもせずに立ち位置を変える。その直後、さっきまであたしが立っていた場所、地面に何かが激突する。
「ファユ、なんなの、うるさいわよ。」
地面に激突したファユは起きあがり、
「避けんなよ、ヘボ魔術師のくせに。また今日もアリィお姉様にたかっていたのね!」
「いや、別にたかってるというわけじゃ。」
「メイ、十分たかってるから。」
なにを、アリィめ。それでも、アリィはいつもご馳走してくれるんだよね。
「ですよねぇ、アリィお姉様。こんなヘボ魔術師畳んでしまいましょう。」
「やるなら勝手にやって、私は帰るわ。」
「ああそんな、アリィお姉様冷たいですわ。」
ファユがアリィにしがみついて止めようとする。
「んじゃ、あたしも帰るね。」
「まてこら、ヘボ魔術師。お前は葬る!」
ったく、厄介な奴ね。そう、このファユはいつもこの調子である。何が気に入らなくてあたしにつっかかってくるのかわからないが。
「ああ、あたし、メイの妹じゃなく、アリィお姉様の妹に生まれたかったですわ。」
「私はイヤ。」
「ああん、そんな遠慮なさらずに。」
アリィ、かなりうざったそうだ。と言うあたしもうざいんだけど、妹だしねぇ。
「メイなんかと一緒じゃなく、あたしと一緒に行動しましょうよぉ。」
ガスっ!
なんの前触れもなくファユの脳天に打ち下ろされたカカト。
「ごめんメイ、ちょっとうざかったもんで。」
「あ、いいよいいよ、気にしないで。アリィがやってなきゃ、あたしがやってたから。」
ファユはその場に伸びてしまっている。流石に放っておくわけにもいかないので、近くの休憩所、公園みたいなところで休ませる。
「私は帰るわね。」
「あ、うん。ごめんね、たまにこんなことあってさ。」
「メイが謝る事じゃないわ。ま、気にしなくていいわ。私も気にしてないし。」
「ありがとさん。」
「それじゃね。」
アリィが帰ったあと、ファユの顔を見ると、カワイイ寝顔をしてる。まあ。あたしの妹だからカワイイのは当然だが、なんであんなひねくれたガキになったんだろう。まだ十三歳だってのにイヤな性格してるよな。とあたしは苦
笑した。
まあ、原因があたしにもあるかもしれないけど。両親があたしに甘かったのもそうなんだろう。それに一人暮らししてるうえに、学院じゃ万年クラス五。そんなあたしがイヤなんだろうな。ま、コンプレックスなんて持ってて当然か。それに、この歳でわかる必要も無いし。
(だけどこのまま大人になったらイヤだな、マジで。)
あたしはそんな恐ろしいことを考えた。
「ん・・・んん・・・。」
「お、気が付いたか。」
「あれ、あたし・・・。」
「アリィのカカトをもろに受けたんだよ。ありゃ気絶して当然だって。」
「あ、メイ!あんたの所為でアリィお姉様逃しちゃったじゃない。だいたい、こんな状態になってるのもメイの所為よ!」
このガキ、人がせっかく看病もどきしてやったのに・・・。
「ふん、あたし帰るわ。」
「あいよ、じゃあね。」
ファユは振り向きもせずに走っていく。まったく、我が儘というかなんというか。あれでもクラス二にいるってんだから、わからないよなぁ。
「アリィお姉様♪」
アリィは「げ・・・ファユ・・・」と思ったが口には出さなかった。
「今日はヘボ魔術師は一緒じゃないのですわね。」
「そりゃいつも一緒にいるわけじゃなわいよ。」
当たり前と言えば当たり前なのだが、ファユに比べればメイの方が全然いいと思うのも当たり前なのか・・・。アリィはふとそんなことを思った。
「なにしてるんですか?」
「ただの散歩よ。」
「あたしも一緒していいかしら?」
「別に構わないわ。」
そうして並んでついてくるファユ。
それから程なく、アリィとファユの前に、六人ほどの男が立ちはだかった。アリィには彼らの目的が判っていた。一応これでも令嬢なのである。が、知らないとは愚かなことでもあるとも思うのだった。
「アリィ・ナルレノフだな?」
「聞かなくてもわかってるんでしょ。だいたい、身代金が欲しければもっと確保しやすい令嬢とか選んだらいいんじゃないの?」
「わかってるなら話しは早いが、あんたの強さも承知済みだ。」
見る限りじゃ、頭の男以外はそこらの不良共を集めたような感じだ。そんなんで勝算はあるのだろうか?とも思ったが、現にこうしてる以上はなにかあるのだろう。
(さて、私に対しての策とは何か?もしかすると今の私が何時もと違うとか?そんなことはあるはずは無いのだが。)
と考えていたが中断させられた。頭の男が不良共をアリィにけしかける。
「こんな雑魚ども。」
三人同時に襲ってきたが、アリィにしてみれば不良ごとき取るに足らない相手だった。
(待てよ、普段とは違う私じゃない。それは私じゃなくファユ!?)
咄嗟にアリィは振り返ったが既に遅かった。
「流石に良い判断だな。気づくのがもう少し早ければ回避できたかもな。」
そう、アリィが見たものは、首筋に剣を押しつけられてるファユだった。どうやら隠れていた他のメンバーがいたらしい。
「ご・・・ごめんなさい、アリィさん。」
普段のファユからは見られない、泣きそうな感じの弱い声でそう言った。
「まさか見捨てないよな。」
「わかったわ。大人しくするわよ。」
アリィはそうは言ったものの、この状況を打破出来ないか思案していた。頭の男の脇に二人。アリィを掴まえようとしている、さっき殴った三人。そしてファユを人質に取っている男。計七人。
(どうしようかしら。せめてファユを人質に取ってる男が油断してくれれば。)
自分一人ならなんとかなる。人質を殺す覚悟があるかどうかは別として、それが判別すら出来ない以上下手に手を出すのはマズイ。
「このやろう、殴られた分は後できっちり払わせるからな。」
アリィをの腕を押さえながら一人の男がそう言ってきた。表情から見るに、既につまらんことを考えているようだ。というより、妄想してるんじゃないかと言った方が正しいだろうか。
(まったく、ろくな状況じゃないわね。助かったらメイに当たろうかしら。)
アリィがそんな事を思ったときだった。
「あたしの妹に何してんだぁ!」
剣をファユにあてている男の後ろから声がした。アリィはすぐにメイだとわかったが。男は咄嗟に振り向いたがそれが油断になる。振り向いた瞬間、メイの飛び回し蹴りが顔面に炸裂し、そのまま仰け反る形で倒れる。アリィを抑えていた男二人はそのままアリィに殴られ、もう一人は蹴り飛ばされる。メイはそのままファユを引きずると、アリィと背中合わせになって、その間にファユを入れた。
「遅いわよメイ。」
「ピンチの時ほど有り難みが大きいでしょ。」
「なんだてめぇは。」
「あたし?あたしはアリィの主よ!」
「お前が下僕だ!」
メイの言葉に、きっぱりとアリィは言い返した。もちろん、蹴り込みで。
「それが助けに来たあたしに対する態度?」
「それは感謝するけど、これは別よ。」
「ふざけた奴らだ。たかだか小娘三人だろう、さっさと片づけろ!」
頭の男がそう言った。どうやらむかついたことで、アリィが強いとか、そんなことは忘れてしまったらしい。
「今度は手加減しないわよ。」
アリィは口の端に笑みを浮かべる。メイは、「これじゃぁあたしが加勢するだけ無駄だね」と思い、黙って見ていた。
一通りことが片づいた。
「ファユ、大丈夫?」
あたしはファユに聞いた。
「別に、メイなんかに助けられたくなかったわ。」
ファユはそう言ってプイッとそっぽを向いた。あたしは別に構わないが・・・
ドカッ!
あたしはファユを蹴り飛ばす。
「なにすんのよ馬鹿メイ!助けておいて礼も言わないからむかついたの?心が狭いわね。」
なんでこんなにひねくれたんだろうな。あたしは倒れているファユを掴み上げると、
「別にあたしに対しては何言ってもいいわ。が、いくらゴロツキ共の所為でこんな自体になったとはいえ、あんたが人質に取られたことで、アリィが従わざるを得なくなった。そのアリィの思いにまず最初になんか言うべきじゃないの?あたしへの文句なら後からいくらでも言えばいい。」
そう言って突き放す。
「ごめんねアリィ。」
「別に気にしてないわ。結果はこの通り、何事も無かったしね。」
「ありがと。じゃ、あたしは帰るわ。」
あたしはその場を後にした。
「あの、ありがとう、アリィさん。」
「別にいいわ。だけど、子供だからしょうがない部分はあるけど、さっきの態度は良くないわよ。」
ファユはそのまま俯いてしまった。アリィは別に甘やかす気はない。それに、助けに来たメイにちょっと申し訳ないと思う部分もあった。微量でしかないが・・・。
「ああ!あたしのアリィお姉様に変な虫がついてる!」
あたしとアリィが学院帰りに、雑貨屋へ行こうとしていたらファユが現れた。それよりも虫ってあたしか?
「アリィ、なんか買う物あんの?」
「別に無いわよ。」
「それより終わったら、マテッサ行こう。」
あたしはニヤニヤしながら言った。
「いいわよ。」
「って、シカトしてんじゃないわよ!ファユリースラッシュ!!」
「さ、行こうかアリィ。」
あたしは避けながら言った。目の前をファユが通りすぎる。どうやら跳び蹴りだったらしいが、そのまま地面に激突する。
(着地くらいちゃんとしろよ・・・。)
「懲りないわね・・・。」
アリィが冷ややかな視線を送っている。
そして何時も通りの時間が、また流れ出す。
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?
あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」
結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。
それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。
不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました)
※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。
※小説家になろうにも掲載しております
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
大好きな母と縁を切りました。
むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。
領地争いで父が戦死。
それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。
けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。
毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。
けれどこの婚約はとても酷いものだった。
そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。
そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~
石動なつめ
ファンタジー
半端者の公爵令嬢ベリル・ミスリルハンドは、王立学院の休日を利用して隣国のダンジョンに潜ったりと冒険者生活を満喫していた。
しかしある日、王様から『悪役令嬢役』を押し付けられる。何でも王妃様が最近悪役令嬢を主人公とした小説にはまっているのだとか。
冗談ではないと断りたいが権力には逆らえず、残念な演技力と棒読みで悪役令嬢役をこなしていく。
自分からは率先して何もする気はないベリルだったが、その『役』のせいでだんだんとおかしな状況になっていき……。
※小説家になろうにも掲載しています。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる