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クルライリア大陸編

与太五 ファユ登場(過去の話し)

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「アリィ、マテッサでお茶してこう。」
「いいわよ、別に。」
あたしとアリィは学院帰りにマテッサという茶店によることにした。ジリウは大きな町じゃ無いけど、魔術学院があるってことはそれなりの町だという話しである。実際、外には出たことないから、他の町のことなんて知らないけど。
「今日は何食べようかな。」
「そして今日も私に奢らせる気ね。」
「うん。」
と、あたしはキッパリ頷いた。
「だってお金無いんだもん。」
そう、あたしは一人で住まわせてもらってて、必要な生活費くらいしかもらってないの。だから、以外とつらいのよね。
「自分で選んだんでしょ。それでも贅沢よ。」
「アリィに言われてもなぁ・・・。」
そんないつも通りの道を、何気ない会話で歩いていく。



「あら、マフィンのバカグループじゃない。今日も元気ねぇ。」
「げ・・・ファユリー・・・。」
「なによ、その不満そうな顔は。」
マフィン達とは、もちろんメイと一緒のクラスのあのマフィン達である。そのマフィン達に対して口の悪いファユリーと呼ばれた少女は、どう見てもマフィン達より年下に見えるのだが、その態度はかなり偉そうである。
「不満に決まってるでしょ。とまあ、私はもう帰るの、じゃあね。」
「ちょっと待ってよ、聞きたいことがあるの。」
「なによ。」
マフィンが明ら様に不満気な顔をする。
「馬鹿メイ見なかった?」
マフィンは思い出すような仕草をしてから、
「ああ、確かアリィと帰ってたな。」
「なに!?アリィお姉様とですって。メイの奴ぅ~。」
そう言うとファユリーは走り去って行く。
「はぁ、あんなのがクラス二だなんて、質が悪いよな。姉妹そろってろくなもんじゃないわね。」
ファユリーの去ったあと、マフィンのぼやきに頷くスフレだった。



「ふ~、美味しかった。ごちそうさま、アリィ。」
「メイはほんっと、ああゆうの好きね。」
「うん、甘い物、特にケーキとかはめっちゃ好きさ。」
「じゃ、帰りましょうか。」
「ファユリークラァァァッシュッ!」
帰ろうとしたあたしの後ろからそんな声が聞こえた。あたしは後ろを振り向きもせずに立ち位置を変える。その直後、さっきまであたしが立っていた場所、地面に何かが激突する。
「ファユ、なんなの、うるさいわよ。」
地面に激突したファユは起きあがり、
「避けんなよ、ヘボ魔術師のくせに。また今日もアリィお姉様にたかっていたのね!」
「いや、別にたかってるというわけじゃ。」
「メイ、十分たかってるから。」
なにを、アリィめ。それでも、アリィはいつもご馳走してくれるんだよね。
「ですよねぇ、アリィお姉様。こんなヘボ魔術師畳んでしまいましょう。」
「やるなら勝手にやって、私は帰るわ。」
「ああそんな、アリィお姉様冷たいですわ。」
ファユがアリィにしがみついて止めようとする。
「んじゃ、あたしも帰るね。」
「まてこら、ヘボ魔術師。お前は葬る!」
ったく、厄介な奴ね。そう、このファユはいつもこの調子である。何が気に入らなくてあたしにつっかかってくるのかわからないが。
「ああ、あたし、メイの妹じゃなく、アリィお姉様の妹に生まれたかったですわ。」
「私はイヤ。」
「ああん、そんな遠慮なさらずに。」
アリィ、かなりうざったそうだ。と言うあたしもうざいんだけど、妹だしねぇ。
「メイなんかと一緒じゃなく、あたしと一緒に行動しましょうよぉ。」
ガスっ!
なんの前触れもなくファユの脳天に打ち下ろされたカカト。
「ごめんメイ、ちょっとうざかったもんで。」
「あ、いいよいいよ、気にしないで。アリィがやってなきゃ、あたしがやってたから。」
ファユはその場に伸びてしまっている。流石に放っておくわけにもいかないので、近くの休憩所、公園みたいなところで休ませる。

「私は帰るわね。」
「あ、うん。ごめんね、たまにこんなことあってさ。」
「メイが謝る事じゃないわ。ま、気にしなくていいわ。私も気にしてないし。」
「ありがとさん。」
「それじゃね。」
アリィが帰ったあと、ファユの顔を見ると、カワイイ寝顔をしてる。まあ。あたしの妹だからカワイイのは当然だが、なんであんなひねくれたガキになったんだろう。まだ十三歳だってのにイヤな性格してるよな。とあたしは苦
笑した。
まあ、原因があたしにもあるかもしれないけど。両親があたしに甘かったのもそうなんだろう。それに一人暮らししてるうえに、学院じゃ万年クラス五。そんなあたしがイヤなんだろうな。ま、コンプレックスなんて持ってて当然か。それに、この歳でわかる必要も無いし。
(だけどこのまま大人になったらイヤだな、マジで。)
あたしはそんな恐ろしいことを考えた。
「ん・・・んん・・・。」
「お、気が付いたか。」
「あれ、あたし・・・。」
「アリィのカカトをもろに受けたんだよ。ありゃ気絶して当然だって。」
「あ、メイ!あんたの所為でアリィお姉様逃しちゃったじゃない。だいたい、こんな状態になってるのもメイの所為よ!」
このガキ、人がせっかく看病もどきしてやったのに・・・。
「ふん、あたし帰るわ。」
「あいよ、じゃあね。」
ファユは振り向きもせずに走っていく。まったく、我が儘というかなんというか。あれでもクラス二にいるってんだから、わからないよなぁ。



「アリィお姉様♪」
アリィは「げ・・・ファユ・・・」と思ったが口には出さなかった。
「今日はヘボ魔術師は一緒じゃないのですわね。」
「そりゃいつも一緒にいるわけじゃなわいよ。」
当たり前と言えば当たり前なのだが、ファユに比べればメイの方が全然いいと思うのも当たり前なのか・・・。アリィはふとそんなことを思った。
「なにしてるんですか?」
「ただの散歩よ。」
「あたしも一緒していいかしら?」
「別に構わないわ。」
そうして並んでついてくるファユ。

それから程なく、アリィとファユの前に、六人ほどの男が立ちはだかった。アリィには彼らの目的が判っていた。一応これでも令嬢なのである。が、知らないとは愚かなことでもあるとも思うのだった。
「アリィ・ナルレノフだな?」
「聞かなくてもわかってるんでしょ。だいたい、身代金が欲しければもっと確保しやすい令嬢とか選んだらいいんじゃないの?」
「わかってるなら話しは早いが、あんたの強さも承知済みだ。」
見る限りじゃ、頭の男以外はそこらの不良共を集めたような感じだ。そんなんで勝算はあるのだろうか?とも思ったが、現にこうしてる以上はなにかあるのだろう。
(さて、私に対しての策とは何か?もしかすると今の私が何時もと違うとか?そんなことはあるはずは無いのだが。)
と考えていたが中断させられた。頭の男が不良共をアリィにけしかける。
「こんな雑魚ども。」
三人同時に襲ってきたが、アリィにしてみれば不良ごとき取るに足らない相手だった。
(待てよ、普段とは違う私じゃない。それは私じゃなくファユ!?)
咄嗟にアリィは振り返ったが既に遅かった。
「流石に良い判断だな。気づくのがもう少し早ければ回避できたかもな。」
そう、アリィが見たものは、首筋に剣を押しつけられてるファユだった。どうやら隠れていた他のメンバーがいたらしい。
「ご・・・ごめんなさい、アリィさん。」
普段のファユからは見られない、泣きそうな感じの弱い声でそう言った。
「まさか見捨てないよな。」
「わかったわ。大人しくするわよ。」
アリィはそうは言ったものの、この状況を打破出来ないか思案していた。頭の男の脇に二人。アリィを掴まえようとしている、さっき殴った三人。そしてファユを人質に取っている男。計七人。
(どうしようかしら。せめてファユを人質に取ってる男が油断してくれれば。)
自分一人ならなんとかなる。人質を殺す覚悟があるかどうかは別として、それが判別すら出来ない以上下手に手を出すのはマズイ。
「このやろう、殴られた分は後できっちり払わせるからな。」
アリィをの腕を押さえながら一人の男がそう言ってきた。表情から見るに、既につまらんことを考えているようだ。というより、妄想してるんじゃないかと言った方が正しいだろうか。
(まったく、ろくな状況じゃないわね。助かったらメイに当たろうかしら。)
アリィがそんな事を思ったときだった。

「あたしの妹に何してんだぁ!」
剣をファユにあてている男の後ろから声がした。アリィはすぐにメイだとわかったが。男は咄嗟に振り向いたがそれが油断になる。振り向いた瞬間、メイの飛び回し蹴りが顔面に炸裂し、そのまま仰け反る形で倒れる。アリィを抑えていた男二人はそのままアリィに殴られ、もう一人は蹴り飛ばされる。メイはそのままファユを引きずると、アリィと背中合わせになって、その間にファユを入れた。
「遅いわよメイ。」
「ピンチの時ほど有り難みが大きいでしょ。」
「なんだてめぇは。」
「あたし?あたしはアリィの主よ!」
「お前が下僕だ!」
メイの言葉に、きっぱりとアリィは言い返した。もちろん、蹴り込みで。
「それが助けに来たあたしに対する態度?」
「それは感謝するけど、これは別よ。」
「ふざけた奴らだ。たかだか小娘三人だろう、さっさと片づけろ!」
頭の男がそう言った。どうやらむかついたことで、アリィが強いとか、そんなことは忘れてしまったらしい。
「今度は手加減しないわよ。」
アリィは口の端に笑みを浮かべる。メイは、「これじゃぁあたしが加勢するだけ無駄だね」と思い、黙って見ていた。

一通りことが片づいた。
「ファユ、大丈夫?」
あたしはファユに聞いた。
「別に、メイなんかに助けられたくなかったわ。」
ファユはそう言ってプイッとそっぽを向いた。あたしは別に構わないが・・・
ドカッ!
あたしはファユを蹴り飛ばす。
「なにすんのよ馬鹿メイ!助けておいて礼も言わないからむかついたの?心が狭いわね。」
なんでこんなにひねくれたんだろうな。あたしは倒れているファユを掴み上げると、
「別にあたしに対しては何言ってもいいわ。が、いくらゴロツキ共の所為でこんな自体になったとはいえ、あんたが人質に取られたことで、アリィが従わざるを得なくなった。そのアリィの思いにまず最初になんか言うべきじゃないの?あたしへの文句なら後からいくらでも言えばいい。」
そう言って突き放す。
「ごめんねアリィ。」
「別に気にしてないわ。結果はこの通り、何事も無かったしね。」
「ありがと。じゃ、あたしは帰るわ。」
あたしはその場を後にした。

「あの、ありがとう、アリィさん。」
「別にいいわ。だけど、子供だからしょうがない部分はあるけど、さっきの態度は良くないわよ。」
ファユはそのまま俯いてしまった。アリィは別に甘やかす気はない。それに、助けに来たメイにちょっと申し訳ないと思う部分もあった。微量でしかないが・・・。



「ああ!あたしのアリィお姉様に変な虫がついてる!」
あたしとアリィが学院帰りに、雑貨屋へ行こうとしていたらファユが現れた。それよりも虫ってあたしか?
「アリィ、なんか買う物あんの?」
「別に無いわよ。」
「それより終わったら、マテッサ行こう。」
あたしはニヤニヤしながら言った。
「いいわよ。」
「って、シカトしてんじゃないわよ!ファユリースラッシュ!!」
「さ、行こうかアリィ。」
あたしは避けながら言った。目の前をファユが通りすぎる。どうやら跳び蹴りだったらしいが、そのまま地面に激突する。
(着地くらいちゃんとしろよ・・・。)
「懲りないわね・・・。」
アリィが冷ややかな視線を送っている。

そして何時も通りの時間が、また流れ出す。
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