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クルライリア大陸編

十一話 変だぞ・・・をい

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んふふ~♪
アリィはご機嫌だった・・・何故か、それは不明である。王都リシュアに着いたアリィは城下町をるんるん気分で見て回っていた。何を考えているかは不明だったが、何かを企んでいるのは事実だろう・・・何か、それは言わずもがな。



「ありがちなと言えば?」
あたしは呟いてみる。
「ありがちなと言えば?」
ケイが復唱する。別にケイが復唱したところで答えが出るわけではないが、それはあたしにも言えること。まあ、つまり二人揃って悩んでいるわけだ。
「・・・やっぱ泳ぐか。」
「そう・・・じゃねぇ!なんでそこにいきつくんだ!」
「水の中に入り口があるかもしれないじゃん。水の精霊だし。」
(誰も水の精霊だとは言ってないが?)
えっ?違うのか。って違うとも言ってないよな。まあどっちにしろ会えばわかるか。しかしこんなところで迷わせるなんて、嫌がらせかねぇ。
「水の中、か・・・せっかく滝があるんだからそれは無いだろう。」
そうよねぇ、滝があるのよね。左右はずっと崖が続いてるみたいで、これといった入り口もないし。あるのは滝と滝壺とそこから流れる川。もしかして滝を昇るとか?
「逆流してたりしてな。」
いや、それは無いから。滝が幻だったりとか?
「それもどうかな・・・水しぶきは飛んで来てるしな。」
轟音を立てて落ちているし、幻でもない。滝が関係しているのは間違いないと思うのよね。
(・・・お前ら、分かっててやってるだろう。)
「知っててやってるのか?だってさ。」
「んなわけねぇじゃん。」
ケイが呆れたように肩を竦めて見せる。
「そうよ、そんな面倒臭いことしないよね。」
などと言いながらあたしとケイは滝の裏に向かった。あんまやってると怒りそうな気もしないでもない。誰とは言わないけれど・・・。

あたしとケイが丁度滝の裏に来たときだった。いきなり滝が内側に曲がってきたのだ。強風で。もちろん、あたしとケイはびしょ濡れだ。
「水も滴るいい女・・・。」
「・・・よく冗談なんか言ってられるな。」
いや、確かに冗談だけど、いい女ってのは間違ってないぞ。でも状況は洒落にならん。
寒いし・・・。
どうやら怒りに触れてしまったらしい。まったく大人げ無いんだから、あたしより遥かに長く生きているくせに。
(さあ行くぞ。)
なにやら満足げな声ね。きっと涼しげな顔して言ったな、うん。滝の裏な上に、日も当たらないジメジメした洞窟。そのうえ何故かずぶ濡れだからやたらと寒いんですけど・・・。が、進むしかないよねぇ。
「早く用事済ませて帰ろうぜ。」
「そだね。」

この洞窟は思った以上に果てしなく長かった。そう、時間にするなら四十分くらいだろうか。襲ってくる巨大な吸血コウモリの群を凪払い、
「ああ、一匹いたっけな、ちっこいのが。」
リザードマンと奮戦し、
「トカゲがちょろっといたな。」
水を駆使した罠をかいくぐり、
「水滴が背中に落ちてきて騒いでたの誰だっけ?」
ほんと長い道のりだった。もう疲れた。
「そこの角曲がると滝が見えるぞ。」
「いちいち突っ込むなぁ!何故か寒いし、無駄に疲れたんだから誇張したっていいじゃないか。」
「でも嘘は良くないな。」
「いや、そうだけどさ・・・」
もぉ、せっかくあたしが苦労してここまで辿り着いた事にしておきたかったのにさ。まあ、それはおいといて、今目の前には広い空間がある。が、何も無い。マティアがいたときのような陣も無いし。ってあれは違うか。とりあえず広間に足を踏み入れる。と、踏み入れたとたん空気が変わった。空気というより雰囲気だろうか。
「ね、なんか変じゃない?」
「いや、何も感じないが。」
(遅かったな、娘よ。)
うぉっ、夢の中で聞いた声じゃん。あたしの表情が変わるのを見て、怪訝な顔・・・いやむしろ、アホかこいつと言わんばかりにケイがこっちを見てる。あのね・・・。そこへマティアが現れる。
「ケイよ、すまんが広場から少し離れてくれないか?」
「ああ、わかったよ。」
ケイは特に嫌な顔も、疑問を抱いた顔もせずに引き下がった。と言っても広間のすぐ外にいてこちらを見ている。

ケイが離れると目の前の空間が揺らめく。そう、まるでそこだけ温度が違うように。そして人影が見えたように感じた瞬間一陣の風が吹き抜ける。暖かい風が。温度が違うようにではなく、違っていたと実感した。目の前には小
娘がいる。その身体の周りの空気は揺らめいて。ふ、なんだ、小娘か。
「お前に言われたくはないな、娘よ。」
ふふ~ん、その姿で偉そうに話してもねぇ。
「まあよい、早速試させてもらうぞ。私は火の精霊アーレリィ、見事負かしてみせよ!」
言い終わると何かが解放されたようにアーレリィの身体から熱気が迸る。流
石に、凄い力ね。勝てるかなぁ・・・。
「では始めるぞ、じゃんけんだ。」
・・・
・・・・
・・・・
「・・・ねぇケイ、なんかこいつ変よ。」
「確かにそうかもしれないが、お前に言われたくはないだろう。」
「だよね・・・って、後半部分は聞き捨てならんぞぉ!」
くそ、なんでよりによってじゃんけんなわけ?ってゆうか変よ。精霊と契約する条件がじゃんけんですって。それってめちゃ楽かもしれないけど、負けたら悲しすぎるわよ。
「どうした、やらぬのか?」
「わかった、やりますよぉ。」
「では二人とも力を見せてみよ。」
マティアはこっちをみると、
「援護するから頑張れ。」
などと楽しそうに言ってくる。が、その顔に含んだ部分があるのは気のせいだろうか?などと考えていたら視界が紅く染まる。とほぼ同時に凄まじい熱気があたしたちを包み込む。
(こんな空間でなんてことすんだこの小娘わぁ!)
などと思いながら。
「マティア、あたしをあの小娘に向かって飛ばして!」
言うと同時にあたしは両の手を握りしめて、詠唱を始める。気付かれないように。しかし熱ぃ~。
「いくぞ。」
という声と共にあたしは吹き飛ばされる。あたしはアーレリィに向かって右拳を繰り出す。が、アーレリィは「ふっ」っと鼻で笑って避ける。むかつく~!っと壁に激突しそうになったあたしは右手を突きだしたまま、あらかじ
め詠唱済みの魔法を解き放つ。
『エアリアルマイン!』
普段なら突風が出るだけだが、目の前に壁があるのであたしが飛ばされる。更に加速。あたしはもう片方の手を突き出す。
『エアリアルマインッ!』
「なっ!・・・」
っと声を上げたときにはもう遅い。
「おしおきよ、小娘ぇ!」
などと言いながらアーレリィのおしりを叩きながら通り過ぎる・・・って、誰か止めてっ!・・・
ズガーンッ!
・・・痛い。あたしは見事に壁に激突した、そりゃ止まる事なんて考えてなかったもん。
「アホ丸出し・・・。」
ケイがボソっと呟いた。ちゃんと聞こえてるからな。くっそ~、ちゃんとフォローしてくれるんじゃなかったのか、マティア。いててて・・・。
「そこまでは知らん。」
おのれぇ。

「両手を翳しなさい。」
あたしは言われたとおりに両手をアーレリィに向ける。
~悠久の刻を焦がす我が魂。絶えることなく我が心を熱くする炎。我が誓いを以て、今汝の心にも熱き思いを与えよう。我が名はアーレリィ、一つの時を共に歩む汝の名を掲げよ~
~我の名はメイリー。我が時の中に汝の名を刻み、我が心の中に汝の想いを抱く。我は汝と共に歩むことを望む者~
『我と汝の熱き想いは、今ひとつに!』
掲げていた両手から一瞬にして深紅の光があたしを包む。そのとき火照りを感じたが、すぐにもとに戻る。
(なかなか楽しかったぞ。私に一撃くれるとはなかなかだった。よろしくなメイリーよ。)
「おうよ、いつでもお仕置きしてあげるわ。」
(フフフ、次やったら骨も残らず燃やす・・・)
あたしはその場で固まった。
「おい、なに固まってんだ。用が済んだならさっさと帰るぞ。」
「・・・う、うん。」
「はぁ、さっきの小娘のお陰でだいぶ暖まったよ。」
あ・・・そう言えばそうね。そのことでは感謝かな。
「で、こっからどうすんだ?」
「ああ、戻るのもめんどいから、次行こ、次。」
「そうだなっと。」
あたしはるんるん気分で滝の裏の洞窟を去った。このときリシュアでアリィもるんるんなんてことは知る由も無い。


(最後のお仕置きわざとくらいましたね。)
(なかなか面白い娘だな、メイリーは。)
(でしょう。で、わざとくらってあげたんですよね?)
(お前もしつこいな、どうだっていいだろう。)
(フフッ、そういうことにしておきます。)
(ふんっ・・・感化されすぎだ。)
アーレリィはそっぽを向いたが、その顔は微笑んでいた。そしてそれを見ていたマティアも。
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