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もう一組のつがい
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ルクレツィアとラファエロが黒曜宮に招待されたのは、王太子ウリエルのつがいが見つかってからひと月近くが経った頃だった。
ルクレツィアは自分と同じ忌子として生まれたエレナと会えるのを楽しみにしてきた。
初夏の庭園で手ずからブルーベリーを摘み、バラの花束とともにラッピングして貰う。
「今日は華美にならない程度におめかししてほしいの。良い印象を持って貰えるように」
「心得ております」
朝からうきうきしているルクレツィアをアンナは丁寧に着飾ってくれた。
髪を結いサファイアをちりばめた蝶の形の髪飾りでまとめ、今年ラファエロが作ってくれたアイスブルーのドレスを着つけて貰う。アクセサリーはシルバーとプラチナのシンプルな首飾りとイヤリングにした。
支度が整った頃、ラファエロが現れた。いつもと同じ姿で騎士らしくすっきりしている。
「あの、わたくし浮かれすぎでしょうか」
自分一人がめかしこんでいるのが恥ずかしくなって問うと、ラファエロはルクレツィアを抱き寄せて瞼にキスをした。
「とても愛らしい。このままベッドに連れていきたいくらいだ」
義姉になる方とやっとお会いできるのにベッドに逆戻りは困る。ルクレツィアがぷるぷる首を振るとラファエロはフッと笑ってルクレツィアの手を取った。
「行こう」
「はい」
出会った頃、ルクレツィアの身長はラファエロの胸半ばくらいしかなかった。本格的に魔力を注いで貰うようになってから急速に背が伸びて、今はラファエロの肩に届くほどになっている。
高貴な方のつがいとして離宮に召され、初めは不安だったけれど、今ルクレツィアはとても幸福だ。
同じ境遇のエレナにも幸せになってもらいたい。
蒼玉宮のエントランスを出たところでルクレツィアはラファエロに抱き上げられた。
「ラファエロ様、自分で歩けます」
「黒曜宮までは距離がある。おまえに無理はさせられない。今朝、2度俺を受け入れたのだから」
耳元で言われたことばにルクレツィアは頬を染めた。
外出が決まっている日に限って、ラファエロはことさら時間をかけてルクレツィアを抱く。もちろんこの上なく優しくしてくれるし、ルクレツィアも夢中になってしまうので仕方がないのだが、どうしてそういうタイミングなのかルクレツィアにはわからない。
さらに、閨事を思い出したせいで、ルクレツィアは蜜口を意識してしまった。
懐妊を望む女性は注いで貰った精が流れ出ないように蜜口にプラグをされるのだ。取り手のついた球体のような形をしていて、ルクレツィアの蜜口にも、今その球の部分がすっぽり埋め込まれている。
ひと月ほど前から、月の障りの時を除いて毎日装着されているので慣れてはいるのだが、意識してしまうと歩くのがぎこちなくなってしまう。
結局、クリスタルパレスの向こうに位置する黒曜宮まで、ルクレツィアはラファエロに横抱きにされて運ばれた。
「二人ともよく来てくれた」
初夏の庭園に面したテラスで、王太子ウリエルとエレナに出迎えられた。
「私のつがい、エレナだ」
濃い蜂蜜色の金髪と鳶色の瞳。背はルクレツィアより少し低いくらいで痩せている。
しかし、侯爵家の血筋を思わせる顔立ちは、どことなくアリアナに似ていた。
「初めまして。お会いできて光栄に存じます」
エレナが淑女の礼をとる。
「こちらこそ光栄です。お会いできる日を心待ちにしておりました」
淑女の礼を取り合う二人に、ウリエルが席を進めた。
「今日は無礼講だ。さあ、二人とも座って」
「王子妃殿下から贈り物でございます」」
アンナから薔薇の花束とブルーベリーの籠がエレナに手渡される。
「ルクレツィアが手ずから摘んだものだ」
「ありがとう存じます」
緊張に強張っていたエレナの顔に笑みが浮かぶ。
「とてもいい香りです」
喜んでもらえてルクレツィアも笑顔になった。
「つがいの先輩として、いろいろ話を聞かせてほしい」
ウリエルの言葉を皮切りに、黒曜宮の執事が4人のお茶を淹れ、お菓子が運ばれてくる。
「そういう話はユリウスが一番向いていると思うがな。きけば、うんざりするほど話し続ける」
「はは、確かにいろいろ話してくれるが、ユリウスの話はデータが主体だからね。当事者の話を聞けばエレナも安心すると思うんだ」
エレナが頷いた。
「ユリウス様からいろいろお話をお聞きして、ルクレツィア様にお会いするのを楽しみにしておりました」
「嬉しゅうございます。エレナ様」
ウリエルは運ばれてきたお菓子をひとつひとつ説明し、エレナに勧めている。大切で仕方がない様子だ。
同様にラファエロの手からいくつかの焼き菓子を口に入れられ、つがい同士お互い様という初めての状況をルクレツィアは嬉しく思った。
「二人はもう魔力適合に入ったのか」
ラファエロが唐突に核心をつく言葉を投げかけ、ルクレツィアはマカロンを喉に詰まらせかけた。
それはエレナも同じだったようで、目を白黒させている。
しかし、男同士だからなのか王族として当たり前の話題なのか、ウリエルは平然と答えた。
「まだだ。ここにきて一月、体調回復に専念させた。今は家庭教師がついて貴族社会のことを教えている」
「閨教育は?」
「昨日終えたところだ。そういう話がしたかった」
ルクレツィアもエレナも頬を染めた。できれば男女別々に話をしたい。
「おまえたちが魔力適合に入った時、ルクレツィアはまだ小さかっただろう? 今のエレナと比べてどうだった?」
「エレナよりも小さかったと思う。俺の胸半ばくらいだっただろうか」
「犯罪的な体格差じゃないか」
ウリエルに妙な突っ込みを入れられ、ルクレツィアは慌てて口をはさんだ。
「それは出会った頃の身長です。もう少し大きくなっていたと思いますわ」
「それでも肩には遠く及ばなかった」
「よく決心できたな。私だったら怖くて抱けたかどうか」
「魔力適合を始めてからルクレツィアの身長は一気に伸びて、寝込むこともなくなった。魔力を注ぐことが健康への一番の近道だ。エレナのためを思うなら、兄上も迷う必要はない」
「だが、怖いんだ。痛々しいほど華奢なエレナを壊してしまいそうで」
ウリエルが愛おしくて仕方がないという様子でエレナの手を握った。エレナが恥ずかしそうに目を伏せる。
「君はつらくなかった?」
ウリエルの視線を向けられ、ルクレツィアは耳まで赤くなった。二人のために答えてあげるべきなのはわかっている。しかし、話題が恥ずかしすぎて、顔をあげられない。
「初めての時はラファエロ様は最後までなさいませんでした」
何とか声を絞り出す。
「最後まで? でも魔力は注いだのだろう?」
「最後まで挿れなかったという意味だ。無理に入れれば裂けてしまいそうに小さかった」
ラファエロがルクレツィアの言葉を補足してくれた。
「それでどうやって魔力を注入したんだ?」
「先端だけを挿れて放った」
「それは……よく自制できたな」
ウリエルが心底感心した様子で呟いた。
「それでも痛みはあったと思う。可哀想に、入れた瞬間は体を強張らせていた」
ラファエロが痛ましそうにルクレツィアの頭を撫でた。
「いいえ、痛かったのは一瞬だけでした。ラファエロ様の魔力が体中に巡って、生まれ変わったみたいに体が軽くなって。一生忘れられないほど幸せな瞬間でした」
思わず二人がいることも忘れて、ルクレツィアはラファエロに言い募った。大きな手がルクレツィアの頭を抱き寄せる。
しかし、ウリエルの声でルクレツィアは現実に引き戻された。
「それで、最後まで挿入できるまでにどのくらいかかった?」
「ひと月ほどだろうか」
「……それほどか」
ウリエルはショックを受けたように黙り込んだ。
ルクレツィアは今の今まで知らなかった。そんなにラファエロに我慢を強いていたなんて。
「何も心配する必要はない。つがいを痛めつけるような真似はできない。俺たちはそういう風に作られている」
ラファエロが励ますとウリエルは、そうだな、と頷いた。
「エレナ、ルクレツィアを案内してあげるといい」
ウリエルの提案でエレナとルクレツィアは席を立った。
ルクレツィアは自分と同じ忌子として生まれたエレナと会えるのを楽しみにしてきた。
初夏の庭園で手ずからブルーベリーを摘み、バラの花束とともにラッピングして貰う。
「今日は華美にならない程度におめかししてほしいの。良い印象を持って貰えるように」
「心得ております」
朝からうきうきしているルクレツィアをアンナは丁寧に着飾ってくれた。
髪を結いサファイアをちりばめた蝶の形の髪飾りでまとめ、今年ラファエロが作ってくれたアイスブルーのドレスを着つけて貰う。アクセサリーはシルバーとプラチナのシンプルな首飾りとイヤリングにした。
支度が整った頃、ラファエロが現れた。いつもと同じ姿で騎士らしくすっきりしている。
「あの、わたくし浮かれすぎでしょうか」
自分一人がめかしこんでいるのが恥ずかしくなって問うと、ラファエロはルクレツィアを抱き寄せて瞼にキスをした。
「とても愛らしい。このままベッドに連れていきたいくらいだ」
義姉になる方とやっとお会いできるのにベッドに逆戻りは困る。ルクレツィアがぷるぷる首を振るとラファエロはフッと笑ってルクレツィアの手を取った。
「行こう」
「はい」
出会った頃、ルクレツィアの身長はラファエロの胸半ばくらいしかなかった。本格的に魔力を注いで貰うようになってから急速に背が伸びて、今はラファエロの肩に届くほどになっている。
高貴な方のつがいとして離宮に召され、初めは不安だったけれど、今ルクレツィアはとても幸福だ。
同じ境遇のエレナにも幸せになってもらいたい。
蒼玉宮のエントランスを出たところでルクレツィアはラファエロに抱き上げられた。
「ラファエロ様、自分で歩けます」
「黒曜宮までは距離がある。おまえに無理はさせられない。今朝、2度俺を受け入れたのだから」
耳元で言われたことばにルクレツィアは頬を染めた。
外出が決まっている日に限って、ラファエロはことさら時間をかけてルクレツィアを抱く。もちろんこの上なく優しくしてくれるし、ルクレツィアも夢中になってしまうので仕方がないのだが、どうしてそういうタイミングなのかルクレツィアにはわからない。
さらに、閨事を思い出したせいで、ルクレツィアは蜜口を意識してしまった。
懐妊を望む女性は注いで貰った精が流れ出ないように蜜口にプラグをされるのだ。取り手のついた球体のような形をしていて、ルクレツィアの蜜口にも、今その球の部分がすっぽり埋め込まれている。
ひと月ほど前から、月の障りの時を除いて毎日装着されているので慣れてはいるのだが、意識してしまうと歩くのがぎこちなくなってしまう。
結局、クリスタルパレスの向こうに位置する黒曜宮まで、ルクレツィアはラファエロに横抱きにされて運ばれた。
「二人ともよく来てくれた」
初夏の庭園に面したテラスで、王太子ウリエルとエレナに出迎えられた。
「私のつがい、エレナだ」
濃い蜂蜜色の金髪と鳶色の瞳。背はルクレツィアより少し低いくらいで痩せている。
しかし、侯爵家の血筋を思わせる顔立ちは、どことなくアリアナに似ていた。
「初めまして。お会いできて光栄に存じます」
エレナが淑女の礼をとる。
「こちらこそ光栄です。お会いできる日を心待ちにしておりました」
淑女の礼を取り合う二人に、ウリエルが席を進めた。
「今日は無礼講だ。さあ、二人とも座って」
「王子妃殿下から贈り物でございます」」
アンナから薔薇の花束とブルーベリーの籠がエレナに手渡される。
「ルクレツィアが手ずから摘んだものだ」
「ありがとう存じます」
緊張に強張っていたエレナの顔に笑みが浮かぶ。
「とてもいい香りです」
喜んでもらえてルクレツィアも笑顔になった。
「つがいの先輩として、いろいろ話を聞かせてほしい」
ウリエルの言葉を皮切りに、黒曜宮の執事が4人のお茶を淹れ、お菓子が運ばれてくる。
「そういう話はユリウスが一番向いていると思うがな。きけば、うんざりするほど話し続ける」
「はは、確かにいろいろ話してくれるが、ユリウスの話はデータが主体だからね。当事者の話を聞けばエレナも安心すると思うんだ」
エレナが頷いた。
「ユリウス様からいろいろお話をお聞きして、ルクレツィア様にお会いするのを楽しみにしておりました」
「嬉しゅうございます。エレナ様」
ウリエルは運ばれてきたお菓子をひとつひとつ説明し、エレナに勧めている。大切で仕方がない様子だ。
同様にラファエロの手からいくつかの焼き菓子を口に入れられ、つがい同士お互い様という初めての状況をルクレツィアは嬉しく思った。
「二人はもう魔力適合に入ったのか」
ラファエロが唐突に核心をつく言葉を投げかけ、ルクレツィアはマカロンを喉に詰まらせかけた。
それはエレナも同じだったようで、目を白黒させている。
しかし、男同士だからなのか王族として当たり前の話題なのか、ウリエルは平然と答えた。
「まだだ。ここにきて一月、体調回復に専念させた。今は家庭教師がついて貴族社会のことを教えている」
「閨教育は?」
「昨日終えたところだ。そういう話がしたかった」
ルクレツィアもエレナも頬を染めた。できれば男女別々に話をしたい。
「おまえたちが魔力適合に入った時、ルクレツィアはまだ小さかっただろう? 今のエレナと比べてどうだった?」
「エレナよりも小さかったと思う。俺の胸半ばくらいだっただろうか」
「犯罪的な体格差じゃないか」
ウリエルに妙な突っ込みを入れられ、ルクレツィアは慌てて口をはさんだ。
「それは出会った頃の身長です。もう少し大きくなっていたと思いますわ」
「それでも肩には遠く及ばなかった」
「よく決心できたな。私だったら怖くて抱けたかどうか」
「魔力適合を始めてからルクレツィアの身長は一気に伸びて、寝込むこともなくなった。魔力を注ぐことが健康への一番の近道だ。エレナのためを思うなら、兄上も迷う必要はない」
「だが、怖いんだ。痛々しいほど華奢なエレナを壊してしまいそうで」
ウリエルが愛おしくて仕方がないという様子でエレナの手を握った。エレナが恥ずかしそうに目を伏せる。
「君はつらくなかった?」
ウリエルの視線を向けられ、ルクレツィアは耳まで赤くなった。二人のために答えてあげるべきなのはわかっている。しかし、話題が恥ずかしすぎて、顔をあげられない。
「初めての時はラファエロ様は最後までなさいませんでした」
何とか声を絞り出す。
「最後まで? でも魔力は注いだのだろう?」
「最後まで挿れなかったという意味だ。無理に入れれば裂けてしまいそうに小さかった」
ラファエロがルクレツィアの言葉を補足してくれた。
「それでどうやって魔力を注入したんだ?」
「先端だけを挿れて放った」
「それは……よく自制できたな」
ウリエルが心底感心した様子で呟いた。
「それでも痛みはあったと思う。可哀想に、入れた瞬間は体を強張らせていた」
ラファエロが痛ましそうにルクレツィアの頭を撫でた。
「いいえ、痛かったのは一瞬だけでした。ラファエロ様の魔力が体中に巡って、生まれ変わったみたいに体が軽くなって。一生忘れられないほど幸せな瞬間でした」
思わず二人がいることも忘れて、ルクレツィアはラファエロに言い募った。大きな手がルクレツィアの頭を抱き寄せる。
しかし、ウリエルの声でルクレツィアは現実に引き戻された。
「それで、最後まで挿入できるまでにどのくらいかかった?」
「ひと月ほどだろうか」
「……それほどか」
ウリエルはショックを受けたように黙り込んだ。
ルクレツィアは今の今まで知らなかった。そんなにラファエロに我慢を強いていたなんて。
「何も心配する必要はない。つがいを痛めつけるような真似はできない。俺たちはそういう風に作られている」
ラファエロが励ますとウリエルは、そうだな、と頷いた。
「エレナ、ルクレツィアを案内してあげるといい」
ウリエルの提案でエレナとルクレツィアは席を立った。
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