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王妃の想い

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「孤児院の慰問ですか。ぜひご一緒させてくださいませ」
「良かったわ。貴女がそう言えば、あの子も許可するでしょう」
クリスタルパレスのサロン。
王妃マリアンヌは第二王子の妃ルクレツィアとお茶の時間を過ごしている。
年末に行われる豊饒祭、新年に行われる新成人のための舞踏会、冬場に行われる魔物討伐など、王族が関わる行事についてルクレツィアに王子妃としての知識を与えていくのも義母となった王妃の大切な役割である。
ラファエロの魔力で満たされたルクレツィアは大人の女性に成長し、体調を崩したという話も聞かなくなった。
それで、王妃はルクレツィアを孤児院の慰問にも誘ったのだった。
孤児院への援助は今王妃にとって一番関心の高い慈善事業である。
「いまだに『祝福の子』探しが難航していてね。こうなったら直接訪れて、自分で探し出すしかないと思っているの」
『祝福の子』とは魔力を持たずに生まれてきた貴族の子息子女の新しい呼称である。
彼らが王族・高位貴族の伴侶となり得る存在であることが、ラファエロとルクレツィアのつがいにより実証され、国を挙げて保護する勅命が出された。
にもかかわらず『祝福の子』はほとんど見つかっていない。
厳密にいえば4人の貴族が名乗りを上げたが、そのうち2名は魔力が少ないだけで『祝福の子』とは認定されなかった。残り2名は新生児で、今のところ魔力が全く検出されていない。ルクレツィア同様、将来的に多属性・高魔力の王侯貴族のつがいになることが期待されており、現段階では親の魔力を与えることで体調管理が行われている。
「せめて貴女と同年代の子をみつけたいのよ」
王太子はこの冬29歳になる。母親としてはなんとしてももう一人の息子のつがいをみつけだしたいのだ。
「実年齢より発育が遅くて病弱な者を重点的に探してみてはいかがでしょう」
「とてもいい考えね」
当事者から具体案がきけるのは嬉しい。
「もし可能なら、普段魔力漏れしてしまうくらいの高魔力の方にご同行頂き、こどもたちの様子を見てもいいかもしれません」
ルクレツィアが思案気に提案してきた。
「わたくしの家族は、わたくしが魔力酔いを起こさないように断魔素材の服や手袋で防御していました。でも、身近にいればそれも完璧に行えるわけではありません。思い起こせば、何度となくお姉様やお兄様に触れてしまったことがありましたし、魔力も漏れていたはずです。それでも、わたくしにとって家族の傍が最も居心地のいい場所でした。わたくしと同じ体質の者がいたら、魔力漏れを起こしている方の傍を心地よいと感じるのではないかと思うのです」
ユリウス・レントラーの考えによると、『祝福の子』は相手がつがいでなくても魔力を吸収する体質であるという。
「ねぇルクレツィア。貴女はラファエロ以外の魔力を取り込んでも、身体に問題は起きないの?」
「はい。お姉さまに触れても大丈夫です」
「オクタヴィア限定?」
「他の方と触れ合う機会はあまりなくて……」
それはそうだろう。ラファエロがそれを許すとは思えない。オクタヴィアのことも、実の姉でありルクレツィアの専属護衛騎士だからこそ、今の距離を許しているだけなのだ。
しかし、一度だけルクレツィアはラファエロ以外の男に触れられたことがある。
王太子ウリエルだ。
クリスタルパレスに迷い込んだルクレツィアにウリエルが無体を働いたことで、一時国王夫妻は本当に気を揉んだ。
兄弟が仲たがいすることになれば国家存続の危機に陥る。
幸い国王とウリエルが迅速に対応したことで何とか事なきを得たのだが。
「あのね、答えたくなければそう言ってくれていいのだけれど、ウリエルに触れられたときはどうだった?」
王妃は声をひそめた。
ルクレツィアが両手をあわせ、頭を下げた。
「あの時は本当に申し訳ありませんでした! わたくしパニックになってしまって、王太子殿下にとんでもないことを……」
恐怖に駆られてウリエルに攻撃魔法をぶつけてしまったことを言っているのだろう。
「そうじゃなくて、魔力反発とか魔力酔いのことよ。ウリエルの魔力が貴方の体内で悪さをしなかったか知りたいの」
「悪さ、ですか」
小首をかしげたルクレツィアは、なぜか頬だけでなく耳まで真っ赤に染めた。
「あの、魔力反発や魔力酔いを体験したことがないのでわからないのですが、特に体調を害することはありませんでした」
「そうなの。『祝福の子』は本当に不思議な存在なのね」
ラファエロの6属性の魔力で満たされているというのに、ウリエルの魔力と反発を起こさないなんて、今までの常識からは考えられないことだ。
『祝福の子』は誰の魔力でも受け入れられる、ということであれば、本来ウリエルのつがいとなるべき娘が他の貴族に横取りされてしまう可能性があるということだ。一刻も早く見つけ出してやらなければいけない。
王妃は決意を新たにしたのだった。

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