呪いの忌子と祝福のつがい

しまっコ

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姉の想い

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公爵令嬢オクタヴィアは近衛騎士団の顧問を務めている。
主な仕事は王城の魔道具や兵器に魔力を装填することで、時間的に拘束を受けることのない自由な身分である。
ただ、有事の際に備えてそれなりに鍛錬は必要なので、騎士団の訓練場や演習場には適度に顔を出している。
「オクタヴィア、今日もさすがの戦闘力だったね」
騎士たちの模擬戦に混ざり汗を流し、そろそろ今日は引き上げようとしたところで、3大公爵家のひとつであるロッシ家の3男ルチアーノに声をかけられた。
「君もね」
お互い王族の血を引く高位貴族だけあって、今日はなかなかの熱戦だった。
演習場の一角に備え付けられた休憩所で冷たい飲み物を貰いベンチに腰を下ろすと、ルチアーノも飲み物を手にやってきた。
「話があるんだが、いいかな」
特別親しいわけではないが、立場上関わりの少なくない相手である。
「話って?」
「何週間か前に忌子を保護する勅令が出ただろう」
忌子という単語を使われ不快な気持ちになる。
「魔力がない貴族の子女が王族または高位貴族のつがいである可能性が、研究者によってわかったって。あれ、どう思う?」
「どうとは」
何を言いたいのかわからず、オクタヴィアは無表情で応じた。
「君に妹がいて、その子が第二王子殿下の妃になるんじゃないかという噂になっている。すでに魔力適合に入ったとか」
一体どんな噂になっているのか。魔力適合は本来秘密裏に行われるものだが、人の口に戸はたてられないということなのか。
「触れただけで人を失神させるラファエロ殿下だ。結婚なんてできるわけがないと思ってきた。その方が本当に魔力適合を行っているとしたら、歴史的な重大事件だろう?」
「……」
この男は単なる好奇心から、無責任な噂話の真相を確かめに来たのだろうか。
「そんな冷たい目で見るのはやめてくれ。確かに公爵家に忌子が生まれたなどと口さがなく言う者もいるが、僕は違う。もしこの話が本当なら、僕にもつがいがいるかもしれないと思ったんだ」
「なるほど」
「魔力の有無などどうでもいい。僕はただ愛する女性と結婚がしたい。もし相手がつがいだというなら、これほど嬉しいことはない」
嘘を言っているようには見えないが、だからと言って噂好きな連中に餌を与える気にもなれない。
「他家の人間が魔力適合について問うのはマナー違反だ。君に話すことはない」
「そうか。そうだよな」
「ただ、勅命が出たということは、それだけ重みのある研究結果だということじゃないのか」
「希望を持ってもいいということか」
「さあ。私からは何とも言えないが」
冷たいレモン水を飲み終わり、オクタヴィアは席を立った。
「失礼する」
近衛が王宮の警護を行っている以上、ルクレツィアのことを知る者も少なからずいるのだろう。
しかし、職務上知りえた魔力適合の話を噂しているとなれば重大な情報漏洩だ。ラファエロに苦言を呈さなければいけない。

騎士団でひと風呂浴びた後、オクタヴィアは蒼玉宮に向かった。
ルクレツィアはダンスのレッスンを受けていた。
魔力適合を始めてからルクレツィアは急激に背が伸び、今ではその背はオクタヴィアの肩を越している。手足はすらりと長くなり、薄かった胸は形よく膨らんでいる。少女というより女性と呼ぶ方がふさわしい。
教師の指示に従いワルツを踊る姿は実に美しく優雅だ。
何もかもユリウスの予想通りに進んでいるらしい。
ステップを踏みながらホールを楕円に移動したところで曲が終わった。
ダンスの教師と挨拶を交わした後、ルクレツィアは小走りにこちらに来た。
「お姉さま」
オクタヴィアが来ていることに気づいていたのだろう。
「とても上手に踊っていたね」
「わたくしダンスのレッスンが大好きです。こんな風に元気に動き回れることが嬉しくて」
「じゃあ一曲お相手いただけるかな」
「まぁ。喜んで」
輝くように美しい笑顔だ。これもあの男がつがいとして愛情を注いでいるからなのか――…。自分の手で幸せにしてやれなかったのは悔しいが、ルクレツィアのことを思えば第二王子がつがいで良かった。
再び流れ始めたワルツにあわせ、二人はステップを踏み始めた。
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