薄氷が割れる

しまっコ

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ネーベル王国との交渉が無事に終わり、秋も深まる頃にはマリカの身体もすっかり回復した。 
「やっと体重が元に戻ったな」 
お風呂あがりにブリュンヒルデがマリカ体調管理のノートに体重を記載した。 
最近入浴の世話はブリュンヒルデがしてくれる。
マリカはブリュンヒルデのことが大好きだ。
けれど、レオンハルトと触れ合えなくなってしまったことが寂しい。
最近のレオンハルトは触れるだけの優しいキスと抱擁以外、マリカに寵を与えてくれない。
マリカはそれが悲しかった。 
「マリカ……? 何か心配事でもあるのか」 
「……あのね、ヒルデは何か知っている? レオンハルト様は妾妃をお迎えになったのかしら」 
「あり得ない。一体どうしてそんなことを思いついた?」 
「だって……何もしてくださらないの。もう私に飽きてしまわれたのかと……」 
自分で言っていて悲しくなってしまい、マリカは俯いた。 
皇帝であるレオンハルトは本来後宮にたくさんの妾妃を持つのが当たり前の存在だ。
この国の歴史上、獅子獣人の王たちは皆そうしてきたのだと歴史で学んだ。 
レオンハルトは今もマリカを大切にしてくれていて、不満を持つなんて我儘だということはよくわかっている。
それでも以前のように触れてほしいと思ってしまう。 
「マリカ。レオンは君に夢中だ。それは以前と変わらない。ただ、君の年齢や体のことを知って反省したんだよ」 
「反省?」 
「獣人社会では結婚可能な年齢は15歳だ。ヒトと比べて成長も成熟も早い獣人でも15歳未満の子どもに手を出すのはタブー視されている。君の身体が13、14歳相当と聞いて、レオンも私もショックだった。本来守られるべき子どもを性的に犯し、出産までさせてしまったのだから。君の身体がもう少し大きくなるまでは、以前のような伽はさせられない」 
「でも、私もう17歳よ。ちゃんと成人しているのに」 
妖精の血が濃いマリカは体の成長が遅い、それはたぶん本当なのだと思う。
けれど、心はちゃんと17年分成長しているし、今更子ども扱いされるなんて納得できない。 
「嫁いだ相手がローリー兄様だったとしても、御子を望まれて寵を与えていただいたはずよ」 
「……マリカ。レオンの前でそんな話はするなよ」 
「ええ……どうして?」
マリカは首を傾げた。自分の気持ちをわかって貰って、叶うことなら以前のように寵を与えてほしいのに。 
「嫉妬で狂ったレオンに何をされるか、わかったものじゃない」 
「……」 
それで抱いてもらえるなら、マリカはかまわない。 
「君の気持ちはわかった。カフカとレオンに伝えるよ」 
マリカはパッと顔をあげ、ブリュンヒルデにとびついた。 
「ありがとう、ヒルデ」 
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