薄氷が割れる

しまっコ

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「で、なぜこうなった」 
「……」 
意識のないマリカを抱いて居室に戻ると、ブリュンヒルデとカフカの二人がかりで尋問が始まった。 
「最後まではしていない」 
「最後までは?」 
「陛下は妃殿下のお身体のことをどうお考えなのですか。ここにきて2年半で初めての遠出、しかも病み上がりの身なのですよ」 
「……俺が悪かった」 
マリカに求められたとはいえ、先に手を出したのはレオンハルトだ。謝る以外の選択肢はない。 
「君は本当に仕方のない男だな。それで交渉の方はどうなった」 
「マリカの子どもをネーベルに嫁がせる」 
「娘が生まれなければ?」 
「息子を養子にやる」 
「……そうか。励まねばならんな」 
レオンハルト自身はいくらでも子種を注げるが、問題はマリカの健康状態だ。 
「そのことなのだが、マリカの母御殿に言われた。妖精は体の成長が遅いのだと。マリカは17歳だが、ヒトの年齢にすると13、14歳相当の身体だそうだ」 
「13、14歳ですって……なんてこと……そんな年齢の子どもを孕ませ出産させたというの……」 
カフカが顔を引き攣らせた。 
「幼く見えるとは思っていたが、ヒト族の中でもマリカが特殊だということなのか」 
ブリュンヒルデもショックを隠せない様子だ。 
「マリカの話では、ときおり妖精がネーベルの王族に寵を与えるため、王族には妖精の血が流れている。マリカの母マグノリアは風の妖精王エアリオの寵愛を受けてマリカを授かった。マグノリアの前に寵を受けた王女は4代前までさかのぼる。つまり、マリカは王族の中でも特別妖精の血が濃い」 
「……当分、夜伽は許可できませんね……」 
「……そうか」 
「成長の早い獣人でも婚姻可能な年齢は15歳だ。知らなかったとはいえ、あの子には途轍もなく酷なことをしてきたのだな」 
「……そうだな」 
二人がそう言うのも無理のないことだ。レオンハルトだって他人事であれば、なん て残酷なことを、と思ったに違いない。 
だが、レオンハルトもマリカも互いを強く求めている。今更、完全に禁欲しろと言われても、それはそれで酷としか言いようがない。 
「当分、懐妊させるつもりはないが……伽は許してほしい」 
レオンハルトが訴えると、ブリュンヒルデにこれ以上ないほど冷たい視線を帯びせられた。 
「君は信用できない。今までも溜まるとマリカに無体を働いてきた。今のマリカにそんな残酷な真似をさせるわけにはいかない」 
「だが、マリカも望んでいる」 
「本当に?」 
全く信用されていないらしい。 
「いずれにしても、妃殿下のお身体が十分回復してからになります。妃殿下の同意があることが大前提でしょう」 
カフカは疲れた顔でそう結論した。
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