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「陛下には、しばらく禁欲していただかねばなりません」
カフカにそう言い渡され、レオンハルトは項垂れた。
マリカとの伽が解禁された翌朝、マリカはぐったりして起き上がることもできなかった。
こんなに消耗させてしまうなんて――…。
久しぶりの行為に興奮して自制ができず、愛する者を苦しめた自分が許せない。
寝台の横に跪き、マリカの手を握る。その手は熱をもっていた。
「すまなかった。俺はつがい失格だ」
「レオンハルト様。どうかお顔をあげてください。私は可愛がっていただいてとても嬉しかったから……そんなにご自分を責めないで」
「マリカ…… !」
愛しいマリカ。
獣人の国にたった一人連れてこられたヒトと妖精の血を引く少女。
記憶を失い略奪者の妻にされた憐れな女。
レオンハルトが守ってやらなければならないのに――…。
「マリカ、君はレオンに甘すぎる。こんな目に遭わされて簡単に許してはいけない」
ブリュンヒルデが存外真剣な口調でマリカを諭した。
「でも、私が伽をできなかった間、レオンハルトさまは妾妃をお迎えになることもなかったのでしょう? 長い間待っていただいた上、夕べのようなご寵愛を頂いたのですもの。私は幸せ者だわ」
こんなことがあってもつがいを庇おうとするマリカの健気さに、レオンハルトは胸を打たれた。
「大切にする。これからはもっとおまえを大切にする。約束する」
白い小さな手に額を押し付け、レオンハルトは誓いを口にした。
生後半年でライルが這い這いを始めた頃、マリカの悲鳴が王宮に響いた。
「マリカ、落ち着け。大丈夫だから」
レオンハルトが駆け付けると、ブリュンヒルデがマリカを宥めていた。
床にはライルの服が抜け殻のように転がっていて、その傍に完全体の獅子の子がいた。
「獣化したのか…… !」
獣人の中には人型から完全体の獣に変身できる者がいる。彼らは先祖返りと呼ばれ、瑞兆として尊ばれるのだ。
「ライルは先祖返りだ。もう少し大きくなれば、自分の意志で自由自在にヒト型と獣型をとれるようになるだろう」
「先祖返り……?」
「とても貴重な存在で、こういう個体は身体能力も頭脳も並外れて優れている。俺たちの嫡子は歴史に残る王になるぞ」
ヒト族であるマリカには想像もできないことだったのだろう。
レオンハルトが部屋に戻ってきたときには顔色を失い取り乱した様子だったが、レオンハルトの説明を聞き幾分落ち着きを取り戻した。
「ライル、お母さまのこと、わかる?」
マリカが問いかけると、ライルはペロリとマリカの手を舐めた。
「よかった。困ったことはないのね?」
今度は甘えるように頭を摺り寄せている。
「賢い子だ」
レオンハルトがひょいと抱き上げると、ライルは一瞬でヒト型に戻った。
「おまえの父であることを誇りに思うぞ」
レオンハルトがそういうと、幼子は嬉しそうに笑った。
ライルが先祖返りだとわかってから、マリカの立場はいっそう良い方へと向かった。
これまでライルのことをヒト族との混血と蔑んでいた獅子獣人たちまでもが、先祖返りで完全体に獣化できるライルを尊び、国母となるマリカを丁重に扱うようになった。
獣人社会において、完全体の獅子に獣化できる先祖返りというのは、それだけ絶大な崇拝を集める存在なのだ。
ライルの誕生から1年が経ち、レオンハルトはマリカを皇后に推挙した。
複数存在し得る皇妃とは異なり、皇后はたった一人、この国で最も地位の高い女性に与えられる称号だ。
レオンハルトのゆるぎない溺愛と皇太子ライルの存在がものを言い、マリカの立后に異を唱えるものはいなかった。
カフカにそう言い渡され、レオンハルトは項垂れた。
マリカとの伽が解禁された翌朝、マリカはぐったりして起き上がることもできなかった。
こんなに消耗させてしまうなんて――…。
久しぶりの行為に興奮して自制ができず、愛する者を苦しめた自分が許せない。
寝台の横に跪き、マリカの手を握る。その手は熱をもっていた。
「すまなかった。俺はつがい失格だ」
「レオンハルト様。どうかお顔をあげてください。私は可愛がっていただいてとても嬉しかったから……そんなにご自分を責めないで」
「マリカ…… !」
愛しいマリカ。
獣人の国にたった一人連れてこられたヒトと妖精の血を引く少女。
記憶を失い略奪者の妻にされた憐れな女。
レオンハルトが守ってやらなければならないのに――…。
「マリカ、君はレオンに甘すぎる。こんな目に遭わされて簡単に許してはいけない」
ブリュンヒルデが存外真剣な口調でマリカを諭した。
「でも、私が伽をできなかった間、レオンハルトさまは妾妃をお迎えになることもなかったのでしょう? 長い間待っていただいた上、夕べのようなご寵愛を頂いたのですもの。私は幸せ者だわ」
こんなことがあってもつがいを庇おうとするマリカの健気さに、レオンハルトは胸を打たれた。
「大切にする。これからはもっとおまえを大切にする。約束する」
白い小さな手に額を押し付け、レオンハルトは誓いを口にした。
生後半年でライルが這い這いを始めた頃、マリカの悲鳴が王宮に響いた。
「マリカ、落ち着け。大丈夫だから」
レオンハルトが駆け付けると、ブリュンヒルデがマリカを宥めていた。
床にはライルの服が抜け殻のように転がっていて、その傍に完全体の獅子の子がいた。
「獣化したのか…… !」
獣人の中には人型から完全体の獣に変身できる者がいる。彼らは先祖返りと呼ばれ、瑞兆として尊ばれるのだ。
「ライルは先祖返りだ。もう少し大きくなれば、自分の意志で自由自在にヒト型と獣型をとれるようになるだろう」
「先祖返り……?」
「とても貴重な存在で、こういう個体は身体能力も頭脳も並外れて優れている。俺たちの嫡子は歴史に残る王になるぞ」
ヒト族であるマリカには想像もできないことだったのだろう。
レオンハルトが部屋に戻ってきたときには顔色を失い取り乱した様子だったが、レオンハルトの説明を聞き幾分落ち着きを取り戻した。
「ライル、お母さまのこと、わかる?」
マリカが問いかけると、ライルはペロリとマリカの手を舐めた。
「よかった。困ったことはないのね?」
今度は甘えるように頭を摺り寄せている。
「賢い子だ」
レオンハルトがひょいと抱き上げると、ライルは一瞬でヒト型に戻った。
「おまえの父であることを誇りに思うぞ」
レオンハルトがそういうと、幼子は嬉しそうに笑った。
ライルが先祖返りだとわかってから、マリカの立場はいっそう良い方へと向かった。
これまでライルのことをヒト族との混血と蔑んでいた獅子獣人たちまでもが、先祖返りで完全体に獣化できるライルを尊び、国母となるマリカを丁重に扱うようになった。
獣人社会において、完全体の獅子に獣化できる先祖返りというのは、それだけ絶大な崇拝を集める存在なのだ。
ライルの誕生から1年が経ち、レオンハルトはマリカを皇后に推挙した。
複数存在し得る皇妃とは異なり、皇后はたった一人、この国で最も地位の高い女性に与えられる称号だ。
レオンハルトのゆるぎない溺愛と皇太子ライルの存在がものを言い、マリカの立后に異を唱えるものはいなかった。
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