薄氷が割れる

しまっコ

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断罪を終えたレオンハルトは足早に自室に戻った。 
寝室に入るとマリカは目を覚ましたところだった。 
「マリカ。もう大丈夫だ。二度と君を一人にしないから。レオンが仕事の時は私が必ず君のことを守る。約束する」
「ヒルデ……」 
寝台の傍に座り、白い小さな手を握りながら、ブリュンヒルデがマリカを慰めていた。 
「マリカ」 
「レオンハルト様」 
レオンハルトを見上げるマリカの瞳には涙が浮かんでいた。 
「すまない。おまえを守ると誓ったのに。こんな目に遭わせてしまった。俺には許しを請う資格もない」 
「レオンハルト様の皇妃に相応しくないと言われました」 
「マリカ。あの女は精神を患っている。気のふれた女の言うことに、一片の真実もない」 
「でも……私のような貧弱な女に獅子獣人の嫡子を産むことができるのでしょうか……」 
俯いたマリカの長い睫毛が頬に影を作った。あの女は体だけでなくマリカの心にまで傷を残していた。 
レオンハルトはマリカの身体に負担をかけないようにそっと華奢な身体を包み込んだ。 
「俺には狼の血が流れている。狼はたった一人のつがいを終生愛し続ける生き物だ。この先、俺はおまえ以外の女と閨を共にすることはない。おまえは、俺の子を産むことができる唯一の女だ」 
「心配するな。私とジークの母も獣人としては小柄で慎ましい女だったが、子どもたちは立派な騎士になった。君とレオンの子どももきっと大丈夫だ」 
「ありがとう、ヒルデ」 
ヒルデの言葉はマリカの心に届いたようだ。マリカが顔をあげた。 
「私、元気になって体を鍛えます。レオンハルト様に相応しい女人になれるように」 
「今のままで十分だ。俺はありのままのおまえを愛している」 
マリカの鼻先にちゅっとキスを落とし、レオンハルトはマリカの身体を掛布で包み込んだ。 
「夕餉まで休んでいろ」 
「はい、レオンハルト様」 
マリカの額に触れると、熱を持っていた。 
ようやく熱がひき、食事の量も増えてきたところだったのに――。 
返す返すも自分の甘さが許せない。 
これからは自分と腹心のいずれかが、必ずマリカの傍で守る必要がある。毒にも注意しなければ。傍仕えを見張り、信頼できる者を育てていくことも必要だ。
二度と同じ轍は踏まないと、レオンハルトは決意を固めた。
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