忘却の勇者と魔女の願い

胡嶌要汰

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第21話「変身と変貌」

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 少年は冥界神アヌビスに体を明け渡しイリアと戦闘するが、斬っても再生を繰り返すイリアに苦戦していた。

「ほらほら、もっと来なさいよ!!」
「オラ! そろそろ、種明かししても良いんじゃないか?」
「んん、ダメ。まだ早いわ。」
 斬られて再生する毎にイリアは斬られる感覚を欲しがった。
 そして、その状況は数時間に及び続いた。

 その間。
 エスティはアカサカと対峙を果たしていた。

「あんた、誰?」
「私は赤坂商店店主兼滅亡の審判団ドゥームズデイ所属の者。さて、向こうもああやって戦っているわけですので、こちらも殺りますか。」
「受けて立つわ。」
「話が早い!」
 アカサカはエスティに向かって直線に攻撃を仕掛けた。

「【初級炎魔法】〈炎槍フレイム・ランス〉!」
「おっと、良い魔法だ当たっていたら致命傷だ。」
「そりゃ、どうも。」
 エスティはアカサカに向けて何発も連発するが、一向に当たる気配がない。

(こいつ、意外と動きが速い。)
「あらら、遅いですよ?」
 気がつけばエスティの懐にアカサカは近づいていた。

「な、もうそんなとこに!?」
「だから、遅いって!!」
 アカサカの発勁はエスティを軽く吹っ飛ばした。

「ふん、まぁ、生身の人間が受けたらもう立ち上がれないでしょう。」
 アカサカは手についた土を振り払い、エスティを見下してその場を去ろうとした。

「……ッて、まっ……て。」
 アカサカにとって予想外だった。

「立った、だと?」
 アカサカは顔を下げ、地面を向いた。

「そんなに私が立つ事で絶望するものかしら。」
「絶望? いや、違う。違う違う違う違う!!」
 アカサカは笑みが止まらなかった。
 ニヤニヤとする口を手で覆うが隠しきれないほど顔の綻びを見せる。
 ゾッ、とする様な笑みだ。
 エスティの背筋が凍る様な思いだった。

「そう、絶望なんかじゃない。これは希望! 私達を死刑囚級デス・ザ・ロウに導く希望となるのだ! そのための生贄となってくれ!」
 不敵な笑みを浮かべエスティに向けてまっしぐらに走るアカサカは狂気そのものだった。

「【中級炎魔法】! 〈火炎弾フレイム・バレット〉!!」
 1つ、また1つと銃弾の数十倍の炎の魔力を生み出す。それをアカサカに向けて連発で放つ。

「おおお、それ程に強いと我々としても評価が爆上がり! もっと。もっとくださいよ!!」
 アカサカもまた、イリアと同じく不敵に笑い声を上げ目を見開いた。

「気持ち悪い! 【中級炎魔法】! 〈火炎弾フレイム・バレット〉!!」
「さぁ、見せてください。クフフフッ!」
「嘘。なんで。なんで当たってんのに復活するのよ!!」
 ゆっくりと歩くアカサカはエスティの魔法に当たってもイリアと同じ様に再生を繰り返していた。

「ふざけるな! 【中級炎魔法】〈火炎弾〉!!」
「無駄無駄。さぁ、もっと攻撃を。もっと攻撃を!! そうすればそれが評価の一部となる! 素晴らしい!!」
 アカサカは手を合わせ天を見上げる。
 自分が誇らしくあるかの様に。

「あ、そうだ。お話ししませんか?」
「話? 今更何よ。」
「あなた、滅亡の審判団ドゥームズデイに入りませんか?」
 エスティの表情は一変した。
 怒りの表情から鬼の形相へ。アカサカに向けて鋭い殺気を放った。

「良いですねぇ。それでこそ殺し甲斐があるってものです!」
 エスティの殺気に向かい突っ込むアカサカ、エスティは更に続けて〈火炎弾フレイム・バレット〉を撃ち続けた。
 だがそれは、アカサカに当たるがまた再生を繰り返しまるで効いていなかった。

「なんで、なんで効かないのよ!!」
「もっと、もっと強いのくださいよ!」
 アカサカはエスティに強めの発勁を食らわせた。

「ウッッッ!」
 エスティはその場に蹲った。

「あらら、もう終わりですか。興醒めですね。じゃ、もう終わりにしますか。」
 アカサカはエスティに殺気のこもった発勁を構えた。

(おい! エスティが危ない!)
「あ? うるせぇ! 今はこいつを倒す事が先だ!」
冥界神アヌビス! 体変われ!)
「無理だね。」
「誰と話してんのよ!」
 少年の体は乗っ取られ、冥界神アヌビスに主導権を握られたままだった。

「俺と話してんだよ!!」
 冥界神アヌビスは少年の話に聞く耳を持たなかった。


 そして、アカサカはエスティめがけ発勁を撃った。

「あら? あなたは。」
 発勁で舞い上がった砂埃から出てきたのは息切れしたイツキだった。

「あなたみたいに瀕死な人は早く楽になれば良いものの。」
「うるせぇ!! 俺の仲間がピンチなんだ。これぐらい余裕だ。」
「は! これが友情! 素晴らしい!! その力で私を攻撃しなさい!!」
 アカサカは更に発勁をイツキに食らわせるが、イツキに捌かれて攻撃が当たらなかった。
 だが、イツキはアカサカに攻撃する気配がなかった。
 その状態が数十分ほど続いた。

「友情があっても攻撃できなければ、ダメですね。やはり、あなたにはできませんか。」
「いや、できる。」
「ふっ、強がりを。」
「強がりじゃない!!」
 イツキはアカサカを睨みつけ、刀を構えた。

「いやいや、そんなんじゃできない。」
「できる。」
「いや、できない。」
「できる。」
「できない。」
「できる!」
「だから! 出来ないって言ってんだろ!!」
 アカサカはイツキとの言い合いにうんざりして怒りを露わにした。

「できる、できるできるできるできるできるできる! できる!!」
「なんだこいつ? 気持ち悪い。死に損ないはさっさと死んでもらいましょうか!!」
 アカサカはイツキとの間を一気に詰め寄った。

「俺は出来る!!!」
 イツキから人間以上の魔力を放ち、半径数百メートルに強い衝撃波を飛ばした。

「おっと、その姿。見覚えがないですねぇ。」
 イツキの姿をいち早く見えたアカサカはその姿に喜び、幸福を覚えていた。

「さぁ、こっからが本番だ。」
「へぇ、竜人族ドラゴニュート半人ハーフですか。面白い事もあるものですねぇ。」
 イツキの姿は左半身がドラゴンの特徴を持っていた。
 腕に鱗が生え、背中にもドラゴンの翼が生えていた。

「まだまだ、楽しめそうですね。」
「あぁ、そうだな。だけどな、お前は俺に殺されんだ。」
「言いますねぇ。だけど、それは私の台詞ですよ!」
 イツキとアカサカは物凄い速さで相互に飛び出した。


「へぇ、あいつもやるな。」
 冥界神アヌビスは上から見下ろす様にイツキの姿を確認していた。

「こっちもまだ終わってないでしょ!?」
「あぁ、だが、すぐにでも楽にしてやるよ!」
 イリアと冥界神アヌビスも剣を交えて壮絶な戦いを繰り返していた。

「なんで、どうして、私は何も出来ないのよ。」
 ただ1人、エスティだけがその場で腰が抜けた様に崩れていた。
 少年とイツキが戦っている中、エスティだけの惨めさを抱えていた。

「私は、私はまた何も出来ないの?」
 自問自答を繰り返した。
 だが、エスティ自身の答えは変わらなかった。

「嫌だ! 何も出来ないのは嫌だ!」
 エスティは覚悟を再熱させ、戦う覚悟を決めた。

「さて、この戦いも終わりにしましょうか。」
「あぁ、そうだな。」

「こちらも終わりにしましょうか。」
「そうだな。これで終われば良いんだがな。」
 それぞれ、最後の一撃に備えていた。

「【中級光魔法】! 〈範囲・死霊天葬フィールド・ターン・アンデット〉!!」
 アカサカとイリアを囲む光の陣。
 その光の陣の中に降り注ぐ、輝く粒が、アカサカとイリアの皮をみるみる内に剥がして行く。

「あら? もうバレてしまいましたか。素晴らしいですね。」
「なんだ、この姿気に入ってたのに。まぁでも、この魔法。美しいわ。」
 そうして、現れたのは2人の華奢な侍だった。
 2人は空中で集まり、何か話し始めた。

「さぁさぁ、現れましたこの姿。」
「知らなきゃ言って聞かせましょう。」
「我はサメ。」
「我はナギ。」
「我ら2人が導くは」
「邪神様が望む世界!」
「我らの元に降臨したまえ!!」
 サメとナギは息の合った掛け声と共に詠唱を始めた。

「〈契約神コントラ〉!」
「〈誓約神オウス〉!」
 サメは契約神コントラに、ナギは誓約神オウスへと変貌を遂げた。
 その姿は、片方ずつの天秤を持った様な姿だった。
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