忘却の勇者と魔女の願い

胡嶌要汰

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第18話「パーティと異変」

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 次の日から少年達は帝国で依頼をこなし、実績を積み上げた。
 着々とランクを上げ、今少年はDランク冒険者まで上がった。
 そして、ある日少年達は冒険者ギルドにやって来た。

「今日の依頼はどれにする?」
「主人がDランクの冒険者になった事で討伐依頼が増えたな。」
「じゃあ、今日は一緒にこのオーク討伐にでも行きましょうか。」
 少年は『一緒に』と言う言葉に少し疑問を抱いたようで、首を傾げた。

「ノーディスにはまだ教えてないかもしれないけど冒険者同士は『パーティ』って言うのが組めるのよ。」
 少年はまたまた首を傾げる。

「要は仮の部隊編成だ。個々の力より他人と協力する事で更なる強さが見込まれるのだ。主人よ、少女と一緒なら大丈夫。今までと同じですぞ、今回は正式な手続きが必要なだけです。」
 コルディスが事細かく教えてくれたお陰で少年も納得した表情を浮かべ、受付に向かおうとした時だった。

「ちょっと待て!」
 どこか、聞き覚えのある声に駆け寄ってくる足の音、横を振り向くと、少年達に向かって来るイツキの姿が見えた。

「俺もお前らのパーティに入れてくれ!」
 ゼェハァ、しながら少年達にお願いするイツキの目は本気だった。

「まぁ、イツキならいいんじゃないかしら?」
「我も少女の意見と同じだ。」
 少年もコクリ、と頷きイツキのパーティ参加が正式に決まった。
 少年達は受付に行き、パーティの登録用紙に名前、性別、ランクを書き込んでいった。

「……パーティ名。」
 少年達はパーティ名を決められずエスティがペンを持ったまま悩んでいた。

「こう言う時の名前ってどんなのがいいんだろうか?」
 コルディスの言ったことに皆頭を悩ませる。

「パーティ名で悩んでいらっしゃいますか?」
 接客していたナナミが少年達に声をかける。

「えぇ、そうなのよ。全然決まらなくて案も出せてないわ。」
「では、他の方のパーティ名を参考になさいますか?」
「えぇ、そうするわ。」
「でしたら、この用紙に目を通してください。」
 ナナミは受付から1枚の用紙を取り出して少年達の目の前に置いた。
 その用紙にはSランク冒険者パーティから作ったばかりのFランク冒険者パーティの名前まで書いてあった。

「[竜の討伐者ドラゴンズ・スレイヤー]に[世界研究団ヴェルト・ドクトル]。名前だけでそのパーティのやりたい事がわかるのね。」
「では、我らがやりたい事は滅亡の審判団ドゥームズデイの滅亡。これをパーティ名に加えるか?」
「それがいいでしょうね。」
「待て待て、前に聞いたお前らの旅に出て来る滅亡の審判団ドゥームズデイって一体なんの集団なんだ?」
 イツキは滅亡の審判団をよくわかっていなかったようだ。

「あんた、知らないの? 滅亡の審判団ドゥームズデイを?」
「あぁ、知らね。その滅亡の審判団ドゥームズデイってなんだ?」
「はぁ、詳しくはわからないけど、滅亡の審判団ドゥームズデイは邪神を復活させようとしている悪党どもよ。私もノーディスも滅亡の審判団ドゥームズデイに酷いことされたのだから私達は復讐するの。」
 エスティはイツキに鋭い眼差しで睨み、イツキに自分の本気を伝えた。

「わかったわかった。そんな怒らなくてもいいだろ?」
「別に怒ってない。」
 イツキの宥めるような言い回しにエスティは不貞腐れながらそっぽを向いた。

「まぁ、それより、早くパーティ名を決めて行こうぜ?」
 イツキはそう言ったが、中々名前が決まらずに少年達は悩んでいた。

「ッ、[誕生の祈願者バース・プレイヤー]。」
 つまりながら、言った少年のパーティ名はエスティ達の心を動かした。

「それいいわね!」
「俺も賛成!」
「主人の言う事は絶対だ。」
 皆が納得し、エスティが用紙に書き込み受付に提出した。

「はい。受け取りました。では、[誕生の祈願者バース・プレイヤー]の皆様オーク討伐頑張ってください。健闘を祈ります。」
 少年達は冒険者ギルドを出てオークのいるクラガリ平野に向かった。
 クラガリ平野まで小さな森を抜けた先に位置した。

「待て、皆身を潜めろ。」
 先陣を斬っていたイツキが森近くの茂みで少年達を止めた。
 目の前に広がるクラガリ平野に群がる数十体の豚の頭に石の槍を持ったオークの群れ。
 バレないように見つからないように少年達は息を潜める。

「こいつらを倒せばいいのね?」
「そうだな。我主人と進化した我の実力ならこれくらいの数すぐにでも倒せるだろう。」
 エスティとコルディス、それに少年は戦闘体制に取り掛かった。

「あれ? イツキどうしたのよ? そんなに悩んで。」
 エスティは考え込むイツキに問いかけた。

「あ、いや、なんでもない。ちゃっちゃと倒しちまおう。」
「そうよ。早くしなさいよ?」
 イツキの頭の中は悩み事でいっぱいになったが、今は依頼のオーク討伐に集中して準備を整えた。

「じゃあ、俺が先陣を斬って行く。その後にノーティ。エスティは魔法で援護を頼む。」
「いいわ。それで行きましょう。流石ねイツキは。ま、私の方はランクは上だけどね。」
「わかってるよ! じゃあ、行くぞ!」
 イツキの鼓舞でタイミングを見計らってイツキはオークめがけて飛び出した。

「「ブルオォォ!!」」
 イツキを見たオークは数十体が同時に槍を構えて突っ込んで来た。

「【刀技】! 〈疾風木暮しっぷうこぐれ〉!」
 疾風の如く戦場を駆け巡るイツキはオークを一体、また一体と首を斬り落として行った。

「主人よ、我らも負けてられませんぞ! 【竜族魔法】〈竜の息吹〉!!」
 イツキの後に続いて飛び出したコルディスは進化したその姿で以前の技と段違いの〈竜の息吹〉を放った。
 その波動はオークの大半を丸焼きにした。

「やるわね。皆」
 後ろでエスティはイツキと少年の大きく逞しい背中を見ていた。

「よっしゃ、あと少しだ! おりゃぁぁ!」
 イツキは次々にオークを斬りつけて駆け抜ける。

「危ない!! 【中級炎魔法】〈火炎槍フレイム・スピア〉!!」
 イツキに飛びかかった一体のオークに鋭く直線に走る炎の槍が突き刺さった。

「助かった!」
 エスティに感謝を告げ、更にオークを薙ぎ倒していく。
 そして、数十分が経過し、少年達はオークの群れを全滅させた。

「ハァ、ハァ、結構倒したな。」
「まぁ、我はこれくらい余裕だ。」
 オークを1匹残らず倒し切ったイツキは息が荒れ、コルディスは余裕の表情を見せた。

「そういえば、イツキ何か悩んでなかった?」
 ふと、エスティがイツキに似たような質問をした。

「あぁ、それなんだが、オークの群れにしては多過ぎた気がするんだ。」
「多すぎる? これが?」
「オークの群れは本来、3~5対程度で動くはずなんだ。だが、今回は数十体はいた。明らかにおかしいはずなんだ。」
「イツキの言う事が本当ならギルドに報告すべきね。」
 エスティはイツキの言った事を素直に受け止め、冷静に返した。

「じゃあ、早くオークの核を取ってギルドに向かうぞ!」
 イツキは倒したオークの胸の部分から黒く鈍く光る宝石のようなものを取り出した。

「これが、核?」
「なんだ、核については知らないんだな。」
「うるさい。早く教えなさいよ。」
 ギルドに向かう途中、イツキは皆に魔物の核について説明した。

 魔物の核。
 それは、魔物が心臓代わりにしている魔石のようなもの、倒された瞬間から毒素を無くし、ただの黒い宝石になる、と言う。

「核って大事なのね。」
「あったりまえよ。オークは核が無きゃ討伐されたとして認められないんだから。」
「なるほどね。理解したわ。ありがとう。」
「おう!」
 仲睦まじく話すエスティとイツキ、少年はそれを朗らかに見守っていた。

 そうして、少年達は冒険者ギルドに着いた。

「これ、オークの核。頼むわ。」
 受付にボンッ、と袋に入ったオークの核を置いた。

「な、なんですか!? この量!?」
 袋の重さ、核の量、共にDランク冒険者がこなせる量ではなかった。

「いくら、Bランク冒険者がいたとしてもですね。」
「え?」
「え?」
 不思議そうにナナミとイツキは「え?」を言い合った。

「エスティ、お前。まさか、Bランク?」
「そうよ?」
「なんで、核について知らねぇんだよ!!」
「いやぁ、前は全部やって貰ってたから。」
 イツキは膝から崩れ落ち、自信を無くしかけた。

「ま、まぁそれでもこの量の説明して貰っても?」
 ナナミはゆっくり、そして冷静に返した。

「あぁ、その事なんだが。」
 すぐに跳ね上がったイツキはナナミに説明した。

「もしかしたら来るかもしれないんだ。」
「来る? 何がですか?」
魔物大群勢スタンピードが。」
 その瞬間。冒険者ギルドが笑いに包まれた。
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