忘却の勇者と魔女の願い

胡嶌要汰

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第16話「魔石と仕事」

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 あれから、イツキは冒険者の仕事に出かけ、少年達はガンケルの店に様子を見に行ったのだが。

「これは、一体どう言うことだ?」
 活気の無かった『天ノ鍛治屋』は見違えるほど大人気店になっていた。
 外にまで行列ができ、店の中は客でぎゅうぎゅうだった。

「おっちゃん! この武器売ってくれ!」
「はいよ! ちっと待ってな!」
 ガンケルは忙しそうに会計をしていた。

「お! 小僧達! ちっと手伝ってくれ! 人手が足りねぇんじゃ!」
 ガンケルは少年の顔を見るなり、お願いした。
 忙しいガンケルを見て少年達は手伝うことにした。
 会計に、品出し、てんやわんやで店の中をむさ苦しく駆け回った。

 仕事が終わったのは夕方どきの事だった。

「やっと終わった~」
 エスティは店の締め作業を終わらせて肩の荷が降りたのか力が抜けた様に座り込んだ。

「今日は悪かったな。ほれ、帝国のコメを使った握り飯じゃ。ジジィの作った飯じゃから不味いかもしれんがのぅ! あはははっ!」
 ガンケルは大皿に何個も乗った白い握り飯を少年達に差し出した。

「握り飯? コメ?」
「なんじゃ、知らんのか? コメは唯一帝国で採れる穀物を脱穀したものを言うんじゃ。それを水で炊いたのがご飯。そして、それを握ったのが握り飯じゃ。」
 コメ、と言う初めての料理に触れた少年達は口に入れる時まで緊張が続いた。
 そして、いざ覚悟を決め、少年は握り飯にかぶりついた。

「……ど、どう?」
 不安がるエスティ、その横で少年は一口、また一口と貪る様に握り飯を食べる。
 エスティとコルディスは向かい合い、意を決して握り飯を一口食べた。

「お、おいしい!!」
 エスティは目を輝かせ、不思議そうにガンケルを見た。

「なんで、こんなに美味しいの?」
 エスティはガンケルに聞く。
 もごもごと握り飯の残った口で。

「ははは! そう焦らんでもいい。ゆっくり食べるんじゃぞ。秘密はソルトじゃ。握り飯にはソルトがよく合う。」
 若者の食べる姿を見てガンケルも握り飯を食べ始めた。

「ふぅ。お腹いっぱい。何個食べたかわからないわ。」
 お腹をさするエスティは満足そうだ。

「少女よ、少し腹がでっぱんだんじゃないか?」
「コルディス! うるさい! 念話で話せばいいでしょ!」
 エスティはコルディスのからかいにイライラして言い合いになった。

「若いっていいのぅ。」
 笑顔のガンケルは少年達を見てはそう呟いた。

「おぉ、そうじゃ。お前らの言っていた物がある程度完成してきたぞ? 最後の仕上げをする前に見てくれ。」
 ガンケルは奥からゴソゴソと持って来た銀のプレートになった装備を重そうに床に置いた。

「これは未完成だが、装備してみてくれ小僧の意見を聞きたい。」
 ガンケルに言われるまま少年は胸の装備から腕、足の順に装備をつけていった。

「おぉ、似合っているぞ主人!」
 銀の胸プレートに腕、足とかなり軽く仕上がっている。

「この後魔石で魔装備にすると更に防御力が上がり、強くなるんじゃがのぅ。」
「ガンケル殿よ、やってくれないのか?」
「やってやりたいのは山々なんじゃが、魔石がなくてのぅ。1つでもあればいいんじゃが……」
 ガンケルは頭を抱え、悩んでいた。

「魔石は知らないけど、ノーティの魔法袋マジック・バックに何個か鉱石が入ってるはずよ。」
「何!? ちと、見せてはくれんか?」
 少年は魔法袋から3つの鉱石を取り出した。

「なんと! エルフの里にしかないエメラルド鉱石にダークエルフの里にしかないアダマンタイト! それと……これだ! これが魔石だ!」
 キラキラと光る鉱石を見てガンケルは大はしゃぎだ。
 エメラルドにアダマンタイト、あまり聞き覚えのない鉱石に少年は首を傾げた。

「とにかく、この魔石を売ってくれ!」
 ガンケルに魔石の購入を言われた少年は魔石を銀貨30枚で売った。

「小僧。こんなに安く売っていいのか?」
 あまりに安すぎる金額にガンケルは不思議がった。
 そして、少年は太刀を抜いて錆の所を指差した。

「わかった。追加で妖刀の錆び取りか。交渉成立だ。ありがとな! 小僧!」
 ガンケルと少年はがっちり握手を結び交渉は終わった。

「錆び取りも含めると2週間ほどかかる。俺の作った模造品の太刀を数本あげる。じゃから、少しの間待っててくれ。」
 そうして、少年達は鍛冶屋を出た。

「主人よ、外に出てガンケル殿の太刀で試し切りしないか?」
 少年達は外に出て魔物との戦闘をした。
 ガンケルの作った太刀は少年にはあまりしっくりこなかったのか、上手く技が撃てない時がある様だった。

「木刀でもこんなに酷くなかったが、やはり自身に合った太刀でないと使えんのか?」
 コルディスは少年の太刀の軌道をずっと見ていたが、見違えるほどおかしく見えた。
 斬道がブレて見える。
 太刀の構えは間違えてはいないはずなのに、少年の太刀は斬る相手に対して真っ直ぐ斬れていなかった。
 
「今日からあまり、戦闘が無いといいですね。」
「そうね、まぁでもノーティは太刀がブレても強いから大丈夫よ。」
 失笑気味に話すコルディスは少年を慰める様に孤児院に帰って行った。
 その日もイツキに決闘を持ちかけられたが、見事に惨敗してしまった。

「お前、弱くなってねぇか?」
 ガンケルの太刀から木刀に持ち替えただけなのに、自分自身が弱くなっている。
 その日から、少年は頭を抱え悩んでいた。

 翌日。

「そろそろお金無くなってきたから私、冒険者の仕事する!」
 朝早くからエスティは少年達に告げた。

「確かに、少女の言う通りかもしれん。主人よ、我も冒険者の仕事をするのはいい事だと思います。」
「でも、コルディス。ノーティって王国から追われてるんじゃなかった?」
「それは大丈夫のはずだ。冒険者は非正規の個人事業主の集まりだ。それ故、偽名を使っても問題はない。」
「個人、事業主?」
「まぁ、全員が社長みたいな物だ。」
「ま、いいわ。じゃあ、ノーティは偽名を使って登録し直しましょ!」
 エスティは少年を連れ、帝国にある冒険者ギルドに向かった。
 少年の顔を布で覆い隠し、ギルドの中へ入って行った。

「主人よ、ここから念話で話させてもらう。偽名はどうするのだ?」
「ノーティとコルディスを合わせて、ノーディスにしようかと、本名にも似てるし。」
「承知した。では、職業はあくまでも魔物使いとしてください。」
「わかった。」
 コルディスの提案により、少年の偽名、職業が決まり、冒険者ギルドの用紙に書いた。

「魔物、使いですか。」
「何か問題でもあるの?」
 蔑む目で見る受付嬢にエスティが異議申し立てをした。

「いえ、問題はございません。ですが、魔物使いは弱いので実際受けられる依頼があるのか。どうか。」
 受付嬢の言っている事は間違ってはいなかった。
 帝国では個人の強さが己の功績を上げる。と、されているからだ。
 魔物を使役して戦わせる事自体笑い物にされる事だった。
 
「まぁ、いいわ。私がメンバーにいるのだもの。」
「わかりました。一応、規則ですので登録試験を受けてください。」
 ノーティ、改め、ノーディスは受付嬢に案内され決闘場にやって来た。
 道中、クスクスと他の冒険者達に笑い物にされながら決闘場に立っていた。
 王国に似たような作りをした決闘場だ。

「試験官は俺だ。」
 そう言って奥から出てきたのは太刀を持ち、葉巻を口に咥えた男だった。

「おぉ、今回の受験者は魔物使いの太刀の剣士か、参ったなぁ。太刀の侍がそこまで舐められていたとはな!」
 男の放つ殺気は怒りや憤りの感情が溢れ出し、重く冷たい魔力をも放っていた。

「今日の試験官をやるAランク冒険者のラグディア=アレバントだ。ルールは簡単。俺を納得させろ!」
 ラグディアの殺気は更に強く、重くなっていた。

「それじゃあ、試験、開始だ!」
 ラグディアの合図で少年は、飛び出した。
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