忘却の勇者と魔女の願い

胡嶌要汰

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第12話「メモと鍛治屋」

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 翌日。
 エスティ以外気持ちよく目が覚め、宿屋で朝食を食べた。

「少女よ、どうやら元気がないが大丈夫なのか?」
「だ、大丈夫よ。なんでもないから。」
「なら、いいんだが。」
 コルディスは、エスティに心配そうに聞いているが、心竜の力を使いエスティの心の内を読み取っていた。

(少女も、その様な年頃か……)
 コルディスはエスティと少年に尊さを感じていた。

「あ、そうだ。あのダークエルフの長老から預かったメモ、開けてみましょう。」
 エスティがポケットから1枚の紙切れをコルディスに手渡す。

「どれどれ、なるほど。帝国で1番腕の良い武器屋の紹介状ですね。『天ノ鍛治屋あまのかじや』と言うそうですね。何せ、帝国には勇者の伝えられた文字が主流故、難しい字が多いですので我が案内しよう。」

 朝食を食べ終わった少年達は宿屋を出て、国1番腕の良い武器屋である『天ノ鍛治屋』にコルディスが案内役をしてくれた。
 案内された『天ノ鍛治屋』はオンボロの店だった。

「この店であってるの?」
 エスティの疑問は最もである。
 少年達が想像していた、鍛冶場はもっと輝いていたのだから。

「確かに、ここのはず。文字が薄れてあるが、天ノ鍛治屋と書かれている。」
「わからないなら、聞いてみるまでよ。」
 エスティは店の中に入って行った。
 少年達もエスティの後をついて行くが、そこに武器屋はなく。錆の生えた剣と乱雑に樽に入った刀数本が置いてあるだけだった。

「すみませーん! ここで武器を販売してくれると聞いたのですが!」
 店中にエスティの声が響き渡る。
 店の奥からガラガラと音を立てて1人の小柄で白い髭を生やした男が顔を出した。

「生憎だが、今残っているので最後だ。他、当たってくれ。」
 男は厄介払いの様に言い、また奥に入って行った。

「これ、紹介状なんですが!」
 男に負けじとエスティも招待状を持ち、男を呼んだ。

「あぁ? 紹介状? 一体誰から、って、あぁ。なるほど。」
 紹介状を気にした男はエスティを見るなり状況を理解した様だった。

「あの婆さんの頼みだが、今は出来ねぇ。」
「どうして? あなた、腕はいいんでしょ?どうにか作れないの?」
「無理じゃな。」
 男は頑なに拒否してくる。
 男はまた、奥の部屋に戻ろうとするが、少年の背負っている太刀に目が止まった。

「む? 小僧。その太刀、見せてはくれんか?」
 少年は言われた通りに男に太刀を差し出す。

「これは、妖刀じゃな。」
「妖刀!? 妖刀とは、あの妖刀か!?」
「なんじゃ、そのドラゴン話せたのか。」
 コルディスはハッとした様に口を手で隠す。
 だが、男はお構い無しに妖刀をじっくり眺めていた。

「心配せんでも他言せんわい。ただ、この妖刀丁寧な手入れじゃが、錆が完全に落ち切れてないのぅ。これじゃ、本来の力は発揮せんわい。」
 妖刀を眺めた男は少し楽しそうだった。

「小僧よ。取引せんか?」
 男は少しだけ微笑んで少年に取引を持ちかけた。
 男は少年達を部屋に招き入れ座敷に座らせた。

「ならば、主人に変わり我が話そう。我は心竜コルディス。主人との念話を通して話させてもらう。それでいいか?」
「わかった。何か事情がなるのかは知らんが、それで構わん。」
 少年とコルディスと男の3人で取引が始まった。
 エスティは自分の要望で店内の武器を見て回っている。

「俺はガンケル=オフトロフ。種はドワーフじゃ。早速じゃが、俺が取引したいのは2つ。1つは小僧の太刀を俺に売って欲しい。そして、もう1つは鉱山から鉱石を取って来て欲しいんじゃ。」
 ガンケルは少年に2つ取引を持ちかけ、少しだけ願う様に取引した。

「主人よ、いかが致しましょう。」
 コルディスと少年は念話で取引の内容の承認を行った。

「1つ目は絶対ダメ。だけど、錆を取るのはやって欲しいな。それで、鉱山に行くのは構わないよ。」
「かしこまりました。」
 コルディスは少年の要望を聞き受け、ガンケルに話し始める。

「我の主人、ノーティ殿は1つ目の、売却は拒否なされておりますが、錆の落としてくれるならそれ相応の代金を支払おうと、思っております。そして2つ目、鉱山には行かせてもらう。」
「本当か!?」
「もちろん、これは契約だ。嘘偽りはない。」
「まぁ、妖刀が手に入んなかったのは残念じゃが、まぁ、鉱石を取り入ってくれるなら武具を作ってやろう。20個ほど頼めるか?」
「取引成立だな。」
 少年とコルディス、そしてガンケルは固い握手を結び取引は終了した。

「終わった?」
 と、店内から顔を覗かせるエスティ。

「嬢ちゃん。待たせてすまんかったわい。」
「いえいえ、それで武器は作ってくれるんですか?」
「少女よ、これから鉱山に行くぞ。」
「え? 鉱山? 今から?」
「早いほうがいいからな。」
 即断即決。
 コルディスは何事に対してもこの一言が似合うドラゴンだった。

「それで、どこの鉱山に行くの?」
「グレートシュタイン鉱山じゃ。最近、強い魔物が住処にして中々鉱石が市場に出回ってこないんじゃ。」
「わかった。すぐに旅立とう。」
「あぁ、鉱石は帝国から見える灰色かかった山じゃ。それで、このツルハシを持って行け!」
 ガンケルは少年に大きなツルハシを渡した。
 
「有難う。ガンケル殿!」
 コルディスは少年達を背負い、すぐ山に飛んでいった。
 そして、数時間飛び、グレートシュタイン鉱山に降り立った。

「なんか、少しだけ埃っぽいわね。鉱山にも埃ってあるのかしら?」
「これは火山灰だ。帝国の山はよく噴火すると噂だからな。」
「じゃあ、これ大丈夫なの?」
「おそらく」
「おそらくって何よ!?」
「少し登ったところにマグネタイトの発掘場があるはず。」
「マグネタイト?」
「全国的に流通している鉄とは違い、帝国の刀鍛冶師が好んで使う者と聞いておる。詳しいことはわからんがな。」
「そうなんだ。」
 コルディスの話を聞きながら、少年達は発掘場に近いていた。

「なんなんだ? あいつら?」
 少年達を陰で追う1人の青年も近いていた。

「ここだな。」
「ここ、ワイバーンの巣窟になってるじゃない。」
 発掘場を塞ぐ様に眠る、小型の竜、ワイバーンが2匹。
 小型とは言え、強力な竜の攻撃に帝国の者は太刀打ちできなかったのであろう。

「主人、少女よ、今のお主達ならばあの2匹を倒せるであろう。」
 コルディスの言葉に自信を持つ2人は勢いよく飛び出した。

「「ギャオォォォス!!」」
 敵を察知したワイバーンは己を鼓舞するかの様に雄叫びをあげる。

(【太刀技】〈抜刀・炎陣一閃えんじんいっせん
 炎を纏った太刀はワイバーンの首を断ち斬った。

「【中級炎魔法】〈炎嵐フレイム・ストーム〉!!」
 エスティの放った魔法は炎が嵐の様にワイバーンを飲み込んでいった。
 そして、2人はワイバーン2匹をいとも簡単に倒して発掘場に入って行った。

「な、なんなんだ、あいつら。」
 陰で隠れて見てた青年は少年達の強さに驚き、少しだけチビってしまった。

「ここが、発掘場なのね。」
 暗く、不気味な洞窟は奥深く異様な雰囲気を出していた。

「主人よ、ここの最奥に何か居ます。」
 コルディスは何かを察知したのか、少年に存在を告げる。

「何かいるの?」
「少女も気付きましたか、おそらく、あのワイバーンの親玉かと。」
「なら、ここで仕留めるわ。」
「いえ、我が1発で仕留めよう。【竜族魔法】〈竜の咆哮〉!!」
 コルディスの少しだけ威力を抑えた口から出す咆哮はこれまた、ワイバーンの親玉であるジェネラル・ワイバーンを骨ごと消し去ったのだ。

「コルディスって本当に強かったのね。」
「これぐらい我には余裕だ。」
 自信満々に胸を張り、誇らしくコルディスは言った。

「……?」
 鉱山を出る少し前、少年はキラキラとした鉱石を1つ掘り出してマグネタイトと一緒に魔法袋マジック・バックにしまった。

 そして、少年達はマグネタイト20個と少年の拾った鉱石1つを持って、天ノ鍛治屋に帰って行った。
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