忘却の勇者と魔女の願い

胡嶌要汰

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第10話「師匠と修行」

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「こんな事で悪魔に人格を乗っ取られるとは無様のものじゃのぅ。まぁ、忘虐になってないだけまだマシというべきか。」
 少年の立っているところは白い靄がかかり、足をうまく地に着けることのできない空間だった。
 自分の体が浮いているのか、はたまた、この空間が少年と離れているのか……
 そんな空間で師匠アメリの声が響き渡る。

「お主はまだまだ、心が弱い。じゃが、人を守ろうとする信念はある。複数のことに囚われるな自分の信念を曲げずにいればいつかはそれが現実へと変わるじゃろう。」
 師匠アメリは、手のひらを少年の頭に乗せ、少しばかり悲しそうな目で撫でた。

「目ぇ覚めたじゃろ? 早よ行ってやれ。」
 遠ざかる師匠アメリ、靄がかかり更に見えなくなって行ってしまった。
 そこで、少年は目が覚めた。

「あ、やっと起きた。あんた、5日間も起きてこなかったのよ? 死んだのかと思ったじゃない。」
 エスティは少しだけ悲しげに少年の元で話す。
 
「主人はこんなのでやられるお方ではござらん!」
「はぁ!? やられてたじゃん! 間一髪だったじゃん!」
(エスティとコルディスがごちゃごちゃ言っている。けど、身体痛くて動かせないや)
「あんたら、意識戻ったことだしノーティをゆっくりさせてやれ」
 おばば様がエスティ達に言う。
 そのまま、エスティ達を部屋から連れ出し少年を静かな部屋で休ませた。

「おばば様。ちょっと、話があるの」
「……分かったわ。私の部屋に行こうか。」
 おばば様が見たのはエスティの覚悟を決めた鋭い目であった。
 エスティとおばば様は部屋に行き、対面で座る。

「それで、話って?」
「私、あの時ね……」

 それは少年がギャグラと壮絶な戦闘を繰り広げている時だった。

「【初級炎魔法】〈炎槍フレイム・ランス〉!!」
「ダメよ。その魔法見飽きたしね。」
 カトリネは軽々しくエスティの魔法を避ける。

「【瞬剣】〈迅的・影繍しゅんてき・かげぬい〉!!」
 少女は投げられた短剣を間一髪で避けた。が、少女の影に刺さり少女の動きを止めた。

「これでトドメよ! 【爽剣】〈風疹戦火ふうしんせんか〉!」
 カトリネは腰につけたもう一本の短剣を持ち、風の斬撃に炎を纏わせた斬撃を、少女の元へ一直線に放った。

「動けない、けど、魔力は動かせる!」
 少女は向かってくる斬撃に詠唱を唱え始めた。

「我の身体に流れる魔力よ、我の願いと共に水の盾となり我が命を守り給え! 【中級水魔法】〈運河の盾キャナル・エスクード〉!!」
 膨大な水を魔力で生み出し、カトリネの斬撃を丸ごと受け止めた。

「へぇ、まだそんだけの魔法撃てる魔力あるんだぁ。じゃあ、そろそろトドメ刺しちゃおうかな!」
 目をギラギラさせたカトリネは短剣を動けない少女に向けトドメを刺そうとした。
 少女の目はカトリネへの恐怖から死への恐怖へとなり少女の心臓は張り裂けそうだった。

「死ねぇ!」
 カトリネは少女の心臓に突き刺そうとした時だった。
 空に黒いドラゴンと左半身が黒い男が宙に浮いていた。

「チッ……ギャグラの奴め。ここで解放しやがった。」
 カトリネは少女にトドメを刺すのをやめた。そして、それは少女にとって絶好の好機だった。
 幸運にもエスティは動けるようになっていた。

「【初級炎魔法】〈炎槍〉!!」
「チッ…こっちは効果切れタイム・アップか! ついてないねぇ。」
 カトリネは掠ったのか、脇腹を押さえて少女に話しかけた。

「どうだい? 向こうはそろそろ終わらせるらしいわよ。こっちも全力出し切って終わらせないかしら?」
「いいわね。やりましょうか。私、絶対に負けない!」
 エスティは覚悟を決め、杖を構える。
 カトリネは距離をとり、短剣を構える。

「じゃあ、行くよ!」
 カトリネは構えた短剣をエスティに向け、走る。

「我が身体に流れる魔力よ」
 エスティの魔法が掠った足はもつれ、カトリネは途中転けてしまう。

「我が願いと共に炎を放ち」
 カトリネは少女の首元を狙って短剣を突き刺そうとする。

「敵を撃ち倒せ! 【上級炎魔法】〈火炎竜の吐息サラマンダー・ブレス〉!」
 カトリネの剣はエスティには届かず、そのまま焼け焦げて倒れた。

「まだ、意識はあるようね。」
 少女はカトリネの生死を確認した後、すぐに少年の元に向かった。

 そして、ダークエルフにカトリネを里中を捜索したが、見つからなかったと言う。

「…………と、言うことなの。あの時は運良く倒せた。けど、次は絶対殺される。だから私、強くなりたい! そして、ノーティを守れるほど強くなって滅亡の審判団ドゥームズデイを全員殺してやりたい。」
 少女は歯を食いしばり、おばば様に自分の覚悟を伝えた。
 おばば様は、徐に立ち上がりベランダから空を見上げた。

「そろそろ、をやってもいいかのぅ。」
「おばば様?」
「5日後じゃ。5日後、ノーティを連れて儂の所へ来るんじゃ。さ、今日は休みな。」
 おばば様は、その話をしてエスティ達を部屋から追い出した。

「もう! 5日後って何!? 今でいいじゃん! 今で!」
「少女よ、今はおばば様の言ったことに従うだけだ。」
「まぁ、今は待つしかないかもね。」
 俯き部屋に戻るエスティ。
 その日はみんな静かに眠りに着いた。

 5日後。
 少年の傷は多少を残し、大部分は治っている。

「来たか。」
「おばば様! 連れて来たわよ!」
 エスティと少年、コルディスはおばば様の部屋に来た。

「さぁ、こっちに来な。」
 おばば様は外に出て北の森の奥深くに少年達を連れてきた。

「一体どこに連れて行くの? おばば様?」
「もうすぐ着く。お、ここじゃ。」
 木々に覆われた森の奥深く、草木に隠されたところに一本の剣が地面に突き刺さっていた。

「何? この剣。」
「この剣は400年前の勇者が残して去った伝説の剣じゃ。」
「伝説の剣!? なんでそんなのがあるの!?」
 おばば様いわく、初代勇者が最後にエルフの里に寄り、残して行ったのだと言う。
 そして、伝説の剣は里の者が抜こうとしても全く抜けなかったのだと言う。

「なるほど。で、この剣とノーティに何の関係があるの?」
「もしかすると、ノーティは勇者の生まれ変わりかもしれんということじゃ。」
 愕然とする一同。

「待て待て、おばば様よ。我の主人が生まれ変わりと? 本当に信じておるのか?」
「あくまでも仮説じゃ。ノーティのその強さ、悪魔憑き故なのも窺えるが勇敢に立ち向かう姿、まさに勇者! ノーティの可能性を信じてみようかと思うて。」
「ま、やってみるのが主人には良いことか。」
 コルディスは納得した表情を浮かべうん、うん、と何回も頷いていた。
 少年は勇者の剣に手をかけた。

 しかし、勇者の剣は一向に抜けなかった。
 少年の怪我があるとは言え、少年の全力で抜こうとしたが、やはり剣が抜けることは無かった。
 それに、勇者の剣を握っている時だけ冥界神アヌビスの力が弱まっていた。

「まぁ、無理もないか。抜けなかったことは残念じゃが、これから、儂らがお前さん達の修行相手になってやろうぞ。」
 後から来た大人の女性エルフもおばば様のところに並んだ。

1体1マンツーマンでみっちり、しごいてやろう。覚悟することじゃな。」
 そこから、約1ヶ月程の短期修行が始まった。
 少年と少女が受けた修行は一言で言えば地獄そのもの、身体の限界突破に魔力量の増強、少年にはみっちりと魔法座学を叩き込ませた。

「して、コルディスよ。なぜ、お前さんのようなドラゴンがあの少年と従属契約を結んでおるのじゃ? しかも8割ほど主従がはっきりしておる程にな。」
「主人とは森で出会い、能力故に主人の夢を見たのです。」
「ほぅ、夢とな。」
「えぇ。それは少年1人が背負うには大きすぎ、そして、とても素晴らしき夢と我は従属契約を結んだのだ。」
「その夢は何なのじゃ? お前さん程のドラゴンを動かす夢とは」
「『世界平和』だったのだ。」
「……そうか。」
 おばば様は、少年の夢に心を打たれ微笑み懐かしむ様に夕空を見上げる。

「懐かしいのぅ。」
 一言、おばば様は言い、少年たちの元へ行った。


滅亡の審判団ドゥームズデイ本部~

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