忘却の勇者と魔女の願い

胡嶌要汰

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第8話「戦闘と正体」

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 少年達は東風とうふうの森に降り立った。
 東の森とさほど変わらない地形に唯一、瘴気の漂う箇所があった。

「主人よ、この森の奥が瘴気に満ち溢れています。おそらくそこに。」
「ありがとう」
「少女も勘付いているな?」
「えぇ、もちろんよ! この嫌な魔力わからない方がおかしいわ!」
 緊張感も漂う中、少年達は森へ入っていった。
 そこに、少年目掛けて矢が飛んでくる。

「危ない!」
 コルディスの翼で直前に弾いた。
 そう、この戦いは森に入った瞬間から始まっているのだった。

「2人とも、我の背中に!」
 コルディスの背中に乗って森の中を駆け抜ける。
 矢をも通さないコルディスの体は一瞬でダークエルフの里まで辿り着いた。

「な、何事だ!?」
 少年たちが目にしたのは瘴気に満ち溢れてた里に襲いかかってくるダークエルフ達の姿だった。

「なぜ、こんなにも一気に襲いかかって来るんだ!?」
 コルディスも数に押され、耐えるので精一杯だった。

「さぁさぁゲストのお出ましだ!」
 不気味で陽気な声をあげ、里長のベランダから顔を出す男。
 男はベランダからダークエルフに向けて指示を出す。

「さぁ、働け! ダークエルフ傀儡共!! 狩の時間だ!」
 その声にダークエルフはゾロゾロと出て来て武器を構える。

「まだ、こんなにも居たとは。主人よダークエルフは我が引きつける故あの男を!」
 コルディスは雄叫びを上げ、自分自身に攻撃を向けた。

「【竜族魔法】〈竜の爪ドラゴン・クロー〉!」
 コルディスの爪は数百人いるダークエルフを吹き飛ばした。
 そして、その好機の内に少年と少女は里長の家に向かって走った。
 距離はそこまで遠くない、だが、襲い掛かる弓矢と剣防いでる間にも1人また1人とダークエルフが増えてくる。

「くくく、無理だよ。ここまで来るなんて無理だ。俺の支配の邪神アスタロト技能スキル、〈増大する傀儡コピー・マリオネット〉でダークエルフを増やしてるんだからよぉ!」
 不吉に笑い、戦況を楽しむ。
 男の狂いジャンキーは止まらなかった。

「あんたも、変わらないねぇ。」
「あぁ、そうだな。お前、あの女を頼むわ」
「あいよ、あんたもあの少年にやられないようにね。」
 女は部屋を出て行き、少年達の元へ向かった。

「ノーティ! もうすぐ着くわよ!」
 エスティと少年は里長の家付近まで近づいた。

「通させないよぉ」
 周り女の声が聞こえる。

「オラァ!」
「ノーティ! 危ない!」
 女の短剣の攻撃を少女の杖で防ぐ。

「その杖、硬いねぇ。どうだい? 私に渡してくれないか?」
「有り難くもない提案だね。渡す気は無いわ! 我の身体に流れる魔力よ我の願いと共に……」
「詠唱中がら空きだよ!」
「きゃ!」
 エスティは女の短剣の攻撃をくらい、足元に切り傷を負った。

「随分、高い魔力だけど詠唱はダメだよねぇ。隙が多すぎる。」
「【初級炎魔法】〈炎槍フレイム・ランス〉!」
「おっと、やるねぇ。ちょっと掠ったか」
「これくらいなら無詠唱もできるのよ!」
 少女と女は互いに睨み合う。

「あんた、強いねぇ。名前はなんで言うんだい?」
「名乗るならまず自分からじゃない?」
「はぁ、そう言うとこめんどくさいねぇ。ま、いいや。私の名はカトリネ。滅亡の審判団ドゥームズデイ所属、懲役級センテンス・クラス幹部よ」
「へぇ、滅亡の審判団ドゥームズデイねぇ。私はエスティ!! あんたを倒す!」
「物騒だね。じゃ、行くよ!」
 カトリネとエスティの戦いは激しく、そして荒々しい剣と魔法のぶつかり合いとなった。

 その頃、少年は里長の部屋につながる階段を駆け上がっていた。

(もう、少しだ。)
 扉の前まで来ると勢いよく開けて男と出会った。

「意外と早かったねぇ」
 ニヤリ、不気味に笑う顔は少年の恐怖心を駆り立てた。

「その顔、いいねぇ。ゾクゾクするよ。僕チンの僕チンがビンビンだよ。」
「ッキ、ッキモ」
 少年は怯え、一言男に衝撃を与えた。

「僕チン、プッチン来ちゃったよ。あぁ、殺るしかないねぇ。殺るしかなくなっちゃったなぁ!」
 男は少年に飛びかかり斬りかかった。

「僕チンの剣術を受け止めるなんてやるじゃん」
 少年の太刀はかろうじて受け止めているが男のパワーが勝っていた。

「まだまだ、だね。そんな強さじゃ僕チンガッカリしちゃうよ。本気を見せてよ本気を!」
 男は更に少年に斬りかかる。

「ほらほら、どうした? 君の力はそんなもんなのか?」
 男が斬りかかれば斬りかかるほど少年の腕はもつれ、太刀を握る握力が無くなっていく。

「はぁ、そんなんじゃダメだよ。全然ダメ。もう?」
 男は先ほどと比べ物にならないほどの殺気を放ち、少年に斬りかかる。
 少年は徐に鞘にしまった太刀を腰に当てた。

「どうした? 技でも撃つのか? 楽しみだなぁ。早く撃ってくれよ! なぁ!」
(【太刀技】〈抜刀ばっとう桜花月照おうかげっしょう〉!)
 少年は太刀を鋭く横に振り抜き、剣で防いだ男を吹き飛ばした。
 綺麗な弧を描く斬撃は男の剣にヒビを入れた。
 
「やるねぇ。それでこそ僕チンの相手が務まるっつーわけだ! あははははっ!! さぁ、もっと殺り合おうよ。」
 男の目つきが変わった。
 もっと鋭く、もっと不気味に焦点の合っていない目が物語っていた。

「おいでよ。〈支配の邪神アスタロト〉。」
 レイバントの時とは違い、男は詠唱無しで自身を悪魔に変えた。
 男の悪魔は左半身が悪魔と化し、魔力で造ったドラゴンを召喚させた。

「ははははっ! どうだ? これが僕チンの悪魔。支配の邪神アスタロトさ! あ、そう言えば僕チン名乗ってなかったね。」
 戸惑いを隠せない少年を横目に男は笑いながら少年に話し始める。

「僕チンは滅亡の審判団ドゥームズデイ所属、死刑囚級デス・ザ・ロウギャグラ=カルタロッソだ。どう? もっと絶望した?」
 滅亡の審判団ドゥームズデイの階級。
 未だわかっていない少年は彼への恐怖心が憤りへと変わっていった。

「あぁ、嫌いだよその目。僕チンを見下したように怒ってよぉ。興が冷めた。もう殺っちゃうわ。」
 ギャグラは少年に指を刺す。

「〈支配の兵レクトル・ポーン〉〈支配の騎士レクトル・ナイト〉」
 ギャグラは、黒い魔力で出来た歩兵と騎士を創り出した。

「それにあいつらも呼んじゃお! 〈増大する傀儡コピー・マリオネット〉!」
 ギャグラは追加でダークエルフも造りだした。
 少年は囲まれ、1体1体を倒すのに精一杯になってしまった。

「あいつはここで、こいつはこの位置に! やっぱ追い詰めるのって楽しい!」
「…グァッ!」
 少年は騎士に背中を斬られてしまった。

(【太刀技】〈抜刀・孤月六花こげつりっか〉!)
 太刀を頭の上に持ち上げ振り下ろす。
 魔力で生み出す花の斬撃が辺りの兵士達を斬り刻む。

「へぇ、やるねぇ。じゃ、支配の騎士レクトル・ナイト〉を追加っと!」
 ギャグラは騎士を数百体追加で呼び寄せた。
 斬っても斬っても出てくる騎士に歩兵にダークエルフが増えて少年の手に負えなくなってしまった。

「まだまだ出てくるぞ! 〈支配の陣形レクトル・タクティクス〉!」
 呼び出した兵達を真ん中に固め、陣形を固めた。

「【太刀技】〈抜刀・桜花月照おうかげっしょう〉!!」
 少年の技は陣形を崩せず、増えて行く兵達は守りを固めていった。
 しかし、少年は攻撃を止めはしなかった。
 焦り、憤り、太刀を振り回した。
 だが、状況は変わらず。ギャグラが笑うだけだった。

 数分が経ち。
 攻撃を止めた少年は徐に魔法袋マジック・バックに手を入れた。

「ッこ、ッこれ…」
 少年は1つの瓶を取り出した。
 苦渋の表情を浮かべ、兵達が集まった陣形に投げつけた。
 だが、瓶から溢れ出たのは何かの液体だった。

「なんだあれ? ……ッ!! 〈支配の陣形レクトル・タクティクス解除〉!!」
 騎士達の持っている剣と鎧から飛び交う火花が液体に引火した。

「ッお、ッオイル」
 瓶の中身の正体はオイル、そして瓶自体に引火増強のエルフの魔法がかかっていた。
 エルフの引火増強魔法は、小さな火花でも最も簡単に引火出来るようにオイル全体を魔法でかけた。

「ックククク、あぁ! はっはっはっ!! 残念でしたぁ! 俺の支配の邪神アスタロトの本当の能力ちからは過去と未来を見据える事だ!」
 少年の絶望するまなこ
 ギャグラは笑い、少年に指を刺す。
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