忘却の勇者と魔女の願い

胡嶌要汰

文字の大きさ
上 下
7 / 21

第7話「囚人と東風の森」

しおりを挟む
 一体、どれくらい寝たのだろう。
 牢屋の床が冷たく、それがまたちょうど良い温度で少年を寝かしつける。

「おい、起きろ!」
 ハッ、とした様に少年は飛び起きた。

「囚人ノーティ、釈放だ。」
 ついに、少年は牢屋から解放された。
 牢屋を出た先ではエスティが待っていた。

「来たわね。じゃ、おばば様のところに行くわよ」
「ッお、ッおばば、ッ様?」
「そうよ。おばば様、この里の長をやってるの。今日はおばば様に呼ばれているの」
 少し早歩き気味に歩くエスティ、焦っているのか、はたまた急いでいるのか。
 少年とエスティは里の長、おばば様の家の前に着いた。

「失礼します。おばば様。エスティです。」
「どうぞ」
 扉の奥から細々と籠った声が聞こえる。
 扉の中に入るとシワの多い杖をついたおばば様と出会った。

「どうぞ、お掛けくだされ。」
 おばば様はエスティと少年を座らせてゆっくり細々ながら話をした。

「まずは、無罪の罪を押し付けて悪かった。このは詫びとしては何だが、里1番の鉱石じゃ。」
 おばば様が取り出した鉱石はエメラルドに薄緑に輝いていてとても綺麗だった。
 少年は鉱石をグッ、と握りしめて1つ礼をして感謝を伝えた。

「お前さんは話せないのかのう?」
 少年はコクリ、と頷く。

「あの、話すドラゴンが通訳代わりじゃったか?」
 少年は再びコクリ、と頷く。

「なら、先にあのドラゴンの封印解除からじゃな。付いてきなさい。」
 おばば様は2人を連れて封印石の前まで重たい足を運んだ。

「この封印は儂の力でしか解けないのじゃ、しばし待たれよ」
 おばば様は詠唱を唱え始めた。
 封印石に魔力が集まってくるのが分かる。
 ただの石がみるみる内に魔力を帯びて、破壊された。
 その石の中からコルディスが現れた。

「おぉ、主人。久方ぶりでございます。」
 笑顔で少年に駆け寄るコルディスは一言少年に挨拶をし、エスティを鋭く睨んだ。

「して、主人。そのエルフをどう落とし前つけさせましょうか?」
「大丈夫だ。この人達は悪いエルフじゃない」
「ですが、」
「もう、大丈夫だ」
「主人が言うなら」
 コルディスは怒りを鎮めてくれた。

「あなた、ドラゴンとお話ができるの?」
「そこの少女よ、我らの念話が聞こえているのか?」
「いえ、聞こえないわ。だけど、精霊を通じて微かに」
「エルフにもこれ程の力の持ち主が居たとは」
「少し、話を戻してもいいかの?」
 コルディス達が談笑中、おばば様が話し始めた。

「して、ノーティと言ったかの? 其方の目的は?」
「主人の代わりに我が話そう。我はコルディス。主人の目的は滅亡の審判団ドゥームズデイの撲滅。そのため、アメリ師よりここへ来るよう助言された次第。」
「ドゥ、滅亡の審判団ドゥームズデイ!?」
 おばば様は腰を抜かして驚いた。

「ノーティ! 手伝って! この話の続きはおばば様の部屋に戻ってからにしましょう」
 少年は頷きおばば様をおばば様の部屋に運んだ。

「はぁ、すまないねぇ」
 寝転がりながら話すおばば様。

滅亡の審判団ドゥームズデイは儂らと同盟を組んでおるダークエルフの里を洗脳し、奴等はそこを住処にしよった! そして、奴らを討伐に出かけた男達も皆やられ里には女しか居なくなっていたのじゃ!」
 おばば様は、憤りを何処にも出せずただ里の皆を守る為ダークエルフとの同盟を断ち切り里全体の隠蔽を強化したと言う。

「そんなことが、どうされます? 主人」
「俺も滅亡の審判団ドゥームズデイが許せない。だから行こう! ダークエルフの里へ!」
「言うと思いました!」
 コルディスはおばば様に経緯を話した上で少年と共にダークエルフの里へ行くことを決意した。

「ダークエルフはこの東の森を出て少し北の方向にある東風とうふうの森へ行くとある。ダークエルフ自体強力な戦士故、十分に気をつけてくだされ。」
「わかりました。必ずやダークエルフを救い出して見せます。」
 少年とコルディスは準備に取り掛かった。

「ねぇ」
 後ろから少年を呼ぶ声。

「本当に行くの?」
 少年がふと振り返るとそこにエスティがいた。

「主人は行かなければならない。と、申しております」
「なら、私も連れてって!」
 エスティの口からは思いも寄らぬ発言が飛んできた。

「何を言う。これから向かうのは危険だ。いくら強いとはいえ少女を連れて行くことは…」
「何? 私が女だから? 私が危険を怖がるとでも? そんなのあなた達の妄想に過ぎない! 私は強い! だからあなた達と一緒に滅亡の審判団あいつらを殺してやりたい!」
 少女の言葉には心を震えさせる何かがあった。

「な、何よ」
 少年はエスティの元へ寄った。
 そして、エスティの手をグッ、と強く握りしめた。

「連れて行こう! コルディス!」
「主人様が言うのなら」
 少し呆れ顔のコルディスだが、少年の言葉で意を決した。

「主人より、了解の言葉を賜った。これからよろしく頼む。」
「えぇ! もちろん!」
 エスティも少年の手をグッ、と握り返す。

「ならば、今日中にこの里を出る故今すぐ出発の準備を」
「えぇ、わかったわ」
 エスティは荷物をとりに家に帰った。

 夕暮れ時。
 少年とコルディスはエルフの里の出口でエスティを待っていた。

「まだ、行かれないのですか?」
「えぇ、1人待っている故」
 里の奥から走ってくる少女の影。

「お待たせ~!!」
 息を切らしながらこちらに来るエスティ。
 エスティの存在に驚くおばば様。

「な、エスティも連れてゆくのですかな?」
「えぇ、それが少女の頼み故」
「そうですか、あのエスティが自分で、そうだ! これを持っていってくだされ。」
「これは、」
魔法袋マジック・バックじゃ、その中に必要な物は全て入ってる。」
「有り難く頂戴する」
 少年はおばば様から貰った魔法袋マジック・バックを肩に下げた。

「おぉ、似合っております。では、我等の盟友をよろしく頼む。」
 これから送り出すおばば様は1人1人に固い握手を結び見送った。

「絶対にダークエルフの洗脳を解くぞ!」
「はい! 主人よ!」
「ちょっと、何言ってるの?」
「激励の言葉だ。」
「ふーん、まぁ頑張ろっか!」
 少年達は士気を高め、コルディスは翼を広げる。

「では、参ります!」
『おう!』
 速く、高々と上昇する。

「うわ! 速い! ドラゴンってこんなに高く上がるものなの!?」
「こら、背中ではしゃぐな。」
「だってだって~」
「やはり、少女は少女だな」
「何~!!」
 コルディスの背中の上で談笑しているが、コルディスに乗れば東風の森はすぐに着いてしまう距離であった。

 数時間後。

「主人よ、近づいてきました。」
「わかった」
「少女も、気を引き締めろ。敵は目と鼻の先だぞ?」
「わかってるわよ! 今、魔力を高めているの!」
 各々、戦闘への気を高め意を決する覚悟だった。
 そして、刻一刻と戦闘へのカウントダウンが迫っていった。


 ~一方、東風の森にて~

「伝令です! 東の森方向から一体のドラゴンがこちらに向かって来ています!」
 薄暗い、里の中。
 響き渡る伝令の声。

「へぇ、それは僕チンの支配の邪神アスタロトもうずうずして、たまらないよ!」
 派手な緑色の髪をし、利き手に持った片手剣と逆手に逆に持った短剣を持って不気味に微笑む。
 そして、瘴気に溢れてダークエルフが上の空の表情でフラフラ歩き回っている。
 大剣を引きずり、水浴びをしてない皮膚は腐り悪臭が漂っている。

「さぁ! 僕チンの奴隷ちゃん達ぃ!! ここにド~ラゴンが来るんだって!! 僕チンを守って、僕と一緒にパーティを開こうじゃないか!!」
 男の一声はダークエルフ達に武器を構えさせ、操る様に動かした。

「あぁ、うずうずするよ! 早く来ないかなぁ!! 落ち着けって支配の邪神アスタロト、僕チンも胸騒ぎが止まらないんだからさぁ。」
 男は1人ポツポツと1人ごとを言うそれはまたしても不気味で不吉であった。
 ダークエルフの里がある北の森に突風が吹き荒れる。

「ようやく来たようだね。さぁ、パーティの始まりだ。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

収納大魔導士と呼ばれたい少年

カタナヅキ
ファンタジー
収納魔術師は異空間に繋がる出入口を作り出し、あらゆる物体を取り込むことができる。但し、他の魔術師と違って彼等が扱える魔法は一つに限られ、戦闘面での活躍は期待できない――それが一般常識だった。だが、一人の少年が収納魔法を極めた事で常識は覆される。 「収納魔術師だって戦えるんだよ」 戦闘には不向きと思われていた収納魔法を利用し、少年は世間の収納魔術師の常識を一変させる伝説を次々と作り出す――

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...