忘却の勇者と魔女の願い

胡嶌要汰

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第5話「決闘と逃走」

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 冒険者ギルドに登録に来た少年だったが、あるイチャモンをつけられて少年は今、決闘をしている。

「おら! おら! こんなもんか!? あ!?」
 レイバントは強気な連続攻撃で少年を斬ろうとするが、少年は意図も容易く攻撃を受け流す。

「あ!? どうなってんだ!? 攻撃が、当たらねぇ!!」
 何度攻撃を仕掛けても当たらないレイバントは苛立ちを露わにしていた。

「クソッ! クソッ! 俺の剣筋が見えてるわけがねぇ! こんなガキなんかに!!」
 怒りに身を任せ、更に攻撃を加える。
 彼の剣筋は速く、そして力強い。
 だが、それは一般の剣であって悪魔憑きには届かないレベルの話であった。

「クソがぁぁぁぁ!!」
 レイバントがヤケになり荒々しい攻撃をし始めた。
 そこで生まれた焦りは少年にとって絶好の勝機となった。

「うッッ!!」
 柄頭、模擬刀の剣身ではない持ち手の部分でレイバントの鳩尾みぞおちにクリーンヒットした。
 レイバントは衝撃故に少しの間立てなくなっていた。
 少年はレイバントの首元に剣先を突きつけた。

「勝者! 受験者!」
 ギルド長は声を上げて閉幕の宣言をした。

「ありえねぇ。俺が負けるはずねぇだろ!!」
 レイバントは更に怒った。
 自意識過剰の強さを誇り、自慢し、挙句喧嘩をふっかけた相手に見事に惨敗。
 自分を惨めと思いたくない故、隙を見て少年に襲い掛かる。

 が、少年はそれをも容易く受け止めた。

「お前! 実は悪魔憑きなんじゃねぇのか!?」
「ッ!?」
「そうじゃねぇとその強さ! 言い訳つかねぇだろ!?」
 レイバントは剣を交わして少年に向けて叫ぶ。
 怒りに任せたレイバントの怪力に少年の模擬刀は破壊寸前だった。

「やめろ! それ以上やると冒険者剥奪になるぞ!」
「知ったこっちゃねぇ! 俺は強い! こんな奴に負けるはずねぇ!!」
 レイバントはイかれていた。
 そして、様子がおかしかった。

「我等が導きの邪神様よ、我に加護を与え、忘虐の彼方へと! 【風の邪神パズズ】!! うわぁぁぁぁ!!!」
 レイバントは叫び声と共に、悪魔の姿へと姿形を変えていった。
 そして、それは少年のトラウマを呼び起こす物となった。

「な、なんだ!? レイバント! お前はレイバントなのか!?」
「「グルぁぁぁぁウラぁぁぁぁ!!!」」
 ギルド長の話を聞かず、唸り、叫び、暴れ回るばかりだった。

「直ちに高ランク冒険者を!!」
 そう言ってギルド長はギルド内に逃げていった。

 対峙するのは、悪魔化したレイバントと少年の2人だけ。
 少年はまた、恐れていた。

「「グルぁぁぁぁ!!!」」
 レイバント、基パズズが少年に向かって襲い掛かる。
 少年の焦りは増加し、向かってくるパズズに一歩も動けなかった。

「お前は強い」
「ッ!?」
 少年の心の中にゴルダの声が聞こえた。
 その瞬間、辺りの時間はゆっくりと流れ沸々と腹の底から熱くなるのを感じる。

「……〈冥界神アヌビス〉!」
 少年の姿は全身、黒いウルフの様な見た目へと変貌を遂げた。
 遠くへ置いてあった太刀をその場で自分の元へ呼び寄せ、構えた。

「「グルぁ!!」」
 睨み合う2体の悪魔は、その場に緊張と恐怖心を植え付けた。

「「グルぁぁぁぁ!!」」
 先に動いたのはパズズだ。
 鋭い爪でアヌビスを切り裂こうとする。

「〈供花・死装束ベリアルクローズ〉!」
 アヌビスの大きな太刀を素早く駆ける。
 黒い花弁の散りゆく様はパズズの命の尊さを握り潰す様だった。
 冥界神アヌビス風の邪神パズズを冥界へ送り、去り際に……

「……我が世で消えゆくが良い」
 一言残し、少年の姿へ戻った。

「さぁ! 高ランク冒険者をあつ、め……て?」
 ギルド長の目には倒れた少年だけが倒れていた。

「お、おい! 救護室へ運べ!」
 すぐさまギルドの救護室へ運んだ。



「へぇ、風の邪神パズズを倒すとは。」
「まぁ、良い。我等滅亡の審判団ドゥームズデイ最高幹部である死刑囚階級デス・ザ・ロウの中でも最弱。」
 影から笑う6人の悪魔、姿形が分からずともその邪悪さは伝わって来る。

「ただ、あのガキ見逃せば厄介だぜ?」
「確かにそうだねぇ。ここでっとく?」
「いや、いい。命令ではない。」
「ふーん、そっか。」
 奴らはその場から消え去った。


「……」
 ノソッ、と誰もいない部屋でゆっくり起き上がった少年は昨日の自分を思い出せずにいた。

「起きたか」
 少年の部屋に入る男が1人。

「俺は医者だ。お前の看病をしている。」
 医者を名乗る男は着々と少年の看病をする。

「ほら、横になっとけ。傷が開くだろ、ま、お前に傷はこれっぽっちもないがな。」
 面倒臭そうに仕事をするが、かなり腕がいい。

「ほい、これで完了だ。完治まで早くとも4日だ。」
 無愛想に薬を渡し、少年の部屋を出ていった。

 4日後

 少年は再び冒険者ギルドに赴いた。
 冒険者ギルドには、悪魔の話題で持ちきりだ。
 そして、少年に日の目を浴びるのは当然のことであった。

「次の方! どうぞ……」
 受付嬢があからさまに少年を嫌悪した目を向けた。

「こちら、昨日の試験での冒険者カードとなります。」
 少年はカードを受け取った。
 だが、周囲からの怪訝な目は相当に少年の心を追い詰めた。
 胸が苦しく、今にも忘虐が始まりそうで怖かった。

 その日の内に、少年はクレニア街を出ていった。
 次の目的はいよいよ東の森へと向かう。

 領主娘の護衛依頼で得た金額と数切れの干し肉にドライフルーツ、太刀を持った少年は再び歩き始めた。

 クレニア街からはあと、2ヶ月と半分くらい。
 長い道のりだが、クレニア街の一件で悪魔憑きの味方は限られてくる。
 それに、ほとんどが敵視している。
 悪魔付きとバレれば、国から懸賞金がかけられてもおかしくはなかった。

 少年1人の旅は順調だった。
 小さな村を転々とし、行商人の護衛に討伐した魔物の買取、これは冒険者になって出来たことだ。
 そんなこんなで路銀は稼げた。

 1ヶ月が経ち、少年がクレニア街を出てから3つ目の村に到着した頃だった。

「平民よ! 集え!!」
 真夜中、眠っている最中。
 大きな声で村中の人は門前に困りながら集まった。
 そこにいたのは、兵服を来た兵隊だった。

「我等は! 王国セントルイヒ所属の兵である! クレニア街で悪魔憑きが出たとの情報により村全員の身分を調べる!」
「尚! 悪魔憑きの名はノーティ! 懸賞金白金貨40枚とする!」
 兵士の発言により、村中がざわめき、少年の額に油の様な汗が滲み出た。

「すぐに終わる。全員1列に並べ!」
 村の人々は兵士と魔法使いに名前などを言っていき、取り調べが終わる。
 その一方で、少年は荷物を持ち最後尾に並び逃げの機会を窺っていた。

 まだ、

 まだだ、

 兵士全員が取り調べに集中した瞬間。

 今だ!!

 少年は村の反対側へ走っていった。

「おい! 誰か逃げたぞ! 追え!」
 少年の後に続き、兵士達は少年を追いかけた。

(このくらいの柵なら!)
 この村は、魔物が襲って来ない安全地帯として有名な村だった。
 そのため、柵は子供くらいの高さしかなく、少年が飛び越せたのだ。

 柵を越え、少年が逃げた先は東の森より規模が小さいグレニの森だった。

「おい! 見つけたか!?」
「いえ!! こちらに人影らしき物はありませんでした!?」
「くっそ、隈なく探せ!!」
「ハッ!!」
 木と木の間の茂みに少年は身を潜めて隠れていた。
 見つからない様、見つからない様暗示をかけて。
 少しすると静まり返り、辺りに兵達の姿は見えなかった。

「…ふぅ」
 少年は疲労し、一息ついた。
 干し肉を食べ、今日は見つからない様そのまま音を出さず眠りについた。

 翌朝

 少年の朝は早く、兵士の追手が来ない早朝にグレニの森を進んだ。
 平坦な道を歩くより見つからずに済むからだ。
 多少困難でも前へ前へ突き進んだ。
 少年が行き着いた先は出口、ではなくドラゴンの住処だった。

「「お前か? 俺の眠りを妨げるのは」」
 大きなドラゴンが少年に話しかけてくる。
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