彗星の降る夜に

れく

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三章

帰還

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視界の先に広がる見慣れた景色に安堵し、思わず座り込んでいた。張り詰めていた神経が緩み、心臓が稼働することを思い出した。
あれが、世界を束ねる「神」の姿。今更抱く恐怖に、呼吸数がどんどん上がっていく。

「運が悪かったな」

一人落ち着いた様子のクオーレが、ふうっと息を吐く。掴んだままだったアメティスト達の手を離し、服の乱れを正している。

「お兄さん置いてきちゃったけどいいの?」
「大丈夫だ。何かあっても呼べば戻るだろ」

思い返すのはミスティリスの姿。姿形は人そのもののはずなのに、感じたものは人と全く違う。瞼に焼き付くあの光は、牙を向いた対象を容赦なく、灰も残さず消し去るだろう。

「そろそろいいだろ。呼べ」
「……ビーイング」

クオーレに言われるがまま、アメティストが彼の名前を呼ぶ。すると呼び声に呼応するように、部屋の温度がどんどん下がっていった。突如として現れた光源が、人の形を作っていく。

「いや~酷い目にあった」

そうして生成されたのは、扉の向こうに置いてきたはずビーイングの姿だった。開口一番、酷い目にあったと言っているが態度や口調に気苦労は見られない。

「……、あれ、ここどこ?建物の中だ」

すでにミスティリスなどどうでもいいと言いたげにキョロキョロと物珍しげに部屋を見渡すビーイング。誰もリアクション出来ないのは緊張感に欠ける発言の所為、ではなく右手首に視線が注目していたからだ。
彼は、右手首から先がなかった。ざっくり切り取られた断面、その断面から溢れる真っ赤な血液が洋服を濡らし、ぽたぽた滴り絨毯も進行形で染めてしまっている。

「手首が」

思わずレコがその箇所を指摘すると、ビーイングはああこれねと軽くさすってみせる。

「いやぁ、吹っ飛ばされちゃったんだよね~。あんまり痛くないから気にしないでいいよ」

その表情は確かに我慢しているようには見えず、痛くないというのはきっと事実だろう。だが、溢れた血が、骨の見えた断面が嫌でも痛みを連想させてしまう。

「せめて止血くらいしろ」

呆れるクオーレに嗜められ、えーと言いながらも素直に何か包帯のようなもので傷口を縛りはじめた。

「……俺の傷は治りやすいから、あと本当に痛くないんだよ。人間とは作りが違う」

レコの視線に気がついたビーイングは、もう一度「痛みはない」と念押しする。心配するな、という気遣いにも、関係ないだろと突き放されたようにも思えて何も言えずに口を噤む。

「ねぇ~!今日はメア疲れたから、明日集まって話そ?」
「だったら人のいない時間帯がいいかもしれないな。……早朝にしようか?」

レコは朝に弱い。決して起きれないわけではないのだが、目覚ましのアラームを止め二度寝三度寝を繰り返して学校をサボるのが日常になりつつある。とはいえ「朝に弱い」なんて理由で、学園長の案を蹴ってまで時間帯を変えるのも気が引けた。アラームを二、三個増やしておこう。

「……いや、夜にしよう。そうだな、日付が丁度変わるあたりに」

そんなレコの葛藤を察知してくれたわけではないだろうが、クオーレは深夜にしようと提案してくれた。

「はいはいそれに賛成!じゃあ解散で、明日零時にここで」

内に秘めていたリーダーシップをここぞとばかりに発動させ、全員が頷いたのを確認した。ルスワルは不本意そうだったが無視だ。レコのゴリ押しの一言でその日はお開きとなった。
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