7 / 73
一章
運命の鍵
しおりを挟む
「精霊……?でも、精霊召喚の跡なんてどこにも」
「実は精霊にも種類があるんですヨ」
この世界に存在する種族は大雑把に三種類。レコやフリンデルのような独自の言語を介しコミニティーを築く人間、家畜や野生動物含む『一般動物』。
魔力を帯び、一般動物達と違った特徴を持ち、生殖により分布を広げる魔法動物『魔獣』。
そして、精霊界とこの地上世界を行き来する実態を持たない『精霊』だ。
特に精霊は実態を持たぬ故に、顕現させるための手順があるのだ。レコも授業で習ったことがある。ニアの部屋には精霊を呼び出すための準備が何もなかった。
「精霊に種類があるなんて聞いたことも…」
「あまりにも特異的ですし、それに滅多に姿も見せませんカラ。学校で習うことはないでしょうネ」
また歩き出す背中を追いかける。
「……大精霊、一般精霊を従える十三の精霊。それらの誰かを喚んだのでしょう」
「大精霊……?」
聴き慣れない言葉を繰り返すと、フリンデルは突然立ち止まった。衝突しそうになり、慌てて立ち止まる。
フリンデルの正面を覗くと、そこには木製のポストのようなものが一つ、立てられていた。大切に手入れされているのが、フリンデルの手つきでわかる。
フリンデルはそっと手を伸ばし、優しく扉に触れる。中にあるものは特に現重に管理されているわけではないようで、開ける以外の動作はなかった。開かれたその中にはアンティークの鍵がたった一つで保管されている。
それを大事そうに取り出す。レコにはそれが古びた、ただの鍵に見えた。
「大精霊、我々が神とそう呼び縋る者」
「神様を召喚したの!?でも、そんなこと、本当に可能なの……?」
フリンデルは鍵をレコに手渡した。見た目以上に重く、ずっしりと手のひらに沈み込む。その様子を見てふむ、とフリンデルが頷いた。
「貴方には資格がないみたいですネ」
「し、資格?」
またしても聴き慣れない言葉だ。
「その鍵は運命の鍵といって、十三いる精霊の誰かの力が宿っていましてネ、資格がある者が触ると何か起きるらしいんですが…」
全員の視線がレコの手のひら、その上に乗る鍵に集中する。特別なアクションは起こらない、現状ただの古びた鍵だった。
「何も起こらないな」
「ハイ、資格なしですネ!」
「出だしから躓いてない?」
さっとフリンデルはレコの手のひらから鍵を回収すると、元のポストの中へと戻した。
「がっかりするのはまだ早いですヨ~!貴方にはワタクシという味方がいるんですカラ」
自分自身を指し示し、フリンデルは胸を張る。
「不安になってきた」
いまだ得意気なフリンデルにまたはあ、とため息を吐くと仕切り直しと言わんばかりにレコは服の乱れを直す。
「……その神様について詳しく教えてください」
「いいでしょウ、こちらです」
ポストを通り過ぎてゆく背中を追いかけながら、また箱庭を見渡した。
天井に近いところまで葉を伸ばしている一本の木を眺めていると、フリンデルがまた振り返った。
「あれは千年木、咲いた花は薬になるんですヨ」
指差されたのは木の至る所に咲く淡い桃色の花、見上げているとふと葉が一枚ひらりと落ちてきた。
「葉っぱの方は?」
「花に比べると効力は薄いですケド」
ふうん、と呟きながらその瑞々しい葉をリムの胴体にそっと乗せた。
不満気なリムにニヤニヤと笑顔を返していると、フリンデルも楽しそう笑っていた。
「実は精霊にも種類があるんですヨ」
この世界に存在する種族は大雑把に三種類。レコやフリンデルのような独自の言語を介しコミニティーを築く人間、家畜や野生動物含む『一般動物』。
魔力を帯び、一般動物達と違った特徴を持ち、生殖により分布を広げる魔法動物『魔獣』。
そして、精霊界とこの地上世界を行き来する実態を持たない『精霊』だ。
特に精霊は実態を持たぬ故に、顕現させるための手順があるのだ。レコも授業で習ったことがある。ニアの部屋には精霊を呼び出すための準備が何もなかった。
「精霊に種類があるなんて聞いたことも…」
「あまりにも特異的ですし、それに滅多に姿も見せませんカラ。学校で習うことはないでしょうネ」
また歩き出す背中を追いかける。
「……大精霊、一般精霊を従える十三の精霊。それらの誰かを喚んだのでしょう」
「大精霊……?」
聴き慣れない言葉を繰り返すと、フリンデルは突然立ち止まった。衝突しそうになり、慌てて立ち止まる。
フリンデルの正面を覗くと、そこには木製のポストのようなものが一つ、立てられていた。大切に手入れされているのが、フリンデルの手つきでわかる。
フリンデルはそっと手を伸ばし、優しく扉に触れる。中にあるものは特に現重に管理されているわけではないようで、開ける以外の動作はなかった。開かれたその中にはアンティークの鍵がたった一つで保管されている。
それを大事そうに取り出す。レコにはそれが古びた、ただの鍵に見えた。
「大精霊、我々が神とそう呼び縋る者」
「神様を召喚したの!?でも、そんなこと、本当に可能なの……?」
フリンデルは鍵をレコに手渡した。見た目以上に重く、ずっしりと手のひらに沈み込む。その様子を見てふむ、とフリンデルが頷いた。
「貴方には資格がないみたいですネ」
「し、資格?」
またしても聴き慣れない言葉だ。
「その鍵は運命の鍵といって、十三いる精霊の誰かの力が宿っていましてネ、資格がある者が触ると何か起きるらしいんですが…」
全員の視線がレコの手のひら、その上に乗る鍵に集中する。特別なアクションは起こらない、現状ただの古びた鍵だった。
「何も起こらないな」
「ハイ、資格なしですネ!」
「出だしから躓いてない?」
さっとフリンデルはレコの手のひらから鍵を回収すると、元のポストの中へと戻した。
「がっかりするのはまだ早いですヨ~!貴方にはワタクシという味方がいるんですカラ」
自分自身を指し示し、フリンデルは胸を張る。
「不安になってきた」
いまだ得意気なフリンデルにまたはあ、とため息を吐くと仕切り直しと言わんばかりにレコは服の乱れを直す。
「……その神様について詳しく教えてください」
「いいでしょウ、こちらです」
ポストを通り過ぎてゆく背中を追いかけながら、また箱庭を見渡した。
天井に近いところまで葉を伸ばしている一本の木を眺めていると、フリンデルがまた振り返った。
「あれは千年木、咲いた花は薬になるんですヨ」
指差されたのは木の至る所に咲く淡い桃色の花、見上げているとふと葉が一枚ひらりと落ちてきた。
「葉っぱの方は?」
「花に比べると効力は薄いですケド」
ふうん、と呟きながらその瑞々しい葉をリムの胴体にそっと乗せた。
不満気なリムにニヤニヤと笑顔を返していると、フリンデルも楽しそう笑っていた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
もういらないと言われたので隣国で聖女やります。
ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。
しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。
しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。
悪役令嬢は処刑されました
菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる